この一週間、ファゴ=ラルジョの論文 « L’individuation en biologie » (in Gilbert Simondon. Une philosophie de l’individuation et de la technique, Albin Michel, 1994) の中のシモンドンの引用をよりよく理解するという目的のために、シモンドンの主著 ILFI の補遺ノートを読んできたが、明日からまたファゴ=ラルジョ論文に戻る。
と同時に、シモンドンの博士論文副論文であり第二の主著である Du mode d’existence des objets techniques(以下、慣例にしたがって、MEOT と略記する)もファゴ=ラルジョ論文に引用されている箇所を中心に並行して読んでいく。
今、第二の主著と言ったが、こちらのほうが論文提出の年1958年に早くも単独で出版され、シモンドンの名が学界で知られ評価されるのは、むしろ同書によってであった。それがまたある意味でシモンドンにとってばかりでなく、フランス哲学界にとっても、さらにはフランス人文科学全体にとって、不幸なことであった。なぜなら、ILFI と MEOT とは、一般総合理論とその具体的適用例との関係にあるが、後者のみが先に広く知られてしまったので、シモンドンは生前は技術の哲学のスペシャリストとして紹介されることが多く、その個体化理論の方はよく理解もされず、陰に隠れたままになってしまったからである。その独創的で難解な個体化理論が評価されるようになるのは、ごく一部の例外を除いて、シモンドン死後のことであり、今もなお再評価・再検討は続行中であり、応用的研究も国際的に拡がりつつある。
今日は、シモンドン研究書について、今月に入ってから手元に集めた文献を中心に、書誌的な記録を残しておく。
Jean-Hugues Barthélémy は、現在のシモンドン・ルネッサンスの立役者であり、シモンドン研究書の数も多い。Penser l’individuation, Simondon et la philosophie de la nature, Paris, L’Harmattan, 2005 と Penser la connaissance et la technique après Simondon, Paris, L’Harmattan, 2005 とは、2003年に提出された博士論文を二巻に分けて出版したものである。2008年には、Simondon ou l’encyclopédisme génétique, Paris, PUF を出版。
Jean-Hugues Barthélémy は、2009年から2015年にかけて、Cahiers Simondon(L’Harmattan)をほぼ毎年一冊のペースで計六冊、編集・出版しており、毎回自身の論文も掲載している。一人の哲学者に特化された密度の高い研究誌がこれだけ集中的に出版されたのは異例のことだが、昨年出た第六号が印刷媒体としての出版としては最後になり、今後は電子版のみとなり、これまでのような規則的な出版も困難になってきているようである。
因みに、今年の2月16日に拙ブログでシモンドン研究の長期連載を始めるにあたって参照したのが Jean-Hugues Barthélémy による概説書 Simondon(Les Belles Lettres, coll. « Figures du savoir », 2014)であった。その際、シモンドン自身の著作以外で手元にあったもう一冊は、Le vocabulaire de Simondon(Jean-Yves Château, Ellipse, 2008)であった。
シモンドンの哲学を現代哲学と人文科学との文脈の中に位置づけつつ、文化・技術・社会というテーマを軸に未来志向的かつ鳥瞰的に論じた一書として、Xavier Guchet, Un humanisme technologique. Culture, technologie et société dans la philosophie de Gilbert Simondon, Paris PUF, 2010 がある。
コンパクトな概説書という体裁だがシモンドンの個体化理論の宗教的次元にも言及している点で注目されるのが、Pascal Chabot, La philosophie de Simondon, Paris, Vrin, 2013 である。
気鋭のシモンドン研究者である Baptiste Morizot 今年出版した Pour une théorie de la rencontre. Hasard et individuation chez Gilbert Simondon, Paris, Vrin は、シモンドン研究に新境地を開くものとして重要な貢献である。
夏休み中にすでに入手していたものだが、今年出版されたシモンドン論文集に Gilbert Simondon ou l’invention du futur, Colloque de Cerisy, sous la direction de Vincent Bontems, Paris, Klincksieck がある。2013年8月5日から15日にかけて Cerisy-la-Salle で開催されたシンポジウムでの発表が基になっている論文集。29人の研究者が論文を寄せているが、分野も国籍も多様、シモンドン研究の現在の国際的広がりを見ることができるが、論文そのものは玉石混交である。
共著としては、2002年に二冊、Simondon, coordination scientifique Pascal Chabot, Paris, Vrin と Gilbert Simondon. Une pensée opérative, coordiné par Jacques Roux, Saint-Étienne, Publication de l’Université de Saint-Étienne とが出版されている。前者の執筆者は十人、後者は十三人、そのうち七人が両方に執筆している。この時期からシモンドン研究は急速に発展する。
学術雑誌では、Reveu philosophique de la France et de l’étranger が2006年に、Critique が昨年、それぞれシモンドン特集を組んでいる。
Muriel Combes のシモンドン研究二冊 La vie inséparée : vie et sujet au temps de la biopolitique(Dittmar eds, 2011) と Simondon, une philosophie du transindividuel(Dittmar eds, 2013) は、今月2日に FNAC に注文したのだが、未だに入荷しない。同女史の Simondon. Individu et collectivité, Paris, PUF, 1999 は出版されてすぐに購入したのだが、今は日本の実家にある。 « Philosophies » という新書版シリーズの一冊で、もともとは安価な書籍だったが、現在は版元絶版で、古本市場で法外な値が付けられていて、とても買い直す気になれない。いずれ実家から郵送してもらうつもり(後日、こちらのサイト(PDF)やこちらのサイト(WORD)からテキストが無料でダウンロードできることを知った)。
ついでだが、今月に入って、シモンドンの論文集がPUFから Sur la philosophie というタイトルで出版された。これで PUF のシモンドン著作集(講義と講演が主だが)が完結したことになるようである。シモンドン研究に必要な第一次文献はこれでほぼ出揃ったことになる。