もう先週の金~土曜日のことになってしまいますが、出張の帰国便は、NY(JFK)JAL005便で、久しぶりに飛行時間14時間の移動になりました。午後1時過ぎに出て、夕方4時過ぎに到着と、時間感覚は14時間経っても、時計の針は3時間しか進まない所謂時差ぼけ(Jet Lag)をどう過ごすか。一般に、2~3日程度の滞在では、現地時間に慣れる間もなく帰国することになりますし、一週間以上滞在すれば、現地時間に完全に適応してしまうので諦めざるを得ないのと比べると、今回のように一週間未満という滞在は、ようやく慣れつつある身体をむりやり引き戻らされるという具合いに、中途半端で調整が悩ましい。米国滞在中は睡眠をずらしたまま敢えて寝不足気味の状態にして、機内で自然体で過ごすことにしたのですが、なかなか寝付かれず、映画を4本も見ることになりました。
一つは、今年のアカデミー賞を、作品賞・主演男優賞・監督賞・脚本賞の4部門で獲得した「英国王のスピーチ」(2010年、英・豪)。JAL機内では吹き替えになっていて、味わい半減ですが、それでも幼少期のトラウマから吃音障害を抱えるヨーク公が、王室ゆかりの名だたる御用医師の手では矯正出来なかったのに、正式の医師免許もなく正統とは言えない、しかし第一次大戦の戦闘ストレス反応に苦しむ元戦士を治療してきた実績と自負をもつ、民間の冴えない言語療法士ライオネル・ローグとの出会いによって、障害を克服するストーリーは、当初は国王と庶民という身分の壁に戸惑いながら、一人の患者と医師の立場を超えて、友情と信頼を育み、やがて国民を奮い立たせる第二次大戦開戦スピーチを立派にこなし、国王ジョージ6世として成長していく人間ドラマとして、十分に楽しむことが出来ました。歴史になったこととは言え、王室の事情を映画化してしまう英国人の成熟には驚かされます。
続いて、今年のアカデミー賞を争って、脚色賞・作曲賞・編集賞にとどまった「ソーシャル・ネットワーク」は、「英国王のスピーチ」とは対照的に、Facebook創設者マーク・ザッカーバーグの、喧騒に充ち満ちたはちゃめちゃな半生を描きます。今や利用者二億人と言われ、Eメールに代わるネット社会のインフラの地位を獲得したFacebookは、ガールフレンドにふられた腹いせに立ち上げた女子学生を品定めするサイトというサブカルチャーに端を発するという、こちらも「英国王のスピーチ」に似た成長のドラマを楽しめます。台詞をカットせずに普通の口調で喋ると上映時間が3時間を超えるため、台詞の殆どを早口にすることで上映時間を短くするという方法を取ったそうで(Wikipedia)、ネット・カルチャーに相応しいテンポの良さを演出しています。
三本目として、迷った挙句、睡眠薬代わり!?に選んだのは、ハンフリー・ボガートとイングリッド・バーグマンの往年の名作「カサブランカ」(1942年、米国)でした。親ドイツのヴィシー政権支配下にあったフランス領モロッコのカサブランカを舞台に、戦争に翻弄される男女のラブ・ロマンスを描き、シンプルなストーリーですが、名優と、テーマ曲「As Time Goes by」の甘く哀しい調べが耳に残れば、これぞ映画の本分と思わせる、古き良き時代の作品です。「君の瞳に乾杯」(Here's looking at you, kid.)という名セリフや、「昨晩はどこにいたの?」と女に問われて「そんな昔のことは忘れた」と素気なく答え、「じゃあ今晩はお暇?」と聞かれてもまた「そんな先のことは分からない」と素気なく答えることで知られる、ハードボイルドな作品だとばかり思っていましたが、制作された時代背景から、反ドイツのレジスタンスを称揚する政治色の強い映画だったこと、更にハンフリー・ボガート演じるリックは粋だけれども顔が大きく無骨な感じが否めないのに引き換え、イングリッド・バーグマンが可憐で、あらためてその美しさに魅了されたのが、新鮮な驚きでした。
四本目は、さすがに疲れてきて、時間潰しに、江口洋介と蒼井優が共演する「洋菓子店コアンドル」を見るとはなしに見終えてしまいました。ケーキ修行に出た恋人を追いかけて鹿児島から上京し、恋人にふられてそのままケーキ屋にいすわってパティシエを目指す蒼井優が、故あってスィーツ界の表舞台から身を引いた伝説のパティシエ・江口洋介と出会って、もう一度、ケーキづくりに立ち上がらせる、ほのぼのとした物語です。
さて、一昨日の金曜日は、ウィリアム王子の結婚式でした。一般家庭から王室に入るのが350年振りというのがちょっとした話題ですが、私が気になったのはキャサリン妃が頭に着けていたカルティエの1936年製ティアラで、「英国王のスピーチ」の主人公ジョージ6世が兄エドワード8世から王位を継ぐ3週間前に購入して妻に贈り、娘のエリザベス女王の18歳の誕生日にプレゼントされたものを、借り受けたものだそうです。映画の登場人物と重なり、偶然の一致とは思えないタイムリーなエピソードですね。
現在のウィンザー朝(1917年~)は、ヴィクトリア女王の夫の家名・サクス=コバーグ=ゴータ朝(1901~17年)が第一次大戦中に敵国ドイツの領邦の家名を避けるために改称したものであり、それ以前のハノーヴァー朝(1714~1901年、ドイツのヴェルフ家の流れを汲む神聖ローマ帝国の諸侯の家系)の頃からつい最近まで、王位継承者の配偶者にドイツ系の王族が迎えられることが慣例だったそうです。「英国王のスピーチ」に、どこか英国人の冷めた目があるのは、そのせいでしょうか。因みに、配偶者がドイツ系の王族ではなくなったのは、この映画の兄エドワード8世がアメリカ人シンプソン夫人との結婚問題から退位して以来のことであり、続くジョージ6世の妃エリザベスはグレートブリテン王国成立以降で初の同国出身の王妃となり、現王太子チャールズの元の妃ダイアナ、現在の妃カミラもまた同国出身だったのは、私たちも知る通りです(Wilipediaより)。
上の写真は、42nd Street沿い、タイムズ・スクェア傍。
一つは、今年のアカデミー賞を、作品賞・主演男優賞・監督賞・脚本賞の4部門で獲得した「英国王のスピーチ」(2010年、英・豪)。JAL機内では吹き替えになっていて、味わい半減ですが、それでも幼少期のトラウマから吃音障害を抱えるヨーク公が、王室ゆかりの名だたる御用医師の手では矯正出来なかったのに、正式の医師免許もなく正統とは言えない、しかし第一次大戦の戦闘ストレス反応に苦しむ元戦士を治療してきた実績と自負をもつ、民間の冴えない言語療法士ライオネル・ローグとの出会いによって、障害を克服するストーリーは、当初は国王と庶民という身分の壁に戸惑いながら、一人の患者と医師の立場を超えて、友情と信頼を育み、やがて国民を奮い立たせる第二次大戦開戦スピーチを立派にこなし、国王ジョージ6世として成長していく人間ドラマとして、十分に楽しむことが出来ました。歴史になったこととは言え、王室の事情を映画化してしまう英国人の成熟には驚かされます。
続いて、今年のアカデミー賞を争って、脚色賞・作曲賞・編集賞にとどまった「ソーシャル・ネットワーク」は、「英国王のスピーチ」とは対照的に、Facebook創設者マーク・ザッカーバーグの、喧騒に充ち満ちたはちゃめちゃな半生を描きます。今や利用者二億人と言われ、Eメールに代わるネット社会のインフラの地位を獲得したFacebookは、ガールフレンドにふられた腹いせに立ち上げた女子学生を品定めするサイトというサブカルチャーに端を発するという、こちらも「英国王のスピーチ」に似た成長のドラマを楽しめます。台詞をカットせずに普通の口調で喋ると上映時間が3時間を超えるため、台詞の殆どを早口にすることで上映時間を短くするという方法を取ったそうで(Wikipedia)、ネット・カルチャーに相応しいテンポの良さを演出しています。
三本目として、迷った挙句、睡眠薬代わり!?に選んだのは、ハンフリー・ボガートとイングリッド・バーグマンの往年の名作「カサブランカ」(1942年、米国)でした。親ドイツのヴィシー政権支配下にあったフランス領モロッコのカサブランカを舞台に、戦争に翻弄される男女のラブ・ロマンスを描き、シンプルなストーリーですが、名優と、テーマ曲「As Time Goes by」の甘く哀しい調べが耳に残れば、これぞ映画の本分と思わせる、古き良き時代の作品です。「君の瞳に乾杯」(Here's looking at you, kid.)という名セリフや、「昨晩はどこにいたの?」と女に問われて「そんな昔のことは忘れた」と素気なく答え、「じゃあ今晩はお暇?」と聞かれてもまた「そんな先のことは分からない」と素気なく答えることで知られる、ハードボイルドな作品だとばかり思っていましたが、制作された時代背景から、反ドイツのレジスタンスを称揚する政治色の強い映画だったこと、更にハンフリー・ボガート演じるリックは粋だけれども顔が大きく無骨な感じが否めないのに引き換え、イングリッド・バーグマンが可憐で、あらためてその美しさに魅了されたのが、新鮮な驚きでした。
四本目は、さすがに疲れてきて、時間潰しに、江口洋介と蒼井優が共演する「洋菓子店コアンドル」を見るとはなしに見終えてしまいました。ケーキ修行に出た恋人を追いかけて鹿児島から上京し、恋人にふられてそのままケーキ屋にいすわってパティシエを目指す蒼井優が、故あってスィーツ界の表舞台から身を引いた伝説のパティシエ・江口洋介と出会って、もう一度、ケーキづくりに立ち上がらせる、ほのぼのとした物語です。
さて、一昨日の金曜日は、ウィリアム王子の結婚式でした。一般家庭から王室に入るのが350年振りというのがちょっとした話題ですが、私が気になったのはキャサリン妃が頭に着けていたカルティエの1936年製ティアラで、「英国王のスピーチ」の主人公ジョージ6世が兄エドワード8世から王位を継ぐ3週間前に購入して妻に贈り、娘のエリザベス女王の18歳の誕生日にプレゼントされたものを、借り受けたものだそうです。映画の登場人物と重なり、偶然の一致とは思えないタイムリーなエピソードですね。
現在のウィンザー朝(1917年~)は、ヴィクトリア女王の夫の家名・サクス=コバーグ=ゴータ朝(1901~17年)が第一次大戦中に敵国ドイツの領邦の家名を避けるために改称したものであり、それ以前のハノーヴァー朝(1714~1901年、ドイツのヴェルフ家の流れを汲む神聖ローマ帝国の諸侯の家系)の頃からつい最近まで、王位継承者の配偶者にドイツ系の王族が迎えられることが慣例だったそうです。「英国王のスピーチ」に、どこか英国人の冷めた目があるのは、そのせいでしょうか。因みに、配偶者がドイツ系の王族ではなくなったのは、この映画の兄エドワード8世がアメリカ人シンプソン夫人との結婚問題から退位して以来のことであり、続くジョージ6世の妃エリザベスはグレートブリテン王国成立以降で初の同国出身の王妃となり、現王太子チャールズの元の妃ダイアナ、現在の妃カミラもまた同国出身だったのは、私たちも知る通りです(Wilipediaより)。
上の写真は、42nd Street沿い、タイムズ・スクェア傍。