眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

非情桃太郎

2023-05-04 06:34:00 | アクロスティック・メルヘン
こなもんでっか
どうぞぼくにくださいだわん
もう先客がいるから
ノー!
非情な世界である


こう言ったら何だけど
どうかしてたんです
もうしませんと青鬼は誓い
濃厚なハグをした
人を許して行いを責めよだ


腰についてるそれ
どうかぼくにくださいよキー
もう決まってんだよ
ノーノーノー
酷いやキーキー


焦げ付いたそれって
泥団子でしょ
桃太郎さん時代に
乗り遅れてるんじゃない
ひよこ饅頭でも出しなって


子分が雀だけになったため
当面の間遠征は中止します
桃太郎はそう言いながら
のりしおを食べていました
悲嘆にくれて世界は目を閉じました

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旅立ちを夢見て (やまとなでしこ)

2013-10-10 07:13:09 | アクロスティック・メルヘン
山田氏をはじめとして
また芸能人が遊びにきて
トーストを焼いたり
ナムルを作ったり
テーブルの上を占領して
私的なパーティーを開いたり
こっそりとベッドに入ったりするのでした

やや待てよ
まただまされるところだった
と私はここで冷静さを取り戻します
なんてことはないんだ
てっきりベッドを使われたと思ったけれど
真相は今も深いベッドの中で
こもっているのは私なのです

約束はありませんでした
まどろみに甘えていると
突然激しい雨音が聞こえてきました
なんてことでしょうか
天が裂けんばかりの激しさは
しとしと降るのとはまるで正反対
これでは出かけるなんてとても無理

やや驚いた
まさかこんな風になるなんて
突然にこんな風になるなんて
ナムルは幻で
テーブルの上はまっさらでも
しばし芸能人に足止めされていたのは
幸運だったのかもしれない

やや待てよ
まただまされるところだった
と私はここで正気を取り戻します
なんてことはないんだ
天は笑いも泣きもしていない
真相は今も深いベッドの中で
こもっているのは私なのです

八つばかりの服の中から
迷いに迷っている間に
時はどんどん過ぎていき
夏が過ぎて秋が暮れて
手袋がとても恋しくなるような
白い雪の中で
コーンが

八つほど弾けて
マグカップの中に
溶け込んでゆく
なめらかなクリームと
照れながら交じり合ってゆく
シナモンとアーモンドの甘い罠が
呼吸を奪うように

優しく満ちた頃に
待ちくたびれて
友達が迎えにやってくる
「長袖でいいかな」
手先まですっかり伸びるような
七分袖よりもしっかり伸びるような
コンセプトの

やや待てよ
まただまされるところだった
友達なんて来ないんじゃないか!
なんてことはないんだ
手袋の先は無数にわかれていて
真相は今も深いベッドの中で
こもっているのは私なのです

安売りセールが始まったので
街に繰り出したのは
飛ぶ鳥を落とす勢いで
何かが勝ち星を重ねてカップを
手にしたおかげだよ
祝福に浮かれてすっかり
この街もおかしくなってしまったね

宿がいっぱいだったから
満室でいっぱいだったから
泊まるところもなくなってしまって
情けない話だけど
手持ちももう残り僅かだったし
仕方がないかというわけで
ここに来たんだけれどね

やっぱり悪いかな
まだあいつはいるの
隣の奴はいるの
何やってるのあいつ
鉄火巻きかあいつ
仕事してないの
ここに来て大丈夫だった?

安いというだけあって
まともな
扉も襖もなく
生八橋の皮よりも薄い
適当に用意されたカーテン一枚で
仕切られた場所
ここが私のすみか

やや待てよ
まだ出かけていなかったのだな
扉はしっかりと閉じているし
何も怖がることはなければ
天敵はどこからも入り込んではこない
真相は今も深いベッドの中で
こもっているのは私なのです

やがて訪れる旅立ちを夢見ながら
まだ私は眠っているのです
とてつもなく長い夢でした
名前をつければそれは『一生の夢』
手にすることは一度もなく
真相は今も深いベッドの中で
こもっているのは私なのです

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マイコックピット (やまとなでしこ)

2013-09-09 13:38:41 | アクロスティック・メルヘン
やってくる
魔物たちの襲撃に備えて
特に重要だと思われたのは
何はなくても
「手に職をつけることです」
しっかりとしたプランを持って
コツコツと身につけなければなりません。

「厄介なことだが」
町の長老の話によるとそれは
戸締りと同じことだと言います。
「何もないのはまずいのだよ」
手が空いていると中に不条理な
仕事を放り込んでくる
個性的な魔物もいるのでした。

やさしいことではなかったけれど、
学ぶことに夢中になっていると
時はどんどん過ぎていって、
夏の終わりのある日、
哲夫くんはようやく
職へとつながる道筋をみつけ、
根気強く励み続けたのでした。

やかましく言う師匠も、
まやかしにあふれた教祖も、
特別に集められた講師陣も、
仲間の1人だって、
哲夫くんにはいなかったけれど、
修練を繰り返しながら、自分という名の
コックピットの中で夢見ているのでした。

闇の中で耳を澄まし、
まどろみながら光を集め、
遠く離れた街まで、
名前を探す旅に出ます。
天使を折って
新年になって
子馬に乗って

山に登って
マナティを折って
トビウオを折って
長い時間が経って
天狗の鼻をへし折って
しゅんとなって
恋に落ちて

やつれ果てて
待ちわび待ちくたびれて
時計を折って
長袖の先を
適当に折って
シュガーを折って
腰を折って

薬局によって
待たされて待ちくたびれて
トレイを持って
ナッツをのせて
天秤にかけて
シンメトリーで
これ幸いと

休みをとって
マストを折って
トスを受けて
奈落の底で
手相を読んで
芯から冷えて
小熊を追って

ヤマトを折って
まな板を折って
問いかけを折って
ナナフシを折って
テーブルを折って
シロイルカを折って
小春を折って

焼き芋を折って
魔術師を折って
といったところで、
「何を折ってもうまくいかないな」
哲夫くんは折々を振り返って
萎れてしまったのでした。
これはいったいどうしてだろう……。

「やめてしまおうか」
「まだまだじゃないか」
と言ったところで
「何を折ってもうまくいかないばかりに」
手に取るものすべてが空しく思えて
「しっかりするんだ!」
コックピットの中から声が聞こえます。

やがては突き抜けていく雲を夢見ながら、
まだそれよりも遥かに深い冬の中に、
留まり続ける夜の向こうから、
涙が滲むのを感じた哲夫くんは、
手の中にある2番目の指を、
しっかりと内側に折り曲げると、
コの字を作ってまぶたに押し当てたのでした。

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長々とした男 (やまとなでしこ)

2013-08-07 08:44:49 | アクロスティック・メルヘン
山道を越えて新しい村に着いて、
まだ右も左もわからないので、
通りがかった人に道を訊こうとすると、
長々とした男が歩いてきました。
手も足も胸も頭も長い男はとても
親切そうに見えたので、
この機会を逃すわけにはいきません。

宿の場所もわからなければ、
マクドナルドの場所もわからなければ、
時計屋さんの場所もわからなければ、
生菓子屋さんの場所もわからなければ、
手作りパン屋さんの場所もわからなければ、
試験場の場所もわからないので、
この機会を逃すわけにはいきません。

「宿はどこですか?」
「マチュピチュカチューシャじゃん」
突然そんな風に答えられても、
何のことかわかりません。
手も足も胸も顔も長い男はとても
親切そうに見えたのに、
こいつは飛んだ食わせ者かもしれないぞ!

優しそうな顔をしているのに
「マクドナルドはどこですか?」
「戸締り掃除何の用じゃん」
なんて答えられても、
手に負えません。
親切そうに見えたのに、
こいつは飛んだ食わせ者かもしれないぞ!

優しそうな顔をしているのに
真面目に訊いているというのに
「時計屋さんはどこですか?」
「なつこはがさつじゃん」     
手がかりはまるで掴めません。
親切そうに見えたのに、
こいつは飛んだ食わせ者かもしれないぞ!

優しそうな顔をしているのに
真面目に訊いているというのに
問えば問うほどわからないなんて
「生菓子屋さんはどこですか?」
「手の中のおかずとんかつじゃん」
親切そうに見えたのに、
こいつは飛んだ食わせ者かもしれないぞ!

優しそうな顔をしているのに
真面目に訊いているというのに
問えば問うほどわからないなんて
長々とした男だというのに
「手作りパン屋さんはどこですか?」
「自然にうちなしうちでのおせちじゃん」
こいつは飛んだ食わせ者かもしれないぞ!

奴はついには何も訊かない内に叫び始め、
「ママー!ママー!ママー!ママー!ママー!ママー!」
父さんは肩から我が子を下ろしました。
長々とした男の頭は長々とした間、子供の
天下にあり、今ようやく解放されたのでした。
「試験場はどこですか?」
「この道を真っ直ぐ行って時計屋さんの隣、マクドナルドの中にあります」

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おかしな招待 (やまとなでしこ)

2013-07-08 11:52:57 | アクロスティック・メルヘン
野生の鹿が入ってくる心配もないので
窓をいっぱいに開けておいたら
飛び込んできたのは虫でした。
長い羽を持った虫で、
手に取ってみていると
静かな森の夜の木が思い出されて、
「これはいったいどういうことなんだろう」

「やだなあ。これって」
「ママの格好おかしくない?」
「トリケラトプスみたい」
「なんで呼ばれたんでしょう?」
「てんとう虫を歌うの?」
「知らない人ばかりなのよ」
「香典はどうするの?」

野生の猪が入ってくる心配もないので
窓をいっぱい開けておいたら
飛び込んできたのは風でした。
長いメッセージを持った風で、
手に取ってみていると
萎れた感情に支配されてきて、
「これはいったいどういうことなんだろう」

「やっぱり、おかしくない?」
「ママは心配しすぎじゃない」
「トカゲの尻尾みたいじゃない?」
「なりきってしまえばいいのよ」
「手前味噌って言われない?」
「神妙な面持ちをしなくちゃ」
「こんな感じ?」

野生の虎が入ってくる心配もないので
窓をいっぱい開けておいたら
飛び込んできたのは秋でした。
長い髪の毛を持った秋で、
手に取ってみていると
知らず知らずに巻き込まれていき、
「これはいったいどういうことなんだろう」

「やっぱりこれは変だよ」
窓をいっぱい開けておいたら
「時計がすっかりおかしくなったのよ」
何気にみつめている内に
「天気もおかしくなったのよ」
知らない人の式に呼ばれて
「これは何もかもがおかしいのよ」

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宇宙旅行(やまとなでしこ)

2013-05-01 18:53:15 | アクロスティック・メルヘン
休みの日に行くならどこだろう?
まだみんなの考えはまとまらず、
「東京ディズニーランド!」
なんて言う者もあれば、
「テーマパークがいい!」
しまりのないことを言う者もあって、
行楽の行方も定まらないのでした。

やがておばあさんが、
「まだ宇宙には行ってないわね」
とびきりの提案をすると
「夏休みには宇宙に行こう!」
提案はみんなから受け入れられて、
出発の日を夢見ては、
今夜の月を見上げるのでした。

「やっぱり宇宙に行ったらさあ」
まだ先のことなのに、
時の向こうに想像が膨らんで、
「なんと言っても宇宙カレーだね!」
てるちゃんはカレーが好きです。
「しょーもない! 昨日食べたでしょ!」
これでは先が思いやられます。

「やっぱり宇宙に行ったらさあ」
まだ先のことなのに、
時の向こうに想像が膨らんで、
「なんと言っても宇宙映画だね!」
てるちゃんはディズニーが好きです。
「しょーもない! 水曜に見たでしょ!」
これでは先が思いやられます。

「やっぱり宇宙に行ったらさあ」
まだ先のことなのに、
時の向こうに想像が膨らんで、
「なんと言っても宇宙サッカーだね!」
てるちゃんはセレッソが好きです。
「しょーもない! 日曜に遊んだでしょ!」
これでは先が思いやられます。

「やっぱり宇宙に行ったらさあ」
「まずは地球が見てみたい!」
時の向こうに丸々とした想像が膨らんで、
「なんと言っても地球だね!」
てるちゃんは地球が好きです。
「しょーもない! いつも住んでいるでしょ!」
これでは先が思いやられます。

「やっぱり見たいな! 住んでいると言っても、
まだ見たことはないんだからね。
当然見たいと思うだろうね。
なんと言っても見たいよね。
テレビでだったら見たことはあるよ。
しかしそれは実際に見たのとは違う。
言葉で作った地球みたいなものさ」

休みが近づいていくにつれて、
魔法がとけていくように、
時は宇宙計画を裏切っていきました。
「何も他人になってまで自分を見つめる必要はないのよ」
てるちゃんに向けてお母さんは言います。
出発の日に合わせるようにして台風がやってくると、
根底から宇宙の土台をひっくり返してしまうようでした。

休みの日に行くならどこだろう?
回り回ってようやく答えは出たようです。
「東京ディズニーランド!」
なんて言う者の声に合わせて、
手をみんなで一斉に上げると、
しぶしぶそれに従う者もいたけれど、
「これでいいのよ」   とお母さんは言いました。


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Together (やまとなでしこ)

2013-03-07 19:46:08 | アクロスティック・メルヘン
「約束してね」
間を空けず、開けたらすぐに閉めること。
扉から、何もかもが逃げてしまうから。
何度も何度も、お母さんはそう言って、
手振り身振りを交えながら、
しつこくしつこく、これでもかこれでもか、
これでもかーっ、というほどに迫ったのでした。

約束したのは昨日のことのように、
まだ胸の中に強く温かく残っていて、
時々その声がどこからともなく蘇っては、
何度も何度も、何度も語りかけるので、
てっきりお母さんがそこにいるように思えて、
「心配しすぎ!」と風に向かって、
答えたりする日もあるのでした。

約束を忘れたり破ったりするようなことが、
まさかあるとは夢にも思わずに、
扉を開いた瞬間、
鳴り響いたものがありました。
「電話だ」
静かだった部屋の中に、
Call 音が繰り返し鳴り響いたのでした。

厄介なのは同時に2つのことを考えられないこと。
まだ開けたまま出てしまう。
「……と申します。……」
名前を名乗ったのは男のようでした。
出た以上話さなければ。「お母さんは今はいません」
しばらく押し問答をしてから、
こつんと電話を切ったのでした。

ややー!
まだ開けたままだった!
扉のことにようやく気がつきました。
なんてことでしょう!
てっきり閉めたと思ったよ。
失敗しちゃったよ。
こんちくしょー!

やがて事態の深刻さに気がついて、
真っ青になったのは、
扉を抜けて、みんなみんな、
何もかもがこのチャンスを見事につかみ、
天が与えた良い機会というように逃げてしまったことを、
知ったからでした。
後悔の念が押し寄せてきます。

やれやれと思っていると、
まだそこに誰かいる気配が、
扉の中に誰かがいることがわかりました。
「なぜ君は逃げないの?」
「て言うか、君は誰なの?」
少女はびっくりして立ち尽くしました。
こいつ、生意気だ!

やさぐれながら少女は黙っていました。
「まあ、いつもは2行か3行くらいしか読めないから」
トマトは、本を開いたまま言いました。
「なるほど、そういうことか。私にも読んで聞かせてよ」
「て言うか、約束はどうなったの?」
少女はその時もう一度約束のことを思い出したけれど、  
腰を折って中に入りました。                   「一緒に読もうよ!」

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Happy New year (やまとなでしこ)

2013-02-04 23:23:12 | アクロスティック・メルヘン
「やったね! 当たったね!」
まずは何から買おうか
とてつもない大金を手にして
何からすればいいものか
哲夫くんにはわかりません
種々の願望が競い合って
これというものが現れません

屋根裏に潜みながら
まずは何から手に入れようか
とりあえず
長いトンネルを掘ろう
手当たり次第に掘って掘って
シャンパンを開けようじゃないか!
今夜はパーティーだ

屋根裏に隠れながら
まるでありもしない金のことを思いながら
時が過ぎていきました
何でもいいから空想できればよく
手当たり次第に耽って耽って
深海に潜って行くことが何より
心に良いことなのでした

「やっぱり顔を出したくないね」
「まだ人に会うのは早すぎるね」
「年が明けたばっかりだからね」
「何も考えずに出歩くのは危険」
「敵も味方もなくなったように」
「祝福の言葉を投げなくっちゃ」
「今年もよろしくなんてね」

「ヤモリ300匹分の妖しさだったよ」
「まるでわからないね」
「都会の子には難しかったかな」
「何百匹でも関係ないや」
「手の上には載り切れないってことさ」
「新春よさらば!」
「これこれ」

「優しさならばタモリ40人分だったよ」
「まる40人?」
「当然まる40人だよ」
「なるほどタモリにするとよくわかったよ」
「手に余るあたたかみってことさ」
「新春よあっち行け!」
「これこれ」

「やなんだよー」
「まあ落ち着きなさい」
「ところでおじさんは誰なの?」
「なんとまあ生意気な」
「天界の人か何か?」
「知らない人とあんまり話すんじゃない!」
「ここは月の裏側?」

「やなのかい?」
「まるでめでたくもないのにやだよ」
「逃亡仲間のおじさんだよ」
「何から逃げてきたの?」
「天下無敵のめでたさからだろう」
「新春よ逃げよ!」
「これこれ」

「ヤドカリの話が聞きたい」
「まだその話は早い」
「歳はいくつだったの?」
「何に置き換えればいいかな?」
「手間が増えるだけだよ」
「しかし置き換えなければわかるまい」
「子犬にもわかるようにね」

「椰子の木に置き換えるとしよう」
「また元に戻せるの?」
「時が来ればいくらでも戻せるのさ」
「何に戻るのかな?」
「天が決めた形に戻るだろうさ」
「新春の終わりに?」
「恋の終わりにさ」

「やがて雨が降るのだ」
「待ちましょう。雨を」
「時が過ぎるのは早いものでな」
「夏よ来い!」
「手を振って、さよならするとしよう」
「新春よあばよ!」
「これで幕が下りたのだな」

屋根裏の中に隠れながら
まどろみに似た季節を越えて
遠い昔にいたような気がした
懐かしい人のいる世界へと
哲夫君はもう
新春は去って行ったのだから
木枯らしと一緒に

屋根裏を駆け下りてみると
「まあ、おめでとう!」
と言うではありませんか。
長いようで長くはなかったのです。
「哲夫君、おめでとう!」
祝福の嵐が哲夫君をあたたかく包み込みました。
「今年もよろしくお願いします」

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旅立ちの木(やまとなでしこ)

2012-12-25 21:29:41 | アクロスティック・メルヘン
野鳥が寄り付くこともなかったのは、
魔女が植えた木だったからで、
時とともに伸びていった木には、
名前なんてものはなかったし、
天気のわるい日に雨に打たれていても、
知る人なんて誰もいなかったし、
孤独な古木といったところでした。

野鳥も寄り付くことがなかった木に、
まさかの訪問者が、
突然やって来て、
何1つ実らせていなかったことに対し、
鉄拳を食らわされたり、きつく
叱られたりしたものだから、
これではまずいと思ったのでした。

やってくるのなら、
前もって言ってくれなければ、
とても無理なんだよ
なぜなら何かが育つというのは
手をこまねいていても駄目で、
しっかりとした準備や、
根気というものがいるのだからね

野菜の1つでもつけなければ、
また酷い目にあってしまうので、
トマトを実らせることに決めて、
「なるようになれ!」
天に向かって叫ぶと
しばらくしてトマトが実りました。
これでよし!

野鳥も寄り付くことがなかった木に、
またもや訪問者が、
突然やって来て、
何やら話しかけてきたり、
手で触れて感触を確かめたり、
少女はなぜかわからないけど、
この場所が気に入っているようでした。

やがてまた管理人が戻ってきて、
目の当たりにしたものに怒り、
「とんでもないことだ!」
なぜかトマトが気に入らないようで、
手の中に何かを握り締めたと思ったら、
手裏剣を投げてトマトを落としました。
これではまずいと木は思います。

野菜の別の1つでもつけなければ、
また酷い目にあってしまうので、
豆腐を実らせることに決めて、
「なるようになれ!」
天に向かって叫ぶと
しばらくして豆腐が実りました。
これでよし!

野鳥も寄り付くことがなかった木に、
またあの少女がやってきて、
豆腐に触れて軟らかさを確かめたり、
何やら話しかけてきたり、
手をいっぱい伸ばしては、
手裏剣でついた傷跡を撫でました。
「これは何?」

やがてまた管理人が戻ってきて、
目の当たりにしたものに怒り、
「とんでもないことだ!」
なぜか豆腐が気に入らないようで、
手の中に何かを握り締めたと思ったら、
手裏剣を投げて豆腐を落としました。
これではまずいと木は思います。

野菜の別の1つでもつけなければ、
また酷い目にあってしまうので、
トカゲを実らせることに決めて、
「なるようになれ!」
天に向かって叫ぶと
しばらくしてトカゲが実りました。
これでよし!

野鳥も寄り付くことがなかった木に、
またあの少女がやってきて、
トカゲに恐る恐る触れて尾の長さを確かめたり、
何やら話しかけてきたり、
手をいっぱい伸ばしては、
手裏剣でついた傷跡を撫でました。
「これは何?」

やがてまた管理人が戻ってきて、
目の当たりにしたものに怒り、
「とんでもないことだ!」
なぜかトカゲが気に入らないようで、
手の中に何かを握り締めたと思ったら、
手裏剣を投げてトカゲを落としました。
これではまずいと木は思います。

野菜の何がいけなかったのか、
また酷い目にあうことを恐れながら、
トナカイを実らせることに決めて、
「なるようになれ!」
天に向かって叫んで、
しばらくしてもトナカイは実りませんでした。
こんなことがあっていいのか!

野鳥も寄り付くことがなかった木に、
またあの少女がやってきて、
トナカイを探しているようでした。
「なんだかお母さんみたい」
手をいっぱい伸ばして抱きしめます。
少女はなぜかわからないけど、
この場所が気に入っているようでした。

やがてまた管理人が戻ってきて、
目の当たりにしたものに怒り、
「とんでもないことだ!」
なぜかトナカイがいないことが気に入らないようで、
鉄球を投げつけてきては、
しばらく悪態をついているのでした。
「こんな木は切ってしまえ!」

「やい! このデタラメ!」
「まがいものめ!」
「とっとと切ってやるぞ!」
「名前もない木なんだから!」
「鉄球でもくらえ!」
「手裏剣でもくらえ!」
「こんな木は切ってしまえ!」

野鳥も寄り付くことがなかった木に、
またあの少女がやってきました。
所々に残る傷跡を撫でながら、
「なんだかお母さんみたい」
手をいっぱい伸ばして抱きしめます。
少女にそっと木は伝えます。
「今度、僕は切られることになったんだ」

野菜のせいで酷い目にあってしまった。
魔女が最初に教えてくれなかったせいだ。
トマトも、豆腐も、トカゲも……
「泣かないでお母さん」
手をいっぱい伸ばして抱きしめると、
少女はそっと木に伝えます。
「これから私と行くのよ」

約束とノコギリを手にあいつが戻ってくる前に、
魔女の土地から離れることができるなら、
「トナカイはあなた自身なのよ!」
なぜなら、元より根っこなどどこにもないのだから、
手を差し出した少女に向かって、木は、
信頼を預けて旅立つことを決めました。
「ここは誰にも忘れられた庭なのだから」

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クリスマスツリー(やまとなでしこ) 

2012-12-25 01:25:17 | アクロスティック・メルヘン
やかましい人も車も通らない。
町の外れにはまだそんな場所がありました。
時がそこだけ止まってしまったような場所に、
何匹もの猫たちが集まって暮らしていました。
手先の器用な猫、天狗のような猫、紳士的な猫、
種々様々な猫たちが集まって、
心地よく恵まれた暮らしをしていました。

やがて1つのたまり場ができました。
町の外れのそのまた外れの、
トカゲだけがこっそりと知っているような、
何とも心地よい場所でした。
天気のよい日などはみんなで集まっては、
死んだように眠ったり、鬼ごっこをしたり、
恋の話などをしていました。

「やっと見つけたね」
「待ちわびた甲斐があったね」
「ということだね」
「何はともあれよかったね」
「て言うかさあ、早くしようよ」
「しーっ、誰か来る」
「こっちに来るの?」

やって来た老人が袋から取り出して種を
蒔くと大地から木が伸びてきました。
時の経つのは早いものだから、
名前も知らない木の下で猫たちは、
天気のよい日などにはみんなで集まっては、
死んだように眠ったり、鬼ごっこをしたり、
恋の話などをしていました。

安らかな眠りの上で木はやがて、
まさかという方向に伸び始めて、
とんでもない感じで枝を伸ばし出しました。
「なんてこったい!」
手を伸ばして、みんなで支えなければなりません。
真剣な眼差しで支え、鬼のような形相で支え、
恋する者を想うように支えました。

安らかに眠ることも出来ず、
曲がり狂った木をみんなで支えながら、
時はすぎていきました。
「なんかもう、疲れたね」
天狗のような猫が言いました。
紳士的な猫がそれに続けて、
「こんなもの、もう切ってしまおう!」

「野郎! 何てこと言いやがる!」
「待って! みんな冷静に」
「トカゲを呼んでこい!」
「なんかもう嫌!」
「て言うかさあ、早くしようよ」
「静まれ! 静まれ!」
「この狂った木の下で頑張ってきたじゃない」

やがて老人が戻って来て、
まさかりを持って木を切り倒すとそれは、
トナカイの形になりました。
「なんてこったい!」
天空に向かってサンタとトナカイが旅立つ様子を、
紳士的な猫とその仲間たちが静かに見守っています。
粉雪が、音もなく舞っていました。

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つながる Everything (やまとなでしこ)

2012-12-20 00:09:18 | アクロスティック・メルヘン
山に山菜を取りに行くので
真っ白い軍手をはめて、
都会を離れる準備をすると
夏にさよならを告げてから、
手を振って歩き始めました。
白い犬を伴っての旅立ち……
これは決勝点につながる旅立ちでした。

ヤモリをたくさん見つけるというので
窓辺にたくさんの興味を向けて、
時の経つのも忘れるくらいに、
長いしっぽがいつか顔を出すまで、
哲夫君は頑張っていました。
宿題は置いたままでの見張り……
これは決勝点につながる見張りでした。

野菜をもっと食べなければいけないので、
ママは校庭を畑に変えてしまいます。
「特別授業ですよ!」
茄子にトマトに人参、
「手が空いている人は水をやって!」
叱られる子供が四方八方に……
これは決勝点につながる四方八方でした。

宿から宿へと渡り歩いて、
まだこの靴を履いている。
と、足元を見つめていると、
「懐かしい靴だね」
哲夫君は、友達に言われたことを思い出して、
しばらくの間、靴と話をしていたのでした。
言葉は靴とつながっています。

約束された被り物も、
幕の向こうの作り物も、
トマトやナスの栽培も、
「なんだかすべてはつながっているようで」
テストや椅子の並び方も、
4分音符もテキスト文も、
言葉も物も人も……

やる気をなくしてしまった日に、
「真冬の寒い日こそが大事なんだよ」
友達の声が遠く空から聞こえてきて、
名前もすっかり忘れていたのに、
哲夫君は、友達の顔を思い出して、
しばらくの間、雪と話をしていたのでした。
言葉は雪とつながっています。

優しい人の贈り物も、
まどろっこしい悩み事も、
トスやパスの通り道も、
「なぜかすべてはつながっているような」
てんとう虫やカブトムシの歩き方も、
シンデレラもサイゼリヤも、
言葉も物も人も……

「野郎共しゃんとしねえか!」
マガト率いるボルフスブルク
と戦うのはたった10人ばかりの選手たち。
何だかんだとやっている内、
点が生まれたその少し前に、
シャルケのサイドを駆ける疾走……
これは決勝点につながる疾走でした。

やっぱりね
まったりとね
とどのつまりが
「何もかもがつながっているんだ」
てっきりね
しっかりね
ここもどこかにね

やっとこさたどり着いた町では、
魔法の馬車に運ばれて、
特別な輝きを放ちやってきた、
「なんでしょうかいったいこれは!」
ティーをいただいたのでした。
シュガーをほんの少し加えて……
これは決勝点につながる紅茶でした。

「ヤモリがやってきましたよ!」
待ちに待ったヤモリがやってきました。
「父さんヤモリがきましたよ!」
「なんとヤモリがやってきたのか!」
哲夫君の周りにヤモリの花が咲いています。
知る人ぞ知るヤモリがついにやってきた。
これは決勝点につながるヤモリでした。

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プレゼントの前に (やまとなでしこ)

2012-12-18 21:55:49 | アクロスティック・メルヘン
やがてくるクリスマスに備えて
まだ足りないものがありました。
というのもプレゼントを受け取るには、
何はなくてもそれを入れる器が必要で、
手袋なんかではないそれはもっと、
下に位置するべきもので、
子供にとってはなくてはならないものでした。

約束もしていなかったけれど、
魔法使いはやってきて、
扉を開けて背中の荷を下ろすと、
中から何やら取り出して、
「手を出しなさい」
仕方なくそうすると、
「これは一体何ですか?」

やっと手にしたそれは、
全く想像していたものとは違って、
取るに足らないような、
何の得にもならないような、
てんで役にも立たないような、
しかめっ面をすることがふさわしいような、
こそばゆいようなつまらないものでした。

「やいやい! 何だよ!」と
魔法使いに訴えると、
「と言うと思っていたよ」
なぜかお見通しという雰囲気で、
「テストしただけさ」
静かにせよと言って、
今度は別の物を出してきたのでした。

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずは長いのか短いのか?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずはメンズかレディースか?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずは自分用かプレゼント用か?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずは夏用か冬用か?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずは雨用か晴れ用か?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずは薄手か厚手か?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずは子供用か大人用か?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずはインドアかアウトドアか?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずはビジネスかカジュアルか?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずはブラックかレッドかグレーか?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずは明るいグレーか暗いグレーか中間のグレーか?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選んで選んで選んで、
まだか、まだか、まだか……
という時間がずっと続く内に、
泣き出しそうな回答者を前に、
「テストしただけさ」
静かにもう一度魔法使いは言って、
「これで最後だよ」

山を登り切ったところに待っているもの、
「まずは今か、または今度か?」
と言って魔法使いは選択を迫ります。
長い長い選択の果てにようやくそれを
手にする機会が訪れて、
しぼり出すように答えるのでした。
「今度」  魔法使いは荷物をまとめて帰って行きました。
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夜道(やまとなでしこ)

2012-12-17 22:29:10 | アクロスティック・メルヘン
夜景なんて望めない町でした。
まだ早い夜に男は薄暗い歩道を歩いていました。
と、男の前にゆっくりと動くものがあるではありませんか。
なんだろうか。それは人だろうかと男は思います。
手のようなものがゆっくりと振られているように見えます。
しばらく歩いているとだんだん距離が詰まっていきました。
このまま行くと追いついてしまうぞと男は思ったのでした。

やがて追いつくことが予想されました。
まだ今はその時ではないのだと男は思ったのでした。
と、男の前に信号があるではありませんか。
なんだろうか。それは信号に違いなかったのでした。
手を上げて渡るものもいるだろうな、と男は思うのでした。
しばらく歩いているとだんだん距離が詰まっていったのでした。
このまま行くと追いついてしまうぞと男は思ったのでした。

やはりそれは人のようだ。深く深く、
曲がった腰のために後ろからは頭が見えません。
と、その時男はついに追いついてしまったのでした。
なんとそれはお婆さんでした。
手にいっぱいの荷物をぶら下げています。
知らないお婆さんでありました。
これが最初で最後のすれ違いになるのかもしれません。

野菜だろうかと男は思ったのでした。
曲がっていたなと男は思ったのでした。
と、その時男ははっとしたが、歩き続けたのでした。
なぜなら、立ち止まる理由は何もなかったのでした。
手にいっぱいの荷物が重たくて、重たくて……
従って、それがお婆さんの腰を曲げていたのでは。
このまま行って大丈夫だろうかと男は思うのでした。

やはり気になると男は思ったのでした。
まだお婆さんは歩いているのだろうか……。
と、思い切って男は振り返ってみました。
なんと、お婆さんがいない!
手にいっぱいの荷物を下げたお婆さん。
静かにうつむいたまま歩いていた、お婆さん。
今夜のおかずは何だったのでしょう。

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ニンジンとおばあさん(やまとなでしこ)

2012-12-13 16:49:32 | アクロスティック・メルヘン
優しい母の話は大好きだったけれど、
まだおばあさんと話すことは不慣れで、
問いかけられて驚いたり、
なになにそれはいったいどういうこと、と目が
点になったり、黙り込んでしまったり、
仕方がないことだったけれど、
困った毎日が続くのでした。

優しい友達はいるにはいたけれど、
まことの友達という友達は、
遠くの町に引っ越してしまったし、
「ななちゃんなんて嫌い!」
天にも届くほどの大きな声で、
しびれる一言を投げてくる者もいて、
子供って大変だなと思うのでした。

「やれやれまた散らかして!」
「またニンジンを残しているのね!」
と言っておばあさんは叱ります。
「ななちゃんまた嫌われたのね!」
「天狗なんていやしませんよ!」
「シンデレラもいやしませんよ!」
「今度は許しませんよ!」

やかましいおばあさんの声が嫌いで、
まるっきり聞いている振りをしながら、
とんでもなく違うことを考える。
夏いっぱいに咲いた向日葵に、
手を伸ばしてあるべき光の方向を教える
使命がもし自分にあったならば、
「こっちよ! ほら、こっちを向くのよ!」

優しい先生はいるにはいたけれど、
まことの先生という先生は、
遠くの学校に飛ばされてしまったし、
「ななちゃんなんて大嫌い!」
天下に轟くような強烈な声で、
しばしば子供じみたストレートな、
告白を受けることもあるのでした。

「野菜を食べなさいと言ったでしょ!」
「またニンジンを残しているの!」
と言っておばあさんは叱ります。
「ななちゃんまた嫌われたのね!」
「天才なんていやしませんよ!」
「シーラカンスももはやいません!」
「古典もちゃんと読むのよ!」

優しい母の話は大好きだったけれど、
まだおばあさんとはうまく合わなくて、
遠くに行った人たちのことばかりが、
懐かしく思えてしまうような夜は本を一冊、
手に取って、もっともっと遠い世界の人のことを、
親身になって思ったり、
子守唄代わりにするのでした。

休み時間はいつものように一人で、
窓の外の飛行機雲を眺めていると、
突然、耳元で声が聞こえはっとしました。
「ななちゃんのこと苦手!」
照れたように、その子は言いました。
芝生がゆっくりと色づいていくように、
心にざわざわとしたものが訪れるのがわかりました。

厄介なニンジンのこと、
まだ不慣れなおばあさんのおしゃべりのこと、
飛び続ける雲を千切った言葉のことを思っていました。
「ななちゃん何かいいことあったの?」
天狗も天使もシンデレラもいないけれど、
しばし空想に耽りながら、新しく現れた
言葉のことを思っていました。

やがて我に返ると目の前には課題が見えます。
「またニンジンを残しているの!」
時は今です。
「ななはニンジンが苦手!」
天にも届くような声で言いました。
7時半を少し回ったテーブルの前で、
困ったような顔のおばあさんがいました。
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大分トリニータ

2012-12-07 00:20:35 | アクロスティック・メルヘン
追って連絡しますと言ってから、
王が14回交代しました。
1千年も経とうかという頃に、
「足し算が上手くなる足湯を見つけなさい」
時を隔ててようやく声がしたのでした。
「リフティングキングがユングと寝具に詳しいのだとか」
ニートモが漠然とした情報をもたらしたことから、
多角的に足取りを追う計画が始まったのでした。

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