渡良瀬川の向こうに山々が見える。
関東平野の行き止まり。ここは栃木県足利市。
足利市駅の近くに何軒か酒場があったが、まだ開店していない。渡良瀬川を渡って、足利駅へと向かう。駅中にある「やるき茶屋」は開いているが、いかにも味気ない。駅の外に出たが、酒場はない。
おや?ロータリーの向こうにある掘立小屋はなんだろう。
近寄ってみると、建物はちょっとしたモールになっている。
お好み焼きの店、スナック、そして居酒屋。建物の一番奥に居酒屋「波留」があった。
「馬刺」と書かれた提灯。一升瓶が冷やされた冷蔵庫。そして観葉植物。芥子色の暖簾。
趣味がいい。入ってみることにした。
ドアを開けると、カウンターに老女が船を漕いでいた。BGMはラジオ。
ボクが席に着くと老女は起きた。
「今日は花粉症の薬を飲んだから眠くて眠くて」。
老女はそう弁解した。
ボクは「瓶ビールをください」と言った。
店は古い作りだった。カウンターはL字。椅子には座布団が敷かれ、田舎風の店を演出する。ボクの背後には「三和シヤッター」と書かれた巨大なマリリンモンローのポスター。その向こうには、これまた大きなポスターが貼ってあった。
横浜ベイスターズの波留選手。
え?もしかして、波留選手のお母さん?思わず、そう聞いてしまった。
「違うのよ」とお母さんは一蹴。どうやら、ベイスターズの同僚が、波留選手を連れてきたのだとか。
その同僚って、もしかして琢朗さん?
「そうよ」とお母さん。
足利といえば、琢朗さんだもんね。
ボクはぐびりとコップに注いだビールを飲みほした。
ボクははじめこそ、「波留特製もつ煮」をオーダーしたが、その後は「これ、おいしいよ」というお母さんの言われるがままにつまみをいただいた。
そうこうするうち、日本酒を薦められたかと思うと、お母さんは一升瓶を上手に傾け、ボクに一杯差し出した。
「十四代」に「ウィンナー」。
「もつ煮」は味付けが東京のものと違っていた。やや甘辛いのは、味噌の違いか。ネギがふんだんでもつも柔らかい。
「ウィンナー」はキャベツといっしょに炒めたものだ。
このお母さん、部類のお酒好きとみた。
日本酒の批評が鋭い。
「十四代」の蘊蓄を語ってきかせてくれる。
「十四代」の2杯目を飲み干すと、3杯目と一緒に「クジラベーコン」が出てきた。
メニュー表にも酒と料理の値段が書かれていない。
さすがに、これは高くつくだろうなと思った。
お母さんとの話しは楽しかった。
日本最古の学校「足利学校」の話題、石井琢朗氏の2000本安打の祈念パーティの話しなど、地元でしか聞けないものばかり。
それをボクに語ってきかせてくれた。
お会計は5,000円近くになった。さすがに一人飲みで5,000円は散財感があった。
充実感はないが、こうした酒場も出会いのひとつである。
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