クッキーと思えばそれはクッキー、もしもケーキと思ったならば……。「人生はすべてあなたの思い通りになるのよ」女は飲み物とも食べ物ともわからない物が入った鍋と向き合っていた。「私は誰だい?」一口味見をして訊いた。「クレアおばさん! ご飯はまだ?」娘はテーブルを叩いた。#twnovel
硝子の扉には
右にも左にも
大きな貼り紙があって
おかげで中の物は何も見えない
みかんすいありません(おわり)
貼り紙が語るのは
みかんすいがあったということ
今でも
あってほしいと願う人が
いるであろうこと
ライトなジャケットを着て
散歩道を歩いた
冬は
ほんの入り口に過ぎないというのに
それ以上の装備はなかった
初めて出会った人間が
最初で最後の友達であるように
初めにボスが出ることはないのだろうか
「おーい! どうしておわってしまったんだよー」
落葉の上で
スライムが眠っている
右にも左にも
大きな貼り紙があって
おかげで中の物は何も見えない
みかんすいありません(おわり)
貼り紙が語るのは
みかんすいがあったということ
今でも
あってほしいと願う人が
いるであろうこと
ライトなジャケットを着て
散歩道を歩いた
冬は
ほんの入り口に過ぎないというのに
それ以上の装備はなかった
初めて出会った人間が
最初で最後の友達であるように
初めにボスが出ることはないのだろうか
「おーい! どうしておわってしまったんだよー」
落葉の上で
スライムが眠っている
学べば学ぶほど命に対する謎はむしろ深まっていき、時に私たちはそれを粗末にさえした。いつも、誰が死んだ死んでいないといった話題で盛り上がった。「地球って死んだよな」そんなところを見つかると必ず怒られた。「人の気持ちも考えなさい!」浅はかだった私たちにはできなかった。#twnovel
新聞に投書をすると家に手紙が届いた。「昔、あなたにフォローされていて、そしてなぜかいつの間にか外された者です」どういうわけか深く傷つき、そしてどうしても思いを届けたかったという。その名前に覚えはあり、追っていくと記憶の雲は夕暮れに染まっていた。70年代の曲の色だ。#twnovel
小型の飛行物体が大挙して押し寄せて僕だけの空を侵してしまう。絶対に安全だと思っていた、けれども薄々は気になっていた、必勝パターンの崩壊とピンチの到来……。この先どうなってしまうのだろう。バビルは負けてしまうのだろうか。
「バビルとデビルは戦うんでしょ?」
「違う」
姉は自信満々に言い切った。
「……いいよね。……知ってる?」
バビルの弟を演じていたという役者の名前を、僕は知らなかった。
「見せたーい」
見ればわかると姉は言った。
徐々に音は近づいてくる。こちらの方に向かって近づいてくる。テレビの音も、鳥の私語も、誰かの会話もすっかり聞こえなくなってしまう。降りてくるのか、落ちてくるのか、こちらの方に向かって。そうではなく、この場所を目掛けて窓の外が巨大な影によって黒く包まれた。不時着し開かれた扉からは、人参、椎茸、豆腐が続いて降りてきた。
町外れの廃墟に身を潜めていたデビルを捕まえようとデジルは近寄ったが、デビルは容易に従わなかった。デビルは痩せ細っていたが剣を抜いて抵抗した。仕方なく、デジルも剣を抜いて彼を追った。剣を交える内に、デビルの剣は分裂して四つに増えた。追っているはずがいつしか追われている方はデジルの方だった。「本当に俺を捕らえられると思ったのか?」デビルは凶暴に伸びた剣を振りながらデジルに迫る。深い傷を負いながら、もはや逃げることが精一杯だったが、ついに追い詰められてしまう。八つに増えたデビルの剣にデジルの命運も尽きてしまった。デジルが討たれたという一報は瞬く間に街を駆け抜けた。みんな、追い詰められたデビルのことを甘く見ていたのだ。
「攻めてくるぞ!」
そんな声が、あちらこちらで飛び交っていた。
玄関先、傘立ての中には溢れんばかりの剣が納まっている。逸る気持ちの中で僕は早く本物の剣を手にしたかった。
「どれが本物だ?」レプリカか?
問い詰めたが玄関先の女は何も答えずに、僕は勘を頼りにその中の一本を抜き取った。艶だけを見れば、それは本物の条件を満たしているように思われ、僕は剣を空に向かって突き刺した。けれども、次の瞬間、その先端は打ちひしがれたチューリップのように、力なく萎れてしまった。こんばんは。
台所では風呂に入ったのは誰だクイズが催されていた。
「***!」
姉が僕の名前を叫ぶ。
一、黒Tシャツがかかっているから
一、真っ先に入ったから
一、今ここにいないから
僕はクイズに参加できずに寂しかったけれど、正解されたので少しうれしかった。
「お父さん、雨は大丈夫だったかな?」
「雨なんて……、」
いつ、デビルが攻めてくるかもわからないのに、雨なんて……、
姉が、そう言って責めた。
「大丈夫なことが大事なのよ」
大事なんだから、と母は何かに言い聞かせるように繰り返し、言った。
「いつも心配しながら戸締りをしている」
言いながら、母は戸を全開にして空模様を見た。
「お母さん! 戸を閉めて!」
声を張り上げて、姉が言った。
「用心するの」
用心することが大事と姉は繰り返した。その手の中に、短刀が握られているのを、僕は見た。
「バビルとデビルは戦うんでしょ?」
「違う」
姉は自信満々に言い切った。
「……いいよね。……知ってる?」
バビルの弟を演じていたという役者の名前を、僕は知らなかった。
「見せたーい」
見ればわかると姉は言った。
徐々に音は近づいてくる。こちらの方に向かって近づいてくる。テレビの音も、鳥の私語も、誰かの会話もすっかり聞こえなくなってしまう。降りてくるのか、落ちてくるのか、こちらの方に向かって。そうではなく、この場所を目掛けて窓の外が巨大な影によって黒く包まれた。不時着し開かれた扉からは、人参、椎茸、豆腐が続いて降りてきた。
町外れの廃墟に身を潜めていたデビルを捕まえようとデジルは近寄ったが、デビルは容易に従わなかった。デビルは痩せ細っていたが剣を抜いて抵抗した。仕方なく、デジルも剣を抜いて彼を追った。剣を交える内に、デビルの剣は分裂して四つに増えた。追っているはずがいつしか追われている方はデジルの方だった。「本当に俺を捕らえられると思ったのか?」デビルは凶暴に伸びた剣を振りながらデジルに迫る。深い傷を負いながら、もはや逃げることが精一杯だったが、ついに追い詰められてしまう。八つに増えたデビルの剣にデジルの命運も尽きてしまった。デジルが討たれたという一報は瞬く間に街を駆け抜けた。みんな、追い詰められたデビルのことを甘く見ていたのだ。
「攻めてくるぞ!」
そんな声が、あちらこちらで飛び交っていた。
玄関先、傘立ての中には溢れんばかりの剣が納まっている。逸る気持ちの中で僕は早く本物の剣を手にしたかった。
「どれが本物だ?」レプリカか?
問い詰めたが玄関先の女は何も答えずに、僕は勘を頼りにその中の一本を抜き取った。艶だけを見れば、それは本物の条件を満たしているように思われ、僕は剣を空に向かって突き刺した。けれども、次の瞬間、その先端は打ちひしがれたチューリップのように、力なく萎れてしまった。こんばんは。
台所では風呂に入ったのは誰だクイズが催されていた。
「***!」
姉が僕の名前を叫ぶ。
一、黒Tシャツがかかっているから
一、真っ先に入ったから
一、今ここにいないから
僕はクイズに参加できずに寂しかったけれど、正解されたので少しうれしかった。
「お父さん、雨は大丈夫だったかな?」
「雨なんて……、」
いつ、デビルが攻めてくるかもわからないのに、雨なんて……、
姉が、そう言って責めた。
「大丈夫なことが大事なのよ」
大事なんだから、と母は何かに言い聞かせるように繰り返し、言った。
「いつも心配しながら戸締りをしている」
言いながら、母は戸を全開にして空模様を見た。
「お母さん! 戸を閉めて!」
声を張り上げて、姉が言った。
「用心するの」
用心することが大事と姉は繰り返した。その手の中に、短刀が握られているのを、僕は見た。
口に合わない土産物はゴミ箱行きにした。本当に申し訳なく、その罪滅ぼしにと土産物を買ったが、知識の乏しい土産物は時にはとても役立たずだ。「捨てただろうか?」私たちは互いに贈り合っては捨て合っていた。その事実がはっきりしたのは、天国の同窓会で初めて打ち解けた時だった。#twnovel
箸を持つのが右だとか計算するのが左だとか「ついこの前までそうだったのよ」と先生は言う。「世界には紛争が絶えませんでした」統一後生まれの僕たちにはまるで理解できない、右、左、紛争……。「LとRが統一される前のお話です」今は歴史の話よりランチタイムが待ち遠しかった。 #twnovel
「何をしている?」既に豆腐は投げられているにも関わらず、彼女は動かなかった。「すぐ箸を取れ!」王命にも関わらず耳を貸さず、その驚きはあちこちでざわめきとなって表れた。「冷めてしまうぞ!」なおも彼女は動かなかった。けれども堂々と意見を述べた。「スプーンをください」。#twnovel
「縫いぐるみみたいですね」私たちは犬を挟んで語り合った。「近頃は私の方がこの子に似てきまして」犬のことを話していると平和に時間が過ぎていく。「お犬様時間となりました」呼び出されて、私たちは置き去りにされてしまった。生身の人間同士向き合いながら、再び犬の話を続けた。#twnovel
インターホンが鳴ったことに気がついたのは僕だけだ。隣の星から来ている者だと彼は言った。「はい?」何か伝えたいことがあるようだが、聞き取れないので母にテレビの音量を下げるように言う。それでも兄が新聞をめくる音がうるさくて、隣人のメッセージが聞き取れない。頼んでも兄は、その手を止めようとはしないのだ。
深い霧に覆われた夜明けだった。浮遊した僕はその中であえて速度を上げる。突然何かが出現するかもわからない。その緊張感を楽しむだけの余裕と、何が出てきてもかわせるだろうという自信が、その時は備わっていたからだ。
コントの途中で役者は息を引き取ったが、発表はオンエアの日まで待たれている。誰も泣かない。それがコント師に対する礼儀だとわかっているから。彼の最後をドラマ化するために僕はシナリオを起こし始めた。するとまた彼が動き出す。生き生きと笑いに愛されるようにして。海のコミックを持っていくとシェフに扮した彼がいいようにさばいてくれるのだ。僕は電車の中で294ページまで読み進めた。そのような早いペースで進んだことは一度もなく、驚いている内に終着駅がやってきて、最後のページを残して僕は電車を降りた。
剥き出しのままの本を持って書店の中を歩く。配置が色々と変わっていて、雑誌コーナーの場所も変わっていた。僕は科学雑誌の1つを手にした。見出しに「ロボットと恐怖について」と書かれている。
ホームを歩いていると隣の駅に着いた。そこは弁当を売るためだけの駅で、人々が弁当目当てに集まっている。冷蔵庫の扉を開けると鮭は最後の一切れで、僕はそれをトレイの上に載せて係の人に手渡す。人気の品なのか偶然なのか、それまでの4人が同じ弁当を注文しており、僕がそうすると5番目になる。
パーツはそれぞれ専門の持ち場を回って徐々に完成に近づいていた。昼食休憩から帰ってきた持ち場が、手を加えて1つの工程が終了する。次の持ち場はやはり留守にしていてその帰りを待たなければならない。別の人間ではその加工手段がまるでわからない。工場の中に深い霧が下りてきて、インターホンが鳴ったかと思うとテレビの中でコントの笑い声だけが聞こえてくる。ひどい雨だったと言いながら帰ってきたのは次の工程の人だろうか。絶え間ない笑いの中に、交じり合う金属音が、確かに1つのパーツを完成に近づけている。誰かが窓を開けると霧が晴れて、役者の死が発表されると辺りは深い悲しみに包まれた。テーブルの上に完成間近のパーツが置かれている。最後の持ち場はおやつ休憩のために、無人になっている。
「お待たせしました」
苦痛がどのようにして緩和されるかを工場長が説明を終えた後で、それは僕の物ではないと言った。「でもわかります」何年か前に、そういう痛みを経験したことがある、と工場長に告げた。長く話している間に気がつかなかったが、振り返ると本当の持ち主が来ていた。いつからいたのだろうか。話を聞いていたのだろうか。(どのような思いで聞いていたのだろうか)近づいて、僕は彼の背中を叩いた。「できたよ」
百貨店に行くぞと父が駆け出して駅前の人々をかき分けて見えなくなった。必死で走って追いついた時には、開かれたエレベーターの一番奥にいた。僕は扉が閉まる直前に駆け込んだが、大勢の人々がいるせいで父までたどり着くことはできず、他人のようなふりをしていた。押しボタンの近くにいた子供が、デタラメにボタンを押している。そして、ついに誰かと話し始めた。「隣の星から来ているの」
深い霧に覆われた夜明けだった。浮遊した僕はその中であえて速度を上げる。突然何かが出現するかもわからない。その緊張感を楽しむだけの余裕と、何が出てきてもかわせるだろうという自信が、その時は備わっていたからだ。
コントの途中で役者は息を引き取ったが、発表はオンエアの日まで待たれている。誰も泣かない。それがコント師に対する礼儀だとわかっているから。彼の最後をドラマ化するために僕はシナリオを起こし始めた。するとまた彼が動き出す。生き生きと笑いに愛されるようにして。海のコミックを持っていくとシェフに扮した彼がいいようにさばいてくれるのだ。僕は電車の中で294ページまで読み進めた。そのような早いペースで進んだことは一度もなく、驚いている内に終着駅がやってきて、最後のページを残して僕は電車を降りた。
剥き出しのままの本を持って書店の中を歩く。配置が色々と変わっていて、雑誌コーナーの場所も変わっていた。僕は科学雑誌の1つを手にした。見出しに「ロボットと恐怖について」と書かれている。
ホームを歩いていると隣の駅に着いた。そこは弁当を売るためだけの駅で、人々が弁当目当てに集まっている。冷蔵庫の扉を開けると鮭は最後の一切れで、僕はそれをトレイの上に載せて係の人に手渡す。人気の品なのか偶然なのか、それまでの4人が同じ弁当を注文しており、僕がそうすると5番目になる。
パーツはそれぞれ専門の持ち場を回って徐々に完成に近づいていた。昼食休憩から帰ってきた持ち場が、手を加えて1つの工程が終了する。次の持ち場はやはり留守にしていてその帰りを待たなければならない。別の人間ではその加工手段がまるでわからない。工場の中に深い霧が下りてきて、インターホンが鳴ったかと思うとテレビの中でコントの笑い声だけが聞こえてくる。ひどい雨だったと言いながら帰ってきたのは次の工程の人だろうか。絶え間ない笑いの中に、交じり合う金属音が、確かに1つのパーツを完成に近づけている。誰かが窓を開けると霧が晴れて、役者の死が発表されると辺りは深い悲しみに包まれた。テーブルの上に完成間近のパーツが置かれている。最後の持ち場はおやつ休憩のために、無人になっている。
「お待たせしました」
苦痛がどのようにして緩和されるかを工場長が説明を終えた後で、それは僕の物ではないと言った。「でもわかります」何年か前に、そういう痛みを経験したことがある、と工場長に告げた。長く話している間に気がつかなかったが、振り返ると本当の持ち主が来ていた。いつからいたのだろうか。話を聞いていたのだろうか。(どのような思いで聞いていたのだろうか)近づいて、僕は彼の背中を叩いた。「できたよ」
百貨店に行くぞと父が駆け出して駅前の人々をかき分けて見えなくなった。必死で走って追いついた時には、開かれたエレベーターの一番奥にいた。僕は扉が閉まる直前に駆け込んだが、大勢の人々がいるせいで父までたどり着くことはできず、他人のようなふりをしていた。押しボタンの近くにいた子供が、デタラメにボタンを押している。そして、ついに誰かと話し始めた。「隣の星から来ているの」
「第一に、人目を惹かなければならない。品格も必要だ」彼は、入口の装飾に全力を注ぐように、指示を出した。「入口を通らずに入ってくる客がいるだろうか?」その言葉に皆も頷いて全精力を傾けた。「味の方は大丈夫ですか?」と口走った男は即座に身柄を拘束された。味は禁句なのだ。#twnovel
呼びかけに答えないので無理に口を開いた。スプーンに入れた音符を流し入れたがそのままじっとしている。「口を動かさなければ歌えないよ!」3度ばかり口を動かしたが、最後はあくびとなって音符を吐き出してしまう。「もう歌わないの?」父の目は開いたままじっとこちらを見ている。#twnovel
歌が始まると間もなく人が立ち上がった。驚きを込めて私は人を見つめる。天国へと向かう緊張と期待に満ちた階段の途中で、次々と立ち上がる虚ろな顔の人々。みなが立ち上がり、失格の烙印が私の口を封じてしまう。「なぜ?」なぜ座っていてくれなかったのだろう。たった一人でも……。#twnovel
調べに乗って惑星は回っていた。全力というわけではなく、前の星にぶつかったり追い抜いたりしないように節度を保ちながら走っていた。そして突然音楽が止まった。「どうしてみんな立っているの?」惑星たちはその場で顔を見合わせている。「座りなさい。ゲームなのよ」先生が言った。#twnovel
「遠慮なんかしてる場合か」黒い服の男たちが、今にも強制力を持って動き出しそうに思えたのだ。「私が立つとえらいことになるんだけど」座っているとそうでもなかったが、彼が立ち上がると大気圏をも越えてしまった。『月が二つ現れる』新聞の大見出しには、彼を称える文句が踊った。#twnovel