フランスでは、役所手続き・公共交通機関・公的サービスが何一つ日本のようにスムーズにはいかない。それが普通なのである。とはいえ、最初は、なんで日本のようにいかないのだと腹も立つし、不安にもなる。しかし、そういうことが一日のうちにいくつも重なると、精神衛生上よくない。そこで、一つの原則を立てた。
その原則とは、「用事は、一日一つ」である。つまり、一日に済ませる用事は一つだけ、それがちゃんと済めばその日の目標は達成、残りの時間は自由に使う。この原則に従って行動すると、一日に一つ用事が済めば、気が済む。場合によっては、満足感、さらには達成感さえ得られるのである。
たとえその一つの用事がちゃんと済まなくても、たった一つである。ここでフランス生活に不可欠な表現 « C’est pas grave »(「大したことないさ」)を呟いて、明日またその用事に出向く。日常はこの繰り返しである。
パリに住んでいた時に通勤に使っていた郊外電車RERが時間通りに来ないのは、もう当たり前のことなので、何かの拍子に電車が時刻表通りに来たりすると、 « Qu’est-ce qui se passe ? » (「いったいどうしたんだ?」)、何かあったんじゃないか、運転手が病気なのかもしれない、あるいはもっと大変なことが起こるかもしれないなどと想像され、かえって不安になってしまうほどなのである。
ストラスブールは、その点、パリよりもはるかに快適であるが、やはりフランスであるから、「やれやれ」と思うことは避けがたい。しかし行動原則は同じであり、 « C’est pas grave » は、常にいたるところで呟かれる。
日本は今日が今年の仕事始め。朝九時から銀行、保険会社等いくつも電話を掛けたり、打ち合わせのために集まったりしたが、すべてがフランスとは比較にならないスピードで処理されていく。それは快感でさえあるが、ちょっと怖くもある。
基本は、やはり、「一日一つ」である。そして、何かうまくいかなくても « C’est pas grave » である。