何を食べればいいというのか。すっかりレシピを見失ってしまい、どうしていいかわからなかった。使い切らなければならない年賀状がまだ部屋の隅に残っていて、ちょうどそれを使って姉に助けを求めようと思った。姉に手紙で新しいレシピを書いてもらうのだ。夜はもう遅かったけれど、今すぐにでも出しにいくつもりだと言うと、兄もそうした方がいいと言った。少し無理をしても明日のことを考えなければならない。外は寒いだろうか……。空き缶を転がしていくような風の音が窓の外から聞こえてくる。炬燵の中から靴下を取った。電源を切っておこうかと思う。けれども、兄があとから戻ってくるかもしれないし、すぐに戻ってくるつもりなのかもしれないし。気温を確認するために一旦外に出てみた。風の強さ、それよりも凶暴な若者が暴れていて、僕は出かけることが恐ろしくなった。ポストを開けると、既に姉からの手紙が届いており、僕はそれを手に安全な家の中に戻った。
「手紙きてたよ」
「電話だぞ」
手紙のことに安心して、兄が言うまで気がつかなかった。震えるポケットの中から電話を抜き取った。
「おじさんが亡くなったよ」
おじさん? なんで急に。そんなことがあるものか。
「おじさんといってもあなたのお父さんよ」
電話の向こうから、落ち着いて聞くようにと女の人は言った。
「僕のお父さんですね」
僕にとってはお父さんだった。落ち着くように自分に言い聞かせながら、声を出した。見舞いに行かない内に、亡くなってしまったのだ。あんまり行けない間に、亡くなってしまったのか。とにかく落ち着いて、今は落ち着かなければならない。
「大丈夫ね」
大丈夫。落ち着いて、みんなに伝えなきゃ。お見舞いにもいかなかったから。落ち着いて、まずみんなに伝えてから。まずはここにいる人から。ここには兄がいる。まずは兄から。それから。先のことは先のこと。
「ちょっと待って」
と言ったところで電話が切れるのがわかった。
みんなで家に集まった。
テレビでは我が家の歴史が紹介されていた。
「**家の断面図をご覧ください」
3階は線路
4階は森
5階は車道
「それは知らなかったね!」
姉も、母も4階以降のことは何も知らなかった。ずっと長く住んでいても、知らないことはあるのだった。こんなにかなしい瞬間でさえも、何か新しい発見をするということは、純粋にうれしいことなのだ。そして、それをテレビなんかの人に教えられるという点では、少しおかしなことだった。
「あんた、もう1つ新しいパジャマを買いなさい!」
袖のところが破れているといって姉が文句を言った。
逃げ出すように窓を開けて、僕は外の空気を思いっきり吸い込んだ。パジャマ中にたくさんの小銭が貼り付いていた。道行く人に見られるかもしれない。
(こんな寒い日に……、パジャマのままで……、小銭なんかいっぱいつけて……)
いいんだ、いいんだ。
今、我が家には特別な時間が流れているのだから。
コメンテイターの声に交じって、どこからか野生動物の鳴き声が聞こえた。
「手紙きてたよ」
「電話だぞ」
手紙のことに安心して、兄が言うまで気がつかなかった。震えるポケットの中から電話を抜き取った。
「おじさんが亡くなったよ」
おじさん? なんで急に。そんなことがあるものか。
「おじさんといってもあなたのお父さんよ」
電話の向こうから、落ち着いて聞くようにと女の人は言った。
「僕のお父さんですね」
僕にとってはお父さんだった。落ち着くように自分に言い聞かせながら、声を出した。見舞いに行かない内に、亡くなってしまったのだ。あんまり行けない間に、亡くなってしまったのか。とにかく落ち着いて、今は落ち着かなければならない。
「大丈夫ね」
大丈夫。落ち着いて、みんなに伝えなきゃ。お見舞いにもいかなかったから。落ち着いて、まずみんなに伝えてから。まずはここにいる人から。ここには兄がいる。まずは兄から。それから。先のことは先のこと。
「ちょっと待って」
と言ったところで電話が切れるのがわかった。
みんなで家に集まった。
テレビでは我が家の歴史が紹介されていた。
「**家の断面図をご覧ください」
3階は線路
4階は森
5階は車道
「それは知らなかったね!」
姉も、母も4階以降のことは何も知らなかった。ずっと長く住んでいても、知らないことはあるのだった。こんなにかなしい瞬間でさえも、何か新しい発見をするということは、純粋にうれしいことなのだ。そして、それをテレビなんかの人に教えられるという点では、少しおかしなことだった。
「あんた、もう1つ新しいパジャマを買いなさい!」
袖のところが破れているといって姉が文句を言った。
逃げ出すように窓を開けて、僕は外の空気を思いっきり吸い込んだ。パジャマ中にたくさんの小銭が貼り付いていた。道行く人に見られるかもしれない。
(こんな寒い日に……、パジャマのままで……、小銭なんかいっぱいつけて……)
いいんだ、いいんだ。
今、我が家には特別な時間が流れているのだから。
コメンテイターの声に交じって、どこからか野生動物の鳴き声が聞こえた。