内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

『響き合う異次元 音・図像・身体』

2015-01-23 05:06:23 | 読游摘録

 今日の記事のタイトルが書名である本は、二〇一〇年に平凡社から出版されている。この本の基になっているのは、一九九三年から一九九七年にかけて四年間におよんだ共同研究「音・図像・身体による表象の通文化的研究」であり、その間開かれた研究会は十三回を数え、そこには人類学、歴史、文学、宗教、美術、音楽、映画などの多様な分野の研究者ばかりでなく、詩人、音楽家、映画の弁士などの表現者も参加している。
 本書そのものは、その共同研究を踏まえた上で行われた二〇〇五年九月三日の討論会の記録であり、それぞれの分野で最先端の仕事をしている人たちがそこに参加している。討論そのものの前に、四人の紙上参加も含めて、十八人の参加者の問題提起が列挙されている。
 その問題提起だけで全体の三百頁の約半分を占めていて、五章に分けられている。順にそのタイトルを挙げると、「交感するモノとヒト、痙攣から様式まで」「身体・リズム・文字」「パフォーマンスの中の図像」「ペルソナとしてのヒト、個としてのヒト、種としてのヒト」「摩滅そして円熟、我を離れる」。
 討論自体は、問題提起に提出されている論点を踏まえつつ六節に分けられ、それぞれ「人格神以前」「声とエクリチュール」「声・場・図像の一体化」「身体とその同定」「音の文化」「即興をめぐって」と題されている。これら討論の合間に、討論に参加されなかった共同研究者たち八人の短いコラムが挿入されている。
 実に盛り沢山な内容で、議論も多岐にわたっていて、とてもそれらを要約することはできない。企画立案者であり編者であるK先生の「あとがき」からその一節を引用する。

 多領域の一騎当千の若武者、老健の古強者が我勝ちに発する声々が、共鳴し、不協和音を奏で、稀に見るユニークな問題提起に溢れた一冊が、腕利きの編集者二人の手で、いま世に送られる。ここで論じられたことどもは、さらに多方向へと展開してゆくべきものばかりだ。四年余り経っても、その間に発言者の手も入っているし、腐るどころではない。これだけ多様な分野の最先端を行く人たちが一室に集まって、まる一日議論したからこそ生み出されたこの本の豊かさは、『響き合う異次元』という書名が、少しも誇大でないことを、読者は納得して下さるに違いない(284頁)。

 語り口調が全体を貫いている同書には、それぞれの発言者の専門領域・研究成果からする、広い意味での人間の身体性を巡る様々な興味深い観点・論点・見解が至るところに見出され、あちこち拾い読みしているだけで、とても刺激的である。