「暑い、とろけてしまう」と誰かが言ったが、本当にそうだ。冷房の効いた所から外に出ると、まるで熱風が吹いていると感じる。今日は1年に2回あるペースメーカーの検査日で、久しぶりに名古屋へ出かけた。電車の中では本を読む人は誰もいない。ほぼ全員がスマホをいじっている。若い人だけではない、50代と思われる女性も細い指でゲームに夢中だ。
これだけの人がスマホを持ち、操作が出来るのだから、ゲームではなくてもっと何か役に立つようなものが生まれないだろうかと思う。きっと次の段階ではそんな何かが生まれるだろう。病院ではまず心電図を取る。ベッドに仰向けになり装置がつけられ、5秒もすれば終わる。こんなに短くて心臓の様子が分かるのかと思いながら、「ありがとうございました」と言って退室する。
続いて循環器内科に行き、ペースメーカーのチェックを受ける。診察時間は午後3時半だが、それより早く3時に受付をする。午後の場合はどんなに遅くなっても大差ないが、午前の予約は1時間以上待たされることがある。読みたい本を持って行き、読書でもしていれば時間はすぐ過ぎる。
待合室で座っていると高齢の女性が車イスを押してやって来た。その女性が「こちらがご主人ですか」と念を押すが、「この人は私を放っておいて、さっさと行ってしまうの」と愚痴が先に出る。女性が立ち去ると傍の女性に、「大きな身体でしょう。私の倍は食べるの。すぐ怒ってあの大きな手で叩くから、ホレ、こんなになった」と腫れ上がった脛を見せる。「車イスは大変ね」と女性が言えば、「あの人に叩かれて、転んだ時にお尻の骨を折ったもんだから」と言う。
夫の方が診察室から出てくるが、ペースメーカー手帳を忘れたようだ。「あんなに私が言ったのに、どうして忘れてきたの」と夫をなじる。どうやら夫の方は認知症のようだ。70代か80代の夫婦だが、言ってることもやってることもズレている。老々介護なのだろうか。しばらくして私の名が呼ばれる。医者が私の顔を見て、「心臓もペースメーカーも異常ありません」と言う。「面と向かって言ってくださったのは先生が初めてです」と私は礼を言う。