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居酒屋さすらい 0636 - 古木に艶あり - 「高砂屋」(葛飾区高砂)

2013-04-22 21:45:52 | 居酒屋さすらい ◆東京都内
荒涼とした千葉ニュータウン。タンプルウィードが転がってきそうな街並みにたたずみ、酒場を探す。
無機質な街。生気のない街の顔。文字通り、新しい街はどこか背伸びをしているみたいで、どこか落ち着かないみたいで、必死で素顔を隠しているよう。
北総開発鉄道の駅だけが、煌々とした明かりを灯す。

ねっとりとした風に吹かれ、駅の周囲を歩くが、気の利いた酒場は皆無だった。
チェーン系の不毛なそれが2軒ほど、半ば義務のような趣で客を待ち構えていた。
14歳の夏の苦い思い出が残っている白井市。やっぱり、ここは相性が合わないらしい。
わたしは、すぐさま電車に乗りこんだ。

古くは高島平、今ならば、筑波学園都市も、その近代的なコンクリートの要塞を作った結果、自殺率が跳ね上がった。この千葉ニュータウンがどんな状況かは知らない。でも、無機質なコンクリートの塊が、肉を貫き、骨の芯まで冷え冷えとさせるような、背中が粟立つような悪寒が走る、そんな妙な違和感を感じてしまう。
だから、日本一高い運賃と揶揄される北総開発鉄道に乗って、目の前の留学生と思しきマレーシア人の一団の楽しそうな会話を聞いていると、少しホッとした。

そうして、北総線が京成線に乗り入れる高砂駅の手前で何気なしに見た車窓から、大衆酒場と書かれた大きな暖簾を見て、すぐさま降りようと思ったのは、人間味のある会話が欲しかったからかもしれない。

「高砂屋」。
大きな白い暖簾が眩しい。その向こうのドアは開放されており、店の様子がよく分かる。
実に古そうな居酒屋だ。暖簾をくぐってみて、更に驚いた。
天井が高く、古い造りをしていることが一見して分かる。カウンターだけの店。カウンターの一段高い厨房の際の部分も幅が広く、大皿を置くことができる。そのカウンターの木も立派できれいなツヤが出ているのだ。

建物は何回か改装をしているようだが、柱や梁は恐らくそのままだろう。鈍く黒木は光を放っている。どのくらいの古さだろうか。まさか、戦前ということはないだろう。城東の町は、3月10日の空襲でほぼ灰塵に帰したと聞いている。やはり、戦後の建物と考えていいだろう。

カウンターの向こうは意外なことに若い女性。女将さんなのだろうか。
だが、まだ20代に見える。
その女性に瓶ビールを注文した。
ビールはクラシックラガー。昭和の雰囲気は五感を使って感じさせてくれるらしい。栓を抜いた若女将はそのまま瓶を持って、わたしにコップを促させた。そうして、白く細い指をツンと立てながら、苦味がウリのそのビールを注いでくれる。
この日1日、2時間歩き通した疲れが一気に飛んでいく。

若女将が置いた瓶ビールの横には小さな小鉢。
きゅうりの浅漬けに赤カブのべったら漬けのお通しである。
ここで漬けたものなのだろうか。とにかく、片手間で作ったようなものでないところが嬉しい。

カウンターの古木に手を触れる。もう何十年も多くの人を様々な酒肴で愉しませてきたこのカウンターも経年によって、少し形を変え、ピカピカと光を放っている。その温かみのある木に触れているだけで、とても落ち着いた気分になるのは何故だろう。冷たいコンクリートをずっと歩き通してきたからなのか。

メニューは落ち着いたものが多かった。古き良き、酒場の風景。
普段からわたしたち日本人が慣れ親しんだもの。
しばらくすると、厨房から続々と店員が出てきた。これからお店は多忙になるのだろう。その中で大女将らしき人が毅然とした態度で現れた。

「お店はいつからですか?」
何気なしに尋ねると「昭和22年から」と彼女は答えた。
戦後すぐの創業だ。
60数年間の輝き。
ずっと同じ店であるとも思えないが、とにかく長い間、様々なことがカウンターや椅子を磨き、すり減らしていったことだろう。

太田和彦さんもきっとここを訪れたはずだ。
「居酒屋味酒欄」に掲載されていないのは、何故だろうか。


「煮込み豆ふ」(330円)と「チューハイ」(250円)はまさに下町の味。
千葉ニュータウンですっかり心が冷えてしまったが、この「高砂屋」ですっかりと心が解き放たれたようである。
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2 コメント

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心やすらぐオアシス (さすらいのジョニー)
2013-06-14 08:21:41
京成線高砂駅をイトーヨーカドーと反対側の線路沿いで、踏切角の交番脇の線路沿いを約60mにあります。
ちょっとわかりづらいのがまた魅力かな?
カウンターには若いアルバイトの明るい対応の教育された女の子も気持ちが良くなるが?
女将(若くは決して無いが)チャキチャキの下町江戸っ子気質でこぎみの良い会話には安堵感と一日の疲れがいっぺんに取れますよ。
(ジャイアンツの悪口は厳禁です。)
メニューも煮物、串カツ、焼き魚、ポテトサラダ、カウンターには色々な材料が並んでおり、焼く、煮る等好きな食べ方で仕上げてくれます。
値段もサラリーマンが毎日来ても大丈夫なお手頃ですよ。
一度来て見ては如何でしょうか?
あまり混雑しては困りますが?
返信する
Unknown (熊猫)
2013-06-15 04:55:54
お店の名前はなんというのですか?

京成線沿線は大好きなので、是非一度うかがいます。
返信する

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