眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

喫煙カフェ

2010-07-31 21:33:31 | ショートピース
ドーナツ盤の真ん中にはあらゆる意味を吸収する謎の植物が置いてあり、僕はひとり地球会議をしている。「誰か議題のあるものは?」意見は誰からも出なかった。静寂を破るものはカチカチという一つではない無数の音、やがてドーナツを取り囲む勢力、黒く広がる煙に僕は包まれた。 #twnovel

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恩と義理の鳥

2010-07-30 20:11:29 | ショートピース
絶対に振り返ってはいけないと恩のある鳥が言ったのだけれど、ずっと気になって仕方がなかったのだ。1枚2枚3枚4枚……と数える義理のある鳥の声に少しだけならいいかとも思いつい振り返ってしまった時、飛んでいったのは札束の方だった。鳥は「あっ」と小さな声を漏らした。 #twnovel

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魔法の言葉

2010-07-29 13:42:55 | ショートピース
魔女のように老婆が入ってきた。何も言わない。沈黙は時に誤解を生んでしまう。悪意や憎悪を持っているように思えてしまう。時には、死んだことにされてしまう。新聞を取って戻ってくると彼女は誰にともなく、「よいしょっ」と言葉を発した。一瞬にして、警戒心が解けてしまう。 #twnovel   

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おかわり

2010-07-28 19:45:27 | ショートピース
「話は変わるけど」と工場長は話し始める。それは例えば一年前、工場長とした話が今変わったということだ。一年も経てば普通話は変わっているので普通の人はわざわざ触れないのだけれど、工場長は礼を尽くして触れるのだ。お昼休み、食堂に入るなり工場長はおかわりを注文した。 #twnovel

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神様バイキング

2010-07-27 15:07:57 | ショートピース
喧嘩にならないのとパトリックさん。「なくなったら店員さんが補充してくれるからなくなることはないから大丈夫。好きなものを好きなだけ載せていいんですよ。あれもこれも好きに取っていいんですよ」わー、あふれてしまうねとパトリックさん。「これがニッポンの食卓ですよ」 #twnovel

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マヨマニア

2010-07-27 14:35:29 | 短歌/折句/あいうえお作文
漫才の
妖精たちが
舞い降りた
西日のまちで
悪女が笑う

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心構え

2010-07-27 14:00:41 | ショートピース
少し構えた門構えの少し構えたウェイターがいる喫茶店で少しゆっくりとお茶を飲もう。たくさんの面接に応募して返事の電話を待ちわびて、採用が決まる度にいちいち断ろう。もしも宝くじが当たったら。そう思いながら私は行列のできる売り場へ並び、豚まんを買ったのだった。 #twnovel

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冷たい手

2010-07-27 13:39:30 | ショートピース
かりかり。海苔がかりかり。米がかりかり。明太子までもかりかりとして、冷たい。私はただ守って欲しかっただけ。蟻達がやってきて包装紙の中に進入し、黒い海苔と同化してしまう悪夢から。けれども、冷蔵庫は思っているよりも遥かに冷たかった。守りながらも、壊してしまった。 #twnovel


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ご案内します

2010-07-14 15:48:41 | 猫を探しています
 猫の案内本を求めると、店員は「こちらへどうぞ」と言いながら、ものすごい速さで動き出した。駆け足でついていくが、店員は振り返りもせずむしろ追っ手を振り切ろうとするかのように、更に加速していく。あちらへ曲がりこちらへ曲がりするのを必死でついて行くには、もはや全力で走らなければならないのだった。「こちらへどうぞ」けれども、その声は後ろに向かって言うようではなく、遠い先の未来の自分に投げかけているように響く。急に方向転換したところで、僕は思わず滑ってしまい、ついに致命的な遅れを取ってしまった。「こちらへどうぞ」と言う声が、遥か向こうで聞こえる。すっかり僕は離されている。もうすぐ周回遅れのランナーとなって、次々と若い足並みに抜かれていくのだ。けれども、これは一体何のレースなのだろうか……。

 ぼろや食堂の前では子供たちが、次々とシャボン玉をふくらませて遊んでいた。たくさん作ってジャグリングしたり、とびきり大きなシャボン玉を作って中にすっぽり納まったり、どちらのシャボン玉が強いかといって戦わせたりして遊んでいた。その内に1つのシャボン玉が間違って、小さな手を離れて高く舞い上がってしまう。気流に乗ったように浮かれて、誰の手にも届かないところに行ってしまう。僕はそれと手を伸ばしてみたけれど、やっぱりダメだった。
「取って、取って、取ってきて」と女の子が見上げるので、僕はぼろや食堂の壁をよじ登って屋根に上がらなければならなかった。屋根の上には、あの日の店員がいて僕は胸の中で叫び、それから冷静な声を作って言った。
「どうして?」
 案内本はどうなったのかと僕は問うた。けれども、女は、もう店員ではないのだと言う。
「私はもうやめたんです」
「どうして?」
「案内することに、疲れてしまったの。いつもいつもお客様のために案内している内に、気がつくと自分が迷子になってしまったの。あの時は、ちょうどそれを決めようとしていた時でした。ごめんなさい」
「それであの時、あんなに速かったのですね」
 シャボン玉を抱きながら、僕は頷いてみせた。
「尋常ではないと思いましたよ」
 彼女も少し微笑んでみせた。
「おーい! 行くぞ!」僕は巨大なシャボン玉を下で待ちわびている少女に手放した。それは惑星に恋焦がれる生命の欠片のように空から少女の手へと、思い出の気流に乗って降下を始めた。
「猫は……」
 答える代わりに、僕は首をただ振った。
「私は思います」
 彼女は、屋根の下の子供たちにも届くような声で言った。
「すべての言葉に、アンテナを張り巡らせておけば、きっとそれは見つかると思うのです。だって、私たちの世界は言葉でできているのだから」
 そう言って少し照れくさそうに彼女は笑った。笑顔の向こうにすっかり折れ曲がったぼろや食堂の細い鉄屑が、日に当たって光るのが見えた。


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