「どうしてスイッチを切ったの?」
「そろそろ切るべきだと思った」
「切ったら駄目になってしまうじゃない」
「いつまでも入れておいたらいけないと思ったから」
「いつまでも温かいままにしておけたのに。いつまでも、いつまでも切らなければ……」
スプーンでご飯をすくってみるとそれは既に硬くなっていて、食べ難いコーンのお化けのようだった。僕はスプーンを奏でながら世界を旅して回った。
失敗したね。
取り返しのつかないことをしたね。
僕はクロワッサン。
コーヒーについてやってきた。
帰れと言われたので帰ることにした。早速歩き始めると、「夜中に帰るな」と怒られたので帰らないことにした。落ち着いていると、何をしているさっさと帰れというので驚いて、早速帰ろうとしたら、「夜中に帰るな」と怒られて逆戻りした。やはり帰るに帰れないと落ち着いていると、とっとと帰れというので今度こそ本当に帰ろうとしていると、誰かが肩に掛かった鞄を引っ張って邪魔をした。
「帰れというから帰るんじゃないか! 理不尽じゃないか!」
「落ち着けよ。どこに行っても同じだぞ。同じ繰り返しだぞ」
引き止められたので、少し落ち着くことにした。
「帰れ! おまえは友達じゃない。ここは学校じゃない」
落ち着いているとやっぱり怒られた。
そうとも。
ここは銀行じゃない。
ここは公園じゃない。
ここは北極じゃない。
僕はクロワッサン。
「今度ドリアを食べるんだってな!」
見知らぬ村人が僕の肩を叩いた。僕の奏でるスプーンの音が美しくて目に留まったのだ。
賛成。
大賛成。
きみの好物はドリア。
クロワッサンは蚊帳の外。
ごめんなさい。ごめんなさい。僕は謝りながら地面を跳ねている。この野郎、この野郎。それでも父は許さずに、僕をドリブルし続ける。ごめんなさい。ごめんなさい。悪いのは、きっと僕。この野郎、この野郎。僕が跳ねる音が激しくて、父に僕の声は届かないのだった。徐々に僕の体は変形していき、声を失う頃には弾むこともできなくなっていた。
「出て行け!」と言うので出て行った。裸足のまま飛び出して、隣の町の山に登って、木から雲へと登った。馬鹿野郎。馬鹿野郎。まだドリブルが続いている気がする。
追いかけてきたのは母だった。手に、僕の靴を持っている。
僕の名前はクロワッサン。
きみの演奏に耳を傾ける。
最小の友達。
破壊寸前の柔な理解者。
「今度ドリアを食べるんだってな!」
道行く旅人が僕の肩を叩いた。僕の奏でるスプーンの輝きに魅入られて触れずにいられなかったのだ。
期待は決して裏切るな。
きみは期待のスプーン星。
ここにいるのは見物者。
本品は食べ物ではありません。
「お客様! ここは食事をする場所です!」
なんと、わかり切ったことを言う男だ。僕は予期せぬ登場人物の出現にわが耳を疑わなければならなかった。
「演奏はやめていただけますか! ここは食事をする場所です!」
なんと、皆が聴き入っていたのではなかったか。何度も何度も、わが耳を疑わなければならなかった。それでも、村長の言うことを聞かないわけにはいかないではないか。他ならぬ村長の言うことなのだ。今すぐスプーンを置いて演奏をやめるのだ。突然話しかけられて驚かなければならなかったのは、いかなる村人でもなく自分自身だったのだ。僕は今すぐここを出て行かなければならない。ドリアはどうなる? 僕はドリアを食べるとみんなが言っていたはずだけど。村長がチキンの陰に隠れて、まだ見張っている。失われつつあるドリアの温もり……。
うろたえたきみは、悪いことをしていたの。
今ならきみはここにいていい。
僕はクロワッサン。
食べてしまってもいいよ。
「そろそろ切るべきだと思った」
「切ったら駄目になってしまうじゃない」
「いつまでも入れておいたらいけないと思ったから」
「いつまでも温かいままにしておけたのに。いつまでも、いつまでも切らなければ……」
スプーンでご飯をすくってみるとそれは既に硬くなっていて、食べ難いコーンのお化けのようだった。僕はスプーンを奏でながら世界を旅して回った。
失敗したね。
取り返しのつかないことをしたね。
僕はクロワッサン。
コーヒーについてやってきた。
帰れと言われたので帰ることにした。早速歩き始めると、「夜中に帰るな」と怒られたので帰らないことにした。落ち着いていると、何をしているさっさと帰れというので驚いて、早速帰ろうとしたら、「夜中に帰るな」と怒られて逆戻りした。やはり帰るに帰れないと落ち着いていると、とっとと帰れというので今度こそ本当に帰ろうとしていると、誰かが肩に掛かった鞄を引っ張って邪魔をした。
「帰れというから帰るんじゃないか! 理不尽じゃないか!」
「落ち着けよ。どこに行っても同じだぞ。同じ繰り返しだぞ」
引き止められたので、少し落ち着くことにした。
「帰れ! おまえは友達じゃない。ここは学校じゃない」
落ち着いているとやっぱり怒られた。
そうとも。
ここは銀行じゃない。
ここは公園じゃない。
ここは北極じゃない。
僕はクロワッサン。
「今度ドリアを食べるんだってな!」
見知らぬ村人が僕の肩を叩いた。僕の奏でるスプーンの音が美しくて目に留まったのだ。
賛成。
大賛成。
きみの好物はドリア。
クロワッサンは蚊帳の外。
ごめんなさい。ごめんなさい。僕は謝りながら地面を跳ねている。この野郎、この野郎。それでも父は許さずに、僕をドリブルし続ける。ごめんなさい。ごめんなさい。悪いのは、きっと僕。この野郎、この野郎。僕が跳ねる音が激しくて、父に僕の声は届かないのだった。徐々に僕の体は変形していき、声を失う頃には弾むこともできなくなっていた。
「出て行け!」と言うので出て行った。裸足のまま飛び出して、隣の町の山に登って、木から雲へと登った。馬鹿野郎。馬鹿野郎。まだドリブルが続いている気がする。
追いかけてきたのは母だった。手に、僕の靴を持っている。
僕の名前はクロワッサン。
きみの演奏に耳を傾ける。
最小の友達。
破壊寸前の柔な理解者。
「今度ドリアを食べるんだってな!」
道行く旅人が僕の肩を叩いた。僕の奏でるスプーンの輝きに魅入られて触れずにいられなかったのだ。
期待は決して裏切るな。
きみは期待のスプーン星。
ここにいるのは見物者。
本品は食べ物ではありません。
「お客様! ここは食事をする場所です!」
なんと、わかり切ったことを言う男だ。僕は予期せぬ登場人物の出現にわが耳を疑わなければならなかった。
「演奏はやめていただけますか! ここは食事をする場所です!」
なんと、皆が聴き入っていたのではなかったか。何度も何度も、わが耳を疑わなければならなかった。それでも、村長の言うことを聞かないわけにはいかないではないか。他ならぬ村長の言うことなのだ。今すぐスプーンを置いて演奏をやめるのだ。突然話しかけられて驚かなければならなかったのは、いかなる村人でもなく自分自身だったのだ。僕は今すぐここを出て行かなければならない。ドリアはどうなる? 僕はドリアを食べるとみんなが言っていたはずだけど。村長がチキンの陰に隠れて、まだ見張っている。失われつつあるドリアの温もり……。
うろたえたきみは、悪いことをしていたの。
今ならきみはここにいていい。
僕はクロワッサン。
食べてしまってもいいよ。