風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

地政学リスク

2016-07-22 00:49:34 | 日々の生活
 ここでは地政学リスクそのものは論じない。ただ単にこの言葉を巡る四方山話だ。
 最近、俄かに「地政学」が復権したようで、雑誌で特集が組まれたり、その名を冠した解説本も何冊か出版されたりしている。元々は地理学とともにドイツで生まれ、イギリスなどヨーロッパ内のゲルマン系の国々において発展し、日露戦争の日本海海戦参謀・秋山真之がアメリカ留学中に「海上権力史論」で知られるマハンの教えを乞うた話は有名だが、ドイツ地政学を作り上げたハウスホーファーがナチスに利用されたこと、また戦前の軍国主義・日本にも輸入されて帝国主義的な拡張政策に影響を与えたことから、やや胡散臭い学問とのレッテルが貼られ、戦後の日本では軍国主義と結びついて久しく遠ざけられて来た。学生時代に、友人の下宿の本棚で見つけた倉前盛道著「悪の論理」「続・悪の論理」二部作を借りて読んでみたら、なかなか面白くて新鮮に感じたものだったが、当時の日本ではちょっと話題をさらっただけで知る人ぞ知る(知らない人は知らない)一過性のもので終わった。しかしアメリカでは脈々と受け継がれ、国務長官になったキッシンジャー氏が公の場で何度も「地政学(geopolitics)」という言葉を使い、最近ではFRB議長だったグリーンスパン氏が2002年に米連邦議会の公聴会で「地政学リスク」を口にして、タブー性はすっかり薄れていることもあり、とりわけ最近は、冷戦時代の膠着した対立の構図が崩れて、ロシアや中国など力による現状変更があからさまに行われるようになり、冷戦時代以前、もっと言うと帝国主義の時代に遡ったかのような世界情勢を分析する“よすが”としてそれなりの説得力を期待されているのかも知れない。
 それ自体は決して悪いことではないと思うが、元外交官の宮家邦彦さんに言わせると、「地政学リスク」なるもの、エコノミストが自ら理解できないこと(国際情勢)をそう呼ぶのだと、手厳しい。
 前置きが長くなったが、最近、どうもエコノミストや金融アナリストの声が大きくなってきたような気がするのは、気のせいか。
 先日、もとは会計事務所で今ではコンサルティング・ファームとして著名な会社の顧客向け無料セミナーなるものを受講したときのことだ。題して「危機に向かう世界経済」・・・話を聞いていて憂鬱になった。リスクを挙げて行けば実はキリがない。凡そ悲観的過ぎるシナリオは当たらないもので、後から振り返れば人類の叡智は何とか克服するものだったりするのだが、その日、私のように憂鬱になるだけでなく、大いに悲観してそのコンサルティング・ファームの(有料)アドバイスを求めるように仕向けられれば、無料セミナーとして大成功である。
 リーマン・ショックをはじめ、昨今、アメリカの“金融”資本主義は評判が悪いが、なかなかどうして、“金融”アナリスト、エコノミスト、ストラテジストなど“金融”がらみの専門家の言説が、最近とみに世の中を席巻している。今は落ち着きを取り戻しているが、英国のEU離脱、所謂BREXITでも為替や株価が乱高下したのは記憶に新しい。日経朝刊一面に連載中のコラム・タイトル「政治が揺らす世界経済」は、私に言わせれば「金融アナリストが揺らす世界経済」ではないのか。な~んて言うと金融界で活躍する知人に嫌われちゃうな。とは言え、何を今さらではあるが、言説には喋る人の色がつくことは覚えておいた方が良さそうだ。
コメント
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