眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

12月の歌

2012-12-30 12:24:19 | クリスマスソング
「右見て、左見て、そう」

「月を見る。一旦月を見てさあどうする。どうもしない。もう1度やり直そう」

「右見て、左見て、そう」

「月を見る。もう1度月を見る。君は月を見る。月も君を見ている。先生も同じく月を見る。月はもう十分に見た。さあ次に進むのだ」

「右見て、左見て、ほら!」

「月を見る。高々と月を見上げる。月を見上げて一呼吸。吸い込まれそうな月を見つめたら、内側から未知なる気力が充実してきます。さあ、いよいよ前に進み出せそうな予感がしてきたよ。さあ」

「右見て、左見て、そうか」

「そうか……」

「君は空が好きか。そんなに空が好きか。純粋に空を愛するか」


 この先の道を君はまだ知らない。未知なる向こう側に渡ることを君はためらっている。君はそれよりも遥かによく知った現在地の中にいて、ずっとためらい続けている。その中がどれほど苦しみに満ちていようとも、どこにも逃げ場がないようであっても、決して未知なる向こう側に渡ることなく、延々と迷い続け、ためらい続けているのだ。君はそこにいて決して先を急ぐことはない。それは誰かに後悔の年表を書かせないために。延々と続くかもしれない後悔の年表。
もしもあの時、ああしておけば。もしもあの時、ああしなければ。こうすればよかった。こうしなければよかった。いやそもそもが間違いだった。あの時がいけなかった。あの時だったかもしれない。それはあの時だったのかもしれない。あの時ならまだ間に合った。あの時だったら間に合ったのに。あの時に誤った。あの時に間違えた。あの時の選択が愚かだった。あの時の一言が余計なものだった。余計なことを言わなければよかった。大切なことを言えばよかった。言わなければならなかった。どうしてそれをしなかったのか。どうしてそれをしてしまったか。どうして、どうして愚かだったのか。延々と続く、終わりのない、もしも……。
 そのために君はそうしてためらいの中に留まっているのだ。
 決断するよりも遥かに重く長々とした、ためらいの中で息をしている。
 先生も一緒だ。


「さあ、共にためらい続けよう」










「クリスマスソングをかけようか?」

「早過ぎない?」

「早いとか遅いとか言っている連中に限って……」

「何か不満があるのね」

「いつも同じものばかり聴いているんだ」

「例えばどんな曲を聴いているの?」

「例えば、彼らはポテトチップスばかり食べているのさ」

「お菓子の話に変わったの?」

「欲のない連中だよ」

「欲深いよりはましなんじゃない」

「彼らには欲望が足りないのさ」

「欲張りすぎよりはよほどいいんじゃない?」

「彼らはJ POPと80' s POP だけで満足なのさ」

「人それぞれに好きなジャンルはあるでしょう」

「クリスマスになってからでは間に合わないのに」

「どうして間に合わないの?」

「君は人の話をろくに聞いていないんだね」

「話にもよるけれど、そういう時もあるかもね」

「あわててかけても手遅れなのさ」

「また来年のクリスマスがあるじゃない」

「一線を越えた後ではもうかけられないというのに……」

「季節はずれに雪が降ってもいいんじゃない?」

「その時にだけ意味があるものがあるんだよ」

「例えばどんな風に?」

「君の例え話にはうんざりだよ」

「例えるのはあなたの方よ」

「ああ、早くクリスマスソングをかけなければ」

「クリスマスが終わるまでにね」









 12月の果てにたどり着こうと人々は煌びやかな光に満ちた12月の中を急ぎ足で通り過ぎる。たどり着こうと歩き始めたはずなのに、人々は眩しすぎる12月の光を目の前にするとふと足を止めてしまう。12月の心の中にたどり着くことに抗おうとするもう1つの勢力が存在するかのように足を止めて、自分たちの手元にも12月の光の粒を持ち帰ろうと、12月の街中を探し回るのだ。木々を集め、素材を集め、クリスマスツリー学校を卒業したまちびとに、ウィットやユーモアに富んだ12月のクリスマスツリーを装飾するためのアドバイスを求め、数多い12月の作業の中の1つとして12月の身を捧げ、12月の骨を折るだろう。

「何を吊るすかというのは、これといった決まりはありません」
 まちびとは12月の人々にそう言って優しく12月のアドバイスを送る。
12月のトランプ、12月のサイコロ、12月の消しゴム、12月の傘、12月のチョコレート……
「私が学んだことは、決まりごとに縛られていては何も吊るせないということでした」
12月のサインペン、12月のクマさん、12月のカルタ、12月の鉛筆、12月のロケット、12月の願い事……
早くお正月がきますように!

 12月のケーキ、12月のパスタ、12月のチーズ、12月のピッツァ、12月のスープ、12月のシチュー、12月のポトフ、12月のサラダ、12月のソテー、12月の和気藹々が通り過ぎた後の12月の皿を洗うために、まちびとは12月のパーティーの奥で12月のお湯を溜め込むだろう。12月のトナカイのいびきのように12月の洗浄機は長々とお湯を溜め込んで、それは12月いっぱいになるまで決して開けてはならないのだったけれど、12月の逸る気持ちを抑え切れないまちびとは、ついつい開けてしまうのだろう。からからと乾いた声で12月の鬼が笑う声が、12月のBGMに混じって聞こえる。
 12月の従業員の好みで、ころころと曲がまた変わってしまうのだろう。
「ロックは嫌いなんだよ」
 そして、ラモーンズからカーペンターズへ。


「不完全な12月の中で完全なクリスマスを求めてしまった」

 12月のパーティーを終えた人々が固まって何もないところに12月の行列を作った。12月の枠の中から零れ落ちまいとして、12月の人々はわけもなく着飾られた12月の背中にくっついた。少しでも12月の間を詰めることで、12月の冷気をのけ者にして、見知らぬ12月の布に身を寄せるとその意味も目的も考えずに12月の列を作った。12月の背中に答は書いていなくても、自分の後に続く12月の連なりの中に信頼できるものがあると思うのだろう。何もないところに列ができるなどと考えるよりも、何かがあるから列ができると考える方が、遥かに自然に前向きな12月に思えるのだろう。12月の列の先に何があるのかわからなくても、背負っているのは12月のすべてだった。

「不完全だから愛されるのかもしれないよ」
「どこに続いているのですか?」
「楽しい場所に」
「楽しいな」
「楽しいな」
「今が1番、楽しいな」

 クリスマスツリーに吊るされるはずだった12月の犬を抱きながら、まちびとはめきめきと12月の骨が治る音を聞いた。12月の犬はあたたかく、12月の人々はみんな期待に満ちていて、まちびとは優しい12月が少しでも長く続くことを望みながら、12月の列につながっていた。いつまでもなくならない12月の列の中で、永遠にたどり着かなければいいと夢見ながら。

「紅鮭かな」
「イクラかな」
「梅干かな」
「楽しいな」
「楽しいな」
「今が1番、楽しいな」

 まちびとはうっとりとした12月の期待の中に包まれて、軽やかなめまいを覚えた。
「ウォッカの中にミルクが入っている時はどうなんだ」



 






「その子は月を見ていたんだ」

「どんな顔で見ていたの?」

「僕とは違う目をしていたよ」

「例えばどんな目だったの?」

「例えば、僕が子供の頃に星を見ていたような目だ」

「それであなたはどうしたの?」

「一緒に月を見たんだ」

「どんな顔で見ていたの?」

「今と同じような顔さ」

「冴えない感じね」

「大人の顔はいつも同じさ」

「それが残念なのね」

「星は星、月は月としてしか見えなくなってしまったんだ」

「昔はどうだったの?」

「その子は、ずっと遠くを見るような目で……」

「あなたも本当はそうだったのね」

「ほんの少しの時間で変わってしまったんだ」

「長い年月とも言えるんじゃない?」

「変わったのは僕の方さ」

「変わらなければ誰も生きていけないでしょ」

「その子は、何度も月を見ていたんだよ」

「それがあなたの望みではなかったの?」

「わからない」

「わからない?」

「目の前のものしか見ていなかったのかもしれない」

「それで一緒に月を見たのね」

「とても静かな夜だった」

「人も車もどこかに行ってしまったみたいね」

「クリスマスソングでもかけようか?」

「もう明けたみたいよ」

「そうか、それは残念だ」

「少しゆっくりしすぎたみたいね」

「まあ慌てすぎるよりはいいさ」

「聴きたければかけてもいいのよ」

「やめておくよ」

「別にいいのに……」

「今年も、クリスマスにはならなかったか」



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12月の席替え

2012-12-29 21:54:21 | クリスマスソング
「クリスマスソングをかけようか?」

「そろそろそういう時間帯ね」

「どこか異国の歌がいいね」

「ワムとかジョンレノンとか?」

「母国語だと言葉を聴いてしまう」

「聴くためにかけるのでしょう?」

「聴くためだけど聴くだけのためじゃない」

「他に何があるというの?」

「クリスマスだけが12月ではないということさ」

「大掃除やお正月の準備もあるということね」

「クリスマスに比べればそれは些細な問題さ」

「クリスマスは1日だけのことでしょう?」

「1日で終わるのは、お正月の方だよ」

「そんな馬鹿な! お正月っていうくらいよ」

「いや一瞬かもしれない。それに比べてクリスマスは……」

「歌詞には興味がないの?」

「母国語だと言葉を追ってしまうからね」

「追うことの何がそんなに問題なの?」

「追っている間に他のことが疎かになってしまう」

「例えば何なの?」

「君は何でも例えなければ理解しないのか?」

「あなたの方にも問題はあると思うけど」

「僕らは12月に追われる身なんだよ」

「どこに向かって追われているの?」

「到達点は境界線だよ」

「もうそろそろね」

「追われる者だけの時間があるのさ」

「さあ、クリスマスソングをかけましょう」

「ああ、クリスマスソングをかけるとしよう」








 トナカイがいないせいで物悲しくなるのだろう。12月のファッションショーは、信号の変わり目を待つ12月のライダーも、12月の客足を待つ12月のレジ係もみんな憂いのサンタ一色になる。12月の名残惜しさと12月のLoveを持ち寄った恋人たちが行き交う道を、まちびとは耳に12月のクリスマスソングを当てながら歩くだろう。まちびとは12月のクリスマスソングを愛し、12月の道を愛していたので、そこにしあわせのとりあわせが生まれていた。12月の道の上には種々のhappyなとりあわせが落ちていて、まちびとはそれらを見つける度に、得意になって12月のノートを開いてはリストを1つ更新するだろう。みそとスープ、きつねとたぬき、猫とダンス、苺とショート、キノコとパスタ、コーヒーとミルク、たまごとご飯……。愛するものと愛するものが12月の手を取り合って1つのしあわせのとりあわせを作る。あるいは、1つでは足りないものと足りないものが重なり合って、新しいしあわせのとりあわせとなり得るのだろう。まちびとは冬の散歩道と12月のクリスマスソングをとりあわせて12月のリストに加えると、12月の同期を試みる。


12月の予期せぬエラーが発生しました。


 限りられた12月のコンビニエンスストアの中に1度に入ることができるのは1人までで、永遠の愛を誓った12月の恋人たちでさえ、その中に入るためには離れ離れになるしかないのだろう。まちびとは背中に長い12月の列を意識しながら、12月の決断を迫られるだろう。12月の遠足が求めるおやつ、ヨンミーとポリンキー。まちびとは今まで培ってきた感性と12月の決断力で、しあわせのとりあわせを選ぶだろう。


「あなたは遠足に来たのではありません。働くために来たのです。今日からあなたは働き蟻です」
 まちびとは12月の誤解の中で、おやつを捨てて12月の蟻にならなければならなかった。
「もうすぐ12月の紅茶が入ります」
 まちびとは12月の紅茶に備えて、厚紙の中に納まった12月のスプーンを1本ずつ抜いていく。慣れない作業の中、ひ弱な指先と12月の間に生まれたちょとした心の隙が、まちびとの手を切ってしまうだろう。12月の流血と学び。
「紙で手が切れるということを忘れないように。色々なことを忘れてしまうと思うけど。例えば……」
 まちびとは店長の12月の例え話の中で色々なことを思い出し、これから先忘れてしまう数々のことを前もって学ぶだろう。限られた12月の中で、何度か大事なことを忘れて、12月の手を切ってしまうだろう。
 12月の水を足せないグラスがあったとすれば、それはグラスごと変えればいい。1度も手をつけていなかった12月の水が、新しいグラスに取り替えられる。それは新しい12月の氷が入った水だ。

「あなたは水について多くを学びました」
「ちょうどいま12月の大臣の席が空いています」
 知らず知らずの内に、まちびとは大臣の修業を積んでいたことにようやく気づくのだろう。


「気がついたら、できていました」
 そして、まちびとは12月の大臣になった。限られた12月の中でいったい何ができるのか、それはこれから先の課題となるだろう。大いなる期待と、12月の過大な好奇心を持って、もうすぐ12月のテレビ局が大挙して取材に押しかけるだろう。
 まちびとは充実した学校生活を送りながら、大臣も頑張っています。

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12月のパフォーマンス

2012-12-28 00:26:17 | クリスマスソング

「クリスマスソングをかけようか?」

「本当にクリスマスソングが好きなのね」

「季節に因もうとしただけだよ」

「好きなら好きと言えばいいんじゃない?」

「僕の愛が12月に偏っていると言いたいようだね」

「偏っているというより回りくどいようね」

「愛が12月に集まっても平気かと言うんだね」

「集まるところがあればそれでいいんじゃない」

「君の態度は少し投げやりじゃないか」

「クリスマスソングをかければいいじゃない」

「そうして君はすぐに話をはぐらかしてしまう」

「あなたは本当に意味がわかっているの?」

「迷い込むなら、僕は本題の中でそうありたいんだ」

「夏も冬も平等に愛せる人もいるでしょうけど」

「でもその場合、1つの愛は小さくなるはずだ」

「どうしてそうなると思うの?」

「絶対量が決まっているとすれば、当然そうなるじゃないか」

「愛した分だけ大きくなるということはない?」

「勿論あるだろうさ」

「あるの? 本当に?」

「絶対量が決まっていなかったとしたら、そうなってもいいじゃないか」

「もう、クリスマスソングでもかけましょうか?」

「クリスマスソングの中に逃げ込みたいんだね」

「クリスマスソングの中に答えがあるかもしれないわ」

「そんな都合のいい話があるものか」

「気分転換は必要でしょう」

「確かにそうだ。それ以外の何よりも必要だろう」

「ではかけましょうか?」

「どうせ答えなんてないんだから」

「教師がどうせ、なんて言ってもいいの? それこそ投げやりじゃないの」

「どうせだけに反応するのはやめてもらいたいね。今言ったどうせは、投げやりに言ったんじゃない」

「何なの?」

「僕が言ったのはあきらめのどうせではなく、見極めのどうせなんだ」

「色々などうせがあるのね……」

「愛という不確かなテーマに確かな見切りをつけた、愛のあるどうせなんだ」

「ふーん、そろそろ限界ね」

「では、クリスマスソングをかけるとしよう」







 息を吹き返した怪獣が一皮脱ぐと12月が始まって、人々は12月の汚れの付着した洗濯物を抱えては12月の街に飛び出していく。12月のまちびとは、話し相手を見つけては12月の足を止めて話し込むだろう。話しておくべきことは12月が12月である間に話しておかなければならないのだ。12月を話し込んでいる間にも、それぞれの12月の大陸から王者たちがやってきて、12月のために用意された戦術や12月のために磨かれたパフォーマンスを見せる。12月の王者になるために、海を越えてやってくる旅人たちを12月のカメラを手にした人々が熱く歓迎するだろう。それまで季節に深く関わってこなかったまちびとも、世界から集合してくるという12月の流れと、何かが始まるかも知れないという12月の期待感の中で、自分のやってきたこと、やってこなかったことすべてを棚上げにして、熱心に話し込んでしまうのだろう。

「入門書を買ったんだ」
 子供の頃にまちびとは釣りをしたことがあった。入門書を3冊同時に買い込んで、ページを開いたのは、最初に手に取った本のわずかに数ページに過ぎなかったのだというような話も、12月の聞き手は優しく聞き流してくれている。そうだね、そういうこともあるんだね、と時を吸い取っていく12月の儚さが、それまで頑なだった色々なものを溶かして寛大にしてくれるのだろう。



「カルボナーラ1つ」
 優しさに付け込むように、靴下を積み上げて、12月の無法者が無理な注文を通そうとしている。
「まだ足りないか」
 12月の無法者は舌を巻いて、カウンターに靴下を積み上げては、12月のカルボナーラを食べようとしている。
「これだけ積んだら十分だろう」
「申し訳ございません。靴下を積まれても困りますので」
「何だって、12月はクリスマスだろう」
 12月の無法者は、不満を訴えながら12月に舌鼓を打ったが、その運用すべては12月の誤用に違いなかった。



 12月のカップを抱えられるのは真の王者だけだったけれど、まちびとはそのカップを載せる小皿の縁くらいには自分もいるのかもしれないと勝手に感じながら、12月の見せる足技の中に便乗して、興奮を抑えられなくなると12月の洗濯物も放置したまま、12月のお菓子を求めて街に飛び出すのだった。
 12月のお菓子を12月の籠いっぱいに買い込むとまちびとは12月のテレビの前に陣取るだろう。
 待っても、待っても始まらない。まちびとのテレビは、ずっと8月の中旬で止まったままなのだろう。

「テレビなんてまるで駄目だな」
 日本シリーズは延々とやるのに、凍りついたテレビはまちびとの前で12月の夢を映してはくれなかった。後に残った12月のお菓子をぼそぼそと食べてはみるが、12月の目標を見失ったお菓子は味気なく、いつまで食べ続けても12月の袋の底を見ることはできない。どうしてこうなる、本当はどうなっているのか。まちびとは永遠に始まることのない12月の試合の前に置かれたまま、ただ取り残された12月の自分だけを哀れみながら噛み締めていたのだ。早く始まった方がいいのに……。このままいては、12月のくよくよと共に12月の自分も滅びてしまう。



「早く変わればいいのに」
 信号待ちに12月の風が吹いた。間もなく12月のまちびとは、12月の歩道を渡って、新しい街へとたどり着くだろう。
 まちびとは、差し出された地図に12月の目を走らせて、新しい12月の行き先を探る。
「角に12月のセブンイレブンがあって……、あっ」
 話の途中でまちびとは12月の地図を引き取ってしまうだろう。再び燃え上がってくる12月の興奮を抑え切れなくなって。12月の盗人のように、親切な12月の案内人の手から、12月の地図を奪うと、限りある12月の世界の中をかけていくのだろう。
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12月の商店街

2012-12-27 00:30:09 | クリスマスソング
「右見て、左見て、そう」

「月じゃない。そこで月は見ない。月はいつでも見れる。今は地上を見ましょう。自然もいいけど、今はもっと目の前の大事なものを確認しましょう。さあ、やってみよう」

「右見て、左見て、はい」

「月じゃない。月は見てもじっとしてる。じっとしてるから安心だ。今は特に見る必要がない。流れで考えましょう。前に進む流れを考えて。少し考えれば難しくないから。みんなできるんだから、大丈夫、リラックスして。もう1度やってみよう」

「右見て、左見て、そう」

「月じゃない。月は雲に隠れてしまいました。はい、さようなら。月がさようならと言いました。はい、切り替えよう。気持ちを切り替えて、集中しましょう。できますよ。もう月は見れませんからね。さあ、やってみよう」

「右見て、左見て、はい」

「月を見た。はい、月が顔を出しました。おかえりなさい。月が帰ってきましたよ。よかったですね、もう月が帰ってきた。ただいまと言って月が帰ってきた」

「よーし。先生も一緒に月を見るぞ。月が綺麗だ。月はいつも綺麗だな。何よりじゃないか」








「気分転換にクリスマスソングでもかけようか?」

「重いの?」

「思うように授業が進まなくてね」

「かければいいんじゃない?」

「まだ少し早いと言うんだね」

「どこでもみんな早くなっているみたいよ」

「違うんだよ」

「何が違うの?」

「そうしないともう間に合わないんだよ」

「クリスマスまでに?」

「遠足もクリスマスも同じなんだよ」

「家に帰るまでが大事なのね?」

「始まる前にもう始まっているということさ」

「おやつやプレゼントを準備するということね」

「その時になってからでは間に合わないんだ」

「何事も準備が大切ね」

「歌は1日よりも長いということなんだ」

「そんなに長いの?」

「それだけクリスマスソングはたくさんあるということさ」

「そんなにあるの?」

「あるんだよ」

「いつも聞いた風な歌ばかりに思えるけど」

「君はいったいクリスマスソングがいくらあると思っているんだ?」

「まあ、それはたくさんあるでしょけれど」

「山ほどあるんだからね」

「星の数ほどあるってことね」

「今こうして、くだらない話をしている間にも、新しいクリスマスソングが生まれているかもしれない」

「くだらない話とは思わなかったけど」

「同じことを繰り返しているという意味さ」

「言われてみればそんな気もするね」

「もっと愛のある話をすべきなのに」

「クリスマスソングを聴きながらね」

「早くかけないととても間に合わないよ」








 限りある12月の中で人々は冬期限定の商品を好むだろう。12月の人々の気持ちを察するように、12月の街にはそのような物たちがあふれ、人々の足を止め心を引き付ける。限定のまな板、限定の靴下、限定のパンダ、限定の雑巾、限定の音楽、限定の野菜、限定の式典、限定のカード、限定の合言葉、限定のギター、限定のグローブ、限定の映画、限定のポン酢、限定の先生、限定の妖怪、限定のドーナツ、限定の愛情……。限りない宇宙の中に限られた定めが、日々を食い尽くす12月の中で、街の明かりをより一層美しくするだろう。12月の足並が日々を渡る度に、有り余る光が12月の道に落ちる。12月の人々はそれを大事に拾うだろう。12月の人々はそれを惜し気もなく踏み潰すだろう。12月の人々は限りない限定の中を通り抜けて、空の下にたどり着く。

「今日は傘が必要だろうか?」
「必要になっても不思議ではないね」
 まちびとの質問に、限られた林檎は曖昧な返事を返す。12月の商店街は暖かく、まちびとを雨風から守ってくれる。
「道に沿っているのがいいね」
 どうして12月の商店街に引き込まれたのか、まちびとは自分なりに分析してみる。
「縦に長いのがいいね」
 歩き続けるには好都合だった。道というのは、縦に長いものだった。
「母親の胎内にいるみたい」
 記憶がない限り、否定することも難しかった。
「電車に乗っているみたい」
 縦に長い形状が、12月の電車を思わせた。

「外は雨みたい」
 天井を、何かが叩いているような12月の気配がする。
「何を売っているんだろう?」
「何時までやっているんだろう?」
「誰が訪れるんだろう?」
「奥行きはどれくらいあるんだろう?」
 通り過ぎるだけで12月の謎に満ちていたが、通り過ぎる限りでは何もわからないことばかりだった。
「通り過ぎるだけで成長できるみたい」 それはまちびとの12月の夢に過ぎなかったが、どこかにそのような商店街もあるのかもしれないと思った。限定の鍋、限定の帽子、限定の忘れ物、限定の看板、限定のカーテン、限定の絨毯、限定のチキン、限定の和菓子、限定のダンス、限定の着物、限定のジャケット、限定の針と糸、限定の茶の葉、限定の書物、限定の薬剤……。
「何代続いているのだろう?」
「この先はあるのだろうか?」


 果てしない12月の商店街を抜けると外は雨だった。やはり雨だったとまちびとは思う。
 バケツをひっくり返した12月の雨が降ってくる。
「バケツの方を拾うのよ!」
 まちびとは12月の林檎の言う通りにした。また、商店街に逆戻った。

 12月の帰り道には、今まで見逃していた言葉たちが落ちている。
「大好きなかりかり梅ふかけをかけて食べました。でもお兄ちゃんはふりかけが好きではありません。しいたけの軸の方が好きと言います」
「どうさせていただきましょうと丁寧に訊いてきます。それは打ち首のタイプです。丁寧な言葉で訊いているけど、その人は止めを刺そうとしているのです。罪人があっさりタイプにしてくれと答えました」

8月の花火

「朝の新聞がなくなってから世の中のことを知る早さは変わらなかったけど、真ん中辺りを開かなくなった気がする。時間が空いた分、何かを話そうと言うと怖い話を始める彼女は優しいのか優しくないのかわからなくなった」
 遡れば埋もれた言葉たちが待っている。まちびとは漏らさないようにバケツの中に入れていく。
「ほどほどにね。きりがないんだから」
 落ちているものに、無関心を貫くことなどできるだろうか。まちびとはとてもできないと思う。

6月の雨

「無敵の無知ということものか、加減をしない子供は目一杯動いてから、突然電池が切れたように眠ります」
「私たちは歩み寄りました。わかろうとする者と伝えようとする者とが歩み寄って、小さな理解が生まれます」
「あんたは鳴り物入りで入ってきた。けれども所詮レトルトカレー。匂いが味に勝っていたんだ」

3月のさよなら

「お金がないから無駄話ばかりしていました。人もいないし本格的な戦闘は1分で終えて、後から振り返る形にしてチェスで説明しました。あの時の戦闘は、実はこうだったんだよ」
「西の国に金塊を探しに行く途中、荒れた大地に出会う。素通りするわけにはいかず、私は限られた救世主になった」

 12月のバケツはもうあふれそうだった。
「ほどほどにね。未来にも生きないとね」
「もう少しだけ戻ってみようよ」
 12月の商店街は、1つ1つ明かりを消して12月のシャッターを閉ざし始めていた。
「もうバケツがいっぱいじゃないの」
 まちびとは12月のバケツを12月の右手から、12月の左手に持ち替えた。

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12月の運動

2012-12-26 19:44:42 | クリスマスソング

「クリスマスソングでもかけようか?」

「少し早くない?」

「早いと言えば早いけど、何が早いんだろうね」

「最後に足りなくなってしまうとか?」

「君はラスト・クリスマスしか知らないんだろう」

「ワンダフル・クリスマスだって知ってるわよ」

「世界中には星の数ほどクリスマスソングがあるんだよ」

「だいたいどれくらいあるの?」

「星を数えてみればすぐわかることだよ」

「今日は無理みたいね」

「宇宙に行ってみればいいんだよ」

「他に知る方法はないの?」

「君はいったい何を知りたいんだ?」

「確かクリスマスソングのことだったと思う」

「それが確かだとして、君はそれで宇宙にまで行くと?」

「確かあなたに勧められたような気がするけど」

「僕が言いたいのはね」

「クリスマスソングをかけるんでしょ」

「いいやそんなことじゃない。他人の話に簡単に乗りすぎるのはどうかということだよ」

「宇宙に行くのはやめておくわ」

「果たしてそれでいいのだろうか?」

「どういうこと? まだ何かあるの?」

「僕が言いたいのはね」

「まだ何か言い足りないのね」

「他人の話に簡単に流されるのはどうかということだよ」

「でも人の話を聞く柔軟さは大切でしょう」

「宇宙に行くか行かないか、君は君自身で判断すべきなんだ」

「それはそうね。でも私は、後でちゃんとそうするつもりだったのよ。最後にはね」

「まだ少し早いけど」

「かけてもいいんじゃない? クリスマスソング」







 12月の人々はそれぞれにテイクアウトを好み、12月のショップに足を運んではそれぞれ目当ての商品を注文する。12月の思考の中では、意思決定もままならず、注文カウンターにたどり着いてからなかなか12月の注文が定まらない人もいて、そうした12月の人々の後に長い行列が続いてしまう。まちびとは12月の家を出る時には、目的の商品を決めていて、それはもう前の日の晩から欲しいと思っていたもので、12月の夜を通過してもその決定に少しの揺らぎも生じなかったのだ。
 12月を重々しく着飾った人々の中を、まちびとは12月の長々としたマフラーを巻きつけて歩くだろう。凍りつきそうな12月の道の上には、いつも12月の手袋が片方だけ落ちていて、捨てられた悲しみからかおかしな形をして手を開いているのだろう。慌しい12月の道の上では、誰1人それを拾い上げて、持ち帰る人はいないだろう。一瞬気をとめたとしても、すぐに12月の本題を思い出して、早々に12月のブーツを踏み出していくのだ。
 12月の本題、それは間違いなく、目当ての商品を無事にテイクアウトすることに他ならなかった。
 まちびとは12月の注文カウンターにたどり着いて、正確な12月の発音で注文を告げる。返事はない。けれども、目と目で会話が通じたことを信じてまちびとは、そのままそこに留まっている。まちびとはお金を取り出して、12月のカウンターに向けて差し出そうとするが、届かない。札は、硝子に跳ね返って12月の自分の中に戻ってくるだけだった。身寄りのない犬が、12月に震えているのが見えて、撫でようと近づく。まちびとの手が触れようとすると、犬は12月のように逃げ出してしまう。逃げた距離だけ近づくと、12月の犬は待っている。再び撫でようとすると、犬は12月のように身を引いてしまう。まちびとは、すっかりテイクアウトのことを忘れて12月の犬とかけっこをしながら、12月の街の中に溶け込んでしまった。



「久しぶりに、いい運動になった」
 12月の犬は、逃げているのではなく、まちびとを運んでくれていたのだった。
 導かれるように店の中に入る。店の中には12月にふさわしいロックビートが流れている。
「ここは俺の席だ!」
 まちびとが12月の席に座っていると、後から入ってた12月の男が怒鳴りつけてくる。すぐに店員も駆けつける。
「お客様、先客がいらっしゃいますので」
「俺が先約じゃないのか!」
 まちびとは、別の場所に12月の移動をしてもいいと伝えたが、12月の店員はそれも認めなかった。
「ここはお客様の席ですのでどうぞお座りください」
 12月の犬が入ってくるとまちびとの隣に座り、12月の鋭い眼光を正面に向けた。12月の男は不満げな様子だったが、12月の犬に恐れをなして、渋々別の席に移動する。
「ホットレモンティーと12月の苺ショートを」
 12月に束の間の平和が訪れた。12月の窓の外では、12月の車が徐行しながら狂ったように人の名前を連呼している。

「俺は10円しか持ってないぞ!」
 12月の怒りが、またしても12月の店の中に響き渡る。
「お客様、あわあわ、あわあわ……」
「ワンコインだぞ! おまえらコインを差別するのか!」
「お客様、あわあわ、差別だなんて、そんな、あわあわ……」
 12月の収拾不能の混乱の中で、12月の天井から12月のバラードが流れ落ちた。12月の激しい音階の流れから、突然変わった12月のトーンだった。その登場の仕方で、12月の怒る者も12月の宥める者も共に、泣いてしまったのだろう。


1つの歌などで、人はどうしてあんなにぼろぼろと泣くんだろう……。
 まちびとは12月の犬を見ながら12月の疑問を抱いた。
ぼろぼろとって、どんな風?
 12月の犬は、まちびとに向かって新たな12月の疑問を返した。

「足元が大変寒くなっておりますので」
 宥めを終えた12月の店員が、まちびとのために12月の膝かけを持って来てくれる。

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12月のロケット

2012-12-26 00:48:31 | クリスマスソング

「そろそろクリスマスソングでもかけようか」

「どうでもいいけど」

「それは聞き捨てならないね」

「かければいいんじゃない?」

「どうして猫が眠くなると思う?」

「生まれつきじゃない?」

「現実世界に興味を失うからさ」

「そんなわけはないでしょう」

「そして夢の世界に旅立つ」

「眠るってことね」

「猫は夢科の生き物だからね」

「そうだったの?」

「人間だってそうさ。興味を失えば眠くなる。意欲を失えば自然と帰りたくなる」

「どこに帰るの?」

「自然に帰るのさ。自然ってのは恐ろしいね」

「自然は恐ろしいの?」

「恐ろしいばかりではないよ。自然は偉大な母でもあるからね」

「お母さんはどんな人だったの?」

「とても暗算の得意な人だった。母は先生でもあったんだ」

「夢科の?」

「教師はどんなことにも興味を持たなければ」

「どうでもいいことにも?」

「勿論そうさ」

「そろそろクリスマスソングが聴きたいな」

「少し早い気もするけどね」








 12月の街々で、12月のメッセージが12月の人々の手に配られる。どこかで耳にしたような、希望に満ちた言葉の数々を聞き分けながら、12月の人々は迷い、戸惑い、拭い切れない疑いを、クリスマスソングの中に溶かして歌い始める。光に満たされた12月の中で、歌に乗せれば言葉はより希望めいて、12月の足取りを軽くしてくれるから。強い言葉で伝えようと、12月に爪を立てれば、12月のあちらこちらで飛び交うのは12月の失言で、犬も兎もヒーローも自転車も、嫌々サンタの格好をさせられた者たちは、手に手に禁句トングを持って、12月の道々に落ちて傷んだ言葉たちを拾って歩くのだった。

「もうこれ以上、私たちの足を引っ張らないでください」

「どうして人を好きになるのだろう?」

「どうしてハッピーターンを好きなんだろう?」

 まちびとはいつも午前0時に眠る計画を立てながら、日々失敗に終わることに12月の疑問を抱いていた。ちょうどその時間にベッドに入っても、遅れることを予め警戒して早期に進入を試みても、いずれも失敗に終わっていた。いつものように0時を回れば瞬く間に1時、2時、となり、気がつくと3時になっているだろう。その間の時間の流れが上手く体感できず、自分次第でどうにでもなるはずの時間が、何だかんだで同じ時に導かれていく気になるだろう。まちびとは予言された結末を避けるために奮闘する物語の主人公を思い出す。運命に逆らって、逆らって、工夫の限りを尽くした果てに、結局はより大きな運命の力に弄ばれるように、同じ末路をたどるのだろうか。

「設計図に書いてあるんだよ」

「どのように書いてあるの?」

「君はハッピーターンを好きなキャラだと書いてあるんだ」







 雲の中を12月の月が流れていくように、階段の手すりの隙間から12月の何かが駆けてくる。その姿を確かめようとまちびとが目を凝らせば12月の何かは消えてしまい、まちびとが目を逸らしているとまた12月の何かが現れる。現れては引き付け、姿を隠しては不安にさせる。いるようないないような、あるようなないような不確かな存在に関心を募らせていることが、12月の恋かもしれないとまちびとは考える。12月の月への憧れが高まると12月のロケットに乗って飛び立った。

「外はパリパリ」

「中はやわらか」
 まちびとは合言葉を誤らず、無事12月の宇宙門を通過した。



 おしゃれなブティックが立ち並ぶ12月の火星では、着飾った宇宙人たちが12月の街並みを歩いている。宇宙色豊かな12月の飲食店が軒を並べ、12月の宇宙人たちが思い思いの12月を取り入れた鍋を囲みながら、宇宙談義に12月の花を咲かせていた。
 まちびとは12月の自動ドアの前に立つ。まちびとの存在に12月のドアが動じて、メッセージを読み取ることができない。まちびとは12月のドアに刻まれたメッセージを読み取ろうと、後ずさりする。12月のドアがメッセージをつれて戻ってくるが、間が開きすぎていて読み取れない。まちびとは離れた場所から12月のドアを撮影してみる。落ち着いて、拡大解釈してみると、金星人お断りというようなことが書いてある。
 12月の宇宙バーの中では、地球のバラエティー番組が放映されているだろう。まちびとは12月のマスターの話に耳を傾け、こっそりと地球の裏話を聞くだろう。
 UFOの派遣目的は、主に意識調査のためであり、地球人の関心の強さを測っているのだった。宇宙人的専門機関はどれくらいあるのか、専門チャンネルはどれくらいあるのか、視聴率はどれくらいなのか、専門の大臣はいるのか、任期はどくらいあるのか、地球人の意識への関心はかなり広がっているのだろう。

「12月になると意識ががらりと変わるけどな」
 マスターは、その理由はよくはわからないが、と12月の首を傾けた。
「土産物屋はあるかな?」
 まちびとは実際にどんなものを買うのがふさわしいのか、よくわからなかった。結局決めかねて、12月の宇宙の中では選べずに、帰りのNASAで買うことになるかもしれないと思った。とにかく、もうすぐ12月のみんなが宇宙に旅立つことになるだろう。まちびとにとってそうであったように、誰にとっても12月の地球は窮屈で忙しなく、それに比べて12月の宇宙から眺める12月の地球イルミネーションは、まちびとの目にこの上なく美しく映っていたのだから。
 旅立てばすぐに恋しくなって、帰ってくるだろう。そうなるためにも、まずは旅立つべきなのだと12月は歌うのだろう。
 
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12月の濡れ衣

2012-12-25 20:30:40 | クリスマスソング


 まちびとの手からカブトムシが放たれた。







「そろそろクリスマスソングでもかけようか?」

「あなたが聴きたかったらかければいいんじゃない?」

「僕は自分の考えが信用できないんだ」

「担任が決めればいいんじゃない?」

「僕は副担任の意見を最大に尊重する教師なんだ」

「私に聴きたいと言って欲しいわけね」

「無理に言って欲しいわけではないんだ」

「何がそんなに心配なの?」

「心配がまるでないわけではないけどね」

「心配があふれているのかと思ったけど」

「心配してもきりがないからね。それに心配というのは、当番制なんだ」

「曜日でテーマが決まっているの?」

「時々で更新されるんだよ。より大きく新しい心配が生まれては、古びた心配が呑み込まれる」

「無限に増えていくよりは良さそうだけど」

「クリスマスソングのように?」

「クリスマスソングは無限なの?」

「減少していくように見えることがあるよ。それが少し心配なんだ」

「もう十分にあるからいいんじゃない?」

「十分? 君は12月が何日あると思っているんだ! 何分何秒あると思っているんだ!」

「数えたことはないけれど」

「数える必要があるものか!」

「クリスマスソングが足りないと?」

「このままいくとね。このままのペースでいくと足りなくなるかもしれない」

「誰かが新しく作ってくれるんじゃない?」

「誰かとは?」

「音楽家の誰かよ」







 12月の夜が明けたとしても、12月の人々はなかなか布団から出ることはできずにいる。ありきたりな目覚まし時計の音ではもう12月の人々は目覚めることなどできなくて、仮に少しは目覚めていたとしても、12月の寒空の下と暖かな布団の中とを比較してみれば、遥かに魅力的だったのは12月の後者の方だった。惹かれるままに、もう1度12月の夢の中に戻ろうとする時、不意にどこかで12月のコーヒーカップが12月の地面に落ちて割れてしまうと、それが最も効果家的な12月の目覚まし時計となるだろう。朝が訪れる度に、12月のあちらこちらでコーヒーカップが割れて、12月の人々はようやく足並を揃えて12月の朝の扉を開く。
 光を帯びた自転車が12月の犬と並んで旅の支度をする頃、果てしなく続く12月の商店街の天井には、バンザイをしてはしゃぐ12月の白熊が吊り下げられて、12月の人々に新しい時の訪れを警告している。



「アブラムシを増やしたな!」
 12月の捜査員がまちびとの仕業と決め付ける。
「調べはついてるんだぞ!」
 まちびとは12月のカレー屋での出来事を包み隠さず話し、すべては12月の誤解に違いありませんと話す。窓に映るあらゆる人々が12月の中にはいず、未だに10月の中を彷徨っていたり、遥か遅れた3月の中に留まっていたこと、船長との決闘の中で日々剣のさばきが向上していった過程などについて事細かく説明して、1つ1つ12月のもつれを解こうと努力した。結果的に、放してしまったのは、12月のカブトムシだった。
「連動して捜査が進んでいたんだぞ!」
 12月の捜査員の結論としては、とにかく早期解決して、12月の事件を結論付けなければならないということ。どう考えても犯人しか知りえない情報を知っているので、どう考えても、まちびとが犯人であるということだった。

犯人しか知りえない、子供の頃に飼っていた犬の名前。
犯人しか知りえない、好きなおでんの具。
犯人しか知りえない、最初に買ったCDのタイトル。
犯人しか知りえない、初恋の人の名前。
犯人しか知りえない、6年生の時の担任の名前。

「おまえがもしも犯人だったらな!」
「すべて濡れ衣です」
 1つの間違った前提が、12月の捜査を狂わせて、1つの間違った結論に通じていった。
「知っていることはすべて話しました」
 まちびとは最後に小さなうそを1つついた。12月の濡れ衣を脱ぎ捨てるために。


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12月のカブトムシ

2012-12-25 00:02:39 | クリスマスソング
 もうすぐ12月の雲が集まって、12月の街に12月の雨を降らせるだろう。まちびとは突然12月の雨が降ってきたと驚いて傘を開くだろう。12月の折り畳み傘。まちびとの予想を遥かに超えた12月の風にあおられて、傘は骨を折って萎んでしまう。まちびとの無力な手の中で、何とかして立ち直ろうと12月の折り畳み傘は何度も何度も、12月の風に逆らおうとするけれど、折り畳み傘という物は何月であろうと元々壊れた物であって、12月はその宿命をより一層明白にするだけだった。
「生きるというのは壊れ行くことだな」
 まちびとは壊れた12月の折り畳み傘をあきらめて、商店街に逃げ込む。同じようにして逃げ込んできた人々が、12月の商店街の中にはあふれていて、まちびとはその甘ったるい足並とクリスマスソングに嫌気がして、何かその穴埋めをするものを口の中に求め、12月のカレー屋さんに入って12月のカレーを注文する。12月の冷たい水を飲みながら、12月の窓を眺めていると、さっきまで同じ場所を歩いていた12月の人々が、今ではもう遠い8月や5月の人に見えてしまう。まちびとはすぐその考えを修正する。彼らはそのままだ。自分の方が7月の中にいるのではないか……。海賊船に乗って、12月のカレーが運ばれてくる。早いもので、もう12月がやってきたのだった。船長の投げた剣を受け取って、まちびとは12月の船長と1対1の勝負をする。
「壊れたものたちの仇!」
 まちびとの怒りの剣が一振りで12月の船長の首を飛ばす。
 12月の船長は負けを認めると自らの首を胸に抱えながら、ごゆっくりどうぞと挨拶する。まちびとはゆっくりと12月のカレーを味わう。この辛味、この刺激、このスパイシー、この痛みこそが、求めていたものだった。甘ったるく疲れ切った12月の体内に、求めていたもののすべてが流れ込んで、まちびとは12月の上もない満足感を覚える。
「ごちそうさま」
「お口直しにカブトムシをどうぞ」



えっ、何だって、
 まちびとは今までの12月の自分を踏みにじられたような気分になる。同時にそれは12月のマニュアルに従った贈り物なのだから、断ることもできないと思う。何かを直すというなら、12月のカレーによって12月の甘さに手を加えたのは自分の方だった。それがあべこべになったまま、贈り物を受け取ることが、12月の大人だというのか。まちびとの抱えた問題は12月よりも大きく、厄介だった。
「ありがとう」
 まちびとは12月の間中、12月のカレー屋さんに通い、12月のカレーを食べ続けた。12月の窓から見る人々との間に少しだけ月日の隔たりを感じる。彼らは忘れられた6月に留まっているのではないか。あるいは自分が見捨てられた10月にいるのかもしれない。海賊船に乗って12月のカレーが運ばれてくると正気に返る。早いもので、また12月がやってきたのだ。船長の投げた12月の剣を受け取る。
「壊れたものたちの仇!」
「ごゆっくりどうぞ」
 まちびとは12月のカブトムシを持ち帰る。持ち帰っては愛情を注ぎ、持ち帰っては競い合わせ、いつしかまちびとの12月はカブトムシの王国へと変貌を遂げていくのだった。
「いらっしゃいませ。いつもありがとうございます。」
 まちびとは12月の愛好者として、すっかり店の人にも一目置かれる存在となった。
「誰もが歌いたくなる12月に、寒さがいよいよ押し寄せてくる12月に、お客様はいつも文句も言わずにカレーを食べに来てくれます。カレーだけを食べるために足を運んでくれます。いつもいつもありがとうございます。本当は言いたいことの1つもあるでしょうに……」
 まちびとの言いたいことはカレーの中にはなかった。海賊船についてもなかったし、船長の剣の腕前についてもなかったのだ。あるとすればそれはカブトムシについてあるのだろう。まちびとはもう十分にカブトムシを頂いたし、望みもしないのに何度も何度も繰り返し頂いたし、その好意の数だけそれを受け入れ、12月の王国を作り上げたのだけれど、その主であることに12月の疲れを覚えていたのだった。それをカブトムシに言っても始まらなかったし、船長に言ったところでなお仕方がなかった。悪気のない人たちに、何を言うことがあるだろうか、とまちびとは考えた。12月の窓から見る人々との間に少しだけ月日の隔たりを感じる。彼らは旅立ちの4月の中を歩いているのではないか。あるいは、自分が夜のこない7月の中に浮かんでいるのだろうか。海賊船に乗って12月のカレーが運ばれてくると正気に返る。早いもので、また12月がやってきたのだ。船長の投げた12月の剣を受け取る。
「おのれ! 破れたものたちの仇!」
「ごゆっくりどうぞ」
「ありがとう」
 まちびとは12月のカブトムシを持ち帰る。



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12月の装備

2012-12-24 20:11:43 | クリスマスソング
「右見て、左見て、そう」

「こらこら月を見てはいけない。
月を見るのはいいことだけど、今は見ている場合じゃない。
まずは道を渡ることに集中しなさい。月なんてものはね、いつだって見れるんだから」

「右見て、左見て、そう」

「こらこら空を見てはいけない。
今は道を渡ることに集中しなさい。
見るなら、ちゃんと渡り切ってから見なさい。それなら、先生、何も言わないから」

「右見て、左見て、そう」

「あー、難しいかな。先生の教え方がわるいかな」







「一曲かけてみようか?」

「かけてもいいんじゃない」

「そろそろかけていかないとね」

「子供たちはどうだった?」

「単純なことが伝わらなくて」

「色々と大変ね」

「覚えることが多すぎるんだよ」

「あっ、今メリークリスマスって言った」

「アルファベットを並べて、数式をつないで……」

「クリスマスソングじゃない?」

「それで突然、歌ったりするんだからね」

「クリスマスソングだ」

「密かにクリスマスソングなんだよ」

「メリークリスマスって言ってますよね」

「そう聞こえたなら、それでいいんじゃないか」








「靴下はいらんかえ」
 12月の街に靴下売りの声が響き渡る。それぞれに先を急ぐ理由を持った12月の足音が、12月の狂った北風にあおられて寒い寒いと歌っている。まちびとは既に12月の家を出る時に12月の靴下を履いていたが、12月の地の底から吹き付けるような風がまちびとの12月の足元を幾度となく襲うので、少しは12月の靴下売りの声に耳を傾け、実際にどのような靴下があるのか、12月の手に取って見たり、その色や形を確かめてみたい気分でもあった。今までの季節には十分だった靴下も今この12月となっては既に時代に遅れ、貧弱な装備だけを身につけて12月の冒険に旅立つ戦士や魔法使いのようにも思えるからだった。
「靴下かえー、靴下かえよー」
 靴下売りのしゃがれた声が、12月の道の上を散歩する老人や、12月の犬の耳元にまで届くだろう。偶然それを耳にした12月の貴婦人が、12月の真ん中に躍り出るようにして現れるとその手に12月の帽子を掲げて、12月の靴下売りの車を止めるだろう。まちびとは12月の流れに乗って、12月の靴下売りに近づくとついに12月の靴下を手に取ってみることができるだろう。12月にふさわしいなんて厚いなんて暖かいなんて丈夫でなんて長い靴下なのだろう。まちびとは12月の道の上に、この日まで休むことなくついてきてくれた貧弱な靴下に感謝の気持ちを捧げながら、脱ぎ捨てる。もうすぐ12月の街は積み重なった月日の疲労を落とすために、束の間の休息を求めて、12月の中にそれぞれの告知をするのだろう。
 まちびとは12月のケーキ屋の前で新しい靴下を履いた12月の足を止めて、12月の貼紙を睨みつけた。


12月は休みの日以外営業します。
休みの日
12月 1日 2日 3日 4日 5日 6日 7日 8日 9日
10日 11日 12日 13日 14日 15日 16日 
17日 18日 19日 20日 21日 22日 23日
26日 27日 28日 29日 30日 31日

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12月の連動

2012-12-21 00:19:07 | クリスマスソング
「そろそろクリスマスソングをかけようか?」

「まだ少し早いんじゃない?」

「わからないようにこっそりとかけようか?」

「わからないように?」

「わからないような曲があるんだよ」

「それはクリスマスソングなの?」

「クリスマスソングだけど本気のクリスマスソングではない」

「本気のクリスマスソング?」

「アルコール度数8パーセントのワインのような」

「それはワインなの?」

「酒のことはよくわからないよ」

「どういう時に聞く曲なの?」

「聞きたいけど聞きたくないような気分の時だよ」

「聞かなければいいんじゃない?」

「聞かなくてもいいけど、聞いてもいいなという時だよ」

「それはどういう時なの?」

「まあ、何かはっきりしかない時間帯だね」

「12月の始まりとか?」

「11月の終わりの辺りとかだよ」





 もうすぐ街は12月となりあらゆる行事が密となり連携を深めるだろう。まちびとは12月の図書館に立ち寄って12月に因んだ本を借りる。ありとあらゆる書物は12月の色に染まり、嫌々サンタの格好をした職員が、まちびとに本を差し出す。本を借りたという情報がSNSと連動して、直ちに12月中の友達に伝わる。まちびとは12月に急き立てられるようにして本を開くが、勢いが裏目に出て3ページ目に入ったところで12月の足止めを食らう。12月の栞を挿んだという情報が直ちに12月中の友達に伝わる。12月の風がまちびとの鼻先を撫でる。まちびとは気を取り直して12月の読書を再開する。読書が再開されたという情報が直ちに12月中の友達に伝わる。まちびとは12月のページの中を12月の落葉のように駆けて行く。243ページの7行目に進んだところで、まちびとの心が少しときめく。ときめいたという情報が12月中の友達に伝わる。ときめきの後でふと空腹を覚える。12月の空腹が、12月中の友達に伝わる。まちびとは12月の鍋の中で12月のお湯を沸かす。まちびとは12月の本の中で眠り、目覚め、食べ、恋をして、12月を忘れる。その1つ1つは、SNSと連動して、12月中の友達に伝えられた。まちびとはいつまでも本を返さない。12月の本を返さないという情報が、12月中の友達に伝わる。

 12月の街を12月のボールが転がってその勢いに翻弄されるように、まちびとたちは集められていった。12月の雪だるまが成長するように、まちびとたちは白い息を弾ませながら、12月の足元に集まって最初は12月の警戒心から、あるいは12月の好奇心から互いの訪れた方向を尋ね合ったのだった。
「住宅街からやってきました」
「どんな人が住んでいたのですか?」
「色んな人が住んでいました」
「私は遠いところからやってきました」
「どれくらい遠いところだったのですか?」
「この荷物を見てもらえばわかるでしょう」
 他愛もない会話とパス交換の中で、12月のまちびとたちのまとまりが解れていく。12月のボールはいつもまちびとたちの中心にいて、人々の心から12月の不安分子を取り払い、安らぎと落ち着きを与えながら、その結びつきを必然的な12月のまとまりとして見せていた。

「まとまったお金が入ったら?」
「見知らぬ古着屋に入ってみたいです」
「古い友人に会ってみたいです」
「私はトングを持って、好きなパンを選ぼうと思います」
「ああ、それはなんて素敵な選択でしょう!」
 12月のボールの丸い形が、丸まった肉体を想像させるためか、話の中心はどうしても食べることに向かっていった。不思議なのは、食べ物の話をしていても、完全に食べ物の中には納まり切らないということだった。12月の雪だるまの中から、時として3月のお人形や8月のゾンビが顔を出すように。
「肉どんぶりと魚どんぶりでは?」
「僕は肉どんぶりだね」
「例えばどんな?」
「牛どんぶりだね」
「他にはどんな?」
「豚どんぶりだね」

 まちびとの中には講師も交じっていて、小さな講座も開かれた。
第3回 シュートテクニック
「今回のテーマは囲まれながらシュートを打とう! です」
 12月の講師の周りをまちびとたちが取り囲んだ。その中心には12月のボール。
「私の生まれ育った家は四方を山に囲まれ、本当の夕日を見ることができませんでした」
「僕は朝日も夕日も見たい時に見れたな」
「私はいつも電車の中から夕日を眺めていたな」
「他にはどんな?」
「鳥どんぶりだね」
「さあ、先生を取り囲んでごらんなさい」
 12月のまちびとたちが12月の講師を囲み終えると、早速、講師は必殺のシュートを実演して見せた。けれども、その動作は囲まれ過ぎているため誰からも見えなかった。
「山をも砕くシュートです」
 12月のまちびとたちの隙間から、12月の講師の放ったシュートが力なく転がっていくのを、突然現れた12月の犬が追いかけていく。

「お惣菜屋さんで好きな惣菜を選ぶのもいいな」
「ああ、それも素敵な選択ね!」
「外国人だから甘く見られてね、梅干の代わりにトマトを置かれてしまったよ」
「それは酷いね」
「悪気はなかったんだけどね」
 12月の講師は12月の犬を追いかけて行った。
 12月のボールが消えてしまってから、まちびとたちの間にできた12月のまとまりは自然に消滅し、まちびとたちはそれぞれの自分の12月へと帰って行った。

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