風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

行き過ぎたグローバル化

2019-12-16 00:08:20 | 時事放談
 もはや旧聞に属してしまうが・・・ニューズウィーク誌12・3号(紙版)によれば、自由貿易論者のクルーグマン教授が宗旨替えしたらしいと、知人が驚いて話しかけて来たものだから、私はそうは受け取らなかったけど、と答えつつ、もう一度、件の雑誌を読み返してみた。確かにタイトルは「宗旨変えしたノーベル賞学者」とあって、なかなかセンセーショナルだが、「宗旨変え」とは言い過ぎのような気がする。これが同誌Web版の記事タイトルになると紙版と違って「グローバル化の弊害を見落とし、トランプ台頭を招いた経済学者のいまさらの懺悔」と明快だが、「トランプ台頭を招いた」とか「懺悔」と言い切るあたりに剣があるのは、やはりニューズウィーク誌らしいと言えようか(苦笑)。更に英語版の記事タイトルになると“Economists on the Run”とあって、逃げ回っているとか潔くないと追及するニュアンスになるのだろうか、チクリと手厳しいなりにもギスギスしたところがなく、英語らしい膨らみが出てくる。
 どういうことかと言うと、彼自身を含め主流派の経済学者は、「グローバル化が『ハイパー・グローバル化』にエスカレートし、アメリカの製造業を支えてきた中間層が経済・社会的な大変動に見舞われることに気付かなかった。中国との競争でアメリカの労働者が被る深刻な痛手を過小評価していた」(he and other mainstream economists “missed a crucial part of the story” in failing to realize that globalization would lead to “hyperglobalization” and huge economic and social upheaval, particularly of the industrial middle class in America. And many of these working-class communities have been hit hard by Chinese competition, which economists made a “major mistake” in underestimating, Krugman says.)というのだ。結果的に彼らが自由貿易をせっせと推奨したばかりにトランプ政権誕生を助けたのではないか(Did America’s free market economists help put a protectionist demagogue in the White House?)というわけだ。
 クルーグマン氏が“his own understanding of economics has been seriously deficient”と認めた、つまり十分じゃなかったと白状しているのは、自由貿易そのものへの信頼が揺らいだと言うよりも、大国・中国が、まさかここまで短期間に急成長を遂げるとは夢にも思っておらず、その影響の甚大さを見誤ったということだろう。例えばマレーシアのような規模の国が高度成長を遂げたところで、アメリカに与える影響はたかが知れていて、変化は吸収することができる。しかし人口14億の中国には、ネット人口だけで(という意味は、言わば地方の極貧の人々を除いて)8億もいて、ざっくり日本の10倍、西欧主要国の20倍、マレーシアやオーストラリアの40倍もある。それでも20年前は、日本のGDPの四分の一の規模に過ぎなかった中国に対し、日・米・欧こぞって無防備・無警戒なことにカネと技術をせっせとつぎ込んだのだった。最近、アメリカで党派を超えて対中緊張が高まっているのは、民主主義平和論、すなわち市場経済に組み込まれ、相互依存が進めば、さしもの中国の政治も民主化し、責任あるステークホルダーへと導くことが出来るだろうというナイーブな期待がものの見事に裏切られ、失望が広がっているからだと説明されるが、それにしても今さらながら余りに無防備・無警戒だったと言わざるを得ない。日本のデフレだって、中国の存在抜きには語れないだろう。
 問題は、人類史上最大の中央集権国家が登場しつつあり、しかも国家資本主義に邁進していることの威圧感であろう。アメリカでも欧州主要国でも日本でも、対抗上、国家が経済に関与する産業政策的な議論が(良いか悪いかは別にして)復活しつつある。巨象・中国に蹴散らかされないよう、(ただでさえ地理的にモロに影響を受けかねない)日本も心してかかって行かなければならないところだが、大丈夫かなあ・・・。
コメント
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