内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

未開・地域・開発

2015-01-19 05:35:23 | 読游摘録

 今日の記事のタイトルに掲げた三つの言葉は、K先生が編著者として、あるいは企画委員として関わった三つのシリーズの中にそれぞれ含まれているキーワードである。
 『「未開」概念の再検討』(リブロポート、I-一九八九年、Ⅱ-一九九一年)。K先生が編者であるこの共同研究に参加されている研究者たちは実に多士済々、収められたそれぞれに刺激的な諸論考には、発表時の口語の息吹がよく残っている。しかも、それぞれの発表には、幾人かのコメンテーターからの率直な疑問や反論も付されていて、読んでいるだけでもその時の空気が感じられ、まるでそこに聴衆として参加しているような臨場感さえある。テーマとされた「未開」概念の多角的再検討が世界像の見直しを迫る。
 『地域の世界史』(山川出版社、全十二巻、K先生は企画委員の一人)のうちの第一巻『地域史とは何か』(一九九七年)と第三巻『地域の成り立ち』(二〇〇〇年)で、K先生は、それぞれの巻において、「文化と地域―歴史研究の新しい視座を求めて」、「交易圏としてのアフリカ」という論考を寄稿されている。
 同企画全体の趣旨は、現在の世界を考える上で、今もなお有効な観点を提起している。

 新しい世紀を迎えようとする今、世界各地では地域・民族紛争が相次ぎ、他方、ヨーロッパ共同体、環太平洋経済圏構想のように、地域と国家のこれまでのあり方を変えようとする努力も見られる。それは、19世紀以来各民族の熱望の的であった「国民国家」が、その矛盾を露呈させつつあることを示している。
 本シリーズは国家の視点ではなく、地域の視点から歴史全体を見直そうとする試みであり、「地域」の概念それ自体の再検討から出発するところに特色がある。地域は、東アジア、ヨーロッパ、などという形で、歴史を通して不変にあったのではなく、人々の営みや相互の交流によっていろいろにつくりかえられてきた。そのような地域の実態をさまざまな視点からとらえなおし、そこに現れた「地域」で世界史を読み解こうするものである。

 『岩波講座 開発と文化』(岩波書店、全七巻、K先生は編集委員の一人)のうち、先生がお送りくださったのは、第一巻『いま、なぜ「開発と文化」なのか』(一九九七年)と第三巻『反開発の思想』(一九九七年)。同講座の「編集にあたって」の最初の二段落を引用する。

 冷戦終結後、現代世界には歴史的な大変動が起きています。それは、市場経済のグローバルな広がりを深めただけでなく、高度に情報化された消費社会を世界各地に出現させました。その一方で、人類は資源環境問題や民族問題の深刻な挑戦に直面しています。
 人類は、その誕生このかた、環境を改変しながら存続してきました。それを広く開発と呼ぶとすれば、人類の歴史は開発と不可分の関係にあったといってよいでしょう。しかし、近代以後の開発は、人間と社会の豊かさをめざしながら、植民地主義、政治独裁、環境破壊といった負の側面もあわせ持っていました。第二次世界大戦後、植民地帝国の崩壊、第三世界の形成、冷戦の進展にともなって、開発はいっそう重要な課題となりましたが、地域間に存在する発展の不均衡はいっこうに改善されず、グローバル化する世界の中で、いま私たちに大きな問題を投げかけています。

 「開発」という概念をその最も一般的かつ基本的な意味で用いることによって、人類と環境との関係をグローバル化する世界の問題として捉え直す観点が提示されている。
 私自身は、身体・道具・技術・環境・自然という諸概念が交叉する場面で、それらの新しい分節化の原理という観点からこの問題を考えたいと思っている。