適当に歩いていれば、その店は見つかると思っていた。
高田馬場のときみたいに。
その日、わたしは五反田で仕事を終えた。
高田馬場の立ち飲み屋「呑2」(のむのむ)のおばちゃんが「五反田にもお店あるからね」と仕切りに薦めてくれたのを思い出し、わたしはその店を目指して歩いている。
大まかなアタリをつけていた。
五反田大橋の東側に立ち飲み屋があることは以前から知っていた。何の根拠もなかったが、わたしはそこが五反田の「呑2」であると確信していたのだ。
果たして、そこに駆けつけてみると、わたしの根拠もなにもない勘はものの見事に外れたことに気づく。そこには、「立呑処 へそ」と書かれてあった。
わたしは、躊躇なく店の暖簾をくぐった。別に「呑2」を諦めたわけでなく-実際2日後もまた五反田で仕事を終える予定になっていたので、「呑2」はまたそのときにでも伺えばいいと思い-こうして、偶然に導かれてこの店の前に立っているわけで、わたしは店に入ることにしたのだ。
また、お店の雰囲気が入りやすかったのも事実。入口からは店内の様子が窺え、数人もの酔客の姿が見えた。むしろ、わたしは吸い寄せられるように店に入ったといっていい。
お店は十畳くらいの広さ。そこに幾つかのテーブルが並んでいる。カウンター席は皆無だった。
わたしは、店の真ん中右端のテーブルに就いて、すぐさま「生ビール」(380円)と塩らっきょう(250円)を頼んだ。すると、若い女性の店員はぎこちないイントネーションで「メンチカツが本日のサービス品になっていますよ」とわたしに薦める。へぇ、立ち飲み屋で、カウンターセールスをする店って珍しい。その心意気に打たれ、わたしはそのメンチカツ(200円)も貰うことにした。
支払いのシステムは「一括後払い制」。
2人の若い女性店員が右に左に忙しくオーダーを取りに走っている。
それにしても、「生ビール」が380円はかなり頑張っているお店といえよう。安易に400円としないところがまた心憎い。「300円台で提供する」という心意気がまた伝わってくるのだ。
運ばれてきた「生ビール」を飲んだが、キーンと冷えていて、これまた偽りなく正真正銘のビールであった。
お店のメニューはかなり幅広い。
見たところ、ざっと50品は越えている。恐らくもっともっと品数は多いかもしれない。メニューは「串カツ」が中心。揚げ物が得意な立ち飲み屋さんだ。
その点、お奨めの料理だけあって、「メンチカツ」はすこぶるおいしかった。アツアツで肉汁がジュワーっと口の中に広がった。やはり、揚げ物とビールの相性はかなりいい。
メニューを見ていて、気になるものがあった。
「どて煮」と書いてあるが、それが、ただの「どて煮」ではなさそうだった。「どて煮」の下に「関西ジャンジャン横丁風」と書いてあるのだ。どっぷり大阪という意味で「ジャンジャン横丁」の名前は聞いたことこそあったが、足を踏み入れたことはなく、実際その通りがどんな地なのか知る由もないのだが、とにかくその「どうや!」と言わんばかりのメニューにわたしは心が突き動かされ、気がつけば、その「どて煮」(380円)を頼んでしまっていたのだ。
しかし、それにしても何故に「関西ジャンジャン横丁風」なのか。経営者か料理人が関西出身なのだろう。とにかく、一家言ある「どて煮」が出てくるのは間違いない。
お店の中は7~8人の客が思い思いに酒を飲んでいた。店の奥にはテレビが据えつけられており、台湾で開催されている野球の五輪アジア予選の中継が放映されている。それを肴にテレビ前に陣取った3人連れのおっさん達は、ああだこうだと野球談義に花が咲いている。こうして12月になっても真剣勝負の野球が見られることは至極幸せなことである。
「お飲み物どうしますか」と突然の声で我にかえった。どうやら、おいらのジョッキが空になっているようだ。
「あ、お代わりください」と咄嗟に答えた。
立ち飲み屋で、こりゃまた飲み物のセールストークがあるとはまた新鮮だった。店の回転率を上げる努力はどこの店も大きな課題である。
「どて煮」は主張するとおり、確かにおいしかった。
何が「ジャンジャン横丁風」なのか、分からなかったが、今まで食べた「どて煮」と比べて、甘すぎなかったところが、よかった。
出汁はじんわりと濃い。とろりとしたスープがまた胃袋を刺激して食欲が更に進む。
思わず、「もう一杯」と言いたかったのだが、やめておこう。
今宵は早く帰って、五輪予選を見るのだ。
今夜は予選の趨勢を決める韓国戦なのだ。
「ごちそうさま」
と女性の店員に告げると、「ありがとうございました」と笑顔でかえってくる。いまどき、珍しい純真な笑顔だった。
ドアを開けた。目黒川をつたう寒風が見に沁みる。そんな日は、こうした暖かいお店でくつろぐに限る。
目黒川の川面には無数のネオンが映ってはゆらいでいた。
高田馬場のときみたいに。
その日、わたしは五反田で仕事を終えた。
高田馬場の立ち飲み屋「呑2」(のむのむ)のおばちゃんが「五反田にもお店あるからね」と仕切りに薦めてくれたのを思い出し、わたしはその店を目指して歩いている。
大まかなアタリをつけていた。
五反田大橋の東側に立ち飲み屋があることは以前から知っていた。何の根拠もなかったが、わたしはそこが五反田の「呑2」であると確信していたのだ。
果たして、そこに駆けつけてみると、わたしの根拠もなにもない勘はものの見事に外れたことに気づく。そこには、「立呑処 へそ」と書かれてあった。
わたしは、躊躇なく店の暖簾をくぐった。別に「呑2」を諦めたわけでなく-実際2日後もまた五反田で仕事を終える予定になっていたので、「呑2」はまたそのときにでも伺えばいいと思い-こうして、偶然に導かれてこの店の前に立っているわけで、わたしは店に入ることにしたのだ。
また、お店の雰囲気が入りやすかったのも事実。入口からは店内の様子が窺え、数人もの酔客の姿が見えた。むしろ、わたしは吸い寄せられるように店に入ったといっていい。
お店は十畳くらいの広さ。そこに幾つかのテーブルが並んでいる。カウンター席は皆無だった。
わたしは、店の真ん中右端のテーブルに就いて、すぐさま「生ビール」(380円)と塩らっきょう(250円)を頼んだ。すると、若い女性の店員はぎこちないイントネーションで「メンチカツが本日のサービス品になっていますよ」とわたしに薦める。へぇ、立ち飲み屋で、カウンターセールスをする店って珍しい。その心意気に打たれ、わたしはそのメンチカツ(200円)も貰うことにした。
支払いのシステムは「一括後払い制」。
2人の若い女性店員が右に左に忙しくオーダーを取りに走っている。
それにしても、「生ビール」が380円はかなり頑張っているお店といえよう。安易に400円としないところがまた心憎い。「300円台で提供する」という心意気がまた伝わってくるのだ。
運ばれてきた「生ビール」を飲んだが、キーンと冷えていて、これまた偽りなく正真正銘のビールであった。
お店のメニューはかなり幅広い。
見たところ、ざっと50品は越えている。恐らくもっともっと品数は多いかもしれない。メニューは「串カツ」が中心。揚げ物が得意な立ち飲み屋さんだ。
その点、お奨めの料理だけあって、「メンチカツ」はすこぶるおいしかった。アツアツで肉汁がジュワーっと口の中に広がった。やはり、揚げ物とビールの相性はかなりいい。
メニューを見ていて、気になるものがあった。
「どて煮」と書いてあるが、それが、ただの「どて煮」ではなさそうだった。「どて煮」の下に「関西ジャンジャン横丁風」と書いてあるのだ。どっぷり大阪という意味で「ジャンジャン横丁」の名前は聞いたことこそあったが、足を踏み入れたことはなく、実際その通りがどんな地なのか知る由もないのだが、とにかくその「どうや!」と言わんばかりのメニューにわたしは心が突き動かされ、気がつけば、その「どて煮」(380円)を頼んでしまっていたのだ。
しかし、それにしても何故に「関西ジャンジャン横丁風」なのか。経営者か料理人が関西出身なのだろう。とにかく、一家言ある「どて煮」が出てくるのは間違いない。
お店の中は7~8人の客が思い思いに酒を飲んでいた。店の奥にはテレビが据えつけられており、台湾で開催されている野球の五輪アジア予選の中継が放映されている。それを肴にテレビ前に陣取った3人連れのおっさん達は、ああだこうだと野球談義に花が咲いている。こうして12月になっても真剣勝負の野球が見られることは至極幸せなことである。
「お飲み物どうしますか」と突然の声で我にかえった。どうやら、おいらのジョッキが空になっているようだ。
「あ、お代わりください」と咄嗟に答えた。
立ち飲み屋で、こりゃまた飲み物のセールストークがあるとはまた新鮮だった。店の回転率を上げる努力はどこの店も大きな課題である。
「どて煮」は主張するとおり、確かにおいしかった。
何が「ジャンジャン横丁風」なのか、分からなかったが、今まで食べた「どて煮」と比べて、甘すぎなかったところが、よかった。
出汁はじんわりと濃い。とろりとしたスープがまた胃袋を刺激して食欲が更に進む。
思わず、「もう一杯」と言いたかったのだが、やめておこう。
今宵は早く帰って、五輪予選を見るのだ。
今夜は予選の趨勢を決める韓国戦なのだ。
「ごちそうさま」
と女性の店員に告げると、「ありがとうございました」と笑顔でかえってくる。いまどき、珍しい純真な笑顔だった。
ドアを開けた。目黒川をつたう寒風が見に沁みる。そんな日は、こうした暖かいお店でくつろぐに限る。
目黒川の川面には無数のネオンが映ってはゆらいでいた。
どて煮に関西風なんてのがあるんですかね~。
ちなみに、小さい頃から食べてきたどて煮は甘くないです。
観光客用になんだか最近お店で食べるのは極端に甘いような。
せっかくの豆味噌の風味が台無しです・・・。
大阪で食べる「どて焼き」ともまた違うんですね。
すみません。
そうすると、わたしが想像していた「甘い味」っていうのは「どて焼き」のイメージです。
なるほどね。
そろそろ、故郷の味が恋しくなっていませんか。
まだ早いか…。
ご無沙汰してます、
先日の谷中銀座の階段上の角打ちは
オフィシャルでした、(近頃はあまり行ってないので・・・・・)、
私も近頃立ち飲みや角打ちを探して回ってます、
拙ブログも参考にご覧下さい。
ティコティコさんのブログ、素晴らしいです。立ち飲み、角打ちで一度シンクロしてみたいものです。
谷中銀座の例の店、一度行ってみようと思います。いかし、ちょっと怖いですね。
ところで、ティコティコさんのお名前をみると、どうも9年前にエリザベス杯で勝った牝馬、ティティコタックを思い出します。
あのレース、稼がせてもらいました。