出向(ここでは「在籍出向」のことを単に「出向」と呼ぶ)とは、自社の従業員を他社の業務に従事させるという、近代以前から慣行的に行われてきた雇用形態である。しかし、これは、一つ間違えると、労働者派遣法に抵触し、いわゆる「偽装出向」(=「違法派遣」)となってしまうことがあるので、気を付けたい。
出向とは、本来、経営・技術指導、職業能力開発、人事交流等を目的として、多くの場合は同一の企業グループ内で行われるものだ。もちろんグループ外企業へ出向させること自体が違法というわけではないが、その場合は、出向元にどのようなメリットがあるのかが問われてこよう。
もし、その目的が「利ざや稼ぎ」にあると判断されれば、それは「出向」ではなく「労働者派遣」ということになり、すなわち「特定労働者派遣事業」として厚生労働大臣への届け出が無ければ行ってはならないものとされる(※)。
これは、グループ内での出向であっても同じことが言え、特に、出向元での賃金額を上回る費用を出向先に負担させている場合は、その負担額について明確かつ合理的な積算根拠が必要だ。
※ 第186回通常国会に提出されている労働者派遣法改正案には、「特定労働者派遣事業(届出制)と一般労働者派遣事業(許可制)の区別を廃止し、全ての労働者派遣事業を許可制とする」旨が盛り込まれている。
一方で、出向制度は、人材を受け入れる側としても使いやすい。労働者派遣法の適用を受けないため、人選も自由であるし、受け入れ期間の制限(原則として最長3年)も無い。加えて、自社の就業規則により指揮命令でき、他部門への配転(別の会社への二次出向も含むものとされる)も自社の判断で可能となる。
しかし、便利な反面、出向には、上述のような落とし穴もあることは認識しておくべきだ。特に、こういう話を人材会社が持ち掛けてきたときは、違法派遣の片棒を担ぐことになる可能性が高いので、要注意だ。
意図的に偽装出向の当事者となるのは論外としても、図らずも違法行為に関わってしまわないよう、出向者を出す側も受け入れる側も、正しい知識と見識を持っていたい。
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