東京マラソンが終わって、ああ終わった・・・と解放感に充ち満ちていたのですが、いつの間にかぽっかり(喪黒福造が忍び寄りそうな!?)心の中に空洞が広がって、一週間を過ごして初めての週末を迎えて、なんだか五月病にかかったような気分です。マラソンと、実はもう一つ、二日違いで実施されたある資格試験に向けて勉強もして来て(どうしてもマラソンに集中せざるを得なかったので勉強不足でしたが、でも好きな読書は控えて来ました)、一気に目標がなくなって、一種の喪失感に見舞われてしまったようです。それだけマラソンに賭けてきた証拠でもあるのですが、この歳になって、なんだかばかばかしい話です。週末、特に何もすることがない時間は、以前と全く変わらないはずなのに、妙に戸惑っています。
それはともかくとして、この一週間、知人から、マラソンどうだった?と声をかけられた中で、一番印象に残ったのが、(Qちゃんを育てた)小出監督が、毎日5キロや10キロ走っているだけではマラソンのトレーニングにならない、週に一回20キロ走るとマラソン足が出来る、というようなことを言っていたけど、本当だったね、という言葉でした。「マラソン足」と言われても、恐らく以前ならピンと来なかったでしょうが、今はよく分かります。週に1日は脚に過負荷をかけて、強い脚を作ることで、私の場合、1キロ6分程度なので全く速くありませんが、42キロは走り抜くことが出来るわけです。足が速いのではなく、足が強いということであり、最近、地頭などと言われますが、地足、みたいな感覚です。
「42.195kmの科学」(NHKスペシャル取材班)という本を読みました。NHKの特番を書籍化したもので、運動生理学(最大酸素摂取量、乳酸性作業閾値など)、血液学(血液の性質や特徴、特に赤血球の酸素運搬能力など)、心臓MRI(心臓の大きさや機能)、バイオメカニクス(生体工学、ランニング・エコノミー、フォームや着地の仕方)、形態と身体組成/筋肉と腱の研究(足、特に膝から下の形態など)、神経・筋機能/走行中の筋肉と腱の使い方などといった科学的観点から、マラソンの世界最高記録を叩き出したアフリカ人のトップランナーの速さの秘訣を探るもので、市民ランナーとは違う次元の話ではあるものの、マラソンという一種の極限状態に挑む人間の身体のメカニズムを追うという意味では極めて示唆に富む内容でした。
次元が違うという意味では、運動生理学や血液学や心臓MRIについては、ははあ、マラソンとはそういうものかという程度の感動でしたが、バイオメカニクス(生体工学)については、我々市民ランナーでも関心が高いところでしょう。所謂ランニング・エコノミー(走りの経済性)と言われるものです。高校時代に中距離をやっていた時には、ストライドを伸ばし飛び跳ねるように走っていたものですが、今は地を這うような地味なピッチ走法に変わりました。本書でも、あるトップ・ランナーは、上下動の無駄な動きをなくし、重心がスムーズに前に進んで行く動きになっている、などと言われると、納得します。もう一つは、つま先着地の話で、興味深いので本書の表現を抜粋します。
(前略)マカウ選手に特徴的なのは、通常、短距離走者などがスピードを出すために行い、足への負担が大きいとされる、つま先着地をしていることで、足の小指から着地し、つま先全体で地面を捉えて蹴り出しており、かかと(踵骨)には殆ど体重が載っていない。・・・ハイスピード・カメラで見ると、マカウ選手は、あと数センチで地面につま先が着くというタイミングで、足底の面をいったん地面すれすれに平行にしてから、つま先をスッと進行方向とは逆向きに引き戻して着地をしていることが分かった。・・・通常、着地する時の足の速度と地面が流れる速度が違う場合、足は地面にぶつかるため、大きな衝撃を受けやすくなるが、彼の場合、つま先を絶妙にコントロールすることで、地面の動きに逆らわないよう、言い換えれば、地面に対して足の速度差がなくなるよう、調節していたのである。地面をうまくつかまえに行く走りだと言える。・・・通常、着地の瞬間にガツンと大きな力を受けるため、太ももの筋肉が非常に緊張し、地面に着いた瞬間、足が一瞬止められ、同時に、その衝撃を膝で受け止めるため、膝周りの筋肉に過度に力が入ってしまい、結果として、重心が下がって、所謂“ブレーキ”に繋がる動作になってしまう。ところがマカウ選手の場合、足に無駄な力が入るようなことが起きず、膝も過度な衝撃を受け止める必要がないので、適度に曲げる程度で、地面を蹴る時も膝の角度は大きく変化しない。所謂“ブレーキ”がかかっていない。(後略)
今回、私の走りが以前と比べて変わったことを象徴しているのが、靴のかかとの擦り減り度合いが減ったことでした。靴の擦り減り方が少ないということは、地面との摩擦が少ない、つまり地面に接する時の衝撃力さらにはブレーキがかかることが抑えられていると言えるわけで、恐らく、スピードを抑えて、スムーズに足が回転するような重心移動を心掛けているせいだろうと思われます。以前よりも足(靴)底が斜めではなく水平に近い形で着地し、かつての自分の走りに比べて、エネルギー効率が良くなっているのではないか。
因みに、5時間近くも同じ動作を続けるわけですから、普段何気ないことでも、肉体へのダメージは甚大なものになります。足腰の筋肉痛はもとより、肩が凝るのは、5時間近くも腕振りを続けるからですし、股ずれは言うに及ばず、乳首もTシャツに触れて、シャワーを浴びる時にはひりひりします(以前、出血してゼッケンが血だらけになったことがありました)。5時間近くぴょんぴょん跳ねているわけですから、内臓もさぞびっくりしていることでしょう。世界のトップ・ランナーの中には、腎臓などの内臓を悪くしている人が多いと聞きますが、我々市民ランナーとは比べものにならないくらい負荷は大きいでしょうから、さもありなん。
闇雲に走るのではなく、科学的な知見を頭の隅に置きながら、走りに工夫を施せば、ただの練習でも興味が湧くのではないでしょうか。
それはともかくとして、この一週間、知人から、マラソンどうだった?と声をかけられた中で、一番印象に残ったのが、(Qちゃんを育てた)小出監督が、毎日5キロや10キロ走っているだけではマラソンのトレーニングにならない、週に一回20キロ走るとマラソン足が出来る、というようなことを言っていたけど、本当だったね、という言葉でした。「マラソン足」と言われても、恐らく以前ならピンと来なかったでしょうが、今はよく分かります。週に1日は脚に過負荷をかけて、強い脚を作ることで、私の場合、1キロ6分程度なので全く速くありませんが、42キロは走り抜くことが出来るわけです。足が速いのではなく、足が強いということであり、最近、地頭などと言われますが、地足、みたいな感覚です。
「42.195kmの科学」(NHKスペシャル取材班)という本を読みました。NHKの特番を書籍化したもので、運動生理学(最大酸素摂取量、乳酸性作業閾値など)、血液学(血液の性質や特徴、特に赤血球の酸素運搬能力など)、心臓MRI(心臓の大きさや機能)、バイオメカニクス(生体工学、ランニング・エコノミー、フォームや着地の仕方)、形態と身体組成/筋肉と腱の研究(足、特に膝から下の形態など)、神経・筋機能/走行中の筋肉と腱の使い方などといった科学的観点から、マラソンの世界最高記録を叩き出したアフリカ人のトップランナーの速さの秘訣を探るもので、市民ランナーとは違う次元の話ではあるものの、マラソンという一種の極限状態に挑む人間の身体のメカニズムを追うという意味では極めて示唆に富む内容でした。
次元が違うという意味では、運動生理学や血液学や心臓MRIについては、ははあ、マラソンとはそういうものかという程度の感動でしたが、バイオメカニクス(生体工学)については、我々市民ランナーでも関心が高いところでしょう。所謂ランニング・エコノミー(走りの経済性)と言われるものです。高校時代に中距離をやっていた時には、ストライドを伸ばし飛び跳ねるように走っていたものですが、今は地を這うような地味なピッチ走法に変わりました。本書でも、あるトップ・ランナーは、上下動の無駄な動きをなくし、重心がスムーズに前に進んで行く動きになっている、などと言われると、納得します。もう一つは、つま先着地の話で、興味深いので本書の表現を抜粋します。
(前略)マカウ選手に特徴的なのは、通常、短距離走者などがスピードを出すために行い、足への負担が大きいとされる、つま先着地をしていることで、足の小指から着地し、つま先全体で地面を捉えて蹴り出しており、かかと(踵骨)には殆ど体重が載っていない。・・・ハイスピード・カメラで見ると、マカウ選手は、あと数センチで地面につま先が着くというタイミングで、足底の面をいったん地面すれすれに平行にしてから、つま先をスッと進行方向とは逆向きに引き戻して着地をしていることが分かった。・・・通常、着地する時の足の速度と地面が流れる速度が違う場合、足は地面にぶつかるため、大きな衝撃を受けやすくなるが、彼の場合、つま先を絶妙にコントロールすることで、地面の動きに逆らわないよう、言い換えれば、地面に対して足の速度差がなくなるよう、調節していたのである。地面をうまくつかまえに行く走りだと言える。・・・通常、着地の瞬間にガツンと大きな力を受けるため、太ももの筋肉が非常に緊張し、地面に着いた瞬間、足が一瞬止められ、同時に、その衝撃を膝で受け止めるため、膝周りの筋肉に過度に力が入ってしまい、結果として、重心が下がって、所謂“ブレーキ”に繋がる動作になってしまう。ところがマカウ選手の場合、足に無駄な力が入るようなことが起きず、膝も過度な衝撃を受け止める必要がないので、適度に曲げる程度で、地面を蹴る時も膝の角度は大きく変化しない。所謂“ブレーキ”がかかっていない。(後略)
今回、私の走りが以前と比べて変わったことを象徴しているのが、靴のかかとの擦り減り度合いが減ったことでした。靴の擦り減り方が少ないということは、地面との摩擦が少ない、つまり地面に接する時の衝撃力さらにはブレーキがかかることが抑えられていると言えるわけで、恐らく、スピードを抑えて、スムーズに足が回転するような重心移動を心掛けているせいだろうと思われます。以前よりも足(靴)底が斜めではなく水平に近い形で着地し、かつての自分の走りに比べて、エネルギー効率が良くなっているのではないか。
因みに、5時間近くも同じ動作を続けるわけですから、普段何気ないことでも、肉体へのダメージは甚大なものになります。足腰の筋肉痛はもとより、肩が凝るのは、5時間近くも腕振りを続けるからですし、股ずれは言うに及ばず、乳首もTシャツに触れて、シャワーを浴びる時にはひりひりします(以前、出血してゼッケンが血だらけになったことがありました)。5時間近くぴょんぴょん跳ねているわけですから、内臓もさぞびっくりしていることでしょう。世界のトップ・ランナーの中には、腎臓などの内臓を悪くしている人が多いと聞きますが、我々市民ランナーとは比べものにならないくらい負荷は大きいでしょうから、さもありなん。
闇雲に走るのではなく、科学的な知見を頭の隅に置きながら、走りに工夫を施せば、ただの練習でも興味が湧くのではないでしょうか。