日本の労働法制および判例において、会社は、従業員を安易に解雇できないこととなっている。会社側に責任のある整理解雇のケースではもちろんのこと、例えば私傷病や能力不足など本人側に問題があるケースであっても、場合によっては懲戒解雇に相当するケースですら、会社は解雇を回避するように努めなければならないのだ。
その一方で、会社には、従業員を自由に解雇できないことの言わば“裏返しの権利”として、広い「人事権」(会社が有する「経営権」に属する権限の一つ)が認められ、それを根拠に、仮に従業員本人が望んでいなかろうと、会社は配置転換(以下、「配転」)を命じることが可能とされている。
とは言っても、会社がまったく自由に配転を命じられるわけではなく、「権利の濫用」として無効とされてしまう例も多い。
では、どういう配転命令が「権利の濫用」とみなされるのか。判例を整理すると、次の3つに集約できそうだ。
(1) 不当な動機・目的によるもの
(2) 当該従業員に著しい不利益を負わせるもの
(収入減少、遠方への通勤、未習熟業務への適応、育児や家族の介護等への支障など)
(3) 経営上の必要性が無いもの
これらのうち、(1)は論外として、また、(2)は個別の配慮が求められるべきものとして、(3)の「経営上の必要性」というのが、会社にとっては説明しやすそうで説明しにくい、最もやっかいなものかも知れない。「定期人事異動」など、個々の配転命令すべてにおいて経営上の必要性と当該従業員の適性とをそれぞれ紐づけるのが難しいケースもあるだろう。
しかし、どのような配転であれ、最初の話に戻って、「長期雇用を約する代わりに本人の適性を探る」という観点から、その必要性が説明できないだろうか。
ただ、そのためには、計画的かつ継続的な配転を社内慣習化しておきたいところだ。その時々の「経営者の思いつき」で配転を命じていては、(3)を説明できないばかりか、(1)や(2)の要因ともなりうる。
そして、策定された配転計画は、できれば公開しておくのが望ましい。そうした方が、本人の意欲や周囲の意識にもつながるからだ。
もちろん、計画は内外の情勢が変われば変更されるべきものであり、逆に言えば、計画の変更を恐れてはならないし、それほどまでに初めから硬直的な計画を策定する必要も無い。
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