眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

ピッチ改革

2020-10-31 10:39:00 | ナノノベル
「追われています」
 また問題を起こしやがったか。しかし、プライベートな問題には、一切関与するつもりはない。大事なのは試合に勝つことだ。
「だったら突き放してやろう。1点取ってこい!」
 ぽんと背中を押して送り出す。責任はピッチの上で取れ。
 ボールを持てば野性味を帯びたドリブルが客席を沸かせた。2人3人に囲まれても失わない。激しく当たられても倒れない。けんかで鍛えたフィジカルが、威力を発揮している。

 危機はピッチの外から迫る。チャントの向こうからサイレンの音。旗を振って警備員が誘導してきたパトカーが、ベンチの前に止まる。すぐにドアが開いて、警官が降りてきた。
「犯人蔵匿の容疑で逮捕状が出ています」
「間違いありません」
「何か言うことは?」
「いいえ」

 すべては私を含めた責任者の責任だ。ピッチ内外で野蛮な行いが後を絶たない。このようなリーグでは長く繁栄できないだろう。私の後で指揮を取るのは君だ。君は悪い流れをすべて断ち切ってくれ。悪いものは悪い。決して許さないでほしい。情けはまずは最も傷ついたものへ向けられるべきだろう。道理を外れておきながら、愛を求めたり、夢を与えたりできるものか。人としてまっすぐ立たなければ、足下の技術なんて意味がない。どうかここから学んでほしい。同じ過ちを繰り返さないため、私はせめて教訓の1つにでもなりたいのだ。さよなら、美しいピッチよ。ゲームはまだ続いていく。愛すべきみんなのフットボールが。
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三味線テスト

2020-10-30 21:27:00 | 夢追い
 三味線テストが順に回ってくる。これは全員参加型のテストなのだ。それにしてもぶっつけ本番だ。前の人がそこそこ上手に音を出していて緊張が増す。いよいよ僕の番だ。カラオケにお手本の映像が流れている。

「えっ、歌うの?」
 最初に鼻歌を添えるらしい。意を決して鼻歌スタート。弦を弾いても音が上手く出なかった。鼻歌も小さくなって、無の演奏がしばらく続く。聴いている者もいるが、聴く振りをしながら漫画を読んでいる者もいるのだろう。しかし、あるタッチをきっかけにして僕は覚醒した。
(出せるじゃないか)
 高い音が出ることに興奮して弾きまくった。

「はい、それまで」
 うるせー! これからじゃ。先生の制止を無視して僕は奏でた。課題曲に飽きて、即興で作った曲を演奏しながら歌った。みんな聴いている。手拍子をする者もいる。窓の向こうに影が見える。もう誰にもとめられない。
(こんなにも自分の中にメッセージが眠っていたなんて)
 これさえあれば、ヒーローにだってなれる。

「あなたのコーヒーカップは?」
 家に帰るとおばさんが来ていた。
「知らない」
 キッチンに出たままの包丁を洗った。流しの下に片づけようとすると刃が2段構えになっているように見え、目を疑った。
 これは……。
 尖った部分が徐々に丸みを帯びて縮んで行く。
 なんだ、お好み焼きを返す奴か。

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ウインク・ポメラ

2020-10-30 08:26:00 | 【創作note】
 ポメラが開くとまぶしい光に見つめられて、僕は空っぽになってしまう。
 ぱたんと閉じるとフラットになった板の上。 
 チェスをする。お茶をする。花見をする。猫と遊ぶ。ダイスを転がす。その内に何か閃くものがある。飢えた何かを感じられる。
 そうしてポメラを開く。
 ポメラ中心の白さに、僕のちっぽけな断片は呑まれてしまう。

(いつだって身構えた時には失われるのだ)

遊び、気晴らし、閃き、喪失を繰り返し、
15万回のテストにも耐えた
ポメラは強い

僕はまだまだ

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【短歌】闇夜の忘れ物

2020-10-29 20:35:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
澄み切った空が一層曇らせる蛍祭りに君はいないの

落ち延びたフードコートの片隅にみえた柱を寄る辺と思う

メッセージ性のみえない一日の手にあまりある言葉のパズル

夜のない21時に札を待つモスバーガーのナイトソングス

「お客さん終わりましたよ」闇夜から突き刺す君の懐中電灯

駒台にあふれる夢を置いたままみえた私の最終地点

「まもなく」が空疎に夜をかきまわす蛍の光カオスバージョン

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5Gトレイン

2020-10-29 06:23:00 | 夢追い
 減速してホームに停止する。その時、電車は現在にGをかけるが、体はまだ後ろに引っ張られて過去にしがみつこうとしていた。僅かな乗客を入れ替えて電車は動き出す。迷いのない電車は未来にGをかけようとするが、僕はもう少し現在に執着しシートに腰を沈めていた。抵抗は儚い。生身の肉体はGに吸収され同化し電車と一体となる。短く逆らい、多くを委ねて、運ばれて行く。

 僕はGと関わり夢をみる。そこが最も時空を超えやすいスペースだったから。ドコロッシャン♪ 雷は一雨の予感。今夜は出かけなくちゃな。400ポイントが0になってしまう。ポイントはスキルと交換できるとか。同時に複数の鬼を持てるし、感情を薄めそれぞれの鬼に割り当てることができる。それにより演技の幅が広がるのだ。
 躍動する電車がロックなGをかけて、乗客を煽る。僕はポイントに執着しながら縦乗りで踊る。ミラーボールに化けた吊革が羞恥心を溶かす。(何度でもここにいるよ)車窓から刺さるネオン。小部屋の中のバンジージャンプ。

「まもなく終点……」
 アンコールを待たず終点へ向かう。すべてのGの終わり。
 足音が動き出す。ドアが開く。同調が加速する。息を吹きながら、電車はすべての乗客を吐き出す。
 終着のGに逆らって僕は夢にしがみついていた。(ここで降りたら再び戻れることはないだろう)たどり着いたとしても、終わらない旅に惹かれるのだ。雷、ポイント、鬼、スキル、演技……。課題はたくさんあるぞ。

「お客さん終点ですよ」床を叩くような足音。
「お客さんが終点ですよ」
「そんなことあるか!」
 はっとして目を開けた。
 そこに想像していた制服はなかった。
 劇場の観客はみんな猫だった。
 ということは僕もか……。
 そうか。生まれ変わったのか。
 

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マイ・ケース

2020-10-29 00:08:00 | 自分探しの迷子
 幾度も母はバスのように通り過ぎた。呼び止めるにはまだ僕の声は小さすぎた。手をつないだことはあっても、切り離された記憶に上書きされてしまう。母であったものが多すぎて、母であったものを思い出すことができない。昨日の母をたずねてもほとんど意味のないことだ。母は一定のとこころに留まってはいない。既にそこは駐車場か何かに変わっていることだろう。

 無数のヌーのように父は私の前を通り過ぎました。私の言葉は未熟なためか、一日として理解されることはありませんでした。微笑みをくれた父は誰もいませんでした。私は辛うじて捉えた父の輪郭を後ろから踏みつけてあげることがありました。
「そこだ。いやそこじゃない」「もっと踏んでくれ。いやもう降りてくれ」矛盾する声は父であったり組み合わさった岩であったりしました。

 昨日の職場へと歩いて行くのは自分を知るためだ。そこにはいつも僕の居場所はない。いつだって昨日の母は今日の母ではない。だから、一日一日を僕は生きていかなくちゃいけない。頼ったり、振り返ったり、そんな必要はないだろう。一日の終わりに僕は一つ詩を書く。それは人間の誇りだ。

「こんにちは」トーンに差をつけないように私は言葉を作ることができます。昨日の父は今日は牛に変わっているし、今目の前の駐車場に座っている猫が、明日は私に変わっていないと言い切ることはできないのです。それは母でも兄でも同じことです。
 昨日の履歴にはもう意味がなく、私を記憶できる者がいないことは潔く普通のことなのです。今日新しく出会う者が父になり、友になり、敵になり、妹になる。それは向こうから見ても同じこと。今日が終わるまでに私は一つ詩を書くでしょう。それが人間の誇りなのです。

 昨日の友は今日は岩だ。母は鹿で弟は機関車になった。俺だけがそれを知っていても意味はない。俺の中に執着するようなものは何もない。だって、そうじゃないか。俺を築く要素が日々コロコロと変わるのだ。俺が俺であることなどあるものか。後腐れのない俺でいよう。一日の終わりに俺は詩を書く。それは何かの名残に違いない。推敲はしない。それは俺の趣味じゃない。今日の俺は一つの職を手にしている。
 誰かに託すこともなく明日は手放さなければならないが、明日の俺はまた別の波に乗ることになる。

 定着を拒むシールドがわしの魂にとりついていたのじゃ。防御力の高い盾を構えていたところ、謎の圧力を受けて回転しておる。それはもはや動物図鑑にすぎず、対象年齢は3才という。次世代テレビのブースではお好み焼きのソースに上書きが始まっており、鉄板の上に裏返ってみれば先ほどまでの寂しさはうそのように、人々は渋谷の交差点からあふれ出していく様でした。

 10月と硝子細工の手ほどきにも似て、私は着せ替えられていくばかりでした。誰だって私をつなぎ止めておくことができなかったのは、何も望まぬ私の横顔のせいではなかったのです。落葉に乗って滑り急ぐ猫のように、時は僕の前を通り過ぎていった。その中に母がいて友がいて、兄がいて先生がいた。一緒に私が含まれていたことが、唯一の救いかもしれない。

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駅ナカきつね

2020-10-28 17:36:00 | ナノノベル
「へいいらっしゃい。食券をお願いします」
「いい匂いね」
「食券をどうぞ!」
 たぬきかなきつねかな。今日の気分はどっちかな。

「へいいらっしゃい!」
 やっぱりたぬきかな。ここの席にするわ。
 何だかよさげな店ね。きっと場所がいいのね。放っておいても人が来るような場所。味の方はどうかしら。期待を抱かせる出汁のよい匂いがするようね。きっとここはたぬきだわ。
「はい。お客さん先に食券をどうぞ」
 でもきつねも捨て難いものね。いつだって捨てた方は可哀想なものよ。

「へいいらっしゃいませ」
 とても威勢のいい店ね。呼び込まれるように人が入ってくるわ。
「いっらっしゃい。どうぞ」
 きつねが私を呼んでる気がする。熱いのがいいわ。一番熱いのをもらうとするわ。もしも熱くなければもう二度とこない。それだけのことよ。

「きつねをちょうだい」
 熱々でお願いします。

「いらっしゃいませ」
 忙しくても挨拶を欠かさない。わかってるわ。それが一番大事。
「はい。肉うどんお待ち」
 いいわね。あれもきっと正解ね。

「いらっしゃいませ。食券をどうぞ」
 ここはとても狭い店ね。もうすぐ満員御礼よ。5パーセントは還元されるのかしら。だったら私はPayPayで還元を受けるわ。今すぐ青青とした葱で還元させていただくとするわ。きつねが隠れるほどの還元で今年いっぱい私は生き残るのよ。葱は強く強く私を引っ張るのだわ。

「はい。カレーうどんね」
 ああ。なんてよさげな匂いでしょう! あなたの勝ちよ。カレーを選んだ者に負けはないの。それくらい知っていたけど今日の私はきつねに流された。敗れ去ったのはたぬき。だけどほんの紙一重だったわ。

「はい。ハイカラうどん」
 また私のじゃない。遅いわね。私のだけ来ないのね。私はここでよかったのかしら。私の正解はここだったのかしら。もうすぐ電車が来るわ。発車のベルがもう鳴り響いているわ。行き先を知る人が乗っていくの。みんな私を置いて行くのね。

「はい。たぬきお待ち」
 やっぱり誰かのたぬきなのね。

「いらっしゃいませ。食券をどうぞ」

 私のじゃない。ここはそういう店ね。
 みんな私を追い越していくの。私だけが通らないのね。

「いらっしゃいませ。食券をどうぞ!」
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風とポメラ

2020-10-28 04:42:00 | 短い話、短い歌
風を受け書き出せば今日実になった
一首は君を示す全文
(折句「鏡石」短歌)


 扇子からは特別に優しい風が送られてくる。
「なんて優しい風でしょうか」
「特別な紙を使っておるからな」
 風の送り手は言った。
「どんな紙なんですか」
「風と親交の深い紙を特別に折ってある」
 秘密は紙の周辺に隠れているようだ。
「どう親交を得るのです? どう折るのですか?」
「何が知りたいのだ?」
「風のことです」
「根ほり葉ほりきくなー!」
 そう言って送り手は、扇子を振りかざした。
 優しかった風は厳しくなり、僕を押し戻した。


膝の上にあった
pomeraはまだ少しあたたかい
短い旅を終えて
ふりだしに戻る
このまま風化して行くの
化石となった手のひらを
誰が掘り起こすだろう


もう眠ったの
威勢はいいけど
構想がないのねいつも
おやすみ 
私も眠ろう
膝の上
少しあたたかい


風下に風の便りが満ちた時
行こうみんなの知らない街へ
(折句「鏡石」短歌)

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秋の課題図書

2020-10-27 19:29:00 | ナノノベル
 あるところでは、ふーんと思い、大変感心させられました。もしも自分だったら、それと同じことができただろうか。そのようなことを思わずにはいられませんでした。またあるところでは、ははーんと思わされるところがあり、大変勉強になりました。もしも自分が同じような環境に置かれたとして、その時に実際に自分ができることを考えたら、何か気の遠くなるような思いがして、胸の奥がわさわさとすることがわかりました。なのでしばし手を止めて、お茶を飲みました。また、あるところからは、何か辻褄が合わないように思われて、今までに感じたことも全部うそだと思われました。
 それ以上先へ読み進めても無意味でした。本を閉じて自分を見つめると、風が自分に向かって吹きつけたので、その時は秋を感じることができました。いったいこれがどうして課題図書だったのだろう……。

「ちゃんと与えてくれないとちゃんと読めないよ!」
 本を持ってソムリエに抗議しました。
「いい本だよ。もっと腰を据えて読んでごらん」
 まるで僕の読みが足りないように言うのでした。
「きつねばっかり出てくるじゃない」
「そうですよ」
「きつねしか出ないじゃないか!」
「そういう本です」
「つままれてばかりで筋が通らない!」
「きつねはそういうもんです」
 僕は人生の機微に触れたかった。読書を通して成長するきっかけをつかみたかった。出会いがあり、別れがあり、はじまりがあり……。

「これははみ出し本じゃないか!」
「ふふふ」
 ソムリエは不敵な笑みを浮かべていました。
「デタラメじゃないか!」
「そうとも。お前みたいなはみ出し者には、はみ出し本で十分だ!」
「やっぱりそうか!」

(見くびられていた)

 古い課題図書を置いて、僕は落ち葉の上を歩き始めました。
 今度は、自分の足で歩き回って探そう!

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Aボタンのリクエスト

2020-10-26 20:25:00 | 短い話、短い歌
 Aボタンを押すとジャンプ。
 ジャンプ、ジャンプ。
「飛べ! 飛べ!」
 飛べー! 
 ばかになった?
 主人公はかたまっていた。
 凹んだままのAボタンが、ゆっくりと戻ってくる。
「もっと押して! もっともっと!」
「飛べ!」
 主人公は眠り込んでいる。
「凝ってるの私」
 このバカコントローラー!
「そうそう! もっともっと!」


Aボタン
押してはなして
真夜中の
E少年は
明日の代表

(折句「エオマイア」短歌)

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西日の千日手

2020-10-26 16:58:00 | 将棋の時間
おじいちゃんの部屋は
特別離れた場所にあり
いつでも西日の中にあった

僕が右に銀を繰り出すと
おじいちゃんは金を寄せた
ならばと左に銀を繰り出すと
おじいちゃんは金を寄せた
同じ手順が十回以上続いた

おじいちゃんは
僕に似て意地っ張りだ

攻略を図れば防御を固め
どこにも隙を作らず
突破口を与えてくれない

銀を繰り出せば金を寄せ
目先を変えてもついてくる
譲れない中盤に
僕は数え切れない銀を繰り出した

苦い顔をしたおじいちゃん

「まいった」

突然
小さな声で
負けを認めた
(まだ駒もぶつかっていないのに)
だから局面はずっと止まったままだ

おじいちゃん
お腹空いたんか

あれは千日手だったのに
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創作オムレツ

2020-10-25 18:48:00 | ナノノベル
「オムレツ!」
 ナナのリクエストは絶対。
 だけど卵がない。
 スーパーはもうどこも閉まっている。

「オムレツ! オムレツ!」
 ナナのリクエストはキャンセル不可。
 パパはフライパンを見つめている。
 そこに割り入れる卵はもうないのに……。

「よし! 創るぞ!」
 パパはゼロから始めることを決めた。
 赤ピーマン、乾電池、軍手、布団、トマト、ビニール傘、白ネギ、トランジスタラジオ、ビー玉、鷹の爪……。
「確か昔習ったことが」
「あなたどうするの?」
 心配げなママの横でパパは家の隅々から集めた素材を用いて必死の創作活動に没入している。ここは手、ここは頭、ここは羽、ここは心臓……。

「ニワトリから創るのね」
「一度授業でやった覚えが」
「確かなの? あなた」
 骨組みができ、皮膚ができ、羽が震えて、瞳が光り、鶏冠が立ち上がった。
 覚えある手がリクエストをかなえるために休みなく動き続けた。徐々にそれらしく、それでいてどこか不気味な生き物を創り出そうとしていた。

「パパもうやめて!」
 立ち上がる命にナナが待ったをかけた。
「ハンバーグでいい」

「どうした? 簡単にあきらめちゃいかん」
「もういいの」
 パパは手を止めない。最初のリクエストが絶対だ。
 苦心の羽を広げてニワトリは今にも羽ばたきそうだ。窓の向こうを見つめていたニワトリの首が回って、ギョッとナナを見た。

「ニワトリ嫌い!」
「ナナ……」
 強い言葉にパパは驚いて手を止めた。

「ハンバーグがいいの!」

「そうか……」
 パパは少し残念そうだ。

「あなた。私もそれがいいと思うわ」
「じゃあ、オムレツはまた今度だな」

 
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リア充不思議体験日記

2020-10-25 11:19:00 | 幻日記
 今日は朝から口を開けて朝食を食べました。また、朝が終わってからも1日を通して色々なものを口にしました。野菜を食べたりトマトを食べたりしました。チョコを食べたりアポロを食べたり、お菓子を食べたりポテコを食べたり、おやつを食べたりパイの実を食べたり、アイスを食べたりピノを食べたりしました。
 それから寝転がったり横になったりしました。ロックを聴いたりアジカンを聴いたりしました。
 それから歩いたり前に進んだりぶらぶらしたり、散歩したり街の中を移動したりしました。少しずつ景色が変わったのが不思議でした。


よくできました!
あなたの不思議体験に先生ははんこをあげます!
明日も頑張りましょう!

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燃えるクーポン

2020-10-24 10:38:00 | 夢追い
 悪夢にもからっとしたものと、ねっとりとしたものがある。見ている時には恐ろしくても覚めた瞬間、「あー夢でよかった」と思えれば、悪夢も清々しい。しかし、覚めてもまだ夢世界から抜け切れないで、恨みや気がかりが半分向こうに残っている。(夢というのに納得がいかない)そういう悪夢は精神的に疲れるし、後に引きずってしまう。

 少し前は船内だった。ちょうど船の外でUFOショーが始まって、カメラを持って近づくが、ガラスに反射して上手く撮れない。外に出ようということになり、ワイングラスを持った芸能人がいて……。

 次の場面では酔っぱらいに責められている。クーポンの扱いを巡る手違いで、2人の料金に200円の差が出てしまった。半分は僕のミス、半分は仲間との連携ミスだった。動揺する中で僕は「クーポンどこいった?」みたいなことを言ってしまった。それが爆発のスイッチになった。
「出したじゃないかー!」
 酔っぱらいは怒鳴った。そうだ。クーポンはすべて僕の手元にあるのだった。
「申し訳ありません」
 酔っぱらいが爆発してから、スタッフ一同が頭を下げ始めた。ミスに関与した男は無言を貫いている。

「どうなってるんだ!」
「申し訳ありません」
 皆が詫びるために図式が定着してしまった。
 勿論、主犯格の悪者は僕だ。
「申し訳ありません」
 誰が何度頭を下げようと酔っぱらいの怒りは、最終的には僕の前に帰ってくるではないか。申し訳ないにしても、そこまでか?

 いったいいつまで頭を下げているつもりだ。
 他にないのか。もっと前向きな提案をしないのか。
「目を見て謝って」
「申し訳ありません」
 謝罪の一方通行に追い込まれて視野が狭くなっていた。
 酔っぱらいの体がまとう怒りの炎だけが世界を照らしている。
 いつまでも、いつまでも、消えない炎。

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吊り橋交差点

2020-10-23 10:50:00 | 夢追い
 信号機よりもまだ高いところに細い吊り橋がかかっていて、僕らはそこに跨がって交差点を見下ろしていた。交通調査の仕事だ。
 最初は見ているだけだったが、誰かがハンカチを落としたりしたら叫んでしまう。しつこい勧誘につきまとわれている人を見ると口を出してしまう。おかげで僕らは目立つ存在だった。たすきを巻いたおかしな政治家みたいなのがやってきて、文句を言い出した。

「下りなさい! 危ないじゃないか!」
「うるせーな!」そういう仕事なんだよ。
 ずっと平気だったのに、地上のある一点を見た途端に恐怖心があふれてきた。
(高いところはだめだったんだ)
 震えている。それが伝わって吊り橋も揺れ出した。

「真ん中から下りられるかな?」
 吊り橋を端まで渡りきる自信がなかった。徐々に震えが大きくなり、もう一歩も動けそうにない。
「落ち着いて! まずは深呼吸しよう」
 隣の先輩が前向きな言葉をかけて励ましてくれる。
 その時、交差点にあおり族がやってきた。

「何やってんだ!」
 からかうような目がいくつもこちらを見上げている。
「仕事だー!」
 先輩が叫んだ。
「お前も言ってやれ」
 そうだ。恐怖に打ち勝つには怒りの熱が必要だ。
「こういう仕事なんだよ!」

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