このところの、NYダウや日経平均の上へ上へと目指す値動きに、いささか戸惑いを覚えている方は大勢いらっしゃるのではないでしょうか。筆者もそうです。遅くともアメリカ大手金融機関の1-3月期の決算が出る段階で下落に転じると思っておりました。
最近の異例なまでの株価上昇を、FRBの金融政策の効果やら、各種の経済指標、そして個々の企業の業績などから、後付ではいくらでも説明できますが、それらは、何故それまでの悲観論が後退して、むしろ楽観論が優勢になったのかについて全体的に説明できるものではありません。というのも、それまではFRBが利下げを繰り返しても、短期的な効果に留まり株価は下落を続けておりました。また各種経済指標が悪化すれば、そのまま素直に下落しておりました。企業業績についても同様です。ベア・スターンズの救済が大きな転機となったと言われますが、その時点ではベアに続いてリーマン・ブラザーズが同じ状態に陥ると言われて、更なる下落も多数が想定していた訳ですから、これも後付の話です。
それが、何故この局面で、株価に影響を与えるであろう同じ要素が、以前と比べて別の作用を株式市場に及ぼすことになったのかについては、誰しもすっきりとは納得できる説明ができないのではないでしょうか。
その「謎」を解く1つの考え方が「創発」(Emergence)という概念です。
これは、DNAに刻印された、グアニン、チミン、シトシン、アデニンのたったの4つの塩基配列の組み合わせで構成された「生命情報」が、この世界で生き抜くための安定した秩序を生命体に発現せしめている現象を説明するときに用いられる概念です。
「ブラインド・ウォッチメーカー」(盲目の時計職人)という言い方をドーキンスはしておりますが、時計を構成する沢山の部品を使って、あたかも盲目の時計職人が時を刻む時計を組み上げている、そのような奇跡的な事象を可能にしている生命が持つ独自の作用が「創発性」ということになります。
もっとも、バラバラに分解された部品を使って、猿が時計を組み上げることができる確率はゼロではないようですが、それは、キーボード操作を覚えた猿がシェクスピアが書くような小説を書ける確率がゼロではないと言っているのと同じことであり、所詮、我々が生きている時間軸のなかでは非現実的な話です。
この創発という概念は、株式市場においても生命体と同じように作用しているのではないかというのが、今回、筆者が考えたことです。
創発とは、上述したような個々の要素の単なる足し算(&引き算)だけでは説明できない現象です。当然、その要素の1つには筆者が使っているテクニカル分析データも入ります。
つまり、株式市場全体が示す性質は、それを構成する個々の要素が単独では決して持ち得ないだけではなく、個々の要素の性質の総和を超えており、先行する与件からは予想できない全く新しい性質が現れることを創発と呼んでおりますが、こうした創発性を株式市場も元来持っているのではないか、と言うのが筆者の考えです。
昨年10月にご紹介した、ドミナント・ネガティブ現象も生命が持つ創発性の1つです。この中で触れたように、生命現象を司る様々な分子が相互作用し、常に離合と集散を繰り返しながらネットワークを拡げることによって動的平衡が作り出されることに着目下さい。
しかもこれは、時間的には後戻りできないプロセスです。この点は株式市場も同じです。
この株式市場が本来的に持つ創発性を理解せず、1個人、1組織、1企業、あるいは1国だけの主観的な見方で市場を見てしまうと、今回のような創発性を伴った株式市場の現象を見誤ってしまいます。
では、一体どうすれば、この創発性に基づいて、これからの株式市場の動きを予見できるのか?というのが誰しも気になるところですね。
残念ながら、浅学非才の身には有効な手だてが見つかりません。
但し、1つだけ分かっていることがあります。それは「相互作用」と「ネットワーク階層」と「不可逆的時間」の3つが鍵を握っているのではないかということです。これらが複合した現象を創発性と呼んでも良いのかも知れません。
極めて単純化して、この3つのキーワードを使って、今回のNY株式市場の動きを振り返ってみると、まず、信用収縮(クレジット・クランチ)の行く末に関して、当の金融業界と政策当局そして資金繰りに直面しているヘッジファンドなどの企業、この3者の間で疑心暗鬼の状態が頂点に達した、その不可逆的時間軸において、ベア・スターンズ危機が突然訪れ、これを契機に、この3者間で良い意味での相互作用(事実上の公的資金投入で、疑心暗鬼のある意味での氷解)が促進され、それを受けてのG7という世界の金融市場におけるネットワークの最上層に位置する「意思決定機関」において、金融機関のトップが招かれるという異例の事態で当面の収集策についての合意に至った、こうした創発性が発揮されたことが、壊れかけた金融システムの動的平衡を何とか回復させ、その後は個々の悪い経済指標も個別企業の悪い決算も、あたかも処理済みとしてことごとく消化し、株式市場がリバウンドを重ねていった、という説明になりますが、これも後付と言われればその通りかも知れません。
今後ともこうした創発性を市場から読み解くことは、筆者にはとてもできそうもありません。毎朝手にとれば、その日の相場の方向性を指し示すことができる「株式羅針盤」のような新兵器がこの世にないものだろうか???
最近の異例なまでの株価上昇を、FRBの金融政策の効果やら、各種の経済指標、そして個々の企業の業績などから、後付ではいくらでも説明できますが、それらは、何故それまでの悲観論が後退して、むしろ楽観論が優勢になったのかについて全体的に説明できるものではありません。というのも、それまではFRBが利下げを繰り返しても、短期的な効果に留まり株価は下落を続けておりました。また各種経済指標が悪化すれば、そのまま素直に下落しておりました。企業業績についても同様です。ベア・スターンズの救済が大きな転機となったと言われますが、その時点ではベアに続いてリーマン・ブラザーズが同じ状態に陥ると言われて、更なる下落も多数が想定していた訳ですから、これも後付の話です。
それが、何故この局面で、株価に影響を与えるであろう同じ要素が、以前と比べて別の作用を株式市場に及ぼすことになったのかについては、誰しもすっきりとは納得できる説明ができないのではないでしょうか。
その「謎」を解く1つの考え方が「創発」(Emergence)という概念です。
これは、DNAに刻印された、グアニン、チミン、シトシン、アデニンのたったの4つの塩基配列の組み合わせで構成された「生命情報」が、この世界で生き抜くための安定した秩序を生命体に発現せしめている現象を説明するときに用いられる概念です。
「ブラインド・ウォッチメーカー」(盲目の時計職人)という言い方をドーキンスはしておりますが、時計を構成する沢山の部品を使って、あたかも盲目の時計職人が時を刻む時計を組み上げている、そのような奇跡的な事象を可能にしている生命が持つ独自の作用が「創発性」ということになります。
もっとも、バラバラに分解された部品を使って、猿が時計を組み上げることができる確率はゼロではないようですが、それは、キーボード操作を覚えた猿がシェクスピアが書くような小説を書ける確率がゼロではないと言っているのと同じことであり、所詮、我々が生きている時間軸のなかでは非現実的な話です。
この創発という概念は、株式市場においても生命体と同じように作用しているのではないかというのが、今回、筆者が考えたことです。
創発とは、上述したような個々の要素の単なる足し算(&引き算)だけでは説明できない現象です。当然、その要素の1つには筆者が使っているテクニカル分析データも入ります。
つまり、株式市場全体が示す性質は、それを構成する個々の要素が単独では決して持ち得ないだけではなく、個々の要素の性質の総和を超えており、先行する与件からは予想できない全く新しい性質が現れることを創発と呼んでおりますが、こうした創発性を株式市場も元来持っているのではないか、と言うのが筆者の考えです。
昨年10月にご紹介した、ドミナント・ネガティブ現象も生命が持つ創発性の1つです。この中で触れたように、生命現象を司る様々な分子が相互作用し、常に離合と集散を繰り返しながらネットワークを拡げることによって動的平衡が作り出されることに着目下さい。
しかもこれは、時間的には後戻りできないプロセスです。この点は株式市場も同じです。
この株式市場が本来的に持つ創発性を理解せず、1個人、1組織、1企業、あるいは1国だけの主観的な見方で市場を見てしまうと、今回のような創発性を伴った株式市場の現象を見誤ってしまいます。
では、一体どうすれば、この創発性に基づいて、これからの株式市場の動きを予見できるのか?というのが誰しも気になるところですね。
残念ながら、浅学非才の身には有効な手だてが見つかりません。
但し、1つだけ分かっていることがあります。それは「相互作用」と「ネットワーク階層」と「不可逆的時間」の3つが鍵を握っているのではないかということです。これらが複合した現象を創発性と呼んでも良いのかも知れません。
極めて単純化して、この3つのキーワードを使って、今回のNY株式市場の動きを振り返ってみると、まず、信用収縮(クレジット・クランチ)の行く末に関して、当の金融業界と政策当局そして資金繰りに直面しているヘッジファンドなどの企業、この3者の間で疑心暗鬼の状態が頂点に達した、その不可逆的時間軸において、ベア・スターンズ危機が突然訪れ、これを契機に、この3者間で良い意味での相互作用(事実上の公的資金投入で、疑心暗鬼のある意味での氷解)が促進され、それを受けてのG7という世界の金融市場におけるネットワークの最上層に位置する「意思決定機関」において、金融機関のトップが招かれるという異例の事態で当面の収集策についての合意に至った、こうした創発性が発揮されたことが、壊れかけた金融システムの動的平衡を何とか回復させ、その後は個々の悪い経済指標も個別企業の悪い決算も、あたかも処理済みとしてことごとく消化し、株式市場がリバウンドを重ねていった、という説明になりますが、これも後付と言われればその通りかも知れません。
今後ともこうした創発性を市場から読み解くことは、筆者にはとてもできそうもありません。毎朝手にとれば、その日の相場の方向性を指し示すことができる「株式羅針盤」のような新兵器がこの世にないものだろうか???