眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

パジャマ・タイム

2013-11-29 19:53:26 | 夢追い
 何を食べればいいというのか。すっかりレシピを見失ってしまい、どうしていいかわからなかった。使い切らなければならない年賀状がまだ部屋の隅に残っていて、ちょうどそれを使って姉に助けを求めようと思った。姉に手紙で新しいレシピを書いてもらうのだ。夜はもう遅かったけれど、今すぐにでも出しにいくつもりだと言うと、兄もそうした方がいいと言った。少し無理をしても明日のことを考えなければならない。外は寒いだろうか……。空き缶を転がしていくような風の音が窓の外から聞こえてくる。炬燵の中から靴下を取った。電源を切っておこうかと思う。けれども、兄があとから戻ってくるかもしれないし、すぐに戻ってくるつもりなのかもしれないし。気温を確認するために一旦外に出てみた。風の強さ、それよりも凶暴な若者が暴れていて、僕は出かけることが恐ろしくなった。ポストを開けると、既に姉からの手紙が届いており、僕はそれを手に安全な家の中に戻った。
「手紙きてたよ」
「電話だぞ」
 手紙のことに安心して、兄が言うまで気がつかなかった。震えるポケットの中から電話を抜き取った。
「おじさんが亡くなったよ」
 おじさん? なんで急に。そんなことがあるものか。
「おじさんといってもあなたのお父さんよ」
 電話の向こうから、落ち着いて聞くようにと女の人は言った。
「僕のお父さんですね」
 僕にとってはお父さんだった。落ち着くように自分に言い聞かせながら、声を出した。見舞いに行かない内に、亡くなってしまったのだ。あんまり行けない間に、亡くなってしまったのか。とにかく落ち着いて、今は落ち着かなければならない。
「大丈夫ね」
 大丈夫。落ち着いて、みんなに伝えなきゃ。お見舞いにもいかなかったから。落ち着いて、まずみんなに伝えてから。まずはここにいる人から。ここには兄がいる。まずは兄から。それから。先のことは先のこと。
「ちょっと待って」
 と言ったところで電話が切れるのがわかった。

 みんなで家に集まった。
 テレビでは我が家の歴史が紹介されていた。
「**家の断面図をご覧ください」
3階は線路
4階は森 
5階は車道
「それは知らなかったね!」
 姉も、母も4階以降のことは何も知らなかった。ずっと長く住んでいても、知らないことはあるのだった。こんなにかなしい瞬間でさえも、何か新しい発見をするということは、純粋にうれしいことなのだ。そして、それをテレビなんかの人に教えられるという点では、少しおかしなことだった。
「あんた、もう1つ新しいパジャマを買いなさい!」
 袖のところが破れているといって姉が文句を言った。
 逃げ出すように窓を開けて、僕は外の空気を思いっきり吸い込んだ。パジャマ中にたくさんの小銭が貼り付いていた。道行く人に見られるかもしれない。
(こんな寒い日に……、パジャマのままで……、小銭なんかいっぱいつけて……)
 いいんだ、いいんだ。
 今、我が家には特別な時間が流れているのだから。
 コメンテイターの声に交じって、どこからか野生動物の鳴き声が聞こえた。

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磯辺揚げ

2013-11-29 19:23:05 | 短歌/折句/あいうえお作文

いにしえの  
ソラシドたちは
へらへらと
明日香におりて
蹴鞠を習う

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目撃証言

2013-11-29 18:58:54 | ショートピース
目撃者の証言が始まる。「偶然なんかじゃありません! 私はいつでも見ているのです。いつ訊かれてもいいように、いつ呼ばれてもいいように、いつこの場に立ってもちゃんと話せるように、いつだって見る準備をしているのです。私から言うことは以上です」証人は見たことだけを話した。#twnovel

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チャラ返し

2013-11-27 20:37:52 | ショートピース
お釣りをもらって「ありがとう」と言うと女は何も言わず、寂しくなったので1分前に時滑りすると今度は無言で受け取った。これでチャラ返しだ。すっきりした気分になって歩き出す背を押し出すように後ろから「ありがとうございました」の声……。違う違う。なんでそんなこと言うかな。#twnovel

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はじまりはいつも雨

2013-11-27 08:49:42 | ショートピース
雫を切った傘を小さく折り畳んで袋の中に入れると口を開けた鞄の底深くに戻す。闇の中に差し入れた手に何者かが、「行くなら私もつれて行きなさい」。誘い文句につられるように、手は傘とは違う形状と感触を持つものをつかんで帰ってくる。いつもそのようにして、本との対話が始まる。#twnovel

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運び屋たち

2013-11-15 16:35:44 | 夢追い
「おいしいよ」
 おいしいという情報を兄にも分け与えた。兄は駐車場の上でうつ伏せになったまま、車のように眠っている。疲れている時、兄はいつも車のように眠るのだ。寝返りを打った拍子に指先がお菓子の包みに触れたので、そのまま手に取った。顔はまだ眠っていたが、難なく袋を開けて一息に口の中に放り込んだ。もぐもぐもぐ……。寝言を言うように、食べている。
「ね?」
 言った通りでしょと言うと兄は眠ったまま小さく頷き、再び寝返りを打った。1度家に戻る時間はあるだろうか。時間を確かめに駅の中に入って掲示板を見上げると7分発だった。兄は眠っていて役に立たないし、幸いなことに荷物は持って来ていたのでこのまま出発することになりそうだ。このお菓子はどこに売っているのだろうか。土産売り場をうろうろしているが、似たようなものさえ見つからない。
「愛媛名産みかん入り……」そのようなことを言いながら車が通過した。そうか、愛媛だ。愛媛まで、と考えながら、何の気はなしに電車に乗っていた。ホームも車種も確かめもしなかった。電車が動き出した。
(違う! これじゃない!)
 電車は逆方向に動き出してしまった。まだ荷物も持っていないのに。荷物はどこだろう。ホームに置いてきたのだったか、それとも兄のところか。まだ兄のところにあったらいい、兄が預かっていてくれればいいんだが。先頭車両から動き出した景色を見つめていた。何かの間違いで止まってくれないだろうか。電車はすぐ前方の貨物車両に向けて進んでいく。このまま行って接続される。接続されて止まるのだ。これは準備運転に過ぎないのだ。やや速度を落としつつ貨物車両の後部に向けて突っ込んでいく。接続だ、と思われた瞬間、貨物車両はいなくなって、急激に緑の風景が広がって行く。声を上げればよかったのに。動き出した直後に本気で叫べば、何とかなったかもしれないのに。次の駅で、次の駅で降りなければ。

「次は大野原」
「はい! 降ります!」
 興奮して駆け出した。開いたばかりのドアから降りようとすると運転席から呼び止められた。そうだ。降りる時に金を投げ込まなければいけないシステムだった。
「いくらですか?」
 ポケットの中から適当に硬貨を集めて訊いた。
「100円でいいよ」
 面倒くさそうに運転手は言った。小さな声で何かを付け加えながら。(本当は乗るべきものじゃなかったんだしな)
 降りたところで時刻表を確認してみたが、何時になってももうバスは来ないようだった。歩いて帰れるような距離かどうかもわからなかったし、正しい道を行く自信もなかった。ちょうどタクシーらしき物が通りかかったので手を上げた。車はすぐに止まり、運転手が降りてきた。けれども、男はたすきを巻いた候補者であって、タクシーの運転手ではなかった。
「すみません。似ていたものだから」
 候補者と握手をすると知らない道を彷徨った。どこかで水分を補給したかったが、自動販売機の1つさえも見つからない。疲れ果てた頃にちょうど車が通りかかった。見たところタクシーのようだった。手を上げて合図すると、車は少し行き過ぎたところで止まり、運転手が降りてきた。またしてもそれはタクシー運転手ではない。たすきを巻いた候補者だった。ああ、まただ。この町の運転手ときたら、候補者しかいないのか。
「運動、頑張ってください」
 がっちりと握手を交わして候補者と別れた。

 暑さを凌ぐため、見知らぬホームに駆け上がった。託児所や資料館が一緒になった建物だった。一通り町の歴史を学んでから、厨房の中を覗いてみた。おばさまたちは夕食の準備に忙しそうにしていた。蟹の到着を待っていた様子で、僕の顔を見て少し拍子抜けしたようだった。早速、歩いて帰ることが可能か訊いてみた。
「3人帰った人がいる」
 今までで3人ほど歩いた人を知っているということだ。
「10キロありますか?」
「ないない」
 おばさまたちが声を揃えて否定した。
「5キロある?」
「うーん」
 今度はすぐに結論は出なかった。3人顔を見合わせて、相談を始めた。難しい言葉を使うので、数字以外はほとんど理解できない。十分に挑戦する価値があると思われた。結論を待たずに、階段を駆け下りた。
 玄関まで行くとそこには子供の靴しかなかった。黄色い靴でやってきた。そうだ、僕も子供の靴でやってきたのだった。黄色い靴は他にもたくさんあって、アルファベットと模様の組み合わせで正しいペアを選ばなければならなかったけれど、靴はあちらこちらに飛びすぎている。少し惜しいものがあったけれど、それは右と右なのだった。ここには靴を整理する職員はいないのだろうか。確信にはたどり着けないまま、靴を履いて歩き出した。
「背中大きい」
 後ろから、見知らぬ子供が覆い被さってきた。
「こうしても、大きいな」
 背中を掴み、ひねったり歪めたりしながら遊んでいる。
「れいちゃんの靴だ」
「そうかなあ?」
 靴のことを持ち出されると少し後ろめたくて振り払い辛くなってしまう。
「行っちゃうの?」
 他の子の姿は見えなかった。昼寝の時間の途中で、この子だけが抜け出してきたのかもしれない。先生は何をしているのだろう……。こうしている間にも。僕はまだ置いてきた荷物のことが気になっている。こんなところで時間を無駄にしている場合ではないのだ。背中でひらがなの練習を始めた指を解いた。
「行かないで」
 どうして会ったばかりなのに、止めるのだ。

 来た道を戻った。来た時からすると急激に草花が成長して、もう道とは呼び辛い道だった。一歩ずつ進む間にも、成長の勢いが止まらないので、草を掻き分けながら進まなければならなかった。遠くに大きな山が見える。見覚えのある山だと思った。けれども、それが本当に僕の知っている山かどうかは少し疑わしかったし、どれだけ遠くにあるのかもよくわからなかった。道の向こうに自転車に乗ったおまわりさんの姿が見える。2人並んで……。あの人たちなら詳しい道について教えてくれるかもしれない。僕は今、豊かな草花たちに胴上げされるようにして運ばれている。
(ここで暮らせば)
 風の声が、そう言っているように聞こえた。
 どこへ帰るのだったか……。
 草花に愛撫されながら、徐々に故郷は不確かなものになっていった。

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2人のリバース

2013-11-14 19:08:08 | ショートピース
招待状を送る人は1人もいない。「2人きりでは寂しいね」と式は取りやめにした。遡って結婚も、婚約も、同棲も、交際も、肩も、腰も、手も、唇も。2人は順調に切り離していった。さよならとつぶやいて3行詩の中でわかれた。「最初から無理だったのね……」寂しさを忘れて、いった。#twnovel

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謎めいた朝の中で

2013-11-13 07:56:35 | ショートピース
食べられないパンが何って? 謎めいた朝の中でクロワッサンに食いついた。そんなパンなら無数にあるというのに。クロワッサンの皮がぱさぱさと零れる。なんで君の決めた正解の1つにこちらが合わせなければならないんだ! 卵を一気に割り落とすとフライパンは小さくジュッと鳴いた。#twnovel

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雪にとける

2013-11-12 21:13:02 | ショートピース
澄み切った空が徐々に淀みの中に捕われて、ついに恐ろしく冷たい粉を降らせ始めた。逃げろ! 手を取って赤い光の中に逃げ込もうとした時、君は嬉々として、白く染まり始めた庭の中に駆け出していった。君はとっくに犬であり、私たちは永遠に交わることのない色の中に住んでいたのだ。#twnovel

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犬と夜

2013-11-12 00:12:06 | 夢追い
 束の間、帰ってきたと思った。よくできた犬は、初めて見るものに対して全身を使って警戒を表している。真っ白い毛、ぴんと立った耳、似ていると思えば、ますます似てくる。鳴き声こそ出さないけれど、どこから見ても犬は本物の犬にそっくりだ。頭ではわかっている。帰ってくるはずはないのだ。何かを思い出したように振り返り、何もなかったことを確かめると、そのついでに体を器用に折りたたんで背中をかいた。犬は、迫真の演技をみせて自分が本物の犬であるように思わせようとする。豊かな毛を少し震わせながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる。ここまで本物に近い犬が、ここまで身近な存在になったのだ。

 みんな始まりに備えて忙しそうにしていた。使命を帯びてきたので逃げるわけにはいかなかった。細長いスタッフを捕まえて、チケットを見せる。ビールを6つ、あるいはビールを3つとカクテルを3つにすることもできると言って、その方が軽いでしょと提案してくれた。重さの問題が1つ解消されて、少しだけ軽くなる。待っている間、自分だけがここにいる目的が違うと思うと再び落ち着きがなくなっていく。何もすることがなく、どういう構えで待つべきなのか、どういう顔をして待つべきなのか、不安は募り固まっている内にライブが始まってしまう。
 ただ座ってパフォーマンスを見ていると、後ろの者が無造作に僕の腕を取って、バンザイをするように指導してくる。よく見たら、周りのみんなもバンザイをしているし、素直に従っている方が無難なようだ。ステージの上にいたと思った男が、次の瞬間には目の前に現れた。そんなはずはない。隣の客は興奮のあまり身を乗り出して、シンガーの顔に触れる。小さな顔。それはきっと人形にすぎないのだ。けれども、スクリーンには、今まさに下りてきて隣人を興奮させた人形とまったく同じ顔が映し出されているのだった。約束のカクテルはまだやってこない。

 トイレにはスリッパが1つしか置いてなくて、けんけんをしながら上手くやったつもりだったのに、PKをする選手に向かって飛んでいってしまった。

 立ち相撲は、どれだけ長く立っていられるかが勝負だった。もうおよそ6時間くらいが経っており、僕以外の相手はみんな太ったサラリーマンにすぎなかった。土俵の外に陣取る役員たちの間から、そろそろタオルを投げようかという気配が漂い始めていた。どうやら勝者になるのは僕以外には考えられないようだった。元々明らかな体重差があって、戦いを挑んでくること自体が無謀なのだった。
「当たっていけば楽勝じゃないか」
 外野から余計なことをささやく声が聞こえた。それはとんでもない提案だった。
「追い出しちゃえ」
「しーっ!」
 そうなってはこちらが明らかに不利だったので、なんとかもみ消そうとしたが、逆にその態度がまずかったのかもしれない。一瞬、太ったサラリーマンの1人が膝を折り、体重移動の仕草を見せた。向かってくるよりも早く、僕は土俵の中を駆け回って、身のこなしのスキルを見せ付けてやった。
「無理無理!」
 当たれば飛ぶだろうけど、3億年かかっても君たちには無理なんだよ。

 犬は、近寄って、無理なく僕の下に入り込んできた。
「眠るのかい?」
 探し求めていた枕がここにあったというように、犬は心地よく僕の頭の下に入り込んで息をしている。小刻みに震える様は、まるで生きているようだった。一緒に夢を見ようね。
 PKは上手く入っただろうか。片方だけしかなかったスリッパも悪いけれど、あんなに大それた飛び方をするなんて思わなかった。そんなことにも惑わされずに、きっと上手く決めてくれたに違いない。メニューにないカクテルの名前について考えている。無理やりバンザイをさせられて、隣に現れた人形が本物のシンガーだったりもした。
(まだ、いるのだろうか)
 時々、触れて確かめる。いる。それにしてもよくできた、犬だな。
 それから3億年ばかり考えたけど、まだ閃かない。
 手で触れて、確かめる。毛先を感じ取ることができるけれど、目を開けてみると夜だった。
 もう1度、触れる。端から端をたどって触れた、尾が反応するけれど、目を開けてみると黒だった。
 どちらが真実なのか、もうわからなくなってしまった。
 こんなにも触れているものが、うそなのだろうか。

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砂の遺言

2013-11-01 20:18:36 | ショートピース
テーブルに両肘をついて座っている。両手に載せた頭からはさらさらと白い砂が流れ落ちてゆく。「もうすぐあの人、空っぽになっちゃう」小声でささやいた後で、宝のありかを聞き出すために彼らは足早に私の方にすり寄ってくる。「残りはほんのひと時です」私ははなす、時だけ、はなす。#twnovel

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