ボクは八戸で生まれたと聞かされている。
けれど、八戸のどこで産まれたのか、そして何歳まで、この地で過ごしたのか、厳密には知らない。恐らく2歳か3歳で、わたしはこの地を離れたのだろうと想像する。
それ以来、なんともそれ以来の八戸である。
推定40年ぶり。
人生の多くを千葉県で過ごしたが、ボクには南部の気質があると勝手に思っている。それが自分という人間を解くキーワードだと。勝手にそう思っている。
夏休みは一戸の祖母の家に行くのが楽しみだった。そこで食べる南部せんべいは格別だった。ボクのソウルフード。もちろん、南部せんべいの耳だって大好きだ。
だが、ついぞせんべい汁などというものにはいまだかつてお目にかかったことがない。
三戸にいる母の従兄弟は、せんべい汁作りの名人だったらしく、3回ほど、朝の情報番組に出演したと聞いている。
「B-1グランプリ」において、「せんべい汁」が悲願の優勝を飾ったのは2012年のこと。全国800万人に及ぶ八戸関係者が待ちに待った勝利だった。
鍋にせんべいを入れるその発想。度々の飢饉に悩まされ、極貧の北東北を救ったのは、鍋ものに何かを入れる知恵。「ひっつみ」だってそう。「つめり」だって、「はっと」だって、そしてこのせんべい汁だって。
米が収穫できないときの非常食。いや、満足に収穫できない時の方がきっと多かったのだろうから、日常食といってもいいのかもしれない。いや、きっと小作は、このせんべい汁すら食べられなかったのではないだろうか。
そのせんべい汁がグランプリをとるやいなや、一気に八戸の代名詞になったような気がする。
だって、この「八食センター」にはお土産用の「せんべい汁」がわんさと積まれている。そして、いずれも飛ぶように売れているではないか。
そして、ボクもいよいよせんべい汁を前にしている。
「八食センター」の2階で。
しょう油仕立ての鶏肉出汁。鍋がぐつぐついう前に、せんべいを割って投下。
せんべいはてっきり南部せんべいとばかり思っていたが、いや厳密には南部せんべいで間違いないのだろうが、せんべい汁用のせんべいが売っているらしい。
具材は白菜、人参、ネギ、鶏。
決して豪勢でないところがいい。
味はやっぱり少ししょっぱい。通常のスープに塩がきいた南部せんべいを投下するのだから、味付けは濃い。
だけれど、うまいよ。せんべいは汁に浸されて、もちもちの食感に大変身。
おいおい、お酒が飲みたくなるじゃん。
素朴だ。実に素朴。
紅葉が始まった八戸は夜になるといくぶん寒い。昨夜も木枯らしにさらされながら、はしご酒。
まだ飲むんかい!とお叱りを受けそうだが、この胃に優しい鍋をつついていると、もう仕事なんかどうでもいいから、酒をくれと大声で言いたい。
鍋で一杯、いい季節がきたな。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます