眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

春先ビッグ・フェア

2020-04-30 10:40:00 | ナノノベル
 新生活応援フェアをやっているじゃないか。
 この季節はチャンスに乗っかって飛躍的な成長を遂げるチャンスだ。
……レジにて3倍……きみもビッグに!
(倍率は好きに選べます)
 よーし、ここは調子に乗って最大化だな。

チャカチャンチャンチャン♪

「おかわり!」
「あんたどうした?」
 まさか胃袋までも大きくなっているとは計算外だよ。
「全然満腹にならない」
「もう釜は空っぽだよ。出ていっておくれ」
 追い出されんのかい。

チャカチャンチャンチャン♪

「元に戻してもらえますか?」
 店員を見下ろしながら頭を下げる。
「サイズ変更はできません」
(しまった! あとの祭りだい!)
「うそでしょ」

チャカチャンチャンチャン♪

 来月のスモール・フェアを待つしかないってことだ。

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課題ファッション

2020-04-29 21:22:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
神さまの課題を淡く身につけた
愛おしき我が四月の旅路

(折句「鏡石」短歌)
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ガチャの終わり

2020-04-29 19:22:00 | ナノノベル
「いらっしゃいませ」
「あいつを中に入れてから、お客さん増えましたね」
「確かに」
「ありがとうございました」
「またか」
「みんなガチャ好きですねえ」
「ガチャ目当てじゃないか」

「いらっしゃいませ」
「まあでも、お客様はお客様ということで」
「意味ねえよ。ドアが開いてドアが閉じるだけさ」
「ついでにもっと奥まで入ってきてくれればいいのに」
「ありがとうございました」
「用だけ済ませて帰りやがって」
「まあまあ店長」
「ネットショッピングか。もっときょろきょろしろよ」

「まあまあ。みんなお忙しいんでしょう」
「忙しい奴がガチャなんてするかよ」
「しますよ。ガチャをするのに忙しいんですよ」

「いらっしゃいませ。はい、どうぞ」
「暇つぶしの遊びじゃねえか」
「遊びが主役になったんじゃないですかね」
「何だそりゃ。SF小説か」
「はい?」
「世の中ひっくり返ってんなあ」
「ありがとうございました。またお願いします」
「ガチャお願いしてんじゃねえよ」
「まあまあ。一応お客様ですから」

「いらっしゃいませ。はい、どうぞ」
「ガチャばっかじゃねえか」
「外は治安が悪いから、あそこでいいでしょう」
「義理も人情もないのかね」
「外で荒らされるよりはましですよ」
「冒険心はないのか」
「ガチャは手の中の冒険かも」
「もっと奥まで未開のアマゾンまで入って来いよ」
「そんなとこじゃないでしょう」
「遠慮してんのか」
「ありがとうございました」
「ジャムパンくらい買っていきゃいいのに」
「お腹空いてないんですかね」

「ガチャガチャガチャガチャ何が面白いんだ」
「何か出てくるところとか」
「何が面白いんだ」
「何が出てくるかわからないところとか」

「よし。もっと奥へ置くとしよう」
「なるほど。流石店長」
「何が出てくるかなんてだいたいわかるだろうよ」
「でもだいたいしかわからない」
「何が面白いんだ」
「この辺にします?」
「もっと奥まで運ぼう」
「やっぱり小さな冒険じゃないですかね」
「何が面白いんだ」
「手の中に生まれる感じとか」
「ポエムか?」
「はい?」

「いらっしゃいませーい」
「鳥が卵を落とすみたいなとことか」
「さっぱりわからんね」
「この辺でどうでしょう」

「もっと奥だ!」

「店長。そっちは……」
「バックヤードに片づけてしまえ」
「えっ、そんな」

「すみませーん。ガチャガチャしたいんですけどー」
「店員さーん」
「ほら、店長」
「すみませーん。ガチャガチャ……」
「ありませーん! ガチャ終わりましたー!」

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ぼくだよ(締め切り)

2020-04-29 02:42:00 | 忘れものがかり
 いいなと少し思っても一気にすべてをつかみ切ることは難しい。ほんの少し触れたところで一旦置いて離れてしまう。心の片隅に置いたままで日常の中に戻っていく。もしも本当に自分にとって大切なものなら、簡単に消えてしまったりしないはず。離れて暮らす時間は本心を見極めるための必要な時間でもある。(最愛のものならばより強い形になって自分の元に戻ってくるだろう)離れているようでつながっている。ぼくらを結ぶ絆は決して永遠ではない。
 今日は新しい友達を待たせていた。

「ごめん。今日はちょっと……」
 友情を育むことは難しい。(一度で切れる友情ならいらない)それよりも大事なものをいくつも闇の向こうに待たせているからだ。きらきらとしたネオンの中に包まれるより、芳醇なアルコールの中に溶け込んでいくよりも大事なもの。
 今夜また一つの締め切りを迎える。
 ずっと寝かせていたけれど、ここで起こさなければ二度と目覚めることはないだろう。今になってわかる。失いたくない。まだ何も手にしていないけれど、跡形もなく消えてしまう前に生み出すのだ。
 寝室のドアを開けて約束のページに灯りを当てた。

「どちらさまですか?」
 つれない返事。
 詩はすっかり冷たくなっていた。
(ああ。またそんな態度をするの)

「ぼくだよ」
 きみはぼくだよ。

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火曜市場

2020-04-28 22:37:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
火曜日の買い物客が密となり
市場は好奇心で華やぐ

(折句「鏡石」短歌)
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あえててをとおそう

2020-04-28 09:09:00 | ポトフのゆ
 劣等感があなたをじっとそこに留めてしまったのね。燃えている越境の願望はそっとお弁当に架けた虹の橋を渡る小人たちに預けて、本当はもっともっとそこから飛び出したかったのに、あなたはアルファベットのゼットまで数えてそこからまたカセットコンロの方を気にしている。

「玉ネギをネットで買う人の気持ちが今わかったよ」
「それは嫉妬ですか?」
 彼女ははっと我に返った。
「いいえ、それはちっとも嫉妬なんかではなくて……」

 最初は魔人のように思えたそれもいつしかそれ以外はないというような形に見えたのだった。それである日、蓋を洗おうとした時に、彼女はそこに窪みがないことに気がついて酷く驚いてしまった。それは世界に照らし合わせて普通の鍋の蓋であったけれど、彼女の中の世界はとっくに魔人サイドにあったのだった。

 普通サイドの鍋の中ではネットから抜け出してきた玉ネギがごっそりと入っていて、鍋の中では架空の時間が流れていた。彼女は1オクターブ上げて玉ネギの歌を歌った。


かくなる上に立って
私は歌おう
魔人サイドを抜け出した
吐くまでの覚悟と
絶え間なく冴え渡る眠りとが
悪魔でも悪のない挑戦を
奏でる
あなたは澄み切った
玉ネギスープのように



 しあわせを持ち合わせた噂のドアを、彼は罠かと思って見合わせているが、すぐに警備員はやってきた。慌てた様子で「気は確かですか?」と訊いた。彼は泡を食った様子で見合わせていると警備員はあきらめたのか、回れ右をして引き返していった。山のようにして静かにしていたが、見合わせることに疲れたのは、他愛もない扉の方だった。しあわせは回り回って壊れて泡になった。

 泡の中から魔界の司会者が現れて警戒を呼びかけている。妖怪の世界遺産登録は、いきなり若いクルーに高いハードルを突きつけていたし、球界を代表する向かい風は不快感を極めながらも和解を図りスカイブルーに染められていく。ざわめきの中から柔らかなレモンサワーが降ってきて、庭の洗濯物に止まっていた虫たちが逃げ出した。

 たちどころに価値観の相違が浮き彫りになると、縁のないグラスを支えていることは誰にもできなくて、土地勘もなくあちこちを彷徨うことは彼にとっても誰にとっても危険なことだったけれど、彼の髪の毛は雨が降るととても内巻きになるので、にっちもさっちもいかないとよく蜂の巣の前で零していたのだった。

 家の人は例外なく映画が好きで、そのくせみんな無知だったので、植木鉢の中にはいつも誰も名前を知らない植物が一か八かの調子で植えつけられて、先入観のないへちまのように伸びては太陽に向かい歌うことをけちらないように訴えかけたり、ねちねちと町にありがちな理屈をこねたりするのだった。

 ある時、父は植物の周りにやってくる虫の遊び相手にと一匹の豚を娘が二十歳になった誕生日のことを想像しながら与えた。豚は色づいた紅葉のような輝きを放っており、世知辛く口惜しく内へ内へと思考を向かわせる親戚の人々にさえも温かく迎え入れられたのだった。

「手持ち豚さ」

 と父はみんなに紹介した。

 カスタネットに合わせて豚は踊り、木にぶつかっては転げたりしたけど、家の者が既知の歌を歌っても道に背いた歌を歌ってもいつか市場でもちもちした占い師が町で一番のお金持ちの求めに応じて占いで宣言したように、決して木に登ることはなかった。

 けれども、手持ち豚は落ちてくる落ち葉を拾うことがとても好きで、それを父に間違えなく届けることにとてつもない価値観を見出しているどこにもいない稀な豚だったことは間違いがなかった。

 豚から落ち葉を受け取る度に、父はうれしそうに笑った。

「幸あれ」
 そう言って手持ち豚の背中を撫でるのが習慣だった。


 朝から読むものかと豚は歌集を閉じてしまって、世襲続きの習性すべてを批判して回ると方々からミサイルが飛んできたが、彼女は大きな傘を広げてそれを防いだ。それでも突き抜けてくるむさくるしい大男が投げる(彼は手持ち豚に足技を伝授した罪を問われた囚人である)ミサイルが傘を突き抜けてきたが、彼女はそれを勇ましくも素早い仕草でペンに変えてしまった。

 油性でも水性でもない、彼女はそのペンで終日禁煙を犬猿に塗り替えてしまったために、町中が犬や猿だらけになってしまった。手探りの鎖を噛み千切り憂さを晴らすのは土佐犬の登場である。

「久々に土佐犬を見た」と長老が言えば、「今朝見ましたよ」と傘地蔵が答えたけれど、長老はとても耳が遠かったためそれには答えず、土佐犬に飛び切りの餌を与えていたのだった。

 シーチキンの横取りを企んだムササビが、長老の背後から音もなく降下してくるのを、その時、猿は見た。「正夢だったか」と言った。長老の肩にひょいと飛び乗ると、眉間に皺を寄せながら右ストレートを繰り出して、シーチキンに飢えたムササビを撃退した。

「ありがとう」と長老は礼を言って頭を下げた。「憂さ晴らしですわ」と言いながら長老の首を引っかいた。「いてててて」と長老は呻き声を上げて逃げた。それは後日かさぶたになったという話が伝わっている。土佐犬の横に並び猿はシーチキンを食った。


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もどかしい仕草

2020-04-28 08:45:00 | 忘れものがかり
目を見開いて驚きを
耳を立てて警戒を
鼻を輝かせて歓迎を
口を開けて当惑を
尾を振ってよろこびを
足を鳴らして怒りを
舌を出して渇きを

私たちは
ここにあるものを使って
何かを伝えることができる

道の向こうで
あの人は手を振っている

「何?」
どうした?

わからない
さっぱりわからないよ

ああ
もどかしい

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盗まれた街

2020-04-27 09:46:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
驕りあるものらの策に手を焼いた
七時の街のシャッター通り 

(折句「おもてなし」短歌)
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地道スクール

2020-04-26 16:40:00 | 夢追い
 地道な努力結びがまだできなかった。
「できないよー」
「一日じゃ無理です。通ってください」
 こんなの簡単だと思ったけどな。やっぱり僕は凡人か。見本通りにやってもさっぱりできないや。上手な人は鼻歌を歌いながらさっと結んでみせる。いいないいな。僕も早くあんな風になりたい。今すぐに。

「一日でできる人はいますか」
「いるにはいます。そういう人はここに来ません」
「そっかー」
 えっ。どういうこった。
 ここに来ないの? 最初から知ってるの。何もしなくてもできるの。何なの。天才なの。ああ、面倒くさい。どうやるの。何度やってもできないの。もう嫌だ。それにこの結び何か地味。もう僕つまらないよ。ねえ先生。

「横綱一番結びから教えてください」
「それはまだ早い。体を作ってからね」
「……」
 やっぱりそうか。基礎だ基礎だと耳が痛いよ。どうしても先生はここに長く通わせたいみたい。それが先生のお仕事なんだ。耐えられるかな。ついていけるかな。先生はいい先生かな。本当にできるようになるのかな。一つ一つ鍛えないと駄目なのかな。

「もっと食べなさい。餅をいっぱい食べなさい」

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クローン・マスク

2020-04-26 16:29:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
枠内に佇みながら白白と
ふっかけられるネズミのマスク

(折句「渡し舟」短歌)
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もういいかい

2020-04-26 10:53:00 | 【創作note】
窓は閉めた

荷物はまとめた

手は切った

鍵はかけた

さよならは言った

手紙は書いた

クラウドに上げた

パズルは解いた

愛は告げた

縁は絶った

筋は通した

手は合わせた


すべて終わった


もういいね

あとは寝るだけ


私の時間がここにある
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ビッグ・マスク

2020-04-25 21:22:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
足元を計算高く透視した
売り手がさばくふっかけマスク

(折句「揚げ豆腐」短歌)
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離れワーク(あとがきに続く)

2020-04-25 06:41:00 | 【創作note】
 誰もいなくなったマンガルームでコミックを1から順に並べ直す。もしも最後の数が最終巻なら「完」のシールを貼る。手がかりは色々だ。おわりとか、fin.と書いてあったり、あとがきや「長い間ありがとう」的メッセージが最後にある場合、表紙の裏にいよいよこれで最終巻と書いてあったり……。
 5巻までに終わるもの、棚を折り返し折り返し50を回ってようやく終わるもの。外伝へと続くもの、舞台を変えるもの、成長し出世するもの。続くはずが終わっているもの。途中で長く休んでいるものもあるようだ。「完」があるならそこに向かって読めた方がいいという人もいるだろう。多くの「完」を見た。

 「さよなら」が終わりというわけではなかった。こんにちは、はじめまして、新しい旅立ち、新天地での幕開け、「さあ、これから」と終わるマンガのなんて多いことだろう。
 ぼろぼろになるほど読まれたものがある。色が変わり、崩れ落ちそうなページがある。(多くは最終巻に目立った)
 みんな「完」を読みたいのか。読んだとしても思い出したいのか。
 100枚、200枚、「完」を貼る内に読者の影を見た。先に広がる風景を見る内に少し元気が出てきた。

「人にあわない仕事も素敵じゃないか」

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届かぬ想い、届け合う心

2020-04-24 17:58:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
官民が節約を選択すれば
小さくたって布製マスク

(折句「風立ちぬ」短歌)
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冬のカポエィラ

2020-04-24 09:18:00 | 短歌/折句/あいうえお作文
軽んじた寒の戻りが身を切れば
いざ奮い立つ白きカポエィラ

(折句「鏡石」短歌)
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