ボクはただただビールだけを目指して赤羽岩淵の駅を降りた。
あまり記憶がない。
これは飲酒後の話しではなく、まだ飲酒前である。
達成感はなかったが、燃え尽きた手ごたえがある。
まだまだいいものができたであろうという後悔もある。
卒業論文。
ボクはこの日、2日の完徹を経て、卒論を提出した。
提出期限の2分前。いや、もしかすると1分前だったかもしれない。ちょっとサーバーがビジー状態になっていたら、完全にアウトのきわどいタイミングだった。
卒論はあまりいい出来とはいえないものだった。
指導教員曰く、「理論が破綻してい」た。
だから、この日も会社を休み、期限ぎりぎりまで悪戦苦闘したのだった。
いや、もうこれ以上言うのはやめよう。ともかく、ボクは卒論を提出したのだから。
午後3時の赤羽は空いていた。
1番街を目指して歩いたが、「まるます家」の前を通り過ぎ、ボクはその近くにある「鐵一」という店に入った。
気兼ねなく飲めそうな店だった。しかも平日の昼下がり、店は空いていた。肩を寄せ合いながら飲む店ではなく、ボクは文字通り店に吸い込まれるように入った。
「生ビール」(463円)。
キンキンに冷えた中ジョッキをボクは数秒で飲み干した。
「もう一杯」。
八名信夫のような声でボクは店員に告げた。
その一杯も僅か数十秒で文字通り泡と消えた。
後のことはもうよく覚えていない。
手元にあるレシートを見ると、
「牛モツ煮込み」(299円)、「ねぎぶくろ」(308円)、「ハムカツ」(390円)をオーダーしたらしい。
飲み物は「ホッピーセット」(411円)、「中 焼酎」(206円)×2。
意識はなくても、思いっきり自分の好物のものを頼んでいるのが面白い。
多分、居心地がよかったのだろう。
2,746円、しっかりと食べて飲んだ。
長い長い闘いだったなと思う。
この5年間、ほぼ毎晩遅い時間まで勉強を続けたものだと思う。勉強が嫌いだった少年だったのに。
そんな思いに浸りながら、自分だけの時間を過ごした。
どこをどう帰ったのか、帰路も全く記憶がない。
ただ、家に帰った頃はもうとにかく眠くて、テレビの前でうとうとしていたら、そのまま後ろに倒れて頭を打った。それで、頭がおかしくなったのか、娘が言うには、おかしな言動もしたという。
その日は19時には寝てしまった。
やけに布団が柔らかく、優しさに包まれているような気がした。
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