3番街から19番街まで長い空き地が続いた。壊れたビルの壁の一つに誰かが遠い昔に貼った紙が、そのまま残っている。
この場所で起きたうさぎとカメの決闘を見た方へ
その結果をできる限り詳細な形で
原稿用紙10枚以内にまとめて
最寄りのカラスまで届けてください
けたたましいサイレンの音が公園を取り囲むようにして、蓋を開けてみれば頑なだった2人の誓いを跡形もなく引き裂くような厳しい寒さと、異端児を悲嘆に暮れる夜の対岸から甘い旋律でスカウトして結集した果ての野望をまだ隠しきれない落ち葉たちの渋滞を後目に迫ってきたのだった。
春巻きをずっと冬の季語のようにして耳たぶを飾る白い猫が通りすぎるのを、しゅんさんはいたたまれない様子で傾けた帽子の先に見送っていた。月にもうすぐ届くであろう錆びたジャングルジムの先端で、カラスは手紙をくわえて、風の噂に翼をさらしていた。
「この度はとんだナンセンスなことでした」
「また悪い奴らが入り浸っているようだ」
そのせいで湯加減がずっと狂っているとポトフは嘆いた。
「湯加減修正アプリが出ております」
湯煙の向こうから業者は言った。
「最新版ですか」
「アプリを起動します」
「うわっ、こつは飛んだカラスアプリだ!」
チタンコートの中でくたくたになったマタタビの憂鬱を帯びては、再びいたわりの下手くそから成り上がってきたような勇猛な空手家が、瞬きの歌に浸っているような湯が、ふくよかな芝の中から湧き出てくるのではなかったか。
1人の分身をつなげただけだった2人はメタリックハイグレードのスタジオに入っては、ゆたゆたと破綻しかけた鉈を振り、マタタビの重く詰め込まれた肩に近づきそうな約束を、大気圏から越えてきたままのプレートを塗ったところで、再び、ぷくぷくと大粒の、湯が湧き出てくる。
「自分」
と裁判館長が声を上げた。
「多分に気分的な詩文をカプセルに包んで栄養分に当てたな」
その罪の重さについては、一言で要約できるようなものでは、決してない、と言った。
盆地の中で暖かな春を享受する権利を手放さなければならなかった三輪車に乗ったオンリーワンが、とんちを天地無用の渡り鳥にきかせて心の底から本当に待ち望んだのは他ならぬボンチあげだったというのに、浮ついた南風の気まぐれが年輪の中に入り込んで誘惑すれば、案じるよりもフリーなレンズを帯びた管理者の倫理がくすぶっていく賄賂の中で溶解していく夏の始まりのように、逆さまにされた天性の箱の中には既に、沈黙だけが詰まっていたというわけだ。
一寸の隙間もなく、一寸の希望もなく、大地に押しつけられた箱の中には、使い手をとっくに失った永遠的な吐息のような沈黙が、詰まっていたので、そこから先の歴史は、抜け道のないセンチメンタルに沈んでしまったというわけだ。
「おまえの罪は地球一玉分よりも僅かに重いが、その点について何かあるなら、この場で答えてみなさい」
裁判長官の声に男は背を向けた。背中で語るためである。
「毛蟹が書いた手紙を読んでもいいですか」
大海を生き抜いた兄が、カリブの海賊とアプリを交換した時に、船長との度重なる交渉の果てに交換条件として浮上してきたいくつものアイデアとアイテムの中にあって、すっかり誰からも見過ごされていた破れかぶれの網の中から、持ってきてくれた。人生は山あり谷あり島あり鬼あり夢あり、蟹あり。
「そこで私は書き手が蟹であることを知ったのだ」
毛をむしり取って、面接官に投げつけた。それから就職先では、ただ飯を食うためだけに、自分をつなぎ止めたのだった。なかなかのまかない飯だったな。
「働かなくてもまかない飯は絶対もらうぞ!」
田舎から7時間かけて赤い車で通うことで得られるべき当然の報酬である。
「労働者の権利だからな!」
その権利を事もなく踏みにじることができたのは、血も涙もないオーナーだった。
「私はそれでも生き様を変えられなかったのだ」
しゅんさんは、ポトフのゆの中からいつの間にか追い出されて、すっかり冷たくなっていく自分に、十分すぎるほどの身の危険を感じていた。
「にわかには信じ難いね」
「何だったら信じられるんだ?」
「私は何も信じませんよ。特に最新の歌と科学はね」
「そろそろ自分自身をメンテナンスする時では?」
「どうやってするんです?」
「インストールしてから、自分の中から洗い流すんです」
しゅんさんは利用規約にざっと目を通した。
・同意する
・今すぐ同意する
・後で同意する
・友達や先生に相談してから同意する
・間もなく同意します
・深く同意します
「同意の仕方なんてどうでもいい!」
どうせ同じじゃないか。同意する以外の選択肢が、何者かによって、容赦なく削除されていた。