前回に続き・・・英誌The Economist(12月16~22日号)によると、中国が物理的に領域を拡大するだけでなく、精神的な領域まで支配しようとしていることを最初に警告したのは、オーストラリアだという。以前、このブログでも紹介したように(https://blog.goo.ne.jp/mitakawind/d/20171209)、野党の上院議員が中国から献金を受け取り、中国の肩を持つような発言をしたという疑惑から、辞職した。昨日の産経電子版によると、「中国系住民の増加や中国企業の相次ぐ投資計画に加え、昨年夏以降、内政干渉が指摘され始めたため」「議会では、中国を念頭に外国人の献金禁止や諜報活動への監視を強化する法案の審議が行われており、来月にも審議を終え報告書を提出する見通し」(以上、産経電子版)だという。
こうした介入の動きは豪政界だけではなく、大学や出版界にも広がっており、豪チャールズ・スタート大学のClive Hamilton教授は、最近出版した著書‘Silent Invasion: China's Influence in Australia’で、「豪州に移住してきた中国系の富豪が与野党の政治家や大学に多額の資金を提供している実態」を紹介し、「こうした政治家の発言や大学の研究が、南シナ海問題や自由貿易協定(FTA)などで、中国に望ましい方向に政策を誘導しようとした実態」を明らかにし、中国は「民主主義を利用して民主主義を破壊する」とまで指摘している(このあたりも昨日の産経電子版)。教授によると、1970~80年代にオーストラリアに進出した日本とは対照的に、最近の中国系企業家は、「自ら進んで、または中国に残した親族が報復に遭うことを恐れ、共産党の代理として行動する」(同)という。最近は余り言われなくなったが、まさに「国家(と言うより共産党)資本主義」の面目だろう。興味深いのは、本書について、当初、契約した大手出版社から出版を拒否されたという事実だ。中国からのサイバー攻撃や在豪中国系市民からの訴訟を恐れたためのようで、その後、2社からも断られ、ようやく出版に漕ぎ着けたのだという。これに対し、英紙フィナンシャル・タイムズは「自己検閲だ」と批判し、教授は「言論の自由への抑圧に多くの豪州人が衝撃を受けた」(同)と話しているそうだ。
警鐘を鳴らす動きは、カナダやニュージーランド、さらにイギリスやドイツにも広がっていると、The Economistは言う。ドイツでは、LinkedInを使って人材スカウトやシンクタンク研究員を装って政治家や政府高官に近づき、無料の旅行などを提供し、取り込もうとしていることを、独情報機関が明らかにした。中国の「シャープパワー」は、「取り入った後に抵抗できなくさせる工作活動、嫌がらせ、圧力の三要素を連動させることで、対象者が自分の行動を自制するよう追い込んでいく。究極の狙いは、そのターゲットとする人物が最後は、資金や情報などへのアクセス権、影響力を失うことを恐れて、中国側が頼まずとも自分たちにへつらうように転向させていくこと」(The Economist記事を日経が翻訳)だという。
中国共産党では、王某(漢字が読めない・・・)政治局常務委員がジョセフ・ナイ教授の「ソフトパワー」理論を1993年に紹介して以来、関心が高く、佐山修氏によると、2007年の第17回党大会における政治報告で曖昧な表現ながらも中国式「ソフトパワー」政策が採用されたという。ただその目的は、「世界における自国の発言権と影響力の強化、さらに中国人および華僑による中華民族としての自尊心、すなわちナショナリズム高揚を通じて、政府による国内管理を強化することにある」(同氏)とされており、私の色眼鏡を通して見れば、中国における歴史教育に与えられた役割と同様、全てが中国共産党による統治の正統性という一点を志向して、プロパガンダ化してしまい、彼の国では本来の「ソフトパワー」を離れてイビツな発展を遂げていく。
例えば悪名高い孔子学院は既に世界140ヶ国以上に進出し、教育活動を通した中国語や中国文化の普及を行っているし、中国中央テレビ(CCTV)はワシントンやナイロビにも拠点を設置し、メディアを通じた国際社会での良好なイメージの確立を狙っている(広報外交)し、世界に広がる華僑に対する影響力拡大を意図し、少なくとも中国の問題関心に対する理解や共感を得ようと働きかけを行っている(華僑広報外交)という。こうした対外支援プログラムについて、ジョセフ・ナイ教授は「成功し、建設的であることもしばしば」と評価するが、佐山氏は、内政および外交政策面におけるナショナリズムの比重の大きさと、「検閲のない市民社会」を容認しない姿勢との二つが、中国の「ソフトパワー」を制限する要因になると指摘する。既に、孔子学院は表現の自由への脅威になっているとの議論が出ているし、広報外交の名のもとに、国外メディアの報道にも注意を払う中国は、中国の温家宝元総理の蓄財を報じた米NYT記者の査証更新を拒否したことがあったし、「中国政府の神経に障った刊行物を出版したため、一部の外国人学者が査証拒否リストに登載された」(米連邦議会報告)というし、中国が、増加する中国系米国人からの支援を得て、米国政府の方針や意思決定に影響を及ぼそうとしているとの議論も出ている。こうして中国にあっては「ソフトパワー」すらも「シャープパワー」に転化する。
また長くなってしまったので、続きは明日・・・
こうした介入の動きは豪政界だけではなく、大学や出版界にも広がっており、豪チャールズ・スタート大学のClive Hamilton教授は、最近出版した著書‘Silent Invasion: China's Influence in Australia’で、「豪州に移住してきた中国系の富豪が与野党の政治家や大学に多額の資金を提供している実態」を紹介し、「こうした政治家の発言や大学の研究が、南シナ海問題や自由貿易協定(FTA)などで、中国に望ましい方向に政策を誘導しようとした実態」を明らかにし、中国は「民主主義を利用して民主主義を破壊する」とまで指摘している(このあたりも昨日の産経電子版)。教授によると、1970~80年代にオーストラリアに進出した日本とは対照的に、最近の中国系企業家は、「自ら進んで、または中国に残した親族が報復に遭うことを恐れ、共産党の代理として行動する」(同)という。最近は余り言われなくなったが、まさに「国家(と言うより共産党)資本主義」の面目だろう。興味深いのは、本書について、当初、契約した大手出版社から出版を拒否されたという事実だ。中国からのサイバー攻撃や在豪中国系市民からの訴訟を恐れたためのようで、その後、2社からも断られ、ようやく出版に漕ぎ着けたのだという。これに対し、英紙フィナンシャル・タイムズは「自己検閲だ」と批判し、教授は「言論の自由への抑圧に多くの豪州人が衝撃を受けた」(同)と話しているそうだ。
警鐘を鳴らす動きは、カナダやニュージーランド、さらにイギリスやドイツにも広がっていると、The Economistは言う。ドイツでは、LinkedInを使って人材スカウトやシンクタンク研究員を装って政治家や政府高官に近づき、無料の旅行などを提供し、取り込もうとしていることを、独情報機関が明らかにした。中国の「シャープパワー」は、「取り入った後に抵抗できなくさせる工作活動、嫌がらせ、圧力の三要素を連動させることで、対象者が自分の行動を自制するよう追い込んでいく。究極の狙いは、そのターゲットとする人物が最後は、資金や情報などへのアクセス権、影響力を失うことを恐れて、中国側が頼まずとも自分たちにへつらうように転向させていくこと」(The Economist記事を日経が翻訳)だという。
中国共産党では、王某(漢字が読めない・・・)政治局常務委員がジョセフ・ナイ教授の「ソフトパワー」理論を1993年に紹介して以来、関心が高く、佐山修氏によると、2007年の第17回党大会における政治報告で曖昧な表現ながらも中国式「ソフトパワー」政策が採用されたという。ただその目的は、「世界における自国の発言権と影響力の強化、さらに中国人および華僑による中華民族としての自尊心、すなわちナショナリズム高揚を通じて、政府による国内管理を強化することにある」(同氏)とされており、私の色眼鏡を通して見れば、中国における歴史教育に与えられた役割と同様、全てが中国共産党による統治の正統性という一点を志向して、プロパガンダ化してしまい、彼の国では本来の「ソフトパワー」を離れてイビツな発展を遂げていく。
例えば悪名高い孔子学院は既に世界140ヶ国以上に進出し、教育活動を通した中国語や中国文化の普及を行っているし、中国中央テレビ(CCTV)はワシントンやナイロビにも拠点を設置し、メディアを通じた国際社会での良好なイメージの確立を狙っている(広報外交)し、世界に広がる華僑に対する影響力拡大を意図し、少なくとも中国の問題関心に対する理解や共感を得ようと働きかけを行っている(華僑広報外交)という。こうした対外支援プログラムについて、ジョセフ・ナイ教授は「成功し、建設的であることもしばしば」と評価するが、佐山氏は、内政および外交政策面におけるナショナリズムの比重の大きさと、「検閲のない市民社会」を容認しない姿勢との二つが、中国の「ソフトパワー」を制限する要因になると指摘する。既に、孔子学院は表現の自由への脅威になっているとの議論が出ているし、広報外交の名のもとに、国外メディアの報道にも注意を払う中国は、中国の温家宝元総理の蓄財を報じた米NYT記者の査証更新を拒否したことがあったし、「中国政府の神経に障った刊行物を出版したため、一部の外国人学者が査証拒否リストに登載された」(米連邦議会報告)というし、中国が、増加する中国系米国人からの支援を得て、米国政府の方針や意思決定に影響を及ぼそうとしているとの議論も出ている。こうして中国にあっては「ソフトパワー」すらも「シャープパワー」に転化する。
また長くなってしまったので、続きは明日・・・