小学生の頃、給食のパンがあまり好きではなかった。かなりの頻度で出る「コッペパン」に「ぶどうパン」は正直おいしくなかった。昭和一桁生まれの両親に育てられた自分の家庭で、食卓にパンが出ることはほとんどなく、給食はやけにパンばかり出てきたイメージがある。あの頃、日米の貿易不均衡の是正に日本が小麦粉を買わされていたのを知ったのは大人になってからだった。
また、自分が子どもの頃に市販されていたはパンといえば菓子パンが主流で、「第一パン」や「ヤマザキ」しか知らなかった。あんぱんかクリームパン、或いはジャムパンばかり。いずれも心からおいしいとは思えなかった。刑事ドラマの張り込みのシーン、夜になると決まって先輩の刑事が、あんぱんと牛乳を差し入れていたっけ。
当時、パンが好きでなかったのはおいしいパンと出会えてなかっただけだと分かったのも実は最近だ。しっかりした素材と酵母で作られたパンはかつて自分が食べてきたパンとは全く違うものだった。
初めてあんぱんがうまいと思ったのもやはり大人になってから。親戚が買ってきた、銀座の木村屋総本店のあんぱんだ。パンもあんもおいしくて、とにかく驚いた。とりわけ、パンから香る芳香が抜群に良かった。
時が経ち、デパ地下巡りをしていると、「木村屋」がよく目に入るようになった。池袋の西武本店、上野の松坂屋など。さすが、1874年創業の老舗。他のパン屋とは違う。ショーウィンドウに飾られたパンの数々。やはり格が違う。
「木村屋」の「あんぱん」。
中でも、「酒種あんぱん」は特別だ。イースト菌ではなく、日本酒の酵母で作られたパンだから。あの独特な香りはこの酵母に由来しているのだろう。これが作られたのが1874年。つまり明治7年、その味は今も変わらないらしい。古くは明治天皇への献上品として、近年では橋龍こと橋本龍太郎首相がペルー公大使人質事件で関係者を励ます差し入れとして、重要な役割を演じた「木村屋」のあんぱんはやはりスペシャルだ。日本のパンの源流といってもいい。1個150円はやはり安いと思う。
もう一つ、「木村屋」で挙げておきたいパンは、「とろけるカレーナン」。今、パン界のブームになっているカレーパンだが、木村屋はナンという形で商品化した。このアプローチに、まずは拍手。だって、その方がよりカレー本来の姿に近づけるはず。しかし実際のナンとはちょっと違う生地というのは仕方ないが、揚げてないから、一般的なカレーパンとはもう完全にスタイルが違う。そのチャレンジに、まずは一票を投じたい。270円はちょっと高いが、最近のカレーパン事情から考えると、ごく平均的。
カレーフィリングはインドを意識していると思うのだが、万人に愛される方向でまとめた感じ。伝統のベーカリーが挑んだ「カレーナン」はパンの新たな方向を示している。
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