眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

モーニング・スパイ

2014-09-30 11:54:13 | 気ままなキーボード
 階段を下りて行くと薄暗い事務所の中にデスクが並んでいて、見慣れた模様の中を潜り抜けて先へ進んでいくと警報音が鳴り響くわけではなかったけれど、警報装置が作動したことを肌で感じて、すぐに引き返すとトイレの中に入った。想像していたよりも早い時間に誰かが階段を駆け下りてくる足音が聞こえて、一旦彼は事務所の中に入って一通りの模様を確認し終えたようで、今度はこちらの個室の方にもコツコツと近づいてくる。ノックもせずに、スペアキーを使ったのか、ドアは開いていて、僕の方はもう済んだ後だったのでよかったけれど、そこに立っているのは専務でなくて、それよりも遥かに若い見知らぬ青年で、なぜか彼は僕と目を合わせることもなかった。掃除でもしにきたというように、視線は下に落ちている。家からゴキブリを追って、たどり着いたのがこの場所だったという風にも見えた。

「おはようございます」
 先程とはすっかり雰囲気も変わり明るくなった事務所の中は、次々と出勤してくる社員たちであふれていた。元気な挨拶が飛び交い、部外者であるはずの僕の顔を見た時でさえ、彼らは屈託のない笑顔を見せながら元気におはようと言うのだった。デスクとコピー機の間の狭くなった通路を、柔軟に体をしならせながら、入れ替わり人が流れていく。
「おはようございます」
 つられるように僕も挨拶を返していた。
 朝の活気に包まれながら、壁に貼られた紙を見上げた。今月の第1位は食品部門だ。食品部門の第1位はたまごかけご飯だ。創意工夫に富んだ事業展開を壁中から見て取ることができた。様々な講習会もあちこちで企画されているらしく、他人と差をつけるインスタントラーメン講習会、毎日食べてもあきがこないたまごかけご飯講習会、などがあるらしかった。会社を作っているのは人かもしれない。壁を見つめる内に、そう思えるほど隅々にまで事業を盛り上げようとする人々の熱意が見えた。
 来月の第1位は何だろうね……。
 早くも来月のことを想像しながら、僕は朝のスパイ活動を終えた。
コメント
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