かつて「韜光養晦」と言われ、慎重に自制して、知恵者と称賛された中国の面影はもはや見られず、その暴走が止まらない。コロナ禍でどの国も混乱する中、中国のマスク外交や戦狼外交は、私たちに見えている範囲では(とは、主に西側諸国での意味だが)、全てが裏目に出ているように見える。
もっとも、アメリカの動きに大きな変化があるわけではなく、どうもコロナ禍と大統領選挙への対応で、それどころではなさそうだ(笑)。辛うじて、ポンぺオ国務長官が、先月13日に「南シナ海の海洋主張に対するアメリカの立場」と題した長文の声明を発表し、領土主権問題に踏み込んで中国を非難したのに続き、23日には、ロス近郊のニクソン大統領図書館・博物館という場所を選んで、ニクソン政権以来の関与政策が誤りだったとして政策転換を公言し、対中包囲網を提唱する演説を行った。これを、風向きが大いに変わったとか、レベルが一段上がったとして、宣戦布告だと受け止める向きまであるが、既に一年半前にペンス副大統領が「冷戦」宣言と受け止められる過激な演説を行っており、何を今さらの感が強い。むしろ、トランプ大統領の孤立主義をあらため、同盟重視を打ち出す選挙対策と見るべきだろう。ただ、中国の対応は、単なる報復でしかないお粗末さを曝け出した。アメリカがヒューストンの中国総領事館はスパイ拠点だと非難して閉鎖を命じると、中国は四川省成都のアメリカ総領事館を閉鎖する報復措置に出たが、大義はない。アメリカが香港の人権侵害を非難し、林鄭月娥行政長官など中国高官11人の米国資産を凍結すると発表すると、中国は、マルコ・ルビオ、テッド・クルーズ両上院議員などの対中強硬派のほか、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチのケネス・ロス代表や、全米民主主義基金のカール・ガーシュマン会長まで含むアメリカ人11人を制裁対象とする報復措置に出たが、大義はない。
最近は、本丸のアメリカより周辺諸国の動きが目覚ましい。オーストラリアは中国経済に依存するため諍いを避けてきたが、シャープパワーによって攪乱されていた実態が明るみに出ただけでなく、恫喝までされると、引っ込みがつかず、敢然と立ちあがった。カナダはアメリカとの犯罪人引渡条約に基づき華為CFOを拘束したところ、中国に滞在するカナダ人(と言ってもどうやら中国系カナダ人のようだが)が逮捕され死刑判決まで出される報復措置に遭い、それで折れるようでは面目が立つはずはなく、膠着状態である。インドはかねて中国と反目してきたが、国境付近の小競合いが昂じて、中国系アプリを拒否するに至った。ヨーロッパでも、中国の在外外交官が中国のコロナ禍対応の成果を誇るだけならまだしも、欧州諸国の対応を貶めたり、医療支援の対価に華為製品の導入を取引材料にしたりして、すっかり評判を落としてしまった。中でもイギリスに続きフランスも華為製品排除に名乗りをあげた。中国としては、自ら大国となった今、中国経済の恩恵を受けない国はなく、従い反抗できる国などあろうはずはなく、従うのが当然だと、「力」を過信したのだろうか。一般に威信の政治と言われ、とりわけ中国は共産党統治の正統性こそ核心的利益の第一であり、自らの威信に拘泥する余り、相手国にも威信があることに思いが及ばないかのようで、自縄自縛の惨憺たる状況に陥っている。
このあたりに拍車がかかったのは、言わずと知れた中国の香港への対応で、異例の速さで香港国家安全維持法を成立させ、50年間は「一国二制度」を維持するとした国際約束を反故にしたことだろう。おまけに香港は、香港紙・蘋果日報(Apple Daily)の創業者・黎智英氏を、米国と結託した売国奴だと非難し、民主活動家の周庭さんを「香港独立分子」だと批判し、逮捕した(その後、保釈)。
この、どう見ても中国は焦っているとしか思えない理不尽な行動は、時間の効用に思いを馳せれば、それなりに理解できるのではないかと思う。中国は、既に2014年に生産年齢人口が頭打ちとなって減少傾向にあり、さらに2030年と言われた総人口が前倒しで2027年には減少に転じると中国社会科学院が発表している。国力の源泉である人口(動態)は、中・長期的に動かしようがなく、中国共産党にとって形勢不利となるのはもはや明白である。他方、香港にしても台湾にしても、生まれながらの自由・独立を標榜する若者たちが増えている。時間は香港・台湾に味方し、中国共産党は、50年を待ちきれなかったと見るべきだろう。英国支配下の香港だけでなく、かつて「化外の地」として見捨てられ、日本統治を経て中国・国民党統治に引き継がれた台湾でも、実は民主主義が根付きつつあることに、民主主義の歴史的経験がない中国は大いに焦っていることだろう。
京都大学の中西寛教授は、最近、産経新聞に寄せたコラムで、米中の間で外交関係が樹立された「79年体制」なる言葉を創出して時代を画され、日本としても、国家安全保障戦略の見直しは7年間の変化を踏まえて「79年体制」終焉後の日本の立ち位置を定義する観点が必要だと提言された。イージスアショア配備中止は、いろいろ議論はあるが、ブースター云々はもとより言い訳に過ぎず、この7年間に進んだ変化を踏まえた戦略見直しの一つのあらわれに過ぎないのだろう。トゥキディデスの罠は、一般には、「米・中」の間の世界覇権を巡る争いと認識されるが、地域覇権あるいは歴史の復讐のために「日・中」の間にも起こり得る覇権争いだと、私は懸念する。何しろ、あれだけ反日教育・反日宣伝を繰り返す国である。中国の最近の暴走を見ていると、「米・中」の間だけではなく、「日・中」の間でも「管理」しなければならない関係として真剣に取り扱わざるを得ない。果たして政治にその覚悟があるのか見極める必要があるように思う。
もっとも、アメリカの動きに大きな変化があるわけではなく、どうもコロナ禍と大統領選挙への対応で、それどころではなさそうだ(笑)。辛うじて、ポンぺオ国務長官が、先月13日に「南シナ海の海洋主張に対するアメリカの立場」と題した長文の声明を発表し、領土主権問題に踏み込んで中国を非難したのに続き、23日には、ロス近郊のニクソン大統領図書館・博物館という場所を選んで、ニクソン政権以来の関与政策が誤りだったとして政策転換を公言し、対中包囲網を提唱する演説を行った。これを、風向きが大いに変わったとか、レベルが一段上がったとして、宣戦布告だと受け止める向きまであるが、既に一年半前にペンス副大統領が「冷戦」宣言と受け止められる過激な演説を行っており、何を今さらの感が強い。むしろ、トランプ大統領の孤立主義をあらため、同盟重視を打ち出す選挙対策と見るべきだろう。ただ、中国の対応は、単なる報復でしかないお粗末さを曝け出した。アメリカがヒューストンの中国総領事館はスパイ拠点だと非難して閉鎖を命じると、中国は四川省成都のアメリカ総領事館を閉鎖する報復措置に出たが、大義はない。アメリカが香港の人権侵害を非難し、林鄭月娥行政長官など中国高官11人の米国資産を凍結すると発表すると、中国は、マルコ・ルビオ、テッド・クルーズ両上院議員などの対中強硬派のほか、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチのケネス・ロス代表や、全米民主主義基金のカール・ガーシュマン会長まで含むアメリカ人11人を制裁対象とする報復措置に出たが、大義はない。
最近は、本丸のアメリカより周辺諸国の動きが目覚ましい。オーストラリアは中国経済に依存するため諍いを避けてきたが、シャープパワーによって攪乱されていた実態が明るみに出ただけでなく、恫喝までされると、引っ込みがつかず、敢然と立ちあがった。カナダはアメリカとの犯罪人引渡条約に基づき華為CFOを拘束したところ、中国に滞在するカナダ人(と言ってもどうやら中国系カナダ人のようだが)が逮捕され死刑判決まで出される報復措置に遭い、それで折れるようでは面目が立つはずはなく、膠着状態である。インドはかねて中国と反目してきたが、国境付近の小競合いが昂じて、中国系アプリを拒否するに至った。ヨーロッパでも、中国の在外外交官が中国のコロナ禍対応の成果を誇るだけならまだしも、欧州諸国の対応を貶めたり、医療支援の対価に華為製品の導入を取引材料にしたりして、すっかり評判を落としてしまった。中でもイギリスに続きフランスも華為製品排除に名乗りをあげた。中国としては、自ら大国となった今、中国経済の恩恵を受けない国はなく、従い反抗できる国などあろうはずはなく、従うのが当然だと、「力」を過信したのだろうか。一般に威信の政治と言われ、とりわけ中国は共産党統治の正統性こそ核心的利益の第一であり、自らの威信に拘泥する余り、相手国にも威信があることに思いが及ばないかのようで、自縄自縛の惨憺たる状況に陥っている。
このあたりに拍車がかかったのは、言わずと知れた中国の香港への対応で、異例の速さで香港国家安全維持法を成立させ、50年間は「一国二制度」を維持するとした国際約束を反故にしたことだろう。おまけに香港は、香港紙・蘋果日報(Apple Daily)の創業者・黎智英氏を、米国と結託した売国奴だと非難し、民主活動家の周庭さんを「香港独立分子」だと批判し、逮捕した(その後、保釈)。
この、どう見ても中国は焦っているとしか思えない理不尽な行動は、時間の効用に思いを馳せれば、それなりに理解できるのではないかと思う。中国は、既に2014年に生産年齢人口が頭打ちとなって減少傾向にあり、さらに2030年と言われた総人口が前倒しで2027年には減少に転じると中国社会科学院が発表している。国力の源泉である人口(動態)は、中・長期的に動かしようがなく、中国共産党にとって形勢不利となるのはもはや明白である。他方、香港にしても台湾にしても、生まれながらの自由・独立を標榜する若者たちが増えている。時間は香港・台湾に味方し、中国共産党は、50年を待ちきれなかったと見るべきだろう。英国支配下の香港だけでなく、かつて「化外の地」として見捨てられ、日本統治を経て中国・国民党統治に引き継がれた台湾でも、実は民主主義が根付きつつあることに、民主主義の歴史的経験がない中国は大いに焦っていることだろう。
京都大学の中西寛教授は、最近、産経新聞に寄せたコラムで、米中の間で外交関係が樹立された「79年体制」なる言葉を創出して時代を画され、日本としても、国家安全保障戦略の見直しは7年間の変化を踏まえて「79年体制」終焉後の日本の立ち位置を定義する観点が必要だと提言された。イージスアショア配備中止は、いろいろ議論はあるが、ブースター云々はもとより言い訳に過ぎず、この7年間に進んだ変化を踏まえた戦略見直しの一つのあらわれに過ぎないのだろう。トゥキディデスの罠は、一般には、「米・中」の間の世界覇権を巡る争いと認識されるが、地域覇権あるいは歴史の復讐のために「日・中」の間にも起こり得る覇権争いだと、私は懸念する。何しろ、あれだけ反日教育・反日宣伝を繰り返す国である。中国の最近の暴走を見ていると、「米・中」の間だけではなく、「日・中」の間でも「管理」しなければならない関係として真剣に取り扱わざるを得ない。果たして政治にその覚悟があるのか見極める必要があるように思う。