2ヶ月前、TPPが大筋合意され、その後、APEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議でのTPPを巡るやりとりを見る限り、かつて前原誠司氏(当時政調会長)が「TPPおばけ」と呼び、揶揄したTPP慎重派や反対派の見る影もない。「おばけ」と呼ばれたのであればさしづめ「正体見たり枯れ尾花」といったところであろうか。
あの頃、TPP慎重派あるいは反対派は、遺伝子組み換え食品の表示ができなくなるのではないかという不安を煽った。混合診療や営利企業の医療参入を認める公的医療保険制度の改変、ひいては国民皆保険が崩壊するとまで脅した(実際には米国は最初から最後まで混合診療解禁を要求しないままだった)。投資受入国の協定違反によって投資家が受けた損害を金銭等により賠償する手続を定める「ISDS条項」は、アメリカに乱用されかねないとの不安を煽ったが、アメリカでも反対した人がいたし、実際に恣意的な政治介入や司法制度が未確立な国の裁判を避け、公正な手続で第三国において仲裁を進めることが可能となる制度であり、日本がこれまで結んだ自由貿易協定に含まれていて、杞憂に過ぎなかった。
ただ中国対策(端的に中国封じ込め、あるいは中国包囲網)という点では、その後も、中国の政治的・経済的台頭の勢いが止まらない中で、より鮮明になってきたと言える。とりわけアメリカの対中宥和政策がより緊張した関係に転換しつつあり、AIIBが登場するに及んで、TPPは米・中間のパワーバランスの道具になってしまった観があり、TPP大筋合意に際し、オバマ大統領は「中国のような国ではなく、われわれが世界経済のルールをつくる」と宣言したほどだった。
TPPは、そもそも国内に守るべき産業を持たず、従い関税撤廃の高い志をもつ四ヶ国(シンガポール、ブルネイ、チリ、NZ)から始まり、アメリカ、豪、ベトナム、ペルー、マレーシア、そして日本までもが手を挙げると、カナダ、メキシコも後を追った。TPPが生み出す自由貿易経済圏は、世界のGDPの40%規模に達する、事実上の日米FTAであり、そこにアジア諸国が加わった形だ。今年、ASEAN経済統合を控えて、当然、他のASEAN諸国(タイ、フィリピン、インドネシア等)も加盟することが見込まれ、TPPが動き出せば他のFTAも後れじと動き出す所謂FTAのドミノ効果によって、このまま事実上の世界標準へと流れて行く可能性が出て来た。
こうして貿易品目の99%以上の関税撤廃だけでなく、高いレベルの知的財産権保護、環境面への配慮、これまでどの協定でも対象にされたことのない国有企業に対する規律まで踏み込んだ広域の経済パートナーシップ構築は、中国に対して同様に高いレベルの規律を迫るものとなり、安い農産物も更に入って来るに及んでは、中国としてTPPに関心があっても、近い将来、加盟するのは難しそうである。日米が主導して、中国を除外した形でアジア太平洋の通商ルールを作ってしまうことに深い危機感を持った中国の習近平国家主席は、APEC首脳会議の席上、「(TPPの対抗馬である)FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)のプロセスを加速させ、出来るだけ早く実現させるべきだ」と話したほどだった。
逆に言うと、こうしたTPP大筋合意に至った日本政府の努力を褒め称えてもよいように思うが、その声はなかなか聞こえて来ない。先ずはTPPを実現させる必要があり、やがて時とともに「おばけ」騒ぎあるいは今の妙な沈黙を乗り越えて事実として明らかになる部分が出て来るのだろう。
あの頃、TPP慎重派あるいは反対派は、遺伝子組み換え食品の表示ができなくなるのではないかという不安を煽った。混合診療や営利企業の医療参入を認める公的医療保険制度の改変、ひいては国民皆保険が崩壊するとまで脅した(実際には米国は最初から最後まで混合診療解禁を要求しないままだった)。投資受入国の協定違反によって投資家が受けた損害を金銭等により賠償する手続を定める「ISDS条項」は、アメリカに乱用されかねないとの不安を煽ったが、アメリカでも反対した人がいたし、実際に恣意的な政治介入や司法制度が未確立な国の裁判を避け、公正な手続で第三国において仲裁を進めることが可能となる制度であり、日本がこれまで結んだ自由貿易協定に含まれていて、杞憂に過ぎなかった。
ただ中国対策(端的に中国封じ込め、あるいは中国包囲網)という点では、その後も、中国の政治的・経済的台頭の勢いが止まらない中で、より鮮明になってきたと言える。とりわけアメリカの対中宥和政策がより緊張した関係に転換しつつあり、AIIBが登場するに及んで、TPPは米・中間のパワーバランスの道具になってしまった観があり、TPP大筋合意に際し、オバマ大統領は「中国のような国ではなく、われわれが世界経済のルールをつくる」と宣言したほどだった。
TPPは、そもそも国内に守るべき産業を持たず、従い関税撤廃の高い志をもつ四ヶ国(シンガポール、ブルネイ、チリ、NZ)から始まり、アメリカ、豪、ベトナム、ペルー、マレーシア、そして日本までもが手を挙げると、カナダ、メキシコも後を追った。TPPが生み出す自由貿易経済圏は、世界のGDPの40%規模に達する、事実上の日米FTAであり、そこにアジア諸国が加わった形だ。今年、ASEAN経済統合を控えて、当然、他のASEAN諸国(タイ、フィリピン、インドネシア等)も加盟することが見込まれ、TPPが動き出せば他のFTAも後れじと動き出す所謂FTAのドミノ効果によって、このまま事実上の世界標準へと流れて行く可能性が出て来た。
こうして貿易品目の99%以上の関税撤廃だけでなく、高いレベルの知的財産権保護、環境面への配慮、これまでどの協定でも対象にされたことのない国有企業に対する規律まで踏み込んだ広域の経済パートナーシップ構築は、中国に対して同様に高いレベルの規律を迫るものとなり、安い農産物も更に入って来るに及んでは、中国としてTPPに関心があっても、近い将来、加盟するのは難しそうである。日米が主導して、中国を除外した形でアジア太平洋の通商ルールを作ってしまうことに深い危機感を持った中国の習近平国家主席は、APEC首脳会議の席上、「(TPPの対抗馬である)FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)のプロセスを加速させ、出来るだけ早く実現させるべきだ」と話したほどだった。
逆に言うと、こうしたTPP大筋合意に至った日本政府の努力を褒め称えてもよいように思うが、その声はなかなか聞こえて来ない。先ずはTPPを実現させる必要があり、やがて時とともに「おばけ」騒ぎあるいは今の妙な沈黙を乗り越えて事実として明らかになる部分が出て来るのだろう。