風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

貿易赤字転落(前編)

2012-02-04 01:24:49 | ビジネスパーソンとして
 先週、財務省が発表した昨年度の貿易収支が31年ぶりの赤字に転落したことが注目を集めました。国内でモノづくりをし、輸出をして外貨を稼ぐという、戦後の日本を支えてきた経済モデルが転機を迎えているという視点での報道が多かったように思います。まるで貿易赤字基調が続くかのようなもののいいで、海外で投資して得た金利や配当を国内に還流させて再投資に回すといった良い循環をつくることが必要になるとか、モノだけでなく所得も合わせた経常収支で黒字を維持できるかどうかが今後の日本の成長のカギを握る、などといったテーマが論じられていました。
 しかしマクロに見ていてもよく分かりません。神は細部に宿る。財務省の「貿易統計」では1~11月までの国(地域)別輸出・輸入・貿易収支を見ることが出来ますので、リーマン・ショック前の2007年と比較してみました。すると11ヶ月間のデータですが、この円高にも関わらず輸出は1000億ドル増え、同時に輸入が2000億ドル増えたため、収支は1000億ドルの悪化で赤字転落という状況です。地域別にみると、アジアとの間ではこの4年間で輸出も輸入も1000億ドル増えて収支上はチャラ、中東と大洋州との間では輸入が増えて(輸出はさほど変わらず)赤字幅が拡大、北米との間では輸出が減って(輸入は変わらず)黒字幅が縮小、欧州との間では輸入が増えて(輸出は変わらず)黒字幅が縮小していました。これだけでは偉そうに“細部”とは言えなくて、更に品目別に見ていく必要がありますが、恐らく、報道されている通り、停止する原発が増えたために火力発電用燃料の輸入が急増していること、東日本大震災やタイの洪水による予想以上のサプライチェーンの分断で輸出が落ち込んだこと、円高の影響で輸入が増えていることが想像されます。今のような超円高が永続するのかどうかという問題はさておくとして、このたびの貿易赤字は、原発問題や自然災害問題といった一過性の特殊要因によると言うのが正しいのではないかと思います。
 問題は超円高です。私は製造業に身を置く性(サガ)で、つい円高=輸出にとってマイナス、とばかり見がちで、輸入が増えて国内産業が痛手を被るなどというところにまで、これまで思いが至りませんでした。あらためて、輸出企業であれば生産を海外に移転してでも生き残りを図ることが出来るのに対し、地場産業は逃げも隠れも出来ず、安い輸入品との競争に晒されることを思うと、日本の産業に対する影響という意味では地場産業により深刻であるように思います。いずれにしても(つまり輸出企業の海外生産移転拡大や地場産業の弱体化により)日本の雇用は、円高によって相当のダメージを負っているに違いないと思います。日本以上に加工貿易立国の中国がアメリカの圧力をものともせず人民元安に拘り続け、韓国もまた通貨安を演出しているのは、まさにこの理由に他なりません。それに引き換え日本は、プラザ合意による急激な円高を易々と受け入れ、最近の超円高に対してもよくも無策でじっとガマンの子でいられるものだと思います。為政者は、このあたりをもっと真剣に考えないと。
コメント
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