内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

生成する生命の哲学 ― フランス現象学の鏡に映された西田哲学 第三章(十三)

2014-04-13 00:00:00 | 哲学

4 — 「自覚」と「内感」との交点、そして乖離(1)

 すでに繰り返し指摘したように、ビランによって明るみにもたらされ、精細に記述された「自己身体の内的空間」は、西田の注意をまったく引いていない。この西田の「無関心」から帰結として引き出せそうなのは、両者の立場の間には理論的に和解させがたい溝があるということだけのようにも見える。しかし、この両者の隔たりは、西田哲学に付き纏う不明瞭な問題領域を照らし出す問いかけの可能性がビラン哲学の中に含まれているということを意味していると私たちは考える。このことを明らかにするために、私たちは、両哲学が交差する地点、すなわち両者の親近性がもっともよく明らかにされると思われる内感の原初的事実へと、今一度立ち返ることにしよう。
 自覚の基本構造は、「自己が自己に於て自己を見る」という定式に要約されることは本稿の第一章で見たとおりである。自覚とは、まず、「自己が自己を見る」こと、つまり、その都度の考える自己と考えられた自己との相互限定的同一性、より一般的には、作用とその対象との現象面における同一性の経験である。この同一性の経験がそれとして成り立つのが「自己に於て」である。この第三の自己は、自己を無化することそのことであり、そのことの〈形〉として、見る自己と見られる自己との同一性がそれとして経験されることが、「自己が自己に於て自己を見る」ことである。
 自覚は、場所の論理以降の西田哲学においては、意識の事実には還元されず、逆に意識の事実は自覚の一つの現実性として捉えられなければならなくなる。とりわけ、最後期の西田においては、世界における出来事としての「世界の自覚」と「自己の自覚」との弁証法的同一性が問題とされるに至る。論文「自覚について」の次のよく知られた一節は、両者の関係の最も凝縮された表現の一つである。「世界が自覚する時、我々の自己が自覚する。我々の自己が自覚する時、世界が自覚する。我々の自覚的自己の一々は、世界の配景的一中心である」(新全集第九巻五二八頁)。
 しかし、自覚の現実性が自覚するものその者によってそれとして直接把握されるのは、我々の自己意識においてであるという一点においては、西田の自覚概念は終始一貫している。自覚とは、客体としての自己でもなく、主体としての自己でもなく、主客未分の純粋経験という初源の可能態でもなく、主客合一の直接経験が〈私〉において現実態として生きられること、言い換えれば、形が形自身を限定することとして現象する〈生命〉が、この〈私〉のこととして内的に直接経験されることにほかならない。
 西田哲学における自覚については、次の二つの同一性が厳密に区別されなくてはならない。すなわち、「見る自己」と「見られる自己」との同一性と、この作用的自己と対象的自己との関係性とそれがそこにおいて成り立つ場所としての自己との同一性である。言い換えれば、「ノエシス的自己」と「ノエマ的自己」との同一性と、この意識構造を決定している両項の関係性とそれがそこにおいて可能になる場所としての自己との同一性である。以下、前者を内在的同一性、後者を超越的同一性と呼ぶことにする。
 後者をひとまず括弧に入れ、前者をメーヌ・ド・ビランの内感の原初的事実によって開かれる問題場面へと近づけてみよう。自覚における内在的同一性とは、非表象的なものと表象的なものとの同一性、より正確には、あらゆる表象可能性を逃れつつ、自らを絶えず対象化し続ける作用的自己とそれによって対象化された自己との現実的同一性である。ビランの内感において経験されるのは、非表象的な原初的意志としての自己とその志向的対象である主観的身体との現実的同一性である。内感とは、自己身体という直接的関係項とともに現実化される原初的な力である意志の直接経験である。〈私〉において生きられたこの意志は、自己身体の運動へと自らを対象化しつつ、その身体へと働く力として現実化されることで直接内感される。意志とその作用対象である自己身体とは還元しがたい二元性を構成しながら、意志は自己身体に自己を対象化するかぎりにおいて直接的に経験されるという意味において、ここで生きられているのは自己矛盾的な現実的同一性だと言うことができる。この同一性は、構造上、西田における内在的同一性と一致する。矛盾的自己同一性を自ら引き受ける意志的自己を根柢に置くという点において、両者が主意主義的傾向を共有していることも明らかである。したがって、後者を自己において経験される原初的意志の矛盾的同一性と見なすことができる。