「割烹 河童」は、酒もつまみもそこそこおいしくかったが、いかんせん値段が高かった。スマホで確認してみると、カープは勝っている。もう一度、テレビがある店を探そうか。ボクは、「河童」を出て、再び新潟市内の酒場を探し始めた。
比較的、高そうな店が軒を連ねる中、大衆酒場と自称する店を見つけた。だが、店の外から店内をうかがうことはできない。
外観から、大衆酒場とは判断するには極めて怪しかった。だが、それ以外に有力な店もなかった。帰りの新幹線の発車まで、あと1時間余り。ボクは、この怪しい大衆酒場に一縷の希望を抱き、店の扉を開けた。
長年、居酒屋をさすらっていると、ある種の勘が働く。店に入った時のインプレッションだ。この時も感じた。
「あちゃ~」。
いや、それはテレビの有無ではなく、酒場としての基本的な体裁である。
看板には確かに、大衆酒場と書かれていた。だが、眼前に広がっている光景は、いかにも安いスナック風である。暗い灯りがポツンと灯り、客はカウンターに一人だけ。女将が一人で切り盛りしている。入る店の入口を間違えてしまったのか。思わず、ボクは女将にこう尋ねたのだった。
「『家族亭』って、ここですか」。
女将は、作業しながら、ボクには目も呉れず、「えぇ」とだけ言った。
今晩は、ちょっとついてないと思った。
「割烹」、「大衆酒場」という看板が、必ずしもそれ通りになっていない。自分が東京基準なのか、新潟での「割烹」、「大衆酒場」は、この通りの体裁なのか。もし、そうならば新潟の居酒屋文化はちょっと残念だ。せっかく、日本一の酒所であり、魚もうまいというリソースがありながら、居酒屋文化はちょっと低いような気がする。
「家族亭」のカウンターに座って、なんか、しんみりとした雰囲気で、ボクは、「生ビール」と「煮込み」を女将に頼んだ。
メニューも東京となんら変わらないものが並んでいる。うまい魚でもあれば気持ちは前向きになったが、それもない。
「煮込み」の画像を撮ろうとするものの、店内が暗くて、フォーカスが合わない。どんだけ、店が暗いんだ。
「煮込み」は味噌が濃厚で、おいしい。さすが味噌どころだ。おいしい。
だが、おいしいからこそ、もったいないなとも思う。繰り返しになるが、いいリソースを持っているのに、それを活かせない状況を。
「新潟は寒いですね」。
女将は、仕事の手を休め、「寒くなってきました」とポツリ。
このしんみりとした雰囲気。大衆酒場的でもなく、家族的でもない。名は体を表さない酒場で、ボクは生ビールを1杯だけいただいた。
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