労働場には一個だけプランターがある。
夏にはオレンジ色の花が咲いていた。
秋に枯れ、ツバキノオジが枯れ草を抜いたので、土だけになっていた。
先日、開店祝いの店先にあるハギ等で生け花を即興で僕らはこしらえた。
作品名を「秋の夢」と題して、<作品 秋の夢>とトイレットペーパーの芯を伸ばして、作って置いた。
その生け花も半分が枯れ、残りはまだ生気を放っている。
昨日の朝、パッと見ると、黄色い花が活けてあった。「あっ」って俺、言った。
「あっ」って思ったから。
で、聡怩オているツバキノオジを発見して、
「あっ、アレ」って俺言った。
一昨日の朝、ハツリ屋さんが「今度は『冬の思い出』っていうのを作ってくれ」
と僕らは冗談半分で頼まれていた。
だがしかし、オジはマジで作った。僕より早く来て、すでに労働の準備をしながら。
我々はプランターの前に立った。
「オジ、凄いな、これは」
と僕。
「おうよ。開店祝いの店に当たりをつけておいたんだ、アジアンバーじゃあ」
「そうか」
「おうよ」
今度は、黄色い花である。
毎朝、挨拶を交わす女性(いつものど飴を何故だかいただく)に花の種類を訊いたら、
ランだそうだ。高いそうだ。
ハツリ屋さんが来たので、僕は腕を引っぱってプランターまで行った。
ハツリ屋さんも「えっ、嘘? ホント?」っていう表情からわき出る笑を、
顔に出して。
オジもいた。
我々、3人は、見た。
「『冬の思い出』じゃあ」
と僕は言う。
「ありがとうー」
とハツリ屋さんは本当に嬉しそうだった。
で、携帯で写真。
気を利かしてハツリ屋さんと『冬の思い出』を一緒に写してあげた。
今はまだ冬が始まったばかりなのに、『冬の思い出』は変だろう、
とスキンヘッズの鉄骨屋が言った。
違う。ハツリ屋さんの場合、今度、いつ労働場に来るのか判らない。
もしかしたら、来春、来夏、ずっと来ないかもしれない。
だから、この労働場の思い出が欲しかったのだ。
今は冬だから、『冬の思い出』。
ハツリ屋さんのリクエストに無言で応えたオジであった。
我々は朝から、かなり胸に心入れて、隠そうにも、
3人は心だらけになって、良い感じだった。
で。今回も題名を書いた。
労働場に落ちている小さなアルミ板をオジは用意した。
休憩所までマジックを取りに僕はダッシュ。
「小久保君、題はどうする?」
「いや、冬の思い出でしょう」
<冬の思い出>とオジは書いた。
ヘンテコな字になったので、消した。
紙に下書きをする。
「小久保君、字をな、<冬の想い出>にしたらどうだ」
とオジ。
「シンプルが良いです。<冬の思い出>です」
いや、と僕は続けた。
「<思ひ出>っていうのはどうでしょう?」
僕らは紙切れに、色々な題名を書いて決定に向かう。
「オジ。いっそう<冬>を取って<思い出>にしてみてはいかがか」
「小久保君、<思い出>だけじゃ、よく判らないだろう、訊かれたら。説明できるか」
「できぬ」
「だろ。こうじゃあよ」
とオジは言い、下書きだらけの紙切れをしまった。
アルミにマジックで書くオジ。
題は、
<作品 冬の思いで>
になった。
俺はびっくりした。
何でかって、これを書きたいがために、ここまでこの文を書いたのだ。
<冬の思い出>の、出、が、「で」になっている。
<冬の思いで>。決定。
「オジ、凄いのお、最後の止めはカナか」
「おうよ」
「しかし、オジ、何でカナになったんじゃ」
「わからん」
オジを僕は天才だと思った、マジで。
<出>で止めるところを、<で>で流しやがったのだ。
これにはでんぐり返った。
こういう言語感覚って、マジ、凄いとわいは思う。
オジは凄い。
で、めでたく、アジアンバーの開店祝いの花、ランとその他で構成された生け花の横に、
がれきの中から探した小さなアルミ板に題を書いて、土にぶっさした。
ツバキノオジは言った。
「喜んでもらえるのが、ええな」
僕はハツリ屋さんのあの笑を忘れないと思う。たぶん、一年ぐらいは。
夏にはオレンジ色の花が咲いていた。
秋に枯れ、ツバキノオジが枯れ草を抜いたので、土だけになっていた。
先日、開店祝いの店先にあるハギ等で生け花を即興で僕らはこしらえた。
作品名を「秋の夢」と題して、<作品 秋の夢>とトイレットペーパーの芯を伸ばして、作って置いた。
その生け花も半分が枯れ、残りはまだ生気を放っている。
昨日の朝、パッと見ると、黄色い花が活けてあった。「あっ」って俺、言った。
「あっ」って思ったから。
で、聡怩オているツバキノオジを発見して、
「あっ、アレ」って俺言った。
一昨日の朝、ハツリ屋さんが「今度は『冬の思い出』っていうのを作ってくれ」
と僕らは冗談半分で頼まれていた。
だがしかし、オジはマジで作った。僕より早く来て、すでに労働の準備をしながら。
我々はプランターの前に立った。
「オジ、凄いな、これは」
と僕。
「おうよ。開店祝いの店に当たりをつけておいたんだ、アジアンバーじゃあ」
「そうか」
「おうよ」
今度は、黄色い花である。
毎朝、挨拶を交わす女性(いつものど飴を何故だかいただく)に花の種類を訊いたら、
ランだそうだ。高いそうだ。
ハツリ屋さんが来たので、僕は腕を引っぱってプランターまで行った。
ハツリ屋さんも「えっ、嘘? ホント?」っていう表情からわき出る笑を、
顔に出して。
オジもいた。
我々、3人は、見た。
「『冬の思い出』じゃあ」
と僕は言う。
「ありがとうー」
とハツリ屋さんは本当に嬉しそうだった。
で、携帯で写真。
気を利かしてハツリ屋さんと『冬の思い出』を一緒に写してあげた。
今はまだ冬が始まったばかりなのに、『冬の思い出』は変だろう、
とスキンヘッズの鉄骨屋が言った。
違う。ハツリ屋さんの場合、今度、いつ労働場に来るのか判らない。
もしかしたら、来春、来夏、ずっと来ないかもしれない。
だから、この労働場の思い出が欲しかったのだ。
今は冬だから、『冬の思い出』。
ハツリ屋さんのリクエストに無言で応えたオジであった。
我々は朝から、かなり胸に心入れて、隠そうにも、
3人は心だらけになって、良い感じだった。
で。今回も題名を書いた。
労働場に落ちている小さなアルミ板をオジは用意した。
休憩所までマジックを取りに僕はダッシュ。
「小久保君、題はどうする?」
「いや、冬の思い出でしょう」
<冬の思い出>とオジは書いた。
ヘンテコな字になったので、消した。
紙に下書きをする。
「小久保君、字をな、<冬の想い出>にしたらどうだ」
とオジ。
「シンプルが良いです。<冬の思い出>です」
いや、と僕は続けた。
「<思ひ出>っていうのはどうでしょう?」
僕らは紙切れに、色々な題名を書いて決定に向かう。
「オジ。いっそう<冬>を取って<思い出>にしてみてはいかがか」
「小久保君、<思い出>だけじゃ、よく判らないだろう、訊かれたら。説明できるか」
「できぬ」
「だろ。こうじゃあよ」
とオジは言い、下書きだらけの紙切れをしまった。
アルミにマジックで書くオジ。
題は、
<作品 冬の思いで>
になった。
俺はびっくりした。
何でかって、これを書きたいがために、ここまでこの文を書いたのだ。
<冬の思い出>の、出、が、「で」になっている。
<冬の思いで>。決定。
「オジ、凄いのお、最後の止めはカナか」
「おうよ」
「しかし、オジ、何でカナになったんじゃ」
「わからん」
オジを僕は天才だと思った、マジで。
<出>で止めるところを、<で>で流しやがったのだ。
これにはでんぐり返った。
こういう言語感覚って、マジ、凄いとわいは思う。
オジは凄い。
で、めでたく、アジアンバーの開店祝いの花、ランとその他で構成された生け花の横に、
がれきの中から探した小さなアルミ板に題を書いて、土にぶっさした。
ツバキノオジは言った。
「喜んでもらえるのが、ええな」
僕はハツリ屋さんのあの笑を忘れないと思う。たぶん、一年ぐらいは。