風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

北朝鮮の武器輸出

2009-12-16 00:59:03 | 時事放談
 タイ当局は、12日、給油のために着陸した貨物機から、北朝鮮製とみられる兵器を押収し、乗員5人を拘束したことを明らかにしました。貨物機は、12月上旬にウクライナを出発し、アゼルバイジャンとアラブ首長国連邦を給油目的で経由した後、北朝鮮・平壌に到着し、兵器を積み込んだ後、タイとスリランカで給油した上で目的地の国で積み荷を降ろし、ウクライナに戻る予定だったと言われています。米国からの情報提供が摘発に繋がったとされますが、それでは何故、給油の中継地としてわざわざタイを選んだのか、みすみす発覚することを狙っていたかのような行動ですし、目的地はパキスタンか中東か(はたまた旧ソ連地域のいずれかの国か)はっきりしないのも、怪しい。
 参考までに、積み荷は「石油掘削機器」と申告されていましたが、実際には対空ミサイル20基や可搬式の対戦車ロケット砲48基などで、総重量は約35トンに達しました。特に対戦車ロケット砲RPG-7は低空飛行するヘリなどを攻撃することができ、正規戦は勿論のこと、ゲリラ戦やテロ集団にも使われる、携帯が簡便で破壊力が大きい在来兵器として、中東やアフガニスタンなどに拡散し、アメリカが懸念しているモデルです。
 また、今年6月には、兵器を積んでいたとみられる北朝鮮船舶「カンナム1号」がミャンマーに向かっていたところ、米国の艦艇の追跡を受けて引き返したことがありましたし、8月には、イランに向かっていた第三国船舶から北朝鮮の兵器が発見され、アラブ首長国連邦によって押収されたこともありました。今回はそれに続くものですが、他方、摘発されたのは国連安保理決議による経済制裁履行にあたっての各国協力体制が機能している証拠でもあり、お陰で外貨不足が深刻な北朝鮮の台所事情も察せられますし、船舶を通じた武器輸出が相次いで失敗したからこそ、今回は航空機を選んだのかも知れませんし、敢えて複雑な経路を選んだのかも知れない、とする見方もあります。
 何よりも驚くべきは、今回の事件が、米国・ボスワース特別代表(北朝鮮担当)が北朝鮮を訪問し、六ヶ国協議に復帰するよう北朝鮮側に求めて、金正日総書記側近の姜錫柱第一外務次官や、六ヶ国協議首席代表の金桂冠外務次官らと会談した矢先(二日後)のことだった点です。こうした時期でも、平気で武器輸出を行なうほど厚かましい北朝鮮も北朝鮮なら、意味ある非核化措置が実現するまで対話と並行して制裁も強行するトゥートラック・アプローチを示したアメリカもアメリカです。これが国際政治の現実だと日本語で言ってしまえば生ぬるいですね、これがRealismだと英語で言い換えた方が良いほど厳しく徹底した対応と言うべきですし、日本を取り巻く北東アジアの安全保障の現実として、日本の防衛問題を議論するにあたって認識しなければならない前提です。
 上の写真は、オーストラリア・キャンベラの戦争博物館で。兵器とはいえ、生々しい傷跡が残されています。
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