出向(ここでは自社に籍を置いたまま他社で勤務してもらう「在籍出向」のことを指す)は、出向元・出向先それぞれに言わば「二重の雇用関係」が成立しているため、その労務管理の責任の所在に関する疑問が生じることも多い。
なお、自社から他社に籍を移して勤務してもらう「移籍出向」(単に「移籍」あるいは「転籍」とも言う)は、前職との雇用関係が解消しており「移籍先の従業員」として扱えば済むので、本稿では、考察の対象としない。
さて、まずは、会社によっては今、喫緊の課題かも知れない「労働保険(労災保険・雇用保険)」の取り扱いについて整理しておく。
労災保険に関しては、出向者は「出向先」の労働者としてカウントする。 もしも労災事故が発生したらそれは出向先の責任になるのだから、この扱いは当然のことと言えよう。 そのため、出向者を受け入れている会社は、労災保険料・一般拠出金の算出にあたって、出向者の賃金(出向元から支払われるものがあればそれも合算する)も算定基礎額に含めなければならない。
雇用保険に関しては、「その者が生計を維持するのに必要な主たる賃金を受けている方の雇用関係についてのみ被保険者となる」とされている。 そのため、これは、出向の形態(契約内容)により、ケースバイケースでの対応を要する。
ちなみに、社会保険(健康保険・厚生年金保険)は、「報酬を支払う事業所」で被保険者とするのが原則だ。 出向元・出向先双方から賃金を支払われている場合は「二以上事業所勤務届」の対象となることもある。
勤怠管理その他の労務管理は、概ね「出向先」の就業規則に従う。 出向先の「時間外労働・休日労働に関する労使協定」(いわゆる「三六協定」)も、出向者に適用される。 出向先での業務指示に従って働く以上は、そうしなければ不都合だ。
また、非違行為に対する懲戒も、原則として「出向先」の就業規則により可能とされる。 ただし、雇用関係を解消する処分(懲戒解雇など)は、出向先の判断ではできない。 もっとも、出向元において、出向先との関係悪化を理由として当該者に対し処分を下すことは考えられる。
以上を踏まえれば、出向先が出向者の賃金全額を負担しているなら、その出向者の労務管理は、ほぼすべて(「身分」に関する事柄を除き)出向先の責任において行うものと認識して差し支えない。 その場合、出向元では、出向者の身分に関する事務(労働者名簿や賃金台帳の整備等)のみを行うこととなる。
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