医療機関や介護施設等において、「宅直」(「自宅における当直」を略した造語)もしくは「オンコール当番」などと称する制度を採りいれている例が見受けられる。これは、医師や職員が当番制で、緊急時に対応するため電話を受けられる状態で待機するものだが、この待機している時間は、労働時間(すなわち賃金支払いの対象)と見るべきなのだろうか。
結論を先に言うと、これは一概に「労働時間である」とも「労働時間でない」とも決めきれず、ケースバイケースで判断するしかない。何とも歯切れの悪い言い回しではあるが、要は、「使用者の指揮命令下にある」と見るべきか否かによって扱いが異なるのだ。
宅直制度に関して訴訟に発展した事案では、裁判所は、会社側に有利な判断を示している例が目立つ。しかし、それは会社にとっての安心材料にはならないだろう。
実際、裁判所が「使用者の指揮命令下になかった」と判示した代表事例(大阪高判H22・11・16)は、「宅直制度は医師たちがプロフェッション意識に基づいて自主的に取り決めたもの」、「待機場所を定めておらず(自宅でなくても良い)、場所的に拘束されていない」、「緊急事態にはまず宿直医師が対応し、応援が必要な事態にのみ宅直医師に連絡することとしている」、「宅直制度が無ければ、医師全員が応援要請を受ける可能性があり、精神的負担はむしろ大きい」などの事情を勘案したうえでの判決であった。逆に言えば、こういった事情が認められなければ、「使用者の指揮命令下にある」と断じられる可能性が高いわけだ。加えて、この大阪高裁判決は、同じ訴訟のもう一つの争点であった「医師の宿直」については原告(労働者側)の言い分通りに「断続的労働には該当しない」と判じていることも、併せて読み込まなければならないだろう。
また、宅直中に電話で呼び出されて通常業務に従事した場合は、当然、その実働時間数に対して本来の賃金(深夜割増および法定労働時間を超過する場合には時間外割増を加算)を支払わなければならない。
さらには、その頻度が高く、精神的緊張を持続しなければならないのであるなら、電話を待っている時間すべてが「労働時間」となりうる。
そう考えてみれば、宅直を賃金支払いの対象からまったく除外するのは「きわめて黒に近いグレー」と言えそうだ。せめて「宿直手当」と同等の「宅直手当」を支給することとしておくのが、少なくとも民事的なトラブルを予防する観点からは賢明ではなかろうか。
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結論を先に言うと、これは一概に「労働時間である」とも「労働時間でない」とも決めきれず、ケースバイケースで判断するしかない。何とも歯切れの悪い言い回しではあるが、要は、「使用者の指揮命令下にある」と見るべきか否かによって扱いが異なるのだ。
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また、宅直中に電話で呼び出されて通常業務に従事した場合は、当然、その実働時間数に対して本来の賃金(深夜割増および法定労働時間を超過する場合には時間外割増を加算)を支払わなければならない。
さらには、その頻度が高く、精神的緊張を持続しなければならないのであるなら、電話を待っている時間すべてが「労働時間」となりうる。
そう考えてみれば、宅直を賃金支払いの対象からまったく除外するのは「きわめて黒に近いグレー」と言えそうだ。せめて「宿直手当」と同等の「宅直手当」を支給することとしておくのが、少なくとも民事的なトラブルを予防する観点からは賢明ではなかろうか。
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