
2017年06月28日
北海道新聞【ウラジオストク共同】
北方領土の国後島で本格調査開始 日ロ共同経済活動
北方領土での日本とロシアの共同経済活動の実現に向け、長谷川栄一首相補佐官を団長とする官民調査団が28日、国後島で本格的な調査を始めた。専門分野に分かれて港湾、観光、病院などの施設を視察し事業の選定を進める。視察に同行したロシア・サハリン州のコジェミャコ知事はディーゼル発電所に立ち寄った際「設備が古くなっており、近代化が必要だ」と述べ、日本の協力を求めた。また調査団は港でロシア側から港湾整備や水産関連の事業計画の説明を受けた。地元当局者によると、ロシア国境警備隊の立ち入り制限区域付近を調査団が通る行程だったことなどを理由に、28日に予定されていた燃料保管施設や 地熱発電 所などの視察が認められなかった。このため調査団はスケジュールを一部変更した。 国後島では他に、ホテル建設予定地や、博物館、空港などを回る。水産廃棄物のリサイクル工場や温泉施設の建設プロジェクトについても説明を受けるという。28日午後に視察を終え、交流船「えとぴりか」で 択捉島 に向かう。
2017年06月28日
北海道新聞
[四島協力 霧中の船出 調査団国後入り 道内、漁業・観光に期待]
北方四島での日ロ共同経済活動に関する官民調査団約70人が27日、国後島に入り、事業の具体化に向け動き始めた。安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領が共同経済活動の協議開始で合意してから約半年。道内参加者は漁業や観光分野などに期待するが、日ロ双方の法的立場を害さない「特別な制度」の創設は見えていない。日本政府は調査を平和条約締結交渉の「重要な一歩」と位置づけ環境整備につなげたい考えだが、ロシアは経済に限定する姿勢が強く、先行きが見通せない中での船出となった。 「根室は(加工の原料となる)魚が非常に少なく苦しんでいる。そういう状況を少しでも緩和できる糸口がつかめれば」。調査に参加した根室水産協会の広田秀樹相談役は出発前、根室市で報道陣に、共同経済活動への期待感を示した。
■大きな好機
道東では近年、サンマやイカなどの水揚げが不振な上、昨年からロシア200カイリ内の サケ・マス流し網漁 が禁止に。地元の漁業関係者は、四島周辺での栽培漁業などが実現すれば根室の水揚げが増え、原料確保につながる可能性があるとみる。漁業者も望みをかけ、根室湾中部漁協の高橋敏二組合長は「かつてのように北方四島の海で漁ができることを期待したい。少しでも風穴があけば」と語る。また、ロシアでのビジネスに力を入れ、今回の調査に担当役員を派遣した北海道銀行の笹原晶博頭取は「期待が先行する形になってはいけない」としながらも「北方四島は水産資源が豊富な地域で、大きなチャンスになる」。調査団に加わった加森観光の加森公人社長は、現地の自然環境や食材を確かめる予定で「魅力があるかは行ってみないと分からない。島の特徴を生かすのが私たちの仕事だ」と意欲を見せる。 ロシア側が関心を寄せる水産、観光や医療、インフラ整備に道内企業が参加できれば、道内経済の底上げにつながる可能性もある。 ただ、具体的な計画は見通せず、「特別な制度」も不透明だ。調査団に参加した辻泰弘副知事は27日の出発前、報道陣に共同経済活動には「さまざまな可能性がある」と語ったが、道内経済団体幹部は「そもそも実現するのか、まだ見極めがつかない」と漏らした。
■調整加速へ
日本政府は当初、調査団の派遣を5月中に予定したが、日ロ間で移動手段などの調整に手間取りずれ込んだ。6月に予定していた元島民による初の空路墓参も悪天候のため中止に。政府には「目に見える形の成果を出していかなければ、平和条約締結交渉が停滞している印象を国民に与えてしまう」(官邸筋)との焦りがあったのが実情だ。政府は、今回の調査を踏まえて8月にも次官級協議を行い、9月の日ロ首脳会談に向けて調整を加速させる方針。首相の側近でもある団長の長谷川栄一首相補佐官は27日、根室港でこう強調した。「与えられた任務は、少しでも早く首脳間の合意が実現するように、経済的なプロジェクトの可能性を増やすことだ。平和条約の締結につながる前提で行ってくる」
(根室支局 犬飼裕一、経済部 長谷川裕紀、報道センター 五十嵐知彦、東京報道 藤本卓郎)
■ロシア側も歓迎 日本の影響力拡大警戒も 【ユジノサハリンスク則定隆史】
北方四島への官民調査団が27日、国後島に到着し、地元のロシア人島民からは日本との共同経済活動の実現に期待の声が上がった。視察先の多くはロシア側の意向が反映され、四島を事実上管轄するサハリン州は島の開発に日本の投資を呼び込み、島民生活の向上を図りたい考えだ。国後島では北海道新聞ユジノサハリンスク支局のマリヤ・プロコフィエワ助手が取材した。サハリン州のコジェミャコ知事は27日、国後島古釜布の港で到着した調査団を前に「首脳が合意した共同経済活動の実現に向けいろいろな可能性を把握できるチャンスだ。視察したい場所はたくさんある」と歓迎の意を示した。28日に予定する国後島内の視察には、サハリン州側が提案する事業の候補地が含まれ、温泉付きホテルの建設予定地もその一つだ。担当企業のドミトリー・リー社長(38)は「協力の用意はできている。われわれの計画を調査団に説明したい」と強調した。 共同経済活動を巡っては、プーチン大統領は15日、記者団に「島々での共同作業は可能だ。領土問題解決のために友好的な状況をつくっていくべきだ」と述べ、 北方領土問題 の解決に向けた環境整備になるとの認識を示した。だが、国内の保守派からは「ロシアの主権を奪われかねない」と、四島での日本の影響力拡大を警戒する声も出ている。
2017年06月28日
北海道新聞
[領土発言をロシアが問題視か 四島調査に根室市長参加できず]
27日に根室港を出発した北方四島での日ロ共同経済活動の現地調査団に、「領土返還運動原点の地」である根室市の長谷川俊輔市長が突然参加できなくなった。日本政府が返還交渉の足がかりにしたい共同経済活動は、いきなり冷や水を浴びせられた格好で、「領土問題と共同経済活動は別だというロシア側のメッセージ」との見方も出ている。 根室市議会は27日、緊急で北方領土対策特別委員会を開き、今回の事態に抗議する決議案を決定した。28日の緊急議会で全会一致で可決される見通しで、29日に外務省や内閣府に直接提出する予定だ。同特別委の永洞均(ながほらひとし)委員長は「理由も明らかにならないまま市長が参加できないことに強く憤っている。市民が取り組んできた領土返還要求運動が否定されたように感じる」と話す。 岸田文雄外相は27日の記者会見で「関係各方面と調整をした結果だ」と強調した。ただ、政府高官は市長の領土問題に関する発言をロシア側が問題視したから行けなかったとの見方に関し「そういうことだろう」と話し、ロシア側の意向があった可能性を示唆する。市長は9日の参院 沖縄・北方問題特別委員会 で、共同経済活動の協議によって「(領土問題が)棚上げにならないかという不信もある」などと発言していた。一方で、共同経済活動の具体化を急ぐ日本政府が「足元をみられた」との指摘もある。今回の調査団は、元島民らが旅券や査証(ビザ)なしで四島を訪れている「ビザなし訪問事業」の枠組みを活用。日本の訪問団は日本側が選考してきた。今回、ロシア政府の意向を日本政府がくんだとすれば、北方四島がロシアのコントロール下にあると日本側が認めたことにつながりかねない。北大スラブ・ユーラシア研究センターの岩下明裕教授は「ビザなし訪問の制度を揺るがしかねない大きな問題だ」と指摘。「ロシア側は市長の参加を拒んでも、成果を急ぐ日本政府が調査団派遣を取りやめないと分かっている。領土問題と共同経済活動を結びつけるつもりはないという意思表示ではないか」と話した。(根室支局 今井裕紀、東京報道 水野薫)