碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

NHKのドラマ「迷子」は<単館系映画的佳作>

2011年02月22日 | テレビ・ラジオ・メディア

『日刊ゲンダイ』に連載している番組時評「テレビとはナンだ!」。

今週は、NHKのドラマスペシャル「迷子」について書きました。


単館系映画の佳作のようだった
ドラマスペシャル「迷子」


19日(土)夜、NHKでドラマスペシャル「迷子」が放送された。

路上に座り込んでいた一人の老婆をめぐって、それまで無関係だったはずの人々が交錯するワンナイト・ストーリーだ。

有名俳優もほとんど出てこないドラマだが、まるで単館系映画の佳作のような慈味に満ちていた。

雑踏の中で途方に暮れているお婆さん。

ほとんどの人は無視して通り過ぎるが、男子高校生3人組と若いOLが声をかける。

しかし、中国語らしい言葉で話すお婆さんとは意思の疎通ができない。

警察に保護してもらおうとするが、なぜかお婆さんは逃げ出してしまう。

他にもこのお婆さんに手を差しのべる人たちが登場する。

しっかり者の女子高生(南沢奈央)と彼女を好きなボンボン大学生(金井勇太)、そしてホームレスのおじさん(レツゴー三匹の逢坂じゅん、好演)など。

彼らは皆、他人の心配をする余裕などないはずなのに必死で走りまわるのだ。

大きな事件が起きるわけではない。

しかし彼らから目が離せない。

老婆だけでなく、彼らも、そして見ている私たちも、自分の居場所を探し続けている“迷子”かもしれないからだ。

手持ちカメラが現代人の不安な心理を見事に映し出していた。

脚本は岸田戯曲賞の前田司郎。

演出は中島由貴。

2009年2月に流され、高い評価を受けたドラマ「お買い物」のコンビである。

(日刊ゲンダイ 2011.02.21)


・・・・まるで登場人物たちと一緒に一晩を過ごしたような、ちょっとリアルな疲労感さえ覚える(笑)、見終わって、じわじわと効いてくるクスリ(それとも毒?)みたいな1本でした。