昨日、今日とまるで4月末か5月初めの暖かさだ。昨夜、テレビBS6で映画『アンナ・カレーニナ』が放映された。最初のシーンを見て、以前にも放送されたことを思い出した。2012年に公開されたイギリス映画で、まるで舞台を観ているように作られていて、こんな手法もあったのかと驚いた作品だが、今回はじっくり観ることが出来た。舞台を客席から観るたけでなく天井からとか、奇想天外の展開だった。
『アンナ・カレーニナ』はトルストイが書いた長編小説だが、映画だけでなく旧ソ連時代にはボリショイ・バレイが3幕で公演している。1975年にバレリーナのプリセツカヤさんがアンナ役で出演し映画も作られている。私はこの旧ソ連時代の『アンナ・カレーニナ』が観たかった。トルストイをどのように評価しているのか、人妻の恋をどのように描いているのか、知りたいと思った。
『アンナ・カレーニナ』は読まれた人も多いので、わざわざ紹介する必要はないだろう。主人公のアンナは18歳で年上の伯爵と結婚したけれど、それは心ときめくような結婚ではなかっただろう。相手は優秀な官僚で大臣を務める真面目な男である。アレクセイというこの男はロシア国家のために働く実直な男で、仕事を生きがいにしている。家と召使らを守る優しさと思慮深さを具えている。これと対照的な男がアンナと恋に落ちる軍人のアレクセイだ。同じ名前というのも面白い。
寛大で実直なアレクセイと、若々しく行動的で情熱的なアレクセイの、アンナへの「愛」の表現が分岐点なのかも知れない。アンナが軍人のアレクセイの子どもを身ごもるが、夫のアレクセイは許し、「離婚すれば生きていけなくなる」からと生まれた子どもを養女として育てる。「愛」に生きたいアンナだが、貴族社会からは不埒者のレッテルを貼られ誰も彼女と話をしない。軍人のアレクセイはアンナのために田舎で暮らそうとするが、アンナは愛されなくなったと思ってしまう。
小説では貴族でありながら社交界には出ず、田舎で農民たちと一緒になって働く男が出てくる。実直という点で大臣と共通するし、一途という点でアンナとも共通する。彼は「人は人のために生きる」と言う、その点では自分の愛を求め通したアンナと対照的だ。自分の気持ちに誠実に生きたアンナ、愛する人のために出世を捨てたアレクセイ、不幸にならない、ならせないために体面を保ったアレクセイ、私はどの人生を選んだのだろう?