眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

消え去った後に

2022-12-31 23:19:00 | 新・小説指導
効率よく作りたかったら他に作るものはありますよ
小説を書くことはほとんど非生産的なもんや
書くことの半分以上は捨てることや

考えたこと、浮かんだこと、悩んだこと
ほとんどは実を結びません
書いては消し、書いては消し
みんな消えてばかりや
アホらしいと思わへん? 

出て行ってもええんやで
帰れる内に帰るのが賢いでしょ

捨てて捨てて捨てて捨てることばっかり
そうしてぽつんと残ったものが小説家なんよ
捨てていく覚悟はありますか
テレビを捨て情を捨て地位を捨て恋を捨て……
みんな捨てたら異世界へ旅立つんや

「空っぽは空想の始まりです」

余計なものはいらないのよ
夢は素敵か? 目標は大事?
ほんまにそうやろか
ええですか。思い込みは足を引っ張りますよ
先入観ほど余計なもんはあらへん

夢や目標は変わっていくよ
なぜならば
自身が変わっていくからです
自分は自分と思ってる
僕は僕です?
でも人は絶えず変わっていきます
僕も私もみんな誰でも
私はこうだという目標を立てた私
私は私でなくなっていきます
目標は有効ですか?
疑わしいやろ
なんか怪しい思えへん?

昨日の自分が見た夢は忘れます
昨日の自分が立てた目標は変わります
夢も理想も欲望も幸福も……
みんな同じですよ

「人は同じとこにはおられへんやん」

夢もゴールも変わっていく
そんでええやないの
おぼろげに描くくらいで

それよりももっと
書くとなったら純粋に書くことに集中したらええ
書くことの原点はどこにある?
わからない? 見失った? あらら

読者の前にあるはずや
まずはそれを見つけ作者になることや

読者はどこにいるの?
最初の読者はあんたの中におるんや

あんたは書いて消し、書いて忘れる
忘れた分だけ読まなあかん
作者は誰よりも読者であること

「書くことの半分以上は読むことなんや」

読まずに書けるのは神さまだけですよ
私は神さまですいう人いてますか?
そやね。みんなただの人やねん
覚悟のある者は書いたらええ
そのほとんどは消すことやけどな

アホらしいと思うわへん?
思いながらここにおるんか。あんた偉いな
最初から思うようには書けませんよ
なぜならば……

「最初から思うようにいくことは何もあらへんのやから」

書くことは何も特別なことやない
歌うこと、戦うこと、生きること……
書くこともやっぱりそんな甘いもんやない

それがわかった上で書くことはあるんやろか
書いていく上で見つけたい?
なるほど。見つかったらええね

ええですか
本当に見つけることができるかわからへんよ
見つけ方を見つける前に終わってしまうこともあんのよ
見つけようとするばっかりに見つけ方を見失っていくこともあんのよ
見つけることも見つけられることも大変よ

小説いうもんはみんなかくれんぼや
映像も音楽もない。見つかりにくい形や
どんな小説も世界の片隅から始まるばっかりや
誰がそれを見つけてくれるやろうか
見つかることなく眠り続ける小説がどれだけあるやろか

見つけてほしい?
そうね。見つけてくれたらうれしいね
だったら読者を探さないこと

「読者ばっかり探したらすぐに自分を見失うよ」

見つける前に見失ったら話にならへん
まずは自分を見つけるように
自分自身の中に集中することや

「急がば潜れですよ」

自分の奥へ潜り込んで自分を探すんや
これも容易いことやない
最も見つけにくいものかもわからへん

でもね
自分を見つけることがでかたら世界は変わります
自分を見つけた作者は誰かに探される存在になる
そこで変わることができます
本当の意味での作者になったんや

「見つけなければ見つけられることもない」

それが小説です
見つけたかどうか……
それはずっと後になってからわかります
読者は作者の鏡なのよ
自分が見つからない間は映らへんのよ
遅れてやってくる証人みたいなもんです

覚悟のある人は書きなさい

「スペースはあんねんから」

スペースはあるけど時間はない
だったら前に進まなあかん
後ろにあるのは時間ばっかりや
振り返る時間ないねん

書いて消し、消して書き
どんどん書いていく
それしかないやん
書くと決めたら書いたらええねん
他のもんなんか関係ない

書けば自分に近づける
自分やったら超えていくこともできる
書いた分だけ超えていけるんやないかな
スペースはあんねんから

「自分だけをどこまでも超えていくんや」

書いたとしても消さなあかん
書いても書いても捨てなあかん
そしたらまた空っぽになる
ほんまアホらしいな
何やってんかな
あんたは途方に暮れる
そこがチャンスや
わかります?

「消えたものの後から本当に書くべきものが現れるんや」

それからが本当の始まりよ
できますか
待てますか

挫けずに楽しめますか?

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今日と明日のルーティン

2022-12-31 22:27:00 | ナノノベル
「お急ぎの方、お先にどうぞ!」

「お次の方、ちょっとお待ちください。只今、大急ぎの方がいらっしゃいました。大急ぎの方、お先にどうぞ!」

 この店は行列のできる大繁盛店。私はいつも列の後方に並んでおとなしく順番を待っている。どれだけ早く来て列に並んだところで、必ず自分の番が訪れるとは限らない。なぜなら、世の中には急いでいる人が多すぎるからだ。

「無茶苦茶お急ぎの方、真っ先にどうぞ! 少々お待ち。大至急の方がお見えになりました。大至急の方、お先にどうぞ!」

 私の番はなかなか巡ってこない。この列に大した意味なんかない。ただ少し有り難がって並んでいるようなものだ。
 昨日みた夢の話をしよう。

 私はゴールを決めたはずだが、異議を唱える者がいた。
「ちゃんと両手を使った?」
「使っただろ!」
 ボールを額にくっつけて押しつければゴールだ。ゴールに空間はなく、壁の真ん中がゴールに位置づけられていた。正しく両手を使っていればゴールだが、それが認められなければハンドの反則になるところが難しい。非常にわかりにくいルールだった。センターラインにはネットが張られ、パスは越えられるが、ドリブルする時には外を回らなければならなかった。


「お次の方、少々お待ちください。切羽詰まった方、お先にどうぞ!」

「えーと、あなたは……。多少お急ぎでしたか?」

「いいえ、特に。いつでも構いません」

「かしこまりました。そのままお待ちくださいませ」

 少しはずる賢さを身につけなければ、人の前に出るのは難しいのかもしれない。だけど、ここでそれを出すべきなのだろうか。急いでいないのは本当のことだ。後から来た者に追い越されてばかりの私は、ただの愚か者か。約束のない時間が私の前にどこまでも広がっているようだ。退屈から解き放つためには、自ら妄想の扉を開く以外にはないのだ。
 私はコインランドリーを開く。居心地がよく、誰でも駆け込めるような素敵な場所だ。子供は宿題を解き、猫は気兼ねなく暖を取る。城を追われた武将も、首を切られた落ち武者の幽霊も、平和を求めて駆けてくる。パズルに興じてもいいし、ダンスの振り付けをしてもいい。サラダを作ってもいいし、コーヒーを飲んでいるだけでもいい。勿論、洗濯なんてしなくてもいい。位置づけはコインランドリーだとしても。とにかくウェルカムな場所になればいい。
 夢には続きがあったように思う。
 宅配便を運んできたのはいつもの人だった。
「10箱になりますよ」
 どこか深刻な顔をしていた。若い衆が次々と庭に箱を運んでくる。中身は組み立て式の炬燵だった。真冬だというのに、男たちは全員上半身裸で作業していた。それだけ重労働だということだ。私は外に出て、箱が揃うのを立って見守っていた。自分だけ暖房の効いた部屋の中にいるのは、何かわるい気がしたからだ。風が冷たく、全身で冬を感じた。
「ここに置いてください」


「お次の方、ちょっとお待ちください。駆け込んで来られた方、生き急いでいらっしゃいますね。お先へどうぞ!」

「恐れ入ります。順番が前後します。我先にの方、前にお進みください!」

「わーっ! 俺もう後がないねん!」

「少々お待ち。後がないと言う方、真っ先にどうぞ!」


「恐れ入ります。本日は完売となりました! またのお越しをお待ちしております」

 やっぱり、今日も駄目だったか……。
 いつものように私は立ち尽くしたまま悲しい知らせを聞いた。
 楽しみはまたおあずけとなったが、それはまた明日を生きる理由ともなった。

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窓の女(ダイナミック・ウィンドウ)

2022-12-31 19:42:00 | ナノノベル
「すみません。ラッキーストライクください」
「ごめんよ。うちはうまい棒と消しゴムの店だよ。何味がいい?」
 ランドセルを背負った少年は何も買わずに帰っていった。

「はい、いらっしゃい」
 青年は酷く調子が悪そうだ。
「夕べから熱っぽくて……」
「食前に1錠、朝夕2回2週間分出しとくよお大事に」
 薬を受け取ると青年はせき込みながら帰って行った。

「いらっしゃい」
 次々と客が押し寄せる。この街の窓はここしかないのか。
 女は酷く寒そうで唇が紫がかっていた。
「大根と厚揚げと牛すじください」
「辛子はつけとくかい。ありがとうね」
 客によっては出せぬものはない。

「はい、いらっしゃい」
 窓の前にスーツケースが止まった。
「福岡まで大人1枚お願いします」
「ご旅行ですか。うまい棒共通クーポン付ねお気をつけて」

「いらっしゃい」
 次は帽子の紳士だ。
「ラークマイルド2トン」
「とりあえず今日はこれだけにして」
 紳士は箱を受け取るとすぐに封を開けて窓口で火をつけた。
「明日アマゾンから届きますよ。健康に注意してね」


 昨日は本当に忙しかった。
 今日は誰か来るだろうか。来るかもしれない。来ないかもしれない。すべて間に合っているのかもしれない。忘れられてしまったのかもしれない。
 昨日……。
 あれは本当に昨日のことだったろうか。
 それにしては自分は随分年を取ったとおばあさんは思う。
 人通りの絶えた道から目を離し手元のタブレットをのぞき込んだ。
「火星に生命体発見か」
 ニュースはまだ更新されていない。

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相談将棋 ~純粋に水をさすもの

2022-12-31 15:18:00 | 将棋の時間
 儚い1分をつないで永遠をつくることだってできる。許されるならずっとそうしているのかもしれない。読み耽っている間は歳を取らず、風邪を引くこともない。徐々に棋士の縦揺れが速くなっていく。前のめりとなり勝ち筋を追求しているに違いない。遠目には何もしていないように見えて、実際には壊れるほどに動いている。脳内を占めているのは、玉を中心に存在する世界。そこには蠅1匹として入り込むことはできないのだ。純粋であることはこの上なく心地よく、その世界を見守るものを幸せな気持ちにさせることができるのも、純粋さの力に他ならなかった。

「ちょっとご相談がありますので……」

 玉と玉の間に世界の外から声が割って入った。大駒も小駒も、口を挟むことはままならない。人と駒との世界がはっきりと分断される。




 時が止まる。
 要の金も、駒台の曲者も、自陣をさまよう飛車も、誰も自力で動くことはできない。人間たちの帰りをただじっと待つばかりだった。突然、人が消え去った部屋の中、残された盤上の駒たちは静かに闘志を燃やし続けていた。

「まだまだ夜はこれからよ!」

「負けないよ!」

「少し苦しくなってきたわい……」

「バカ! 弱音を吐くのはどこのどいつだ?」

「まだまだ勝負はこれからよ!」

「我らの後ろには10万の観る将がついているからね!」

「早く天国に行きたいな!」

「そのためには成駒の製造が必要だな。長くなるわい」

「君よと金になれ。君よ成桂になれ。私は馬になろう」

「地下鉄飛車をお待ちの方、しばらくお待ちください」

「少し苦しくなってきたようじゃ……」

「バカ! うちの先生絶対にあきらめたりしないんだから!」

「まだまだこれからよ!」

「夜はこれからよ!」

「本当の勝負がこれから始まるよ!」




「この度、蕎麦屋さんが店を畳むことが決まりまして、それで先生方のご意見を聞いてまわっているところです」

「そうでしたか」

「はい。そこで、こういう時に何ですけど、何かこういう出前があったらいいなとか、具体的にありますでしょうか」

「そうですか。蕎麦屋さんがないと寂しくなります」

「ええ。仰る通りです」

「うどんも選べますし、丼もいいですもんね」

「はい。そこでですが、蕎麦に代わるものとして、具体的に何かこれというものがあったら是非ともお聞かせ願いたい」

「蕎麦以外ですよね」

「あるんですけどね、色々と」

「例えば」

「なかなか切り替えが難しい面がありますよね。時が時ですので」

「仰る通りです。そこはこちらも心苦しいとこですが……」

「ピザとかどうですか」

「ピザですか。ありがとうございます」

「ピザというとパスタとかどうでしょうか」

「なるほど。イタリアンですね。いただいときましょう」

「たこ焼きとか」

「ほー、たこ焼きですか」

「そうするとお好み焼きとか」

「なるほど鉄板ですね」

「全般的に鉄板となると手広い意味はありますね」

「有力です。これもいただきましょう」

「まあざっとそんなところですか。今日のところは」

「ありがとうございます。時計を止めて聞いた価値がありました!」




「全然かえらないじゃないか!」

「千日手になったんじゃない?」

「いつの間に?」

「ふりだしに戻るわけ?」

「そこの君、棋譜をのぞいてごらん」

「ふん、見るまでもない」

「ふふっ」

「メシでも食いにいったんじゃないの?」

「そんな身勝手なことが信じられるか」

「人間なんて気まぐれなもんだろ」

「お前ごときに人間の何がわかるか」

「一番そばで見てたから少しはわかるんだよ」

「だったら俺も」

「錯覚じゃねえの?」

「錯覚はよくない。よく見なさいな」

「食うかどうかは時の気分で決まるんだ」

「それだけか?」

「それだけじゃない。眠るかどうか、歌うかどうか、踊るかどうか、振るかどうか、愛するかどうか、生きるかどうか、そうしたすべてが気分で決まるんだよ」

「そんなバカな!そんなにも気まぐれなものか」

「それが生き物に与えられた最も大きな性能だからね」

「空も飛べないくせに!」

「馬にもなれないくせに!」

「そんなものに命をかけられるわけ?」

「笑っちゃう」

「そう。だから笑うしかないんだよ。僕らにできず人間だけにできることだろ」

「私たちに読めないはずね」

「我々は盤の上では将棋の駒にすぎない」

「ふん。世界の果てだって変わらないさ」

「デタラメな話はおやめなさい」

「そうよ。私語は作戦に費やすべきよ!」

「そうだ。棋理から遠すぎる」

「勝負はこれからよ!」

「夜の向こうに10万の観る将が広がって見えておるわい」

「本当にかえらないじゃないか!」

「かえりたくてもかえれない時があるんだよ」

「いったいどんな時なんだ?」

「笑えない時さ」

「発端は?」

「風が素顔を晒してしまったからでは?」

「何それつまんない!」

「まだまだこれからよ!」

「これからが本当の勝負よ!」

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ライブ(真夜中の肉食獣) 

2022-12-31 05:27:00 | ナノノベル
 人の数だけ理想の形はあるのではないか。ある人は音楽などなくても何も困らない。だが、ある人はロックがなければ息もできない。ある人にがらくたであるものが、ある人には不可欠だ。しわわせとは、飢えを満たすことではないだろうか。俺の飢えは、あなたの飢えとは違う。俺は俺であなたはあなたであるということだろう。俺は真夜中の肉食獣。今夜も満たされる瞬間を求めて街をさまよっている。

「テクニカルチキンとトロピカルチーズバーガーとアンダルシアオレンジシェイクね」

「ご注文内容を繰り返します……。ただいま満席いただいております」

「そうなん?」

「お待ちいただけますでしょうか」

 飢えが満たされるまで、引き下がるわけにはいかない。待たされている間、ネットニュースからやらかし人たちの失言でも拾うとしよう。俺は失敗から学ぶ人間だ。他人の失敗を経験として取り入れ、自らの行動に生かすのだ。ページはなかなか開かない。止まってる? 障害か?
(読み込み失敗。ネット環境をお確かめください)

「恐れ入ります。ただいまWi-Fi調整中になります」

 店員の言葉に俺は完全に切れた。世の中、許せることと許せないことがある。怒りの炎が燃え上がると俺は誰にも止めることできない。

「はあ? 先言えやおばはん!」

「Wi-Fiなかったら意味ないやん。客を待たせた上にWi-Fiもないの?」

「申し訳ございません」

「俺は現代人やで。わかる? 金返して。500円キャッシュバックや」

「ご迷惑おかけして申し訳ございません」

「えっ? できへんの? なら200円でええわ。はあ? あかんの? お前現代人なめてんのか? ネットなかったら何したらええの? えっ? 教えて。教えてくれる?」

「お待たせいたしました。お席が空きましたので」

「どこや」

 胃袋が満たされれば穏やかな自分を取り戻すことができるだろう。俺は傷つきたくもないし、他人を傷つけたいわけでもないはずだった。真夜中の飢えが極まって、暴走のスイッチを押しただけ。本当にそれだけのことだった。

「お客さま、あと5分で閉店となりますがよろしいでしょうか?」

「はあ? 先言えや! てめえぶっころすぞ! 俺客やで。現代人やで。することいっぱいあんねん。5分で何ができんねん」

「恐れ入ります。お客様、ノーマスクの方は出禁となっております。よろしかったでしょうか?」

「バカかお前先言えや! そんだら俺、元々おったらあかんやんか。あかん奴やんか。何やこの店、席はない、Wi-Fiあかん、散々待たす、何も食われへんやん。俺どうしたらええの? 現代人に未来はあるんか?」

「恐れ入ります。なお、接客力の向上とスタッフの情報共有のため店内の模様はYouTubeにてライブ配信されております。ご了承くださいませ」

「えっ? なんて……。マジで? ここも?」

「こちらはアングル1となっております」


「わーっ。お姉さん先言ってくださいよ。ほんま悪いわー。ええ店ですやん。そりゃ流行るはずやわ。言ってくれたら僕もチャンネル登録しますやん。ほんま悪いわー。やめて後出しじゃいけん。めっちゃきれいですやん」

「申し訳ございません」

「いやお姉さん悪くないです。こちらこそですやん。僕、顔晒してますやん。気持ちだけ、ごちそうさま! 店員さん、お疲れさまでした!」

「ありがとうございました!」

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スープ・カレーを召し上がれ

2022-12-31 00:11:00 | ナノノベル
「誠に申し訳ございません。ご注文いただきましたスープ・カレーでございますが、私の不注意により少々スープをあふれさせてしまいました。お届けできる状態でないと判断できるため、ご注文をキャンセルさせていただき、こちらの方で引き取らせていただきます。この度は誠に申し訳ございませんでした」

「大丈夫です。構いませんのでそのまま届けてください!」

「恐れ入ります。せっかくご注文していただいた商品を、完全な形でお届けできずに心苦しく思います。やはり、こちらで引き取らせていただくことといたします。この度は誠に申し訳ございませんでした」

「いえいえ。そう気になさらなくても大丈夫ですよ。私の方は全然構いませんので、どうかそのまま届けてください!」

「いえいえ。そういうわけには参りません。私どもの仕事は、ご注文いただいた料理をできあがった時の状態そのままに、完全な状態でお届けすることです。この度は私の不手際によりまして、多少なりともスープをあふれさせてしまったこと、誠に痛恨の極みでございます。心よりお詫び申し上げます。つきましては、この度の注文はキャンセルとさせていただき、スープ・カレーを私の方で引き取らせていただきます」

「業務に対する真摯な姿勢に心打たれました。人間誰しもミスはあるものです。完全を心がけていても、そうならないことも多くあるのではないでしょうか。多少のことは気にしませんので、そちらもそのようにお考えください。どうかそのままお届けください!」

「この度は私の一方的なミスにも関わらず、親切な心遣いをいただき誠に恐れ入ります。しかしながら、一度あふれさせてしまったスープは二度と元に戻ることはございません。お客様の寛大な心を深く胸に刻み、今後はより一層の注意を払って業務に当たることといたします。その上で、ご注文いただきましたスープ・カレーは私の方で処理させていただきます。この度は誠に申し訳ありませんでした」

「少しくらい大丈夫です。本当に大丈夫ですから、そのまま持ってきてください。待ってます!」

「少しではありませんでした。最初は少しと思いましたが、お客様から見ればとても少しではないと思われます。このような状態では、もはやお届けすることができなくなりました。深く謝罪の意を示すとともに、商品はこちらで引き取らせていただくことといたします」

「反省はもう十分なので届けてもらえます? 私が大丈夫と言ってるのだから、大丈夫ですよ。本当に」

「お怒りはごもっともでございます。振り返ってみれば、お昼からまともな食事も取れていなかったこともあって、多少ハンドリングが雑になっておりました。また、近道をしようとあえて凸凹道を選択してしまったことも大きな判断ミスでした。ですが、これらはすべて私事であって言い訳にすぎません。すべては私の不徳の致すところでございます。改めて謝罪させていただきたいと思います。つきましては、ご注文いただきましたカレー・スープは不完全な状態となりましたので、私の方で責任を持って処理させていただきます」

「お忙しかったのですね。お疲れさまです。反省の気持ちはもう十分いただきました。スープがなくなっていても不完全であっても構いません。どうぞそのまま届けてください! そのままで」

「労いの言葉までかけていただき恐れ入ります。この度は、私の不注意によりお客様に多大なご迷惑をおかけしたことを、心よりお詫び申し上げます。また、それによりお客様に貴重な時間をお取りいただいたことも、重ねてお詫び申し上げねばなりません。さて、夜も深まるとともに冷え込みの方も一段と厳しさを増してきました。この辺りでお客様にはご納得していただき、チャットを閉じさせていただきたいと思います。つきましては、誠に勝手ながらご注文いただきましたスープ・カレーについては、私の方で責任を持って処理させていただきます」

「もしかしてお腹空いていますか? もうスープ・カレーを食べるモードになっているのでは? それならそれでこちらも納得します」

「空いてないと言えば、それはうそになってしまいます。しかしながら、それと私の責任の行方、及び対処の仕方とは、完全に切り離されたものとして考えます。どうかご明察くださいませ」

「いいです、いいです。お譲りします。もう何か別の物を食べたくなってきましたから。どうぞご自由に」

「ご理解いただき誠にありがとうございます! 今後ともフード・ポンタをよろしくお願い申しあげます!」

「はい、わかりました。どうぞ召し上がってください!」


「いただきまーす!」

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アウトサイド・レストラン(キツネ・ドリーム)

2022-12-30 21:38:00 | 夢の語り手
 よい時には何も考えずに決めることができた。カレーライス? オムライス? 何でもこい! あふれ出るケチャップのように、とめどなくゴールを量産することができた。夢を見ている時でさえ、寝返りとともに反転してゴールすることができた。例えばこんな夢を見ている最中にも……。

 くわえ煙草のキツネが吐いたため息に巻かれて、僕はグランドにいた。キツネ色の友情とキツネ目の少年が交錯している間に、ボールは冬の夜のキツネのようにグラブを通過した。落球かと思えた瞬間、スローモーションとなってボールを回収する。キツネの先生と師匠が集まっておやつを食べるけれど、キツネ腹を責めるには理由が欠けている。ランナーはセカンドベースを回ったところでアウトとなる。流石はウッチーだ。レフトに飛んできませんように。平凡な外野フライを捕球できない自信があった。サードを強襲した打球が高く跳ね上がってキツネ・フライのようになって飛んできた。追いかけている内にショートの青年とぶつかってそのまま一心同体となってしまう。本を運ぶ書店員を呼び止めて頼む。台車で割って入って2人をキツネ分解してほしいのだ。これは行き先被りの呪い。

「あっ、離れた! 逃げろ!」

 キツネ返しに叫ぶ。
 階段の上でトモミは物まねをしてキツネ式に人を集めていた。外国人ピッチャーが片言の日本語でキツネ早に質問をあびせてバッターを打ち取る場面は、後ろから本人が現れて爆笑となった。やっぱりキツネ世界では才能がある。帽子を取ったトモミはキツネの芸術家のように見えた。

「ブルーのリクエストはすぐに取ってください」
 アナウンスがキツネ的に階段を流れる。何もできない間にブラウンのリクエストに切り替わっている。ログイン不可。単にマップが拡大されるだけ、これではキツネのお礼参りだ。
 タワマンよりも高く飛んでいたはずだったが、いつの間にか私語が聞こえるほどに僕の浮遊高度は下がっていた。体力が追いついていかないのだ。キツネの影が壁に現れて影踏みをしている。キツネパンチ、キツネキック、キツネスマッシュ! 校舎に入って部員の助けを求めるが認証には遠い。13時30分。教室には戻らない。途中から来る者がいれば、途中で帰る者がいてもいい。キツネがラッパ飲みしても何も問題はない。

「後悔してない?」
 持ち出したせいでこうなったこと。
「いや。何もしなくてもつつく奴はいる。痛みも必要な経験かもしれないし」

 CDジャケットが晒されている。向上中のプレイヤーが発表される。いつになっても僕の名は挙がらない。革靴に顔を埋めて時が過ぎ去るのを待つしかなかった。夕暮れはキツネを分散させる時間だ。真相が闇に隠れ込む企みを、生真面目な初恋はキツネ地蔵をジグソーパズルに落とし込み、霧雨のキツネがキツネ耳を立てながらキツネ方程式を選考の手段に当てようとしていた。
 
 寝転がりながら闇雲に振った足が攻撃を跳ね返す。そればかりかシュートとなって敵に脅威を与えさえした。もしやと光が見えれば活発になれる時がある。バスが路線を行く。戎町、戎宮町。その間は目と鼻の先。ここぞばかりに力を込めてシュートを放つ。柔い時だけに牙を剥くのだ。
 ピンボールサッカーの終わり、個々のエアコンのフィルターを訪ねてまわる。エースのフィルターの中には箱があり、中を見るとチョコとスティックシュガーが詰まっている。ストイックさにかけてはキツネ仕込みといっても過言ではない。


「何だ今の?」

 自分でも自分の選択を理解できない。基本に忠実にやれば難なく枠に入れることができただろう。なぜ? 今、アウトサイドだったのか……。それしかないという場合、それでなければならないという場面がある。ただ、今ではなかった。よい時には、どこに当たっていても入る。自分の意図に関係なく決まるのだ。悪い時には、何をやっても裏目に出る。そして、それは自分では選べないのだ。
 シュートはゴール・マウスを外れて火星にまで打ち上がった。虚しいばかりの残像を、僕は昨日の夢のように追い続けていた。

「何しましょう?」
 見知らぬ女が、問いかけている。
 決められないよ。
 今日は何も決まらないのだ。

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ロング・ファイト(2000ラウンド)

2022-12-30 20:58:00 | ナノノベル
 ノックアウトの予感を越えて、私は50ラウンドのリングに立っている。激しいパンチを交えながら、試合の中でさえも成長する。私は自分ののびしろに驚かされる。そんな私を前にガードを固め、フットワークを駆使しながら向かってくる相手も大したものだ。倒れない限り、ファイトは続く。ゴングとゴングの間に注がれるお湯。一息つく間、私は青コーナーでたぬきを食べた。ちょうどいい補給。そして、また立ち上がる。

 眠っているのか。100ラウンド辺りの私は半分夢の中にいるようだった。ダメージはかなり蓄積されている。時に相手のパンチがスローモーションのように見える。私は余裕で避けてカウンターを繰り出す。しかし、ダメージは与えられない。時は巡り、相手は赤コーナーできつねを食べている。向こうの方も美味そうだ。七味を注ぐ余裕も見えた。

 魔の時間帯を越えた。150ラウンドにさしかかるとパンチの質に明らかな変化が見てとれた。もう風を切るような鋭さはない。私たちのパンチは、互いに傷つけ合うことはなく、むしろ励まし合っていた。よくやったね。よくきたね。痛くないね。何ともないね。鈍くなったね。流石にね。もういいね。あと少しね。

 まだまだやれる。180ラウンドに入って少し手数は減ったものの、足腰に限界は見えなかった。それでも、私たちはもう決めていた。
 軽くグローブを合わせると次の瞬間、審判に話を持ちかけた。

「少し休みたい」
 先は長い。決着をつけるのは今ではないと共感したのだ。

「これより冬休みに入ります!」
 審判の宣言に客席からは盛大な拍手が沸き起こり、いつまでも終わりなく続いた。
 再開のゴングは今から3週間後だ。

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プライド旋回

2022-12-30 19:29:00 | ナノノベル
「リクエストを申請して着陸許可を待て」
「こちら機長。飯の友は辛子明太子。リクエストが通り次第着陸態勢に入る」
 551機の機長は迷わず晩ご飯の飯の友申請を終えた。既に空腹のピークを過ぎて半ば痛いほどだった。しかし、フライトは最後の最後まで気を抜くことが許されない。それは誰よりも機長自身が知っておかねばならぬことだった。

「こちら管制塔。申請中の辛子明太子は売り切れ。繰り返す。辛子明太子は売り切れ。リクエストを却下する。至急代案を立て再度申請せよ」
 機長は操縦桿を持ったまま顔をしかめた。

「却下は認められない。飯の友は辛子明太子。代案はない。以上」
「こちら管制塔。状況を報告せよ。こちら申請待ち」
「こちら機長。既に申請済み。対処願う。以上」
「こちら管制塔。辛子明太子は現在売り切れ。繰り返す。辛子明太子は現在売り切れ。代案リクエストを検討せよ」
「こちら機長。飯の友は辛子明太子。リクエストが通り次第着陸態勢に入る。繰り返す。飯の友は辛子明太子。入手ルートの開拓を検討せよ」
 緊張のやりとりが続く。互いの主張は平行線のままだ。速やかな解決が求められる。

「こちら管制塔。飯の友に関してコントロールできる範囲で緊急提案がまとまった。以下の提案を検討せよ。明石海苔、紀州梅干、シーチキンファンシー等を取り揃えて機長の飯の友とする。速やかに提案を快諾して着陸態勢に入れ」
「こちら機長。飯の友は辛子明太子。リクエストが通り次第着陸態勢に入る。繰り返す。飯の友は辛子明太子。それ以外の提案は受け付けない。以上」
 機長の断固とした態度。そこにあるのは20時間分もの思い。操縦桿を握り重大な責任を果たす者としてのプライドがあった。それは常人には理解されないであろう高い高いプライドだ。

「こちら管制塔。明石海苔、紀州梅干、シーチキンファンシー他を取り揃えた飯の友の配置が完了した。機長の柔軟な思考と名誉ある決断を願う」


「ご案内申し上げます。ただいまエンジン系統のトラブルにより当機は着陸を見合わせております。お急ぎのところ誠に恐れ入ります」

「機長! 乗客がざわつき始めています。これ以上は無理では……」

「くそーっ! 下界の奴らめ! 私の空腹も限界だぞ」

「こちら管制塔。応答せよ。551便応答せよ」

「こちら機長。リクエストを繰り返す。飯の友は辛子明太子。リクエストを繰り返す。飯の友は辛子明太子……」

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魔法のお茶

2022-12-29 07:32:00 | グレート・ポメラーへの道
素敵な note ですね!

さて本題に入らせていただきます。
私は九州の方で美味しいお茶を作っております。
読ませてもらったお礼と言っては何ですが、今なら通常価格不明のところを特別限定価格初回に限り最大で0円にてご提供させていただけることになりましたので、いますぐご注文してください!
なお、翌月からは前金で最小で2万、他に別途サービス料(時価)、翌々月からは更新料として総額最小で1000円(時勢によって変動の可能性あり)をお支払いいただくものとする。(なお、これには一切の例外は認められない)


 素晴らしい提案に乗って僕は迷いなくお茶を注文した。お茶は美味しいことは言うまでもなく、飲むだけで体が軽くなるようだった。一日の始まりから食事の友から、お茶のない日常は考えられなくなった。辛いことがあって落ち込んでしまいそうな時でも、お茶を飲むことによって乗り越えられる。本当に素晴らしい出会いだった。最初はただでよかったものの、翌月からは馬鹿にならないほどの代金が必要となった。通常の食費にも匹敵するようなお金だし、それでなくても物価はとめどなく上昇し日々の生活を圧迫しつつあった。僕は働き方を変えなければならなかった。


 路上に出て自転車を漕いでは食事や酒や医薬品や雑貨を見知らぬ家に届けてまわった。その報酬は1件あたりがだいたい300円であり、1キロでも3キロでも5キロでも6キロでも10キロでも、どこまで行っても、雨降りでも、暴風でも雷でも真冬でも深夜でも、揺るぎなく300円だったが、希に調整されて301円になることもあった。(自転車でなくバイクの場合はこれが基本400円あるいは500円だったりし、これはバイクが自転車よりも優れた乗り物としてリスペクトされているためだろうか)
 路上に出てみれば様々なハプニングがあって、ただAIの導き出したルートに従ってバーガーやベーグルを運んでいればよいというのは、大きな間違いだった。逃げたマルチーズを追いかけて捕まえたり、眼鏡を落として困っているおじいさんを助けたり、沼にはまって身動きできないおばあさんを助けたり、モンスターをたずねて迷っている小学生を助けたり、人のためにやるべきことはいくらでもあるのだった。

「スカイオはどこですか?」

「この道をずっとまっすぐです」

 50キロの道を走り疲れ切っていた僕は時として小さなうそもついてしまった。道に落ちていた釘を踏むとパンと弾けてアカウントを見失った。気がつくと僕は自転車を降りて、危ない道を歩いていた。


「息子さんがYouTubeに上げた論文が問題になってましてね。事もあろうに宇宙の起源を握りつぶしてしまわれた。それで先方の方がかなりお怒りでして、今広報の方に代わります。どうも宇宙広報の者ですが、このままでは収拾困難な事態なのです。そこを私どもの必死の交渉でですね、少し話をさせていただきまして、解決策としてある程度の餅を用意していただきたいと思います。よろしいですか。これよりドローンに乗ったおじいさんが、受け取りに参りますので、迅速な受け渡しの方よろしくお願いします。息子さんは元より人類の命運に関わってきますのでくれぐれも他言はせぬように……」
 と、まあこんな調子でテレホン・アシストの仕事をしているとエイリアンがきて僕の首根っこを捕まえたので目を覚ました。


 まもなく僕はキッチン・スタッフの仕事についた。運ぶ人から作る側になったというわけだ。
「15番、ラッキーストライクですね。780円ちょうどいただきます。ありがたーす!」
 意外と僕は接客も上手くできた。
「君! レジに入らなくていいから!
それは他の人がいるから」
 調子に乗っていると店長に怒られてしまった。
 そうだ。僕はキッチン・スタッフ。レジ係ではないのだ。

「すみませーん!」
 すみませーん!
 すみませーん!

 誰かが誰かを呼んでいる。
 僕はここで地に足を着けながらお茶のためのお金を稼ぐのだ。ああ、早く家に帰ってお茶を飲みたいぞ。お茶だお茶だお茶だお茶だお茶だお茶だお茶だお茶だ。お茶があるから僕は元気です。
 す・み・ま・せーーーーーん!
 他の人はどこから現れるというのだろう。

「すみませーーーん!」

「はーい!」

 駄目だ。やっぱり知らんぷりは苦しいよ。

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VARスタジアム

2022-12-29 03:02:00 | ナノノベル
 塁審の旗が上がっています。
 1イニングに投げられる変化球の数を超えたかですね。
 非常に微妙なところでした。
 主審がVARのジェスチャーに入ります。

 オールドファッションだ。

 ドーナツのアングルからリプレイを注視しています。
 映像を見てみましょう。
 これは……。未知の変化球。

 自然界には存在しない曲がりだ!

 ストライクの判定が覆ります。
 アウトになった選手たちが、地下鉄の階段を引き返してきます。コツコツと響く足音が、リベンジに燃えながら上がってきます。
 おっとこれは判定に納得がいかないか。
 グラブをマウンドに叩きつけるとパンドラの箱が開いた。
 これはまずいぞ。

 駆けつけた警備隊が反逆者をマウンドから引きずり下ろそうとします。それを阻止すべく集まってきた、選手、スタッフ、応援団。更に空からは風船に乗って謎の援軍も合流しました。
 場内はさながらお祭り騒ぎとなっています。

 スタジアム・ロックダウン!

 ただいま球場に緊急事態が宣言されました。
 もはや我々もお手上げです。
 さようなら。
 命があったらまたお会いしましょう。 

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アウェイ&ホーム

2022-12-28 06:17:00 | 新・小説指導
なんやお疲れの様子やね
急にやりすぎたんちゃう
何でもすぎたらあかんねん
前にも言うてますよ

自分の限界を知らなあかん

猫見てみなさい
あいつら普段どうしてる?
そう
蓄えてはるやろ
力を溜めてはるんや

それが跳躍力を生むんですわ

ええですか
集中力には限界があるよ
野球やったら9回
サッカーやったら90分
だいたいそんなもんや

人間やもん

ロボットとかAIやないんやから
やる方もみる方もそこら辺が
だいたい限界
ずっとしっぱなしは無理なんや

楽しいことはずっと続いたらええ
ずっとずっと続いて欲しい
それは人間のわがままや
言い換えたら幻想やな

だって人間やもん

終わらなあかんからええねん
そやからみんな必死やねん
限界超えよう思って必死や

元から限界なかったらどう?
もう頑張ることあらへん
そうでしょう?

野球やったら3つアウト取ったら
ベンチに帰って休憩や
サッカーやったら半分のとこで
まとめて休憩や

その間に反省したり
シャワーあびたりして
リフレッシュせなあかん
そしたらまた原点に返れるわけよ

束の間の休みで
心も体も蘇る
ゾンビみたいに復活すんねん

そのまま行ってたらそうはいかへんよ
バテバテなっておしまいよ

見る方も見る方や
ずっと見続けるのもしんどいやん
瞬きもできへん

わしら見張り番か?
交通調査員か?
みたいになってまうよ

あんたの文章はどないですか?
肉団子みたいにきつきつにくっついてないですか
そりゃあかんで
もっとピッチを開けて
時には読者を休ませてあげないと

余白が大事やねん
ええとこ見せるためには
よそ見をさせる時間も大事なんです

ビール飲んだりウインナー食べたりしてな
別の楽しみもあんねん
ええですか
お客さんに与える楽しみいうのは
ピッチの中だけやないですよ
メリハリがあった方がいいのよ

中中中では疲れる
一旦サイドへ流れてから
中へ供給するのが効果的です
サイド攻撃を上手に使うこと

見え透いた攻撃ばっかりやったら
相手に読まれてしまうよ
先に読まれたらどないなる?
そう
守りやすいやろ

見ている方はどうや?
おもんないね
中を絞られたらノーチャンスや
ゴールは生まれない

行ったり来たりするばっかりや
どないなる?
そう
退屈してブーイングの嵐や
その内にみんな帰っていく

「創造性のない試合を誰が見たい?」

そうやろ
小説もそれと同じや
中中中は疲れんのよ
作者の言いたいことばっかり言ったらあかんねん
小説は作者の独壇場になったらあかん

小説は作者のためにあるんか?
そう
ちゃうねん

「小説は読者の遊び場やねん」

だったら誰のためにあるの?
ゴールが欲しいのはわかるよ
でも逸ったらあかんねん
一旦外へ逃がしてあげることが大事なんや
ピッチの外へ広げたらなあかん

これを小説の言葉で外出言います
普段みんなもしてるよね
コンビニ行って、公園行って、
スーパー行って、郵便局行って、
そんで家に帰ってくる
カフェ行って、海行って、
ライブ行って、温泉行って、
そんで家に帰ってくる
その外出と全く同じことです
ええですか

「外出して帰ってきたらええ心地ですよ」

あー、家ってええな
なんか落ち着くねんな
おうちごはんでも作ろうかな
ってなりますよ
それが小説の言葉で言うと
外出力と言います

今たまたま家で話してるけど
サッカー場でも町でも
地球でも同じ話ですよ

一回月でも火星でも行ってみ
そんで帰ってきたらどないなる?
そやね
やっぱり地球落ち着くなー
てなりますよ

「小説の中ではいくらでも外出できる」

外出放題ですわ
スペースはあんねんもん
すごいでしょ
だからやめられへんのよ

色んなところに出かけて行って
もっと遊ぼうよ
遊ばせてあげようよ

結末はいつでも書ける
楽しみは後のためにキープしとくこと

「小説はホーム&アウェイです」

未知の場所にたどり着く必要はない
行ってから無事に帰ってくるだけでええのよ
行って帰る
それが上手くできたら何も言うことはない
こちらからは以上です

読者の目をちゃんと遊ばせてあげること
それができたら見え方は変わってくるよ

小説は言葉の旅なのよ

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サポート・メンバー(盤外戦術)

2022-12-27 02:56:00 | ナノノベル
 どんなアウェーでもホームに作り替えることはできる。そのために周到な準備をして、多くの物を持ち込む。座布団の周りの手の届く所に私は慎重にそれを配置する。懐中時計、ハンカチ、扇子、メモ帳、鉛筆、水筒、消しゴム、クランキー、カロリーメイト、コーヒーカップ、エコバッグ。その1つ1つが私の味方である。
 対局室の空気が厳しいアウェーだとしても、視野を狭くして盤上に集中することができれば、ここは見慣れた風景。自分の部屋に近い場所と思い込むこともできる。

 温めていた新構想が全く通用しない。今までの相手とは次元が異なっているように思える。一手一手に一切の妥協なき強い意志のようなものが感じられる。逆にこちらの手は、遙か先まで見透かされているように思えるのだ。(手合い違い)自身の脳内で聞きたくもない言葉が生成される。ここに来るのはまだ早かったか……。

「場違いじゃないよ」
 懐中時計がそっとささやくのが聞こえた。
「浮いてないよ」
 ハンカチが助言をくれる。
「独りじゃないよ」
 消しゴムが転げながらつぶやいた。
 不安に押しつぶされそうだった私を、つれてきたものたちが口々に優しい言葉で勇気づけてくれる。
 彼らはただの物ではない。
 1つ1つが私にとって強力なサポート・メンバーなのだ。

「自分の力を出せれば勝てるよ!」
 エコバッグが大きな口を開けて言った。
 そうだ。
 ここまで来れた私がまるで通用しないはずはない。
 過剰な畏怖を紙屑と共にゴミ箱に捨て、私はクランキーを丸呑みした。

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丼マインド

2022-12-26 20:48:00 | ナノノベル
 我々の丼が中毒的な旨さを持っていたことは疑いようもなかった。客離れを起こしているのは、急激な物価の上昇とそれに伴うマインドの低下だった。秋が深まろうとしている頃、店長は思い切った手を打った。なんと最初の1杯に限りすべての注文を無料としたのだ! 但し、おかわりは有料である。店長は強い自信を持っていた。その根拠は人間の心理だ。

「我々はこの難局を何としても乗り越えなければならない。そのためにはあらゆる先入観を排除して新しい試みに挑戦する態度が必要だ。我々には他にはない絶対的な武器がある。それはこの中毒性の高い丼の旨さに他ならない。多少強引にでも我々はそこを前面に押し出して、何としてもこの業界での勝利を手に入れる。人間は人の恩に報いようとするもの。親切は必ず返ってくる。それを信じて笑顔で出して行こう。最後に笑うのは我々だ。さあ行こう!」

 キャンペーンは大好評だった。客は笑顔で丼をかき込んだ。

「ごちそうさま!」

 おかわりをするものは思いの外に少なかった。笑顔のあとに返ってくるのは、空っぽになった丼ばかりだった。
 店長の思いの詰まったキャンペーンは、冬将軍が顔を大きくする頃に終わり、我々も他社に沿う形で値上げに踏み切ることになった。店長は思い切って自らの給料を半額にすることを宣言し、皆の士気を高めた。我々の本当の勝負はまだこれからだ。

 ドンマイ店長!
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さよなら劇場

2022-12-25 01:57:00 | ナノノベル
「鉛筆ならいいのか?」

「駄目だ」

「マドラーなら?」

「観念しろ」

「火ついてるか?」

「現行犯だ。わかってるな」

 くわえ煙草の詩人が容赦なく拘束される。くわえた先の煙からどのような詩情があふれたのか。それが街の空気をどのようなものに変えるのか。何もわかっちゃいない。手錠をかけられ引きずられていく日常の光景。助けたい。だけど、仲間でもないので助ける理由がない。ちょっとした仕草で簡単に自由がなくなる。この街はどうかしている。
 少しだけずれているマッチング・アプリ。いつも半分は壊れていて、アップデートの度にエラーが出る。ミネストローネはいいものだ。しゃきしゃき玉葱と豚バラ肉のコンソメスープも素晴らしいだろう。だけど、求めるものとは少し違う。体内に留まる時間が、ほんの少し短いのだ。ポタージュスープだけが、冷え切った体を温めることができる。

「への字じゃないか!」

 コの字型を求めてようやく心地よい場所を見つけたと思ったのは、完全な思い違いだった。私はカウンターを叩きつけて店を飛び出した。心を洗いたい。取り戻したい。

「館内での撮影は一切お断りさせていただきます。なお、万一撮影行為が認められた場合、見つけ次第強制撤去とさせていただきます。以下、予めお断りしておきます。この映画には、暴力、肌の露出、喫煙、飲酒、殺人、ドラッグ、二重人格、遠距離恋愛、逮捕、脱獄、回想、記憶喪失、離婚、愛人の裏切り、左利き、生き別れ、囲碁将棋、替え玉対局、双子のトリック、タイムスリップ、夢オチ等の表現が含まれます。これらは……」

「楽しみを奪うのか!」

「後で厄介なことにならないように予め……」

「わかったことを言うな! 皆さんもそう思うでしょう?」

 私は壇上に上がって訴えた。

「嫌なら帰れ!」

「帰れ、帰れ!」

「どうして誰もわからないんだ!」

 私はビール瓶で劇場支配人を殴りつけた。彼は頭から血を流しながら、その場に崩れ落ちた。

「兄さん?」

「お前。本当に馬鹿だな……」

「兄さんかい?」

「動くな!」

 いつの間にか舞台には警官隊が上がり、私を取り囲んでいた。私は両手を大きく広げて無実を訴えた。違う。人違いなんだ。その瞬間、肩に銃弾を受けた。痛みはまだ襲ってこない。

「違う! 何も撮ってない!」

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