「カルメン」を初め、多くの歌劇が、女性の名前で作られ、最後は、自殺したり、殺されたり。病死したり。
カルメンも例にもれず、最後は殺されてしまいます。
一説によると歌劇のオーナーはほとんど力のある男性で、美しく、自由に生き、男を魅了する女が、幸せになりましたでは納得しなかったからとか。
昨夜、BSで放映されたスカラ座バレンボイム指揮のオペラ「カルメン」では、たばこ工場の女工が剣を持って立ち上がる演出があったり、女工同志のけんかも生々しく、珍しく女性視点のカルメンでした。
ホセがカルメンを殺すシーンでは、ホセが暴力男をさらけ出す演出で、ホセにも容赦しない。
大体、メリメの作ったホセは、故郷で暴力事件を起こし、住めなくなってセビリアに出ていき、そこでカルメンと出会い上官を殴り、軍隊でもやれなくなり、山賊になり、そこでも、エスカミーリョを殺しかけという、典型的なDV男。
今までの演出では、ホセはカルメンの魅力にとらえられた気の毒な男、加害者でありながら、被害者のような扱いでしたが、最後の幕でカルメンを捕まえ、殴り、剣で突き刺すという残虐な側面を飾らずに描き。
カルメンの遺骸には、黒子の女性たちの影が嘆くように寄り添います。
そこへ闘牛場から出てきた、闘牛士に殺された闘牛の遺骸を入れた棺でしょうか?物言わぬ影のような虐げられた人のようなものが棺を取り巻きながら静かに行進してくるという。変わった演出でした。
力を誇示する男たちの影で、暴力に屈服させられてきた女、子ども、貧しい男たち、家畜。
力を持たせられていない者たち、言葉の無い者たちの悲しみを暗示しているように見えました。何千人、何万人のカルメンのように殺されてきた人たち。
ユダヤ人で、初めてワーグナーをイスラエルで演奏した指揮者であるダニエル・バレンボイムらしいと思ったのは、私だけかな。
国境とか、宗教とか、イデオロギー、政治とか、経済の問題を取り上げる限り歩み寄りはない。
暴力の下で苦しむ人を見ない限り、戦争はなくならない。
深い長い戦争を続ける故郷を見てきた彼らしい演出だと思いました。
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