従業員が業務上の事故により死傷病を負ったとき、会社は、療養補償・休業補償・遺族補償等をしなければならない。 ただ、通常は、労災保険を使うことにより、(待期3日分の休業補償を除き)会社が直接補償する義務は免じられる。
しかし、法で義務づけられた補償をしたことをもって会社の民事的責任を果たしたことにはならない。
労災保険で補償されない、(1)休業補償給付(賃金の概ね8割)との差額2割分、(2)精神的損害に対する慰謝料、(3)将来見込めたはずの収入に関する逸失利益等については、被災従業員(またはその遺族)から損害の賠償を求められる可能性があるからだ。
とは言え、労災事故が起きたら必ずこうした損害賠償請求に応じなければならないわけでもない。
業務命令に違法性があったために事故が起きたのであれば「不法行為」として、会社が安全配慮義務(労働契約法第5条)を果たしていなかったのであれば「債務不履行」として、民事訴訟を提起されるところ、どちらにも該当しなければ、会社はこれら損害賠償をする必要は無い。 また、被災従業員自身の過失を相殺した結果、労災補償を上回る損害が生じていない場合も、請求される余地は無い。
もっとも、労災事故でマンパワーを失うのは、本人はもとより会社にとっても得にならないのだから、会社は(建前でなく本当に)事故が起きないよう、その防止策を講じるべきだ。 そして、訴訟対策としては、講じた事故防止策を記録しておくべきと言える。
また、事後的なリスク回避策にはなるが、「使用者賠償責任保険」(民間保険会社の“労災上乗せ保険”)を掛けておくことも意味がある。
なお、実際に事故が起きてしまった際に、こうした煩わしさを厭って労災手続きを怠るべきではない。 無論、労災保険を使わなくても会社が直接補償すれば法律上は問題ないのであるが、意図するかしないかを問わず「労災隠し」(『労働者死傷病報告』の提出モレ)になってしまいがちだからだ。
加えて、「労災保険を使わせない」という姿勢が、被災従業員(またはその遺族)に「誠意が無い」と思わせてしまうおそれもある。
民事訴訟、殊に“慰謝料”の請求は、原告の気持ち一つで決まるのだから、会社は、感謝されればこそ、恨みを買うような行為は慎むべきだろう。
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