眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

またね

2013-03-26 22:18:58 | 夢追い
 階段の途中でリリーと会って、彼女が7チーム出場すると言うので僕は出場を断念することにした。「最近多いの?」そうでもないよといった適当な会話を交わして、もうコートには行かずにそのまま引き下がることにしたのだ。
 死神を待たせていた。
 行くところがある。それはコンビニエンスストアだ。
 駄菓子を選び選び入れるが、籠の隙間から零れそうだった。迷うのは500円のせいでもあったが、それがいつもなら楽しくさせることもあるのに今日に限ってそういう感情は起こらなかった。裸のモナカ地に入ったチョコ。それはあまり衛生的ではなかったが、気にしすぎても仕方がなかった。レジの女が駄菓子をスキャンしながらも同時に適当な世間話を始めた。台風が同時にやってきて、1つが1つを食ってしまったなんておかしな天気が続くものね。黙って冗談を聞いていた。みんな夜勤の人がコント大会に行ってしまって人手が足りないのよ。あまり売れなければいいけれど。あまりの熱心さに打たれて、声を出して笑ってみた。一瞬だけなら、陽気になることだってできる。
 479円。ぴったり出した。
 トレイの中に女が銭を広げると1円足りない。どうにかひねり出そうとその場で跳ねた。
「あるぞ!」
 よく見るとやはりあるのだ。9円ちょうどあるのだ。
 女はレジ袋を使わず、他人の買い物籠の中に僕の買ったものを入れていく。疲れているのだ。男の籠の中から(中には似たような菓子も交じっていた)正確に自分の菓子を抜き取った。覚えているのだ。菓子の記憶には自信があった。


 最後に写真を撮ってからあの世に行くのだ。親しい家族にはもう伝えてあった。身辺の整理をして、チェックリストを1つずつ確認しては潰していった。計画を決めてからの行動は、以前よりも冷静になった気がする。まだ生きている内に、親戚の皆が到着した。どうして、こんな忙しい時に限ってやってくるのだ。長椅子が用意され、軽い挨拶を交わしながら皆が続々と席に着いた。
「今日は何か用意がありますか?」
「こちらは蛇女の舞がありますが」
 と叔父さんが答えた。そうですかこちらはこちらで穏やかな催しを用意しているので、後は流れに従って……、と幹事は語尾を濁しながら立ち去った。席に着いたみんなは頭に正装の鉢巻を締めていたが、僕のは幽霊のする奴だった。今のところ、見えているにしてもいないにしても誰も突っ込む者はいなかった。遠くで父が物凄い顔でこちらを睨んでいる。
(ふざけやがって!)
(違う! これで合っているんだ!)
 僕は僕なりの考えを持ってやっているのに、父はそこのところをまるで理解できない。理解しようとしないからだ。
 遅れてやってきたじいさんは既に泥酔で、刀を振り回しては瓶ビールを切り倒して回った。ちょうどいい機会だ。僕は瓶ビールを装っておじいさんに近づいた。どうせいつかは知れること。遅かれ早かれ僕がいなくなったということを、みんなは知って口々に感想を述べて、それからまた何事もなかったように暮らすのだ。僕は自ら首を差し出した。
「危ない!」
 おじいさんは刀を上段に構えたまま、装った僕を蹴り上げた。酔ってはいても、物を見分ける力がまだ残っていたのだ。長く生きていれば、そういうこともある。おじいさんは皆に取り押さえられて、刀も奪われてしまった。
「そこに座って蛇女の舞でも見ていなさい!」
 おじいさんは座っていることもできず、すぐに座布団の上に倒れた。それからずっと長椅子の脚を掴み、何があっても離さなかった。
 集合写真の隅に僕は陣取った。写真さえ撮れば十分だ。危うく写真も残さずに、斬られてしまうところだった。
「またね」
 そう言って親戚の人々を見送った。それが大きなうそだと自分だけがわかっている。優越感に浸りながら、いつまでも手を振っていた。

 駄菓子と手のついていない弁当が残っていた。
「もう死ぬんだと思うと欲しくないな」
 心で言ったはずが酔いのせいで声になっていた。
「食べればいいじゃない!」
 女は言った。
 このどうしようもなく無意味な感覚が、わからないかな……。
「歌えばいいじゃない!」
 歌うなんて何を馬鹿な。歌うのも食べるのも、あらゆる気力がないのだから。
 その感覚をただわかってほしくて、女を説得したかった。
(わからないかな……。)


 星座が夜の中で崩れ始めていた。
「あー、なんだこれ!」
 どこにどう触れても駄目だったし、スイッチを入れ直してみても駄目だった。
「色々試してみないと駄目だぞ」
 兄が言った。流れの中で戻ってくることもあるんだからな。
 何もできないんだって。もう全部試したんだって。
 ついに画面の中には他人のゲームが現れて、敵機が攻撃を仕掛けてきた。どうにか左右に振ってかわすがミサイルのボタンがわからず、やられてしまう。すぐに復活して3秒の間は不死身だった。
「攻撃はどうするんだ?」
 僕も攻撃したい。兄は溶け出したチョコレートを口につけている。左右に振りながら攻撃のボタンを探す。探すことに気を取られている間にまた、やられてしまう。すぐに復活する。
「どこにあるんだ?」
 凌ぐだけでは勝ち目がない。逃げるしかないので逃げ方だけは徐々に、上手くなった。少しずつ生きている時間が長くは、なってゆく。それでもボタンは見つからない。左右に振ってかわし続けていると徐々に敵の攻撃は激しさを増していった。横殴りの雨だ。逃げても逃げてもきりがない。また、やられてしまう。その度に復活する。
「輪廻だ! 輪廻だ!」
 1つだけ片付けられない長椅子の傍で、僕は叫んでいた。

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ポリバレント

2013-03-25 20:13:01 | ショートピース
俺はストライカー。人呼んで点取り屋。だが点を取るだけが仕事じゃない。それ以外にも昼寝をしたりブログを書いたりセブンでバイトもしているのだ。弁当を温めてからスタジアムに向かうとMF連中が集まっている。「今度からゼロトップになったぞ!」俺は今から監督に一発入れに行く。#twnovel

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After KISS

2013-03-22 01:04:21 | 夢追い
 学級委員が選抜メンバーを発表する。嫌な予感がする。
「まずはやはり……」
 そして僕の名が呼ばれる。何がやはりなのだ。名前に逆らうことはできず、前に進み出る。精一杯、平気なような顔を保ちながら、順に名が呼ばれて男女が出揃うまで待っていなければならなかった。時々、冷やかしの声や悲鳴に近い歓声が上がるが、こちらの知ったことではない。既に呼ばれてしまった後では、もう自分のことだけ心配しなければならなかったのだから。
「好きだよ」
 トップバッターはそう言って女子に駆け寄るとキスをした。ああ、あんな台詞を言わなければならないのか。(好きでもないだろうに)。あんな台詞だけは言いたくなかった。いずれにしても、何かを言うようだ。そういう流れができてしまっていた。みんな、何かを言っては、駆け寄っていくのだ。キスはもう仕方がないとしても、台詞のことを考えていると微かに自分の足が震え始めているのがわかった。何事もなくことは進んで最後に僕の番がやってきた。窓の外を見たが、期待したように翼竜は入ってはこなかった。
 彼女はすぐ近くにいて背中を向けていた。その首筋を見つめていると不思議なことに自分が急激に落ち着きを取り戻していくのがわかった。彼女が振り向く。その距離なら台詞は必要なかった。
「お願いします」
 彼女にだけ届く小さな声で言った。顔を近づけた。唇と唇が近づいて重なった。周りは関係なくなった。2秒あるいは3秒そうしてわかれた。さわやかな感触と充実感に満たされて自分の席に戻った。彼女は隣の席に座っていた。
 もうクラスは替わったのだった。新しい時間割を手にして眺めていた。次はS3に向かわなければならない。教科は「空」だった。机の中から教科書を探したが、適当なものが見つからなかった。
「何も持っていかなくていいよ」
 親切に誰かが教えてくれる。楽な授業だと思った。そして、すぐに不安になった。

 足跡をつけるようにシューズが並んでいた。いつの間にかみんなは選び終えていて僕だけ遅れをとっていた。48と表示されたものから順に眺めていた。
「何をしている?」
 新しい先生が言った。おまえのはそんな大きくないだろうという嫌な感じだった。
「これはセンチですか?」
「そうだ」
 そんなのは当たり前だろうという嫌な感じが含まれていた。順に数字を下ってみたがちょうどいいところは抜けていた。20.5がない。
「前はあったのだけど?」
 子供が首をひねりながら答えた。
「先生靴がありません!」
 無理をすればそれより大きいのでも小さいのでも入るのだけど、ちょうどではなかった。無理をすれば……。
「やめておけ」
 どうせ後で買うことになって損だからやめておけと言った。今のままの靴でいいじゃないかと言う。言われてみれば今履いている靴とここに並んでいる靴に大差はないのだった。何か貴重な時間を無駄にしたような気分になった。
 君はあれだなと先生は言った。
「苦しくないのかね?」
 僕の鼻を指して言った。どういう意味で言っているのか、初対面にしては露骨で嫌な感じだった。
「フィジカル的に?」
 痛いとかそういうこと?
「そうじゃなくて、人が見たり、言ったりするだろう」
 そう言う先生の鼻も数センチに渡って血の塊がついているのが見えた。
「先生だって」
「いや、これはたいしたことはない」
 そう言うのでもう先生の鼻について触れることはやめにして、自分のことについて言おうとした。
 宇宙の広さに比べれば僕の鼻についての様々なことは……、最初の頃どうだったかは忘れたけれど……、みんな優しいから……、色々と言いたいことがあったけれど、迷っている内に時間切れになってしまった。バスが出発した。

 長い旅が続きバスは時間や国や様々な境目を越えて進んだ。途中、運転手は男になったり女になったり鬼になったり悪魔になったりした。時には象がハンドルを握ることもあったが、その運転技術は誰よりも確かだった。数日が過ぎて、ついに休憩時間に入ると空き地の中でバスが解体される。歴代の運転手は記念カードとなってコーラと一緒に配布された。
 タイヤを枕にしながら少し休んだ。
「あの鼻がね……」
 もしもあの後、彼女がそんな風に友達に僕とのことを話していたとしたら……。そう考えるとかなしくなった。数秒間の出来事も、まるで意味が変わってしまう。鼻に触れてみた。触れながら、眠くなる。あの時と同じ鼻。彼女に最も近づいた時と同じ鼻。
 指を離すと指先に赤い血がついていた。

 寝たら駄目だぞ。NHK4時間スペシャルの予告編、剣を交える音が眠りを誘ってくる。寝たら駄目だぞ。もう1部は終わっていて、割り込んできたニュースが各地の催し物の様子を伝える。林檎祭りでは、今年の猫に因んで盛大に桜が打ち上げられて、風物詩が鍋を囲みました。寝たら最後はスペシャルの中に取り込まれてしまう。誰かがドアを叩いて回っている。足音が過ぎ去るのを確かめてから建物の外に出た。ギターの音。
 ギタリストが音を調節しているのだった。トラックにはたくさんの生活用品と一緒に機材が積まれ、今は貼り紙が貼られたところだ。
『ここでの映像は錯覚です。必ず1週間後に撤去しますので。』
 支援者が2人やってきて、あの曲をやれやれと熱心に勧める途中で弦が切れてしまった。
「服くらい着ないとな」
 そう言って1人がTシャツを広げた。
「50円」
「引き落としじゃ駄目?」
「駄目です!」
 支援者はきっぱりと言った。
 小銭を手渡してギタリストはTシャツに袖を通した。
 既に肩の部分が破れていて、胸には赤い「KISS」が滲んでいた。

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夢捨て

2013-03-21 19:45:18 | ショートピース
長い間、男は捨てられない夢を抱えていたがあたため続けることに疲れていた。他人の閉じた蓋の上にふと手放した瞬間、あたためはあきらめへと変わった。「麺食いの手を利用してあなたは自分の夢を捨てたのね」女の指摘を否定できない。長い間、男は3分前の裏きり者を振り返っていた。#twnovel

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カード

2013-03-21 18:42:01 | 拝啓お客様
拝啓 お客様

いつになったら、
カードを作ってもらえるのでしょうか。
会う度に、
私共は訊いているはずでございます。
お客様、
お客様は、常連様でございます。
なのにいつまでも、
カードを作らないおつもりでしょうか。

お客様、
お客様は、いったいどういうつもりでしょうか。
立ち入ったことを申し上げるようですが、
お客様、
春になったら、
カードを作ってもらえるのでしょうか。
お客様、
あとはお客様次第でございますね。
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grandmother

2013-03-15 01:56:05 | 夢追い
 階段の上のおばあさんを迎えにいかないといけなかった。父の方のおばあさんはもう亡くなったし、母の方のおばあさんのわけがない。では、誰のおばあさんかというと、それがわからなかった。まあ、とにかくおばあさんを迎えにいかなければならないのだから、準備運動をしていかなければならない。とても高い階段だときいた。それに備えてしっかりと腹ごしらえをしておかなければいけない。袋を開けて、チキンラーメンの角をかじった。
「駄目よ! 普通のお菓子じゃないんだから」
 血相を変えて姉が怒った。そんなに怒られる覚えはなかったが、とにかく今口にあるものを食べ切って、次を千切るのはやめておいた。
「そのまま食べたら病気になってしまうよ」
 姉の忠告に従ってチキンラーメンを器に入れるとお湯を注ぎいれた。表面からは湯気が立ち上がり、今までにはなかったおいしそうな匂いが漂ってきて、やはり姉の言うことは最もだと感じながら、待っていた。
「あんた、もう行くんでしょ」
 と姉が言った。早く階段の上のおばあさんを迎えにいかないといけないと言った。もう少し待って欲しかったが、姉の言い方ではそんなにゆっくりしていてはならないようだった。
「後はお姉ちゃんが食べておいてあげるから」
 あとのことは任せろと姉は僕の背中を強く押すのだった。

 誰のおばあさんだろうか? 会ったことがある人だろうか。階段を上ることが少し不安で、喉も渇いていたし、カフェに入ってコーヒーを注文した。コーヒーにはデザートがついていた。とても不人気な店らしく、他に客は誰もいない。店の人は不安そうにちらちらとこちらの様子を窺っている。コーヒーはカップに対して二割くらいしか入ってなくて、ほぼ空っぽだ。おかしな器に小さなフルーツがいっぱい盛られている。
(ミルクかけるかな?)
(かけてくれるのかな?)
 家族で心配そうに様子を窺っている。
 フォークの先に突き刺したフルーツが、口に運ぶ途中でテーブルの上に落ちた。二枚重なって落ちたので、上の方は大丈夫。上のオレンジ色のフルーツだけを手で拾って食べた。下の緑色のフルーツは手で拾って、皿に戻した。
 ガラス窓に19時までと赤いシールで記されていることに気がつく。少し遅く来すぎてしまったようだ。
「ごちそうさまでした」

 階段の下では赤いまわしをつけて四股を踏む者の姿があった。番人だろうか? 警戒しながら近づいていくと力士は四股を踏みながらそのままどこかへ行ってしまった。近くで見ると痩せっぽちの力士だった。明るい内に、階段にたどり着くことができたのでまずは一安心した。父の方のおばあさんはもう亡くなったし、母の方のおばあさんのわけがない。おじさんのおばあさんはとっくの昔に亡くなったし、おばさんのおばあさんには会ったこともないし、いったい誰のおばあさんだろうか。近所で親しかったおばあさんかもしれないし、昔通っていた駄菓子屋のおばあさんかもしれない。あの頃、おばあさんはとても元気だったから、今だってそこそこ元気で、もう駄菓子屋はやめているけれど、階段の上で待っているのかもしれない。
 階段を最初の踊り場まで駆け上がると、正面に力士が待ち構えていた。赤いまわしをつけ腕組みをしているのは兄だった。
「教えてやろうか?」
 その格好からして相撲を教えてくれるのだろうか。特に相撲に興味はなかったし、先を急いでもいたけど、せっかくなので少しくらい教えてもらおうか。教えるほどに強いのだろうか。返事を考えながら、しばらく黙っていた。
「サッカーか?」
 何かを察したように兄の方から提案してきた。どうせならその方がよかった。
「ボールを取られてしまう」
 素直に悩みを打ち明けた。そうか……。腕を組んだまま、しばらく兄は黙り込んだ。
「俺は、うまいと思う」
 そうか……。兄がそう思っていてくれたことがうれしかった。
「一応、両足使えるよ」
 そうか……。少し寂しげな表情で小さく頷いた。
「三年間左足が使えなかったから、それで復帰した時、利き足という概念もなくなってたんだ。足に関しては、だからかな……」
 そうか……。
 そうだ。僕はインテルの選手だったし、少しはうまくなければインテルには入れないのだった。今更、兄に教えてもらうことなどあるものか。僕は先を急いでもいるのだ。
「階段の上のおばあさんを迎えにいかないといけないんだ」
「俺を倒してから行くか?」
 そう言って兄は四股を踏んだ。
「日が暮れるからいいや」

 すっかり日が暮れた階段の上でおばあさんは待っていた。
「ああ、来てくれたのね」
 ああ、おばあさん。
 すっかり上り疲れて、言葉があまり出てこなかった。その分、おばあさんの方は溜めていた言葉が一気にあふれ出てくるようだった。
「茶店が閉まってしまったから、出店でドーナツを買って、自販機でコーヒーを買って飲んだのよ」
 普通のことを特別にうれしいことのように言った。おばあさんはとても元気そうだ。紙袋とコーヒーの缶が色あせたベンチの上に置いてあった。少し、母に似ている。
「下りようか」
 右手をおばあさんの方に伸ばして、言った。

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ファッションショー(冬の章)

2013-03-14 19:55:34 | ショートピース
赤い太陽が弱体化すると冷え冷えした日々が続き、夏休みを冬将軍が席巻する風景が日常化されていた。舞台の上には、降り始めた雪が落ちてモデルたちの足元を不安にさせ、最新のデザインはロングコートの中に隠れている。「中身をみてください」寒気が全人類を均等に着膨れさせていた。#twnovel

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ロシアン

2013-03-12 19:21:02 | 夢追い
 10対0でチェスカが圧勝したか、革命についての記事は新聞の片隅で地味に報道されるだけだった。年中寒いけれど、まだ自然がいっぱい残っている。水の都。町を外側から見てみれば、町の縁からあふれる水が今も流れ落ちて、一年中しぶきを上げている。それがそのまま湖まで続いていて、壮大な景観を作っていた。
「この町もロシアになるのか」
 予兆は三千年前まで遡る。当時を振り返りつつ、資料館へ向かう。ちょうど二年前、ステーション放送開始の前もここを訪れてたのだ。小雨が降っている。
「どうして名簿がない!」
 どれだけの人が来たかわからないと記者は言った。今日から作っても……。昨日までの人、昔来た人、たどってもたどっても、もうどうしようもないんだ! 館の怠慢だといって責めた。

「ランチはどこで?」
 山仕事に来ていた。中ほどにレストランがあると言われて、信じた。探していると夜になって、僕らは山頂にあるマクドナルドまで来ていたのだ。時間がない。
「いいや、時間は作るものだ」
 そう言って先輩は資料を開いた。
 流石だと思った。注文したものが来るまでカウンターでノートを広げて集中した。こうした短い時間に集中したことの積み重ねが、やがて大きな山を動かすに違いない。山というイメージが気に入って、周りの雑音も気にならないくらいに集中して、時の経つのも忘れた。結局、食べ物は何も運ばれてこなかった。
「あー食べた食べた」
 と先輩が言うので、そーですねーと仕方なく先輩に合わせ、お腹を叩いてみた。空しい音。ドリンクをおかわりしようかと思ったが、思ったのはカップを捨ててしまった後だったので、もうそれもできなかった。何もかもうまくいかないなと思っていると突然店の電気が消えた。
「もう閉店か?」
 誰かが言った。
「ロシアンタイムか?」

「どうしてくれるの?」
 暗闇の中から女が現れて迫った。
「こんなになって、どうしてくれるの?」
 もうこんなになったのだから、結婚しなければいけないのか。好きなのだろうか? 小言を言うのだろうか?
 こうなる前は親しかったのだろうか? 試しに一夜を共にしてみると女の朝が早いので、とても不安になった。好きなの? 早いの? いつも小言が多いの? 僕は好きなの?
「脚が細くなった」
 と女は言って、かつての写真と並べて脚を突き出して見せた。細い……。確かに、腿の辺りなど、かなり細くなっているようだった。
「細くなったね」
 細くて綺麗だった。細くなったから、もう結婚しないといけないのかもしれない。
「どうしてくれるの?」
 もう一度女は言った。

 チェスカの蹴ったボールが転々として、小川に落ちて流れていったので、飛び出していって追いかけた。
「どうせ無理だろ」
 みんなが馬鹿にするように言った。わからないぞ。水の流れが速くても、どこかで引っかかって止まるかもしれない。無理だと決め付けるから無理なんだぞ。すぐに帰ってくると一人が言った。取ってくるのかと誰かが期待を持って訊くが、取って戻ってくるんじゃなくて、すぐにあきらめて帰ってくるんだぞという答えにみんなが湧いている。何がおかしいのだ。覚えていろよ。何を持って戻ってくるか、よく見ておけよ。
 下流にまで下りて行くと昔住んでいた家の近所まで来ていた。
「新しい水道がまた見つかったよ」
 カラオケの導入に伴って地下を掘っているのだという。どんどん掘っていく内に、昔使っていた水道が次々と見つかっているのだという。作業が忙しいためか、母は生き生きとして見え、前に見た時よりも若返っているようだった。
「蛇だ!」
 僕は叫んだ。
「どこ?」
 母の手にあるのは蛇だった。巨大な蛇。ハンマーのような頭を母は平気な顔をして持っていた。黒さの中に緑掛かった深い汚れがついている。汚れの中で、蛇はまだ目覚めないでいた。


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Together (やまとなでしこ)

2013-03-07 19:46:08 | アクロスティック・メルヘン
「約束してね」
間を空けず、開けたらすぐに閉めること。
扉から、何もかもが逃げてしまうから。
何度も何度も、お母さんはそう言って、
手振り身振りを交えながら、
しつこくしつこく、これでもかこれでもか、
これでもかーっ、というほどに迫ったのでした。

約束したのは昨日のことのように、
まだ胸の中に強く温かく残っていて、
時々その声がどこからともなく蘇っては、
何度も何度も、何度も語りかけるので、
てっきりお母さんがそこにいるように思えて、
「心配しすぎ!」と風に向かって、
答えたりする日もあるのでした。

約束を忘れたり破ったりするようなことが、
まさかあるとは夢にも思わずに、
扉を開いた瞬間、
鳴り響いたものがありました。
「電話だ」
静かだった部屋の中に、
Call 音が繰り返し鳴り響いたのでした。

厄介なのは同時に2つのことを考えられないこと。
まだ開けたまま出てしまう。
「……と申します。……」
名前を名乗ったのは男のようでした。
出た以上話さなければ。「お母さんは今はいません」
しばらく押し問答をしてから、
こつんと電話を切ったのでした。

ややー!
まだ開けたままだった!
扉のことにようやく気がつきました。
なんてことでしょう!
てっきり閉めたと思ったよ。
失敗しちゃったよ。
こんちくしょー!

やがて事態の深刻さに気がついて、
真っ青になったのは、
扉を抜けて、みんなみんな、
何もかもがこのチャンスを見事につかみ、
天が与えた良い機会というように逃げてしまったことを、
知ったからでした。
後悔の念が押し寄せてきます。

やれやれと思っていると、
まだそこに誰かいる気配が、
扉の中に誰かがいることがわかりました。
「なぜ君は逃げないの?」
「て言うか、君は誰なの?」
少女はびっくりして立ち尽くしました。
こいつ、生意気だ!

やさぐれながら少女は黙っていました。
「まあ、いつもは2行か3行くらいしか読めないから」
トマトは、本を開いたまま言いました。
「なるほど、そういうことか。私にも読んで聞かせてよ」
「て言うか、約束はどうなったの?」
少女はその時もう一度約束のことを思い出したけれど、  
腰を折って中に入りました。                   「一緒に読もうよ!」

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モーニング

2013-03-07 18:49:41 | ショートピース
朝はいつも置いてきぼりばかりを食っている。もっと早くすればいいのにと誰かに言われても、彼女は決して自分のペースを変えようとはしなかった。「きっと寂しいのが好きなんでしょう」誰かが呆れたように言う。ひとりでに時は過ぎて、足早に夜がやってきても、彼女は食べ続けている。#twnovel

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「あっ」

2013-03-06 21:10:18 | 夢追い
 テーブルの上を綺麗にし、ゴミを回収して、食器類を元の場所に戻した。あらゆる鍵をかけて、片付けは抜かりなく終わった。
 と思った瞬間、今まで見えなかったグラスが一つ見つかる。自分が私的に使っていたものを、忘れていた。
「あっ」
 と言って固まった。
「やっときます~」
  その瞬間の、彼女の微笑み。
(あっ)
「下りたら五人片付けて上がろう」
 新しい人に切り上げ方を教えた。
「タイミングにもよるんだよ。一人ずつ順に出てくる場合もあるし、信号が変わったように同時に現れることもある。外からと内からと時間が重なることもあるし、でも上手く切り抜ければちゃんと定時に上がれるはずだから」
 微笑みを急いで振り落とすために、急いでたくさんしゃべった。

「落し物のマイクロチップは見つかりましたよ」
 落としたのは大きな人だと言う。きっとそれはモンちゃんだ。手でモンちゃんのサイズを示して確かめた。これくらい? いいえ、これくらい。それは落し物の方でしょう。モンちゃんだったら、これくらいのはず。議論していると目の前に大きな生き物が現れた。モンちゃんだ。落し物が見つかってうれしそうにしている。
「やめたんですね」
(えっ)
 モンちゃんは、おかしなことを言う。それでは僕が好んでやめたみたいだ。そうじゃない。
「なくなったんですね」
 僕はモンちゃんの表現を正した。チームは、先月なくなったのだ。
「なくなったね」
 それからモンちゃんは、急いで色々言ってみんなに礼を言ったり挨拶を言ったりして、口から泡を吐いて、顎に米粒をつけて少し様子のおかしい人になった。代表者が代わりに前に出てきてカウンターの前に立った。
「一人一人に挨拶をするように言ったんです」
 そうして助言した事実を告げながら、代表者は世間話を巧みに挨拶に変えながら話をまとめてみせた。
「またやろう!」
 モンちゃんとハイタッチをかわして、さよならをした。

 廊下を歩いて行き、入り口の扉を開けた。
「あっ」
 厨房の中にいた人が、謎の侵入者を確認して声を出した。
「トマトない?」
 白い帽子を被った人が、冷蔵庫の中からプチトマトをつまんで差し出した。帽子の長さは一メートル近くあった。中に食材を詰めているのかもしれない。
「いいえ。そうじゃなくて」
 何かトマトのサラダみたいなものが、欲しかった。メニューにそのようなものはないようだったが、料理長の一声もあって、それらしいものを作ってくれるという。三人がかりですぐに調理が始まって、小さな丸皿の上に鮮やかな色をしたトマトの断面が並べられた。上から特製のドレッシングを加えると完成だ。
「ありがとう」
 手の平にトマトサラダを載せて、厨房を出た。

 アイスコーヒーにガムシロップを入れてストローで混ぜていた。皿に盛られたトマトには、月に訪れた人間の忘れ物のようにフォークが突き刺さったままだった。それよりも鮮やかな赤い色が突然、視界を横切った。彼女は、すぐ近くに座った。
「あっ」
 と彼女が言ったのは、僕とトマトのどちらに向けてだったのだろう。僕は漫画を読んでいる。最後の方にある絵を見ていた。作品と作品の切れ目がなく、行き過ぎると別の話に変わってしまう。目当ての絵を探しながら、最後の方から徐々に前へ前へと戻っていった。
 女は夜たずねてくる。主人公の心の隙を狙ってどこからともなく家に入り込んでくる。戸締りをしている日は滅多となかった。いつか、女がいつも裸であることに気がついた。どうしてか、なぜか、わけがあるのか。次第に女と深い仲になる。今度は逆にたずねたくもなって、女の後を追っていく。女は闇の者たちに捕らわれた存在であるとわかる。思った通りだ。とても複雑な事情があるとわかる。幾度も潜入を繰り返す内、やがて男もまた捕らえられていくのだったが、それが女になのか闇の者たちになのか、わからなくなってしまう。運命だったのか、罠だったのか。女の微笑を浮かべたまま、男は記憶を遡る。補助輪のついた自転車に乗っていたことを、ついに思い出す。
 時々、女の裸の絵が大写しになる。
 彼女が見ていないか、彼女に見えていないか、時々気になって、物語の中から足が出てしまう。
 彼女は一切れのトマトを口にした。
 フォークは次のスライスに移動している。

 道には紙パックやストローの入っていた紙くずが散乱している。それらに触れないように駆け抜けていく。作りかけの犬小屋の欠片を踏んで、割れたグラスを踏まないようにしながら、次の着地点を瞬時に探しながら、駆け抜けていく。クリアだけを目的にしたゲームのように前だけを見て。何もできることはない。すべては返却口がないからだ。誰も悪くない。僕にできることはもう何もない。横たわった冷蔵庫を飛び越えて、割れた食器を踏まないようにしながら、次の着地点をその一瞬に求めながら、駆け抜けていく。もう済んだのだ。早く終わらせて、早く一人になって、早く自由を手にするのだ。空回りする車輪を飛び越えて、割れた鏡を見ないようにしながら、駆け抜けて、駆け抜けて……。

 たくさんの人がまだ仕事をしていた。(更衣室は別の会社だった)人目につきにくい隅っこで服を着替えた。切り上げ方を教えたあの新人さんが、机について事務仕事をしているのが見えた。(忙しい人がいるもんだな)着替えを済ませて、東口から外に出た。モンちゃんたちが、まだいるではないか。

 車の近くに赤い服が見える。中に何かを安らかに預け入れている様子。
(あっ)
 影で彼女だとわかる。 迎えの車が来ているのだった。
 彼女の背中からは、微笑みがあふれ出している。
 慌てて顔を背け後戻りしたが、微笑みは既に全身に回っており、東口の手前まできて僕に止めを刺した。

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ハローボレー

2013-03-06 19:57:38 | ショートピース
まずは挨拶代わりのボレーシュートをお見舞いすると翻訳家が狂っているのか「最近の若い者は」という文句が返って来るので、戸惑いながらもピッチと球質が合ってないと判断し次は挨拶代わりの「こんにちは」を放つとストレートに伝わり「丸くなったな」と意味不明の返事が返ってきた。#twnovel

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鈴木大サーカス

2013-03-06 00:33:56 | ショートピース
「鈴木君遊びましょ!」何人もの鈴木が転校して行ったけど、鈴木製作所では日々無数の鈴木が作られるので遊び相手に困ることはなかった。今日も鈴木を連れ出して秘密の場所へ。「チャリサーカスだよ!」そこは町の大サーカス。「自転車屋じゃないか!」いつものように鈴木がつっこむ。#twnovel

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