眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

遠くへ

2013-10-30 08:51:30 | 夢追い
 ボタンはAとB。どちらがジャンプでどちらが攻撃か、まずは自分で決めて設定しなければならない。コントローラーを分け合った僕らはどちらがどちらの主人公を操るかが理解できておらず、とても下手だ。だからみんなに笑われてしまう。谷底に落ちないように必死でジャンプするが、その動作は上級者が操る安定感のある跳躍と違って、どこか滑稽に見える。困った時にはジャンプ。
 ジャンプ! ジャンプ!
 ジャンプは地を蹴って飛ぶものだ。けれども、困った時にはそんな理屈は通らない。とにかく、
 ジャーンプ! ジャーンプ! するのだ。
 強く念じれば、水の上でも、風の中でも、まるで足がかりがない場所からだって、ジャンプすることができた。ジャンプ、ジャンプ、生き抜くためには、とにかく、
 ジャーンプ! ジャーンプ! して粘っているとついに地面が現れる。ようやく地に足を着けると、呼吸が少し楽になる。
 泡、風船、突起のないぼんやりしたものが漂ってくるが、それらは当たったところで死にはしない。それらは殺傷力を持たない存在だから、背景にある壁や風景にすぎない。自分の倍以上もある風船だって、なんてことない。
 突然、前方から邪悪な存在が姿を見せる。口を開けて、邪悪な煙を吐き出すとそれはゆっくりとこちらに向かって漂ってくる。単なる煙だが、出所が邪悪なだけそれは殺傷力を持っている。
 ジャンプ! ジャンプ!
「もう燃料切れだよ」
 上級者が言うには、もはやジャンプの燃料が底をついたと言う。
「しゃがめ!」
 姿勢を低くして邪悪な煙を避けようとするが、どうしても主人公は動かない。別売りのコントローラーがないからだ。とうとう邪悪な煙に突き飛ばれて、主人公は死んでしまった。

 主人公が死んだので、新しい主人公を招いて上映会が始まった。けれども、友達のお兄さんが電気シェーバーを持ち出して、顎を剃り始めたので、音声が聞こえなくなってしまった。
「おい! おい!」
 声を上げて誰かが文句を言った。
「台詞が聞こえないよ!」
 その声さえも、爆音の中に呑み込まれてしまう。



 おばあさんは、箱にぎっしりと詰まった箱入りほうれん草をくれる。
「ちゃんと早起きした人に配るんだよ」
 早起きは偉いので、それだけでプレゼントを受け取ることができる。
「またおいで」
 早起きして褒められる上に、ほうれん草もくれるので、僕は大きなしあわせを感じる。またくるとも。必ずくるぞ。僕はおばあさんのおかげで、早起き人間になることができるだろう。ここまでの道筋を忘れないように、注意深く周りの風景を観察して、記憶する。ここに信用金庫、向こうには整骨院、その先にはセブンイレブン、曲がり角には古本屋……。
 狭い壁と壁の間をすり抜けなければならない。箱を傾けなければならず、あふれるほうれん草が零れないように輪ゴムで束ねる。縦方向に束ねると、流石に耐えられずに切れてしまった。今度は逆にして、束ねる。
 壁を抜けると海の匂いがした。



 冷やすべきかどうか瓶を回して隅々を見た。冷暗所に保存。冷暗所? それは行ったことのない場所だった。わからないのでみんなの意見を聞いてみることにする。
「冷やしたらいける!」
 普通だとそうでもなかったが、冷やすと……というコメントを見つけて、冷蔵庫に入れることを決意すると猫が下りてきた。
 ピンクのまだら猫、小さな瞳がきらきらと輝いている。
「どこから来たの?」
 猫を撫でながら、訊いた。
「いつ来たの?」
 答を待たずに次々と質問を浴びせた。僕の声が弾むのとは逆に、母は沈んでいくようだった。何も答えようとしない。
「お前かわいいな」
 今度は猫に向かって話すと猫はそれに気づいたように小さな顔を僕の顔に近づけた。返事をするように、口を開けて声を出した。
「日本語ってどうやって話すの?」
 あっ。
「何か、人みたいなこと話すよ」
 こっちが話すからかな。 
 何か語ろうとして、母は場を離れた。

 遠くへ……。

 失われたものたちのことを思い出したのだ。
 ガラン。何もなさすぎる、床々。
 この子がかわいければかわいいほど、あの猫のことが思い出される。
 見失わない内に、追いかける。
「わかるよ」
 母は何もない世界の端っこにいた。
「部屋が広すぎるんでしょ」
 色あせた柱には、無数の引っ搔き傷がついている。

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ごちそうさん

2013-10-23 18:52:59 | ショートピース
「どうも食感が違うぞ」食通の舌がニュアンスの違いを感知すると、迷わず鍋の中に手を突っ込んだ。「これはニシキヘビじゃないか!」偽りの九条葱が頭を出して暴れたことで真実が明るみに出た。「だます意図はなかった」蛇の皮を持参すれば返金に応じると火星出身の店長は胸を張った。#twnovel

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螺旋坂

2013-10-22 22:02:25 | 夢追い
 少し遅れながら後を歩いてくる女が、いつの間にか距離を詰めていた。
「前に会ったことが……」
 すぐ後ろで声がする。螺旋坂を上る途中で、立ち止まり、振り返って彼女の顔を見た。見覚えはない。
「ないよ」
 否定して女が同意するまで待ってみた。女はまだ納得せずに、じっとこちらを見つめている。
「話した?」
「話したことはないけど」
 だったら覚えてなくても当然だ。話したこともないのにどうして話しかけてくるのだろう。
「やっぱり会ってなかったかも」
 女は急に言葉を翻してきた。
「それなら会ったことがあるかも」
 今度は僕の方が寝返った。
「会ってはないみたい」
「いや話したことがないのだから、気づかない内に会っているかもしれない。偶然、駅で、公園で、カフェで、交差点で、道で、会っていて覚えてないだけで、既に会っていたのかもしれないよ。でも、それは会ったって言うのかな? ねえ」
「会ったって言っているのは、今はあなたの方よ」
「そうか。立場が逆転していたのか」
「もう足が痛くなっちゃった」
 坂に上がるにはふさわしくない靴を履いているからだ。片足を持ち上げながら、僕は自慢の靴を見せた。
「父が履いていた靴だよ。でも、ほとんど新品なんだ」
「山にでも登れそうね」
 植物を尋ねて父は山道を歩いた。写真に収めて、ちょっとした言葉を添えて見知らぬ人に向けて発信することもあった。けれども、決して登山家ではない。
「ねえ、今から墓参りに行くんだけど」
 今日はやめておくと彼女は言った。
「会って話すのは今日が初めてだし、お父さんに会うのは少し早いと思うの」

 道端で摘み取った野草を墓の上から撒いた。強い風に煽られてほとんどそれは一瞬で舞い上がって父の根元から逃げていった。野草は野に帰るべし。酒でも持ってくればよかったけれど、予定外にやってきたのでそんな気を回す術もないのだった。丘の上の墓場には僕以外に誰もいない。今は墓参りシーズンではないのだ。絶好の行楽日和に僕はハンカチを買って電車に乗った。その時、本当はキャラメルを買えばよかったのに。眠り続ける父に背を向けて、窓の外を見た。雲を越えてやってきた鴉が、屋上の片隅に降りて日向ぼっこをしていた。

お父さん、元気ですか?
僕はお父さんの心配よりも、自分のことでいっぱいです
これからどこへ向かうべきでしょうか?
何か言ってください。
何でもいいんです。ほんの少しのヒントになれば。
 父は、黙って固まっていた。耳を澄ませば聴こえてくるのは風の音だけだった。けれども、しばらくすると風に交じって高い笛の音が聴こえてくるのだった。

 レフェリーの笛が僕をピッチに呼び寄せた。ゴールが決まると味方たちが集まってバンザイをしたりハイタッチを交わしたりしている。そんなの時間の無駄だよ。早くしようよ。時間がもったいないよ。けれども、自分がゴールを決めた時になってみると、逆にみんなに祝福してほしかった。もう始めるのかよ。もっと祝おうよ。ゆっくりしようよ。もっと余韻に浸ろうよ。時間はたっぷりあるだろうに。ピッチの中に外にあふれるほどいた人々も、徐々に減っていって、気がつくとみんないなくなってしまう。
「ここは昼休みがあるの?」
「自然といなくなっただけだよ」
 とモンちゃんは答える。自然にいなくなるなんて不自然じゃないか、不条理じゃないか。
「そして、夕方になるとまた自然と集まってくるんだ」
 モンちゃんもここを離れる準備を始めていた。
「モンちゃんはどこへ?」
「人のいるところを探して」
 そう言うとモンちゃんは車に乗り込んでハンドルを握った。どうやら僕は一緒ではないようだ。

 モンちゃんの車が走り出すと同時に、僕も助走を取って上空に舞い上がった。地上の街並みがあっという間に組み立て前のプラモデルのように見え始めた。どこへ行こうか、どこへでも行けるぞ。僕は1人……。と思った瞬間、誰かが足にしがみついていることに気がついた。気がつくと急に体が重々しく感じ始めた。男は浮遊する僕の足にしがみつきながら、どこかに電話をかけていた。
「ずっとつきまとわれているんだ。助けてください」
 なに? おまえが勝手につきまとっているんじゃないか。離れろ! 早く離れろ!
「ひーっ! 助けてー」
 勢いをつけて足を振ると、男はたまらず手を放して落下した。

 螺旋坂の途中で、ネクタイが散乱しているのを見つけてその1つを手に取った。青のネクタイ。それはあの男が身につけていたものだった。他にも黒のネクタイ、白のネクタイ、緑のネクタイ、灰色のネクタイ、桃色のネクタイ、茶色のネクタイ、水色のネクタイ、水玉のネクタイなどが落ちていた。
「それ、」
 どこからともなく現れた警官が、僕の手にしたネクタイを見てそれだと指摘した。
「他にもありますよ」
 僕は他のネクタイについても警官に証言しようとした。
「それでいい」
 警官は他の色のネクタイには興味を示さず、一緒に来るように求めた。どうしようもない疑いが、僕にかけられているのを感じた。
「つきまとっていたのか?」
「そうじゃない!」
 根も葉もないことだと僕は言った。けれども、僕はしがみつかれたという事実を話すことができなかった。経緯はどうであれ、全部話してしまうと急に雲行きが怪しくなってしまう。あの空で、間違えてしまったのかもしれない。
「つきまとっていたのか?」
 警官はコピーされた言葉を何度も繰り返した。不条理なループを抜け出す方法はただ1つ、僕が答を変えることだ。
「そうじゃない!」
「つきまとっていたのか?」
 次第に疲れて僕の答は小さくなっていった。そして、ついには黙り込むようになった。黙れば誰にも負けない。父よりも長く、僕は黙ってみせる。

 3日目の夜、男が出頭してきた。
 男は「空飛ぶ男を殺した」と自供した。
 助かった! 僕は殺されたのだ! これで完全に疑いが晴れたぞ。
 
 自由になると僕は目立たないように用心して歩き始めた。
 空を飛ばなくても、十分に自由であることがうれしかった。
「どこへ行こうか?」
 僕は訊ねた。
「どこへでも行けるぞ!」
 僕は答えた。

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ヒーローショーのブルー

2013-10-21 23:14:33 | ショートピース
最初に登場した熊のような生き物が踊ったり歌ったりする度に、みんなは手拍子をして盛り上がったけれど、僕はじっと固まっていた。仲間の獣が加わり校長先生のようなジョークを言って爆笑を誘ったけれど、僕は時計を見つめていた。終演時刻が迫る中、任三郎さんは未だに現れなかった。#twnovel

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雲の遺言

2013-10-17 22:30:20 | 夢追い
「姉ちゃんの代わりに歌を作りなさい」
 と母が言って、僕は追い立てられるようにして屋根の上に上がることになった。どうしてかというと、姉には大事な子育ての仕事があるからで、僕にはそれ以上にもそれ以外にも何も仕事がないからだった。ここのところの雨降り続きで靴はまだ2足とも濡れていて、どこにも行く当てがなかったので、ちょうどよいと言えばちょうどよかったが、屋根の上から見えるものといえば、変わり映えのしない雲ばかりで、どこから歌を作り出せばいいというのか。変わり映えしない、白い雲が、強烈な個性を持って流れていった頃ならば、歌は考えるよりも早く、もくもくと浮かんできて、すぐにメロディーにも乗ったかもしれないけれど、今遠く頭上にある雲は、ただ雨をじっと蓄えながら、まるで動こうともしないのだ。姉に比べて、力のない僕が屋根の上にいる間だけ、どうか、雨の代わりに、歌の雫を落としてはくれないか。あなたたちに交じって浮いても、遥かに僕は真っ白だ。

疲れちゃったよ
幻たちに囲まれて
何を持っても荷が重い

 電話を取ると男は聞いたこともない名前を堂々と名乗った。
「どういうことだ?」
 男はいたずら電話の抗議のための留守電話だと主張した。話がよくわからないので、リモコンを取ってテレビのボリュームを下げたが、下げても下げても音は小さくならない。ウイルスに感染しているのだ。
「ウイルス電話だ」
「それなら仕方がない」
 と言って男は謝った。

疲れちゃったよ 疲れちゃったよ

 姉は畑で子育てに励んでいる。車庫に車があるところをみると、兄はまだ眠っているようだった。
 居間に戻ると亡くなった父が座布団の上に座っていた。
「寿司はまだか?」
「帰ったんじゃない?」
 家に誰もいないと思って帰ったのかもしれない。いないと帰る式の寿司じゃないかと僕は言った。父は、納得がいかない様子であぐらをかいていた。湯飲みから立ち上がる湯気の直線が、父の額を貫いて抜けていく。
「もういいって」
 死んだ後に気を遣わなくても。
「何か教わってないことはないかな?」
 突然言われても、思い当たる節がなかった。父の周りに誰も集まってくる者もなく、僕は耐え切れなくなって、屋根の上に上がった。

 雲はすっかり小魚のように小さくなって、家路を急ぐように激しく空を走っていた。あの悠然と構えていた大きな雲たちが、それぞれに分裂して姿を変えたのか。あるいは、すこし僕が留守にした間に、空の中で急速な世代交代が起こったのだろうか。けれども、白い魚たちは、自分の家にたどり着くことができず、互いにぶつかり、交わり、離れたり、近づいたりしながら、壮大な迷子を演じているようだった。

疲れちゃったよ 疲れちゃったよ
親しいものは 遠く遠く

迷える雲が吐き出すものは
夕焼けよりも苦い薬

打ちのめされて何日眠れば
新しい私は訪れるだろう

「寿司が来たぞ!」
 ついに寿司が来たと父はうれしそうに財布から万札を出して駆けて行った。
「大きいのしかないんだが」
 寿司屋は少し困った様子で万札を受け取ると腰につけた鞄から釣銭を取り出して数え始めた。1枚、2枚、と数えたところで千円札が500円札に変化した。するとそこからは次々と500円札が連なった。
「あれっ?」
 寿司屋は札を数える手を止めた。
「お恥ずかしい」
 うまくお釣りが返せずに、詫びた。気を取り直すと再び千円札を探して紙をめくっていく。ちゃんと持ってきたはずなんだが。今度は札の下から、透明なビニール袋が出てきた。中にはザリガニが入っている。
 動いている!
 汚い!
 中に小さな蝿が入っているではないか。
「動いた!」
 蝿が動いた、と父が言った。小さな動きも、父は見逃さなかった。
「教えてないことがあったな」

 父のテントを狙って刺客たちが送り込まれた。しかし、たどり着いた時には既に父はその場にはいなかったのだ。
「何をしている! 俺はまだ風上にいるぞ!」
 刺客たちをあざ笑うかのように、風に乗って父の声が響く。父がいないと知れると一団に激しい動揺が広がった。平地に下りているかと思った父が、まさか風上にいるとは。敵が恐怖に足を取られている間に、父は軽やかに山を駆け上がった。ようやく追っ手が組織され、道を上り始めた頃には、大地はすっかり髭を生やしていて、次々と追っ手の足を滑らせた。父の仕掛けた巧妙な罠だった。刺客たちは電気シェーバーを道に這わせながら、慎重に道を上がらなければならなかった。そして、そのために使われた体力と風上にいるという父への恐れから、既に勝負は決していたようなものだった。巧妙に髭づけされた一本道に誘い込むと、次々と敵を斬り倒していった。
「さあ、これを受け取れ!」

 父から譲り受けた箱の中のケーキは、すっかり形が壊れていた。最初から壊れていたのか、投げた時に壊れたのかはわからない。欠けたチョコや、部品を手にして、フードコートの中で再生を試みる。靴べらはどうも関係なさそうなので捨てることにした。他にも壁に刺すような部品があったが、壁に刺したとしても、その後がさっぱりわからないので、捨てた。他にも、大事そうに見えても、どうしてもよくわからない部品があるので、捨てる。
 歩いているといつの間にか資料館の中に入っていた。その中は、有料だったのに。突然、昔ここに来たことがあるという記憶が蘇って、後戻りした。既に少し入ってしまったという罪悪感を引きずりながら歩いていると動物広場に来ていた。猛獣の気配を背中に感じて振り返ると、猛獣と目が合った。
(お腹空いたよ)
 僕は命を大事に思い、組み立て途中のケーキを置いていくことにした。
(これで助けてね)
 蓋を取って、そっと地面に置いた。獣の目は、まだこちらに向いたままだ。
「ほら、ケーキだよ」

疲れちゃったよ
幻たちに囲まれて
どこに行っても気が遠い

 雲が歌に変わることを願いながら待っていた。すっかり夜になったというのに、周りは明るいままだった。夜になったから、むしろ明るくなったようでもあった。
 1つ気づいたのは、屋根が厚紙でできているということ。2つの大きな厚紙が、載せてあるだけなのだった。その1つが少しずれていることを見つけて、手で押し動かしてみると中の様子が筒抜けだった。
 家族みんなでテーブルを囲み、寿司をつまんでいる。
 どうやら僕の分まではなさそうだ。宿題を早く片付けなければ……。

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言葉の窓

2013-10-15 16:22:30 | ショートピース
中に入りたいという意志がコツコツと執拗に叩き続けている。微笑をみせ受け入れてしまえばどれだけ楽かわからなかったが、意志に屈してしまえば良心はもう戻ってはこないのだ。長い夜を越えることによって闘いは終わりを告げた。そう思って窓を開くと「言葉」は黙って入り込んできた。#twnovel

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規約違反

2013-10-11 13:30:16 | 夢追い
 趣向を凝らした種々の付録に惹かれて、雑誌を手に取ってみる。どれもこれも、それなりに引きつけられるキーワードや話題性を持っているが、それらは本当に今の自分に必要なものだろうか。立ち並んでいるという姿勢によって、この時ばかり輝いて見えているだけではないか。家に持ち帰った雑誌を、ここ数年の間に開いたという記憶はない。好奇心は、家に帰るまでに溶け尽きてしまう。雑誌は買わないぞ!
「そうだ、そうだ!」
 見知らぬ隣人が激しく同意したので、店を出てからしばらく肩を組んで歩いた。ぽつぽつと落ちた雨が、大地に寡黙なヒョウを創造したが、しばらくしてヒョウは干からびてしまった。私はこちらですので、と隣人が言って去った。

 街角のチェスウィンドウで足を止めて、チェスを観戦していると背後から声がした。
「おい、君。最近来なくなったけど、どうしたんだ?」
「やめたんです」
「おい、君。変なタイミングで来なくなったな」
 一緒に来ていたもう1人の会員の男が言った。タイミングが悪いことが不評で、それが元で会員の間で大きな問題が持ち上がっていると言う。
「規約によると」
 男は規約を開いて見せた。対局料月3万円(前納制。途中下車不可)。
「対局してなくても払うのですか?」
「更に詳しい規約によると……」
 そうしてまた男は別の規約を広げる。
 3行目から、字がかすれてよく見えなかった。対局料?
「しっかりしていただかないと」
 読解不可能な規約を、押し返しながら言った。男は規約を受け取らず、首を傾けている。
「わけのわからないお金は払えませんよ!」
 もう1度、念を押して言った。

「どうしてやめたのですか?」
 突然、別の会員が口を挟んだ。
「他に夢中になることがあったからです」
「それはない!」
 男は言葉を被せるように言い切った。あなた何なんですか。あなたは僕なんですか。
「絶対にないね」
 更に念を押すように、言った。あなた何者なんですか。僕なんですか。
「私はあなたを知っているんだから」
 何も反論する気にもならず、僕はビショップのようにその場を離れた。

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旅立ちを夢見て (やまとなでしこ)

2013-10-10 07:13:09 | アクロスティック・メルヘン
山田氏をはじめとして
また芸能人が遊びにきて
トーストを焼いたり
ナムルを作ったり
テーブルの上を占領して
私的なパーティーを開いたり
こっそりとベッドに入ったりするのでした

やや待てよ
まただまされるところだった
と私はここで冷静さを取り戻します
なんてことはないんだ
てっきりベッドを使われたと思ったけれど
真相は今も深いベッドの中で
こもっているのは私なのです

約束はありませんでした
まどろみに甘えていると
突然激しい雨音が聞こえてきました
なんてことでしょうか
天が裂けんばかりの激しさは
しとしと降るのとはまるで正反対
これでは出かけるなんてとても無理

やや驚いた
まさかこんな風になるなんて
突然にこんな風になるなんて
ナムルは幻で
テーブルの上はまっさらでも
しばし芸能人に足止めされていたのは
幸運だったのかもしれない

やや待てよ
まただまされるところだった
と私はここで正気を取り戻します
なんてことはないんだ
天は笑いも泣きもしていない
真相は今も深いベッドの中で
こもっているのは私なのです

八つばかりの服の中から
迷いに迷っている間に
時はどんどん過ぎていき
夏が過ぎて秋が暮れて
手袋がとても恋しくなるような
白い雪の中で
コーンが

八つほど弾けて
マグカップの中に
溶け込んでゆく
なめらかなクリームと
照れながら交じり合ってゆく
シナモンとアーモンドの甘い罠が
呼吸を奪うように

優しく満ちた頃に
待ちくたびれて
友達が迎えにやってくる
「長袖でいいかな」
手先まですっかり伸びるような
七分袖よりもしっかり伸びるような
コンセプトの

やや待てよ
まただまされるところだった
友達なんて来ないんじゃないか!
なんてことはないんだ
手袋の先は無数にわかれていて
真相は今も深いベッドの中で
こもっているのは私なのです

安売りセールが始まったので
街に繰り出したのは
飛ぶ鳥を落とす勢いで
何かが勝ち星を重ねてカップを
手にしたおかげだよ
祝福に浮かれてすっかり
この街もおかしくなってしまったね

宿がいっぱいだったから
満室でいっぱいだったから
泊まるところもなくなってしまって
情けない話だけど
手持ちももう残り僅かだったし
仕方がないかというわけで
ここに来たんだけれどね

やっぱり悪いかな
まだあいつはいるの
隣の奴はいるの
何やってるのあいつ
鉄火巻きかあいつ
仕事してないの
ここに来て大丈夫だった?

安いというだけあって
まともな
扉も襖もなく
生八橋の皮よりも薄い
適当に用意されたカーテン一枚で
仕切られた場所
ここが私のすみか

やや待てよ
まだ出かけていなかったのだな
扉はしっかりと閉じているし
何も怖がることはなければ
天敵はどこからも入り込んではこない
真相は今も深いベッドの中で
こもっているのは私なのです

やがて訪れる旅立ちを夢見ながら
まだ私は眠っているのです
とてつもなく長い夢でした
名前をつければそれは『一生の夢』
手にすることは一度もなく
真相は今も深いベッドの中で
こもっているのは私なのです

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磯辺揚げ

2013-10-09 07:33:21 | 短歌/折句/あいうえお作文
いにしえの
ソラシドたちは
弁当の
あじをめぐって
激闘をする

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ブラック・ゲスト

2013-10-08 21:26:16 | ショートピース
答のない1日の終わりに現れた小さな友人が「そろそろ掃除くらいしたら?」と言う声にも無視を決め込んでいたのは、自分自身との対話に疲れ切っていたせいだ。「私は誰だ? ここはどこ? これからどうするの? 私が現れたことの意味は?」虫の繰り出す謎々の中で夜は更けていった。#twnovel

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月曜日のクジラ

2013-10-07 19:18:01 | 気ままなキーボード
 久しぶりだから今日は検査もしますと言われて椅子に座った。
「無理に答えなくていいですからね」
 いや、僕は答えるんだ!
右! 左! 上! 下!
 下へ下へと目標が下がっていく。上! 右! 右! 下!
 僕は少しも考えない。考えるよりも早く、答える。
上! 右! 下! 左!
 少しも迷わない。迷う自分は弱い自分。
 向こうが先に棒を下ろすまで、僕は黙らない。僕は全部わかっているんだ。こんなテストくらい、僕には簡単すぎるんだぞ。これから先の相手はもっと強くなっていくんだから、こんなところで負けているわけにはいかないんだぞ。
上! 上! 上! 上! 上!
「まあ、悪くはないね」とだけ女は答える。何か物足りないテスト。


 バス停の前をちょうど通り過ぎる時、AC/DC越しに「すみません」という声が聞こえたのでイヤホンを外し足を止めた。
「今日は何曜日ですか?」
「月曜日です」
 僕は即答した。最後の夏に入る前の父がしたように「どうしてだ?」と食い下がってくるのではとひやひやしていた。
「おかしいな」
 おじいさんは平日の時刻表に顔を近づけて、もう行ったのかなと首をひねった。43分。今より2分前の時間だった。
「今、来たところですか?」
「今、来たところです」
 時刻通りに運行したとすればバスは2分前に行ったところだ。けれども、老人は今、来たところではない。今、来たのは僕の方で、そうでなければ僕が老人と一緒に歩いてきて一緒に立ち止まったことになり、立ち止まると同時に老人は時刻表を見ながら質問を繰り出したことになる。そのように機敏な者が、バスに乗り遅れるだろうか。いやそうではない。老人は2分前には既にバス停に着いていた。そして、2分間バスがやってくるのを待っていたが、いつまでもやってこないところに、僕がやってきたのだ。
「どうでしょうね……」
 僕が知っているのは、今日が月曜日だということだけだ。
 ん?
 突然、小魚たちが集まる信号の向こうに大きなクジラの姿が浮き上がって見えた。
 今、まさにこちらに近づきつつある、きっとあれがそうに違いない。
「よかったですね」
 最後にそう言っておじいさんと別れた。

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コーラの銃

2013-10-03 20:21:55 | 夢追い
 前から2番目の左端の席に座っていた。突然、前の席の男が振り返って、僕の顔をまじまじと見ると、顔の成り立ちと食事の関係について主観的な意見を述べた。僕は真面目に黙読に集中していたので、彼の言葉を完全に無視した。それでも、彼は話を更に続け、僕が無視を続けるので代わりに僕の隣に座っていた男が相槌を打った。せっかく無視を続けていたのに……。
「味が濃いのかもね」
 その相槌のせいで、男の意見が本の内容よりも深く残ってしまった。授業が終わって、周りの人が順に席を立っても僕はまだその場に居座っていた。遠くの方では、まだゆっくりしている者もいる。誰かが、自分の顔を見ているような気がして顔が熱くなり、その熱気を冷ますまではどこにも行くつもりになれなかった。天気がよいということもあって、休み時間の中庭は人であふれていた。髪の長い女の子の顔を、じっと見続けた。もう長いこと、1年も2年も切っていない様子だ。長い髪が顔全体にかかって、口元以外を黒く包み隠している。光を浴びる人の間を縫って、彼女は器用に逃げ回った。銅像の前で立ち止まって急激に向きを変える瞬間、長い髪が舞い上がって、鋭い眼光が明らかになった。僕は視線を逸らして、銃を手にして駆け回る男の子の顔を見た。コーラの銃を手にして、その顔は獲物を探して輝いていた。窓の内側にいて、僕だけは安全だったし、逃げ惑う代わりに見つめていることもできた。けれども、そうしている間に遠くの席にいた人もすっかりいなくなって、陽の入らない教室の中は随分と寒々としてきた。怯えるあまり、男の子は砂埃を上げながら転び、靴が脱げてしまった。ハンターは激しく加速していたため、それを見過ごした。あるいは、気づいたとしても足を止めずに予定のルートに対して忠実だった。徐々にハンター仲間を増やしながら勢力を伸ばし、一通り中庭を制すると突如窓を開けて教室の中に踏み込んできた。コーラの銃が僕を取り囲む。愚か者たちめ。そんなことをして何になるというのだ。
「僕は見物していただけだぞ!」
 人違いだと主張しながら、教室を飛び出した。

 教室に戻るとそこにいたのは僕の知らない人たちばかりだということが気配でわかった。光を遮るためにカーテンが引かれ、スクリーンに不思議体験アンビリバーのタイトルが映し出され、室内の明かりが落とされる。
「ちょっと待って!」
 闇が下りる前に、自分の席を探し終えると机の中に手を伸ばし入れた。
「ちょっとごめんよ」
 まだ自分の次にすべきことが何かわからなかった。
「きみたち何年?」
「2年」
 授業の始まりを遅らせる僕を非難する者はいなかった。僕は歓迎されてはいないけれど、拒絶されてもいないのだ。
「僕の次の授業は何だろう?」
 誰も口を開くものはいない。質問が難しすぎたのだろう。もっとやさしくしなければ。
「これだと思う人?」
 誰かが残していった手ががりを、偶然つかんだ子がいるかもしれない。
「因みにこの前は社会でした」
「なら……」
 カーテンの縁にいた男の子が、何かをつかんだように言った。
「体育かも」
 天気と消去法と雑音……。それらによって、もしかしたら。
 僕は教科書を持たずに、教室を飛び出した。

 彼の推理は奇跡的に的中していた。先生が入り口の前でカウントダウンをしている。ぎりぎりで滑り込んでくる者たちを手荒い仕草で迎え入れる。着替えをする分だけ、僕はどうしても間に合わない。どうせ間に合わないから、慌てずにゆっくりと着替える。
「腰の位置が合わない場合は、履き替えてもらうからね」
 着替える傍で誰かが話しかけてくる。誰だ、こいつ。副担任か、教頭か
 靴紐をしっかり結んで体育館に入ると、実際先生は1人1人に対して熱心に腰の位置をチェックしている。
 馬鹿馬鹿しい。
「時間の無駄だ!」
 遅れてやってきた僕だから、思い切りそう叫ぶことができると思った。けれども、叫んでいる割に声は全く出ていないのだった。
 大真面目な顔をして、物差しを腰に当てる先生の横顔からコーラの泡が弾け出ている。
 物差しの使い方って、そんなだったかな……。
「PTAに言うぞ!」
 舌が回らない。
「P !  T !  A !」
 舌が回らない。
 どうしても、回らない。

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アホウの贈り物

2013-10-01 12:46:11 | ショートピース
「あなたが国民から選ばれました」と寝耳に水の声。「早速100万円の登録料をお願いします」引換えにすぐ議員バッジを届けると言い放つ電話の男。「議員になればすぐに回収できますよ。税金でね」悪くない話に乗って、私は銀行へと向かった。私を選ぶなんて、どこのアホウだろうか。#twnovel

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