『日刊ゲンダイ』に連載している番組時評「テレビとはナンだ!」。
今週は、NHKのドラマスペシャル「迷子」について書きました。
単館系映画の佳作のようだった
ドラマスペシャル「迷子」
19日(土)夜、NHKでドラマスペシャル「迷子」が放送された。
路上に座り込んでいた一人の老婆をめぐって、それまで無関係だったはずの人々が交錯するワンナイト・ストーリーだ。
有名俳優もほとんど出てこないドラマだが、まるで単館系映画の佳作のような慈味に満ちていた。
雑踏の中で途方に暮れているお婆さん。
ほとんどの人は無視して通り過ぎるが、男子高校生3人組と若いOLが声をかける。
しかし、中国語らしい言葉で話すお婆さんとは意思の疎通ができない。
警察に保護してもらおうとするが、なぜかお婆さんは逃げ出してしまう。
他にもこのお婆さんに手を差しのべる人たちが登場する。
しっかり者の女子高生(南沢奈央)と彼女を好きなボンボン大学生(金井勇太)、そしてホームレスのおじさん(レツゴー三匹の逢坂じゅん、好演)など。
彼らは皆、他人の心配をする余裕などないはずなのに必死で走りまわるのだ。
大きな事件が起きるわけではない。
しかし彼らから目が離せない。
老婆だけでなく、彼らも、そして見ている私たちも、自分の居場所を探し続けている“迷子”かもしれないからだ。
手持ちカメラが現代人の不安な心理を見事に映し出していた。
脚本は岸田戯曲賞の前田司郎。
演出は中島由貴。
2009年2月に流され、高い評価を受けたドラマ「お買い物」のコンビである。
(日刊ゲンダイ 2011.02.21)
・・・・まるで登場人物たちと一緒に一晩を過ごしたような、ちょっとリアルな疲労感さえ覚える(笑)、見終わって、じわじわと効いてくるクスリ(それとも毒?)みたいな1本でした。