一日が終わらなくなった。膨らみすぎた風船は破裂する前に縮めなければならないと誰かは言うが、みんなが風船の中にいるのがわからないのだろうか。「昨日はいつまでも昨日で明日はいつになっても来ないのか」終点は確かに見えていた。近づけば逃げていくので誰も、もう追いかけない。#twnovel
鞄の中から砂糖を取出す。金庫を開け深海の音を聴く。雲の流れを見極め砂を拾う。研究結果をノートにまとめ整理する。米粒を1つずつ集めるように続けていく、それがおじいさんの家業。変わらない気概とクジラめいた気配の中で「コツコツ」という音が幸いな四季を進んで席に添わせる。#twnovel
バッターボックスに男が立つとチャンスタイム、人々は喉を潤したり、空腹を満たしたり、互いの愛を確かめ合ったりした。不動の4番はもう400打席ノーヒットだった。最終回、男はついにその記録を打ち破って場外ホームランを放ったが、その勝負を見届けたのは、彼と投手だけだった。#twnovel
監督が雷を落としてから急に姿勢がよくなり、視野が広がってパスがどこにでも通るようになった。パスを受けた古代人は現代の目から見ても当惑した様子で、ボールの始末に悩んでいるようだった。「Are you ok ?」問うと「OK !」と言うのでどうやら通じているとみえた。#twnovel
さよならした人たちとまた会ってしまった。「僕たちは鬼退治に行くところなんです」仲間に加わることも、走って逃げることもできず立ち尽くしていた。消えたい。「じゃあ」そう言って彼らは向こう側に歩き始める。幾つものドアが用意されているおかげで、僕らは別の箱へと分別された。#twnovel
風にさらわれる紙袋を眺めていると猫がやってきてくわえた。瞳の中を覗き込むと草原の中でライオンと兎がかけっこをしている。「頑張れ!」生き物のひとつとして生きるために必死なものにエールを送った。「どちらも、頑張れ!」ふたつの点が重なりそうだった、その時猫は顔を背けた。#twnovel
バーサーカーが振り回すようなナイフを見つけた。家にナイフは頼もしく三つあって、それぞれの大きさが心強く揃っていた。白く張られた紙の扉を突き刺して、その向こうの敵を倒すゲーム。誰が潜んでいるかはわからない。敵か味方かもわからないけれど、元より本当の味方なんているとは限らなかったし、ナイフは長ければ長いほど生き残れる確率も高くなるというものだった。怪我をしないように注意しながら、指先で触れているとその輝きに目を奪われて、好んで自らを傷つけてしまう誘惑が一瞬湧いてきて身が引き締まる。ナイフホルダーにセットする時、一番小さなナイフから刃が取れてしまった。一瞬、折れてしまったのかと思うが、そうではない。ただ柄の縁から抜けたのだ。
「Sの刃が……」母に報告した。でも、M、L、は大丈夫。
決戦を前にみんなが庭に集まってきた。みんな手に手にしょぼいナイフを持っている。ふふふ。
「この前、コマーシャルに出た木だ!」
けれども、指さした先には別のまったく違う木が立っていた。テレビに出た後で動かされてしまったのだ。
「あれは?」
「あれは葡萄の木!」
「あれは?」
「あれはフクロウの木!」
町を歩きながら、僕は次々と出されるおじさんの質問に素早く答えてみせた。無数のとりまきが首にナイフを下げ、僕らの周りをついてまわり、正解する度に拍手をしたり、自分の思っていた木について語ったりした。
「今度のテストは難しいぞ」
「いいよ、いいよ」
スーパーの前に、たくさんの自転車を呑み込みながら木が立っていた。
「あれは?」
「あれは焼酎の木」
「残念。焼酎の木は、先月退任したんだよ」
正解は、蝉の木だった。母の肩の上で、僕は正解の声を聞いた。随分と歩いたため母の肩が少し心配だったけど、母の健康のことを考えれば、それでいいのだと自分に言い聞かせた。僕の重さだけが母にとりちょうどよい重さなのだから。町を何周もする度に、徐々についてくる人は減っていき、十六周したくらいでとうとう誰も来なくなった。
「みんな揃ったので始めよう」
と誰かが言った。死後千日も経ったので、みんな以前よりもルーズな雰囲気になっている。テーブルの端から順に名前が呼ばれて段取りが整えられている。早速席順がわからないと誰かが言った。
「四人の名前をもう一度言って!」
姉の声はよく通る。
「代表の方を決めないと」
****様、と代表候補の名が呼ばれる。
「それは子供だぞ!」
その一声で、会場に新しい花が咲いた。
花は瞬く間に大きく広がって、空から降り注ぐ光を遮っている。目的も何かも忘れて人々はその巨大な花の中に呑み込まれてゆくのだ。その狂った繁殖を止めようと僕は胸の中からナイフを抜いた。けれども、Lはすっかり錆びついており、みんなの目には腐った野菜にしか見えてなくて……。
「本日は亡き父のためにお集まりいただきありがとうございます」
僕はナイフを手にスピーチを始めた。
「Sの刃が……」母に報告した。でも、M、L、は大丈夫。
決戦を前にみんなが庭に集まってきた。みんな手に手にしょぼいナイフを持っている。ふふふ。
「この前、コマーシャルに出た木だ!」
けれども、指さした先には別のまったく違う木が立っていた。テレビに出た後で動かされてしまったのだ。
「あれは?」
「あれは葡萄の木!」
「あれは?」
「あれはフクロウの木!」
町を歩きながら、僕は次々と出されるおじさんの質問に素早く答えてみせた。無数のとりまきが首にナイフを下げ、僕らの周りをついてまわり、正解する度に拍手をしたり、自分の思っていた木について語ったりした。
「今度のテストは難しいぞ」
「いいよ、いいよ」
スーパーの前に、たくさんの自転車を呑み込みながら木が立っていた。
「あれは?」
「あれは焼酎の木」
「残念。焼酎の木は、先月退任したんだよ」
正解は、蝉の木だった。母の肩の上で、僕は正解の声を聞いた。随分と歩いたため母の肩が少し心配だったけど、母の健康のことを考えれば、それでいいのだと自分に言い聞かせた。僕の重さだけが母にとりちょうどよい重さなのだから。町を何周もする度に、徐々についてくる人は減っていき、十六周したくらいでとうとう誰も来なくなった。
「みんな揃ったので始めよう」
と誰かが言った。死後千日も経ったので、みんな以前よりもルーズな雰囲気になっている。テーブルの端から順に名前が呼ばれて段取りが整えられている。早速席順がわからないと誰かが言った。
「四人の名前をもう一度言って!」
姉の声はよく通る。
「代表の方を決めないと」
****様、と代表候補の名が呼ばれる。
「それは子供だぞ!」
その一声で、会場に新しい花が咲いた。
花は瞬く間に大きく広がって、空から降り注ぐ光を遮っている。目的も何かも忘れて人々はその巨大な花の中に呑み込まれてゆくのだ。その狂った繁殖を止めようと僕は胸の中からナイフを抜いた。けれども、Lはすっかり錆びついており、みんなの目には腐った野菜にしか見えてなくて……。
「本日は亡き父のためにお集まりいただきありがとうございます」
僕はナイフを手にスピーチを始めた。
詩を書く代わりに
カレーを作った
生きなきゃならない
※
玉葱をまな板の上に置いて
両端に包丁を入れる
緑がかったところを剥き捨てて
地軸をくり貫いて捨てる
わからないけど少し洗って
まな板の上で
真っ二つにすると
わからないけど細かく切れ目を入れて
今度はそれとは逆方向から
包丁を入れていく
※
わからないけど玉葱は
適当に細かくはなったようだ
玉葱をもう一つ持ってきて
※以下繰り返し
レンジの中に玉葱を入れて
少しだけ温めておいてから
いよいよ鍋で玉葱を炒める
玉葱を炒めたら
もうだいたい先は見えた
僕はバスルームに向かう
あたたまらなきゃ
カレーを作った
生きなきゃならない
※
玉葱をまな板の上に置いて
両端に包丁を入れる
緑がかったところを剥き捨てて
地軸をくり貫いて捨てる
わからないけど少し洗って
まな板の上で
真っ二つにすると
わからないけど細かく切れ目を入れて
今度はそれとは逆方向から
包丁を入れていく
※
わからないけど玉葱は
適当に細かくはなったようだ
玉葱をもう一つ持ってきて
※以下繰り返し
レンジの中に玉葱を入れて
少しだけ温めておいてから
いよいよ鍋で玉葱を炒める
玉葱を炒めたら
もうだいたい先は見えた
僕はバスルームに向かう
あたたまらなきゃ
宝箱から1つを手に取ってみた。角度を変えると違った読み方ができたし、時と共にその読み方が無数に広がってゆくのは、言葉そのものが生きているせいだった。「しあわせになります」そう言ったのはもう遠い昔の話、今、私はそれをゴミ箱に捨てようとしている。頭が変わっただけ……。#twnovel
拝啓 お客様
毎度混乱させて申し訳ございません。
何かにつけて、真っ先に混乱するのは、
私たち自身でございます。
何ができて、何ができない?
今日できたことが、明日はできないかも……
私たちは、そういう組織でございます。
お客様、申し訳ございません。
コーヒーチケットを野菜ジュースと交換することはできません。
いいえ、
できる時もあるのです。
できる時にはできるということを申し上げておかねばなりません。
今は、できません。
わらしべのルールとでも申しましょうか。
私たちのルールはとても複雑でございます。
少々、お時間の方よろしいでしょうか?
ただいま私たちの組織は調整中となっております。
そのままの姿勢で、
逃げずにお待ちくださいませ。
毎度混乱させて申し訳ございません。
何かにつけて、真っ先に混乱するのは、
私たち自身でございます。
何ができて、何ができない?
今日できたことが、明日はできないかも……
私たちは、そういう組織でございます。
お客様、申し訳ございません。
コーヒーチケットを野菜ジュースと交換することはできません。
いいえ、
できる時もあるのです。
できる時にはできるということを申し上げておかねばなりません。
今は、できません。
わらしべのルールとでも申しましょうか。
私たちのルールはとても複雑でございます。
少々、お時間の方よろしいでしょうか?
ただいま私たちの組織は調整中となっております。
そのままの姿勢で、
逃げずにお待ちくださいませ。
踊っていると余計なものが消えていくようだった。権威も経験も肩書もすべて足先から抜け出ていくと今日が消え清く楽しくなってついに自分自身も消えていくのだ。法の向こうから闇に紛れて番人たちが押し寄せると創作の自由を制止した。先生の消えた教室で、踊り子たちが先頭に立った。#twnovel
シーソーの上に先乗りしてどーんと構えていた。なぜなら私はどんなデラックスよりも遥かに巨体だったし、それにも増して人間一人の命はどんな星よりも重いと教わっていたからだ。後から来た地球が軽く腰掛けた時、想像以上に私は浮き上がった。聞いた話では、私は星になったんだとか。#twnovel
ゴールが決まるとストライカーは走りながら愛する人に向かってキスを投げる。仲間たちが集まってきて、揺り篭ダンスで祝福するとお日柄の良い時が流れていった。「誓いますか?」神父の問いかけに二人が答えようとする瞬間、線審が旗を上げる。もう一度、恋する前からやり直しとなる。#twnovel
とどのつまり、と国語教師は切出した。「同時にキングを描いたとして、勇猛な君は迷わずライオンを描く。音楽室で暮らすあなたはキャロルキングを描きますね。あなたはどうです? ダンサーなあなたはクロアチア・ザグレブにいるキングを描くはず。とどのつまり、そういうものです」。#twnovel
逃げ出していった記憶、確かにそれはあったという感覚だけが残り、そのひとかけらも残っていないかなしみに暮れながら見上げるビルはおぼろげで、歩き出した瞬間それも過去の一部として崩れてゆくような気がしたけれど、それでも歩き出さなければならなかった。限られた時間のために、果たすべき約束のために止められない歩みの中で、進むほどに消えてしまった記憶はなおも冷酷に無数の冬の向こうに持ち去られてしまう。窓に貼られたポスターはエルセットばかりで、いずれも900円代の価格が設定されていて、その中から選ばなければならないのだった。
「この中からお選びください」
硝子の向こうには学習済みの動物と爪を隠した猛獣に加えて、見たことのない動物が交じっていた。そしてその未知の顔色は、名の知れた猛獣以上の恐怖を僕らに抱かせたのだった。
「あの2体見た?」
友達は恐怖のため唇を開くことさえできないのか、黙って同意の首を垂れた。
ペンギンのお化けみたいな、丸い顔で、氷のような角、冬の夜みたいな頬、霊のように抽象的に浮き上がって天井に張り付くと、こちらに向かってくる……。その時、他の動物と猛獣たちは硝子ケースの奥で大人しくしていたのだ。
(ライオンに守ってもらいたい)
未知の恐怖を回避するために、既知の猛獣に近づいていくという歪な選択肢を、僕らは密かに共有していた。
「見ちゃ駄目!」
何層もの壁を壊して、奴はやってくる。聞き耳を立てて、僕らの声を聞いている、あるいは鼓動を。ゆっくりと日々を潰して楽しむように、奴はやってくる。雷が落ちて、ライオンが鳴くとそれが奴の合図になった。
「走っちゃ駄目!」
走り出した僕の背中に、悲鳴のような警告が届いた。
「日曜日はどうするの?」
「日曜日の話をしてたのかな?」
「そうじゃない!」
彼女は、何を馬鹿なというような顔をした。
「ずっと日曜日の話をしてたじゃないの。覚えていないの?」
周りが随分と明るいことに、何より僕は驚いていた。
「こんな奴だった」
モンスターの似顔絵をノートに描いてみた。
「トウモロコシ?」
その角を見て、彼女は言った。そんな陽気なものではない。
「エルセットの店に行きましょう」
「この中からお選びください」
硝子の向こうには学習済みの動物と爪を隠した猛獣に加えて、見たことのない動物が交じっていた。そしてその未知の顔色は、名の知れた猛獣以上の恐怖を僕らに抱かせたのだった。
「あの2体見た?」
友達は恐怖のため唇を開くことさえできないのか、黙って同意の首を垂れた。
ペンギンのお化けみたいな、丸い顔で、氷のような角、冬の夜みたいな頬、霊のように抽象的に浮き上がって天井に張り付くと、こちらに向かってくる……。その時、他の動物と猛獣たちは硝子ケースの奥で大人しくしていたのだ。
(ライオンに守ってもらいたい)
未知の恐怖を回避するために、既知の猛獣に近づいていくという歪な選択肢を、僕らは密かに共有していた。
「見ちゃ駄目!」
何層もの壁を壊して、奴はやってくる。聞き耳を立てて、僕らの声を聞いている、あるいは鼓動を。ゆっくりと日々を潰して楽しむように、奴はやってくる。雷が落ちて、ライオンが鳴くとそれが奴の合図になった。
「走っちゃ駄目!」
走り出した僕の背中に、悲鳴のような警告が届いた。
「日曜日はどうするの?」
「日曜日の話をしてたのかな?」
「そうじゃない!」
彼女は、何を馬鹿なというような顔をした。
「ずっと日曜日の話をしてたじゃないの。覚えていないの?」
周りが随分と明るいことに、何より僕は驚いていた。
「こんな奴だった」
モンスターの似顔絵をノートに描いてみた。
「トウモロコシ?」
その角を見て、彼女は言った。そんな陽気なものではない。
「エルセットの店に行きましょう」