風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

カニ三昧

2013-06-13 21:38:09 | グルメとして
 人を食ったような季節外れのタイトルですが、食ったのはカニです。まさに季節を問わずカニで腹一杯にさせると豪語する居酒屋が会社の近所にあって、海外駐在が決まった知人を送り出す宴で、その店に行きました。
 もとより美味しいものを食べようとして訪れたわけではありませんので、いつもなら無言で無心で身をこさぐカニ料理で、こんなに身は取り易かったっけ・・・っと驚くほど身が痩せて殻から離れていようが、大した問題ではありません。とにかく送り出す知人を囲んで楽しく飲めたので、さほどの不満はありません。ただ一つだけ、美味いか美味くないか、本物の味をわきまえておくことは、特に子供たちの長い人生にとって、無駄ではなかろう(むしろ早いうちに学んでおくべきだろう)と思いました。
 私にとって、本物のカニとの出会いは、大学の卒業旅行に遡ります。卒業旅行で海外に出る学生が出始めていた当時、金がない私たち仲が良い四人組は、レンタカーを借りて、試験が終わった2月末、京都から日本海沿いを鳥取砂丘や今年が旬の出雲大社や温泉街が点在する雪深い山陰路を、のんびり巡ったのでした。。
 そんな時間が止まったような贅沢な旅の道すがら、京都のある温泉宿は、カニ尽くしで出迎えてくれました。折しもカニは旬。中でも一番印象に残る美味は、食べ終えたカニの甲羅を盃に見立て、日本酒を注いで火鉢で炙って飲んだもので、カニ尽くしの満腹感とも相俟って、至福のひとときを堪能したものでした。
 何も目利きや味利きになれとまでは言いません。ただ、親心として、最後に子供たちに仕込むのは、本物はこういうものだという相場観でしょうか。食もそう。絵や、焼き物もそう。吉野家の牛丼は美味いし、リンガーハットの長崎ちゃんぽんも美味い。しかし、懐石料理のえも言われぬ繊細さは、値段並みに別世界の経験と言わなければなりません。北斎の青や、ミュシャのパステルカラーは、写真集で見るのっぺりとした青のインクや印刷のパステルカラーとは見違えるほど、鮮やかで深くて淡くて美しくて、作者の息づかいが聞こえて来そうです。若い頃にこそ、こうした本物を知り、人生にわたって、本物を味わって欲しいと、もはや人生の大半を過ぎた私はそれが出来なかったことを悔やみつつ、思います。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする