タイトルは、前回ブログ(亡国の韓国外交)の韻を踏んでみた(笑)。外政(外交)は時に内政の延長と言われる。確かに、もはやエリートによる秘密外交の時代ではなく、基本的に全ての情報が瞬時に共有される自由・民主主義、もっと言えば大衆民主主義の時代にあっては、「外交」は世論という形で一般の支持を意識せざるを得ない側面がある。しかし中国はどう引っくり返しても自由・民主主義国家ではない。中国共産党は人民の代表を自称するかも知れないが、その議員や政府は自由な選挙で選ばれる試練を経ず、従い西側諸国のような正当性もない。その統治の正当性を証明するためにこそ「外交」があり、中国にあって「外交」は目的ではなく諸々の手段の一つに過ぎない。「救国」と呼ぶのはそのためだが、まかり間違っても中国という「国」のためではなく、ひとえに中国共産「党」統治のためである。最近とみに強硬さを増す中国「外交」は、実は方針も長期的な戦略も何もないということだ。そんな(広い意味での)「外交」にからめて、最近の中国事情を象徴する出来事を2つ取り上げてみる。
一つは、日中経済協会を中心とする財界人が9月20日から27日にかけて中国を訪問したというものだ。経団連会長や日本商工会議所会頭も含む総勢230人、「オールJapan」とも言える過去最大規模のミッションである。時節柄、テーマは何か興味深いところだが、中国側の関心をも集めたのは、22日に中国商務省・次官と会談した際に提示した投資環境の改善項目をまとめた要望書らしい。中国市場から迅速に撤退できる環境がなくては新たな投資が進まないと強調し、中国側に改善を求めたという。異例だ。中国のネットでは「日系企業が中国大脱出?」などと大騒ぎになったらしい。
人民網日本語版によると、日本の2015年の対中投資額は前年比25.2%減少して32億1千万ドル(約3763億円)にとどまり、3年連続の減少となった。中国商務部はその時(今年2月頃)の記者会見で「日本は中国の重要な投資元国だ。2015年末までに日本が中国に設立した企業は累計5万社に迫り、実行ベース投資額は約1018億2千万ドル(約11兆3千億円)に達し、中国の国別外資導入額で3位だった」と、日本の投資の重要な位置づけを認めている。しかし当の日本企業は、今は貧しい農村も含めて13億の消費者を抱える市場としての中国は魅力があり引き続きコミットするものの、所謂「世界の工場」としての製造拠点としては願い下げ、しかしいったん足を踏み入れたらなかなか足を洗えず苦労していると噂に聞いていた。2020年に向けて所得倍増と、どこかで聞いたような目標を掲げる中国共産党であるが、沿岸地域の労働力不足と地価上昇という成長市場故の事情ばかりでなく、所得上昇という内政優先の政策そのものが中国の国際競争力を急速に蝕んでいることに気付かないわけがない。そして、日本としてこの解決のため、もはや個別企業に任せておれず財界として乗り込んだというわけだろう。
もう一つは、9月初めに開催された20ヶ国・地域首脳会議(所謂G20)を巡る外交だ。事前には成功に導くため気持ち悪いほどの「もみ手外交」に徹し、事後には元の「げんこつ外交」に戻ったと揶揄する論評も見られた。多くが語られ過ぎたほどだが、南シナ海を巡って、7月に国際仲裁裁判所が国連海洋法条約に基づき中国の主権主張を退ける裁定を出したことに対し、習近平国家主席は抑え込みに躍起となっていた。その甲斐あって、G20会議冒頭では、国際社会が懸念を深める南シナ海や東シナ海を巡る摩擦やイスラム過激派を含むテロの脅威などの外交・安全保障問題には一切触れず、議題を国際経済に限る姿勢を強調することに成功した。その実、日・米・欧やアジア諸国の首脳・外交当局者・報道関係者による水面下の意見交換のテーマは、習氏の思惑とは裏腹に、南シナ海など外交問題に集中していたという。
またアメリカ大統領就任中の最後の訪中となったオバマ氏への対応も世間の耳目を集めた。出迎えの方式や警備を巡って事前に米中双方で摩擦があったにせよ、杭州の空港到着時、中国側がタラップを用意しなかったのは異例で、オバマ氏は赤絨緞の敷かれていない大統領専用機備え付けのタラップを下りることになり、多くの人は「中国側の嫌がらせ」と受け止めた。それでも習氏は、2013年6月の訪米以来、足掛け三年、取り組んで来た「新しい形の大国関係」を米国に受け入れさせるべく、9月3日夜、杭州の名勝・西湖のほとりを2人だけで散歩し、その途中で腰を下ろして龍井茶で喉を潤す特別待遇で応じたが、オバマ大統領任期中に実現することはなさそうであることがハッキリした。それもあってかどうか、G20開催中、中国は、フィリピンと領有権を争うフィリピン沖スカボロー礁(中国名・黄岩島)近くに、埋め立て用とみられる浚渫船や補給支援用の中国人民解放軍海軍輸送艦など10隻の船を集結させて、国際社会を刺激した。
この晴れの舞台を演出するため、人口900万を抱える杭州市周辺の工場は8月下旬から最大16日間もの全面操業停止を、何の補償措置もなく、地元政府から言い渡されていた。世界遺産にも登録され風光明媚な西湖のほとりは、期間中、ほぼ全てが封鎖され、一般人の立ち入りは禁止された。そんな努力を嘲笑うかのように、また会議の成果を象徴するかのように、開催日の9月4・5両日、そして閉幕後の6日も晴れることはなく、薄曇りの俄か雨模様となった。やることなすこと、全て異様である。
そもそも中国政府の中で、本来の意味での「外交」はそれほど重視されていないのが実態だろう。現に、外相・王毅氏は、外相とは名ばかりで、チャイナ7はともかくとして中国共産党指導部を形づくる25人の政治局委員の一人でもないし、内閣に相当する国務院の国務委員という副首相級の人物でもない(ちなみに副首相級以上は10人もいる)。204人の中央委員の一人に過ぎないのである。歴史を振り返れば、古来、中国は周辺国との間に朝貢外交を展開して、新たに国際復帰した当初は韜光養晦と自らを偽って、一般には「爪を隠し、才能を覆い隠し、時期を待つ戦術を形容する」(Wikipedia)と言われ、要は新興国として大国の責任を回避し続けたのだったが、大国になりおおせた今は、昔に戻り、言葉でこそ朝貢外交とは言わないが、札束で頬をはたいてなびかせながら、小国は小国らしく大国に従うのが当然と言わんばかりの威圧的な態度を露骨に見せてビックリさせるのである。確かにそんな朝貢外交もどきのプロトコルに乗っかる限り、西欧的価値観に言う対等の国家間のまともな「外交」はないから、政府内で「外交」に対する位置づけが低くなっても当然なのだろう。いつも仏頂面の王毅氏との会見では何がそんなに嬉しいのかニヤつく岸田文雄外相がつい目に浮かぶが、彼の国の「外交」の重みをもとにちょっと考え直した方がいい。王毅氏の仏頂面は、日本憎しでも何でもなく、ひとえに中国・国内のうるさ型に向けたポーズなのである。
一つは、日中経済協会を中心とする財界人が9月20日から27日にかけて中国を訪問したというものだ。経団連会長や日本商工会議所会頭も含む総勢230人、「オールJapan」とも言える過去最大規模のミッションである。時節柄、テーマは何か興味深いところだが、中国側の関心をも集めたのは、22日に中国商務省・次官と会談した際に提示した投資環境の改善項目をまとめた要望書らしい。中国市場から迅速に撤退できる環境がなくては新たな投資が進まないと強調し、中国側に改善を求めたという。異例だ。中国のネットでは「日系企業が中国大脱出?」などと大騒ぎになったらしい。
人民網日本語版によると、日本の2015年の対中投資額は前年比25.2%減少して32億1千万ドル(約3763億円)にとどまり、3年連続の減少となった。中国商務部はその時(今年2月頃)の記者会見で「日本は中国の重要な投資元国だ。2015年末までに日本が中国に設立した企業は累計5万社に迫り、実行ベース投資額は約1018億2千万ドル(約11兆3千億円)に達し、中国の国別外資導入額で3位だった」と、日本の投資の重要な位置づけを認めている。しかし当の日本企業は、今は貧しい農村も含めて13億の消費者を抱える市場としての中国は魅力があり引き続きコミットするものの、所謂「世界の工場」としての製造拠点としては願い下げ、しかしいったん足を踏み入れたらなかなか足を洗えず苦労していると噂に聞いていた。2020年に向けて所得倍増と、どこかで聞いたような目標を掲げる中国共産党であるが、沿岸地域の労働力不足と地価上昇という成長市場故の事情ばかりでなく、所得上昇という内政優先の政策そのものが中国の国際競争力を急速に蝕んでいることに気付かないわけがない。そして、日本としてこの解決のため、もはや個別企業に任せておれず財界として乗り込んだというわけだろう。
もう一つは、9月初めに開催された20ヶ国・地域首脳会議(所謂G20)を巡る外交だ。事前には成功に導くため気持ち悪いほどの「もみ手外交」に徹し、事後には元の「げんこつ外交」に戻ったと揶揄する論評も見られた。多くが語られ過ぎたほどだが、南シナ海を巡って、7月に国際仲裁裁判所が国連海洋法条約に基づき中国の主権主張を退ける裁定を出したことに対し、習近平国家主席は抑え込みに躍起となっていた。その甲斐あって、G20会議冒頭では、国際社会が懸念を深める南シナ海や東シナ海を巡る摩擦やイスラム過激派を含むテロの脅威などの外交・安全保障問題には一切触れず、議題を国際経済に限る姿勢を強調することに成功した。その実、日・米・欧やアジア諸国の首脳・外交当局者・報道関係者による水面下の意見交換のテーマは、習氏の思惑とは裏腹に、南シナ海など外交問題に集中していたという。
またアメリカ大統領就任中の最後の訪中となったオバマ氏への対応も世間の耳目を集めた。出迎えの方式や警備を巡って事前に米中双方で摩擦があったにせよ、杭州の空港到着時、中国側がタラップを用意しなかったのは異例で、オバマ氏は赤絨緞の敷かれていない大統領専用機備え付けのタラップを下りることになり、多くの人は「中国側の嫌がらせ」と受け止めた。それでも習氏は、2013年6月の訪米以来、足掛け三年、取り組んで来た「新しい形の大国関係」を米国に受け入れさせるべく、9月3日夜、杭州の名勝・西湖のほとりを2人だけで散歩し、その途中で腰を下ろして龍井茶で喉を潤す特別待遇で応じたが、オバマ大統領任期中に実現することはなさそうであることがハッキリした。それもあってかどうか、G20開催中、中国は、フィリピンと領有権を争うフィリピン沖スカボロー礁(中国名・黄岩島)近くに、埋め立て用とみられる浚渫船や補給支援用の中国人民解放軍海軍輸送艦など10隻の船を集結させて、国際社会を刺激した。
この晴れの舞台を演出するため、人口900万を抱える杭州市周辺の工場は8月下旬から最大16日間もの全面操業停止を、何の補償措置もなく、地元政府から言い渡されていた。世界遺産にも登録され風光明媚な西湖のほとりは、期間中、ほぼ全てが封鎖され、一般人の立ち入りは禁止された。そんな努力を嘲笑うかのように、また会議の成果を象徴するかのように、開催日の9月4・5両日、そして閉幕後の6日も晴れることはなく、薄曇りの俄か雨模様となった。やることなすこと、全て異様である。
そもそも中国政府の中で、本来の意味での「外交」はそれほど重視されていないのが実態だろう。現に、外相・王毅氏は、外相とは名ばかりで、チャイナ7はともかくとして中国共産党指導部を形づくる25人の政治局委員の一人でもないし、内閣に相当する国務院の国務委員という副首相級の人物でもない(ちなみに副首相級以上は10人もいる)。204人の中央委員の一人に過ぎないのである。歴史を振り返れば、古来、中国は周辺国との間に朝貢外交を展開して、新たに国際復帰した当初は韜光養晦と自らを偽って、一般には「爪を隠し、才能を覆い隠し、時期を待つ戦術を形容する」(Wikipedia)と言われ、要は新興国として大国の責任を回避し続けたのだったが、大国になりおおせた今は、昔に戻り、言葉でこそ朝貢外交とは言わないが、札束で頬をはたいてなびかせながら、小国は小国らしく大国に従うのが当然と言わんばかりの威圧的な態度を露骨に見せてビックリさせるのである。確かにそんな朝貢外交もどきのプロトコルに乗っかる限り、西欧的価値観に言う対等の国家間のまともな「外交」はないから、政府内で「外交」に対する位置づけが低くなっても当然なのだろう。いつも仏頂面の王毅氏との会見では何がそんなに嬉しいのかニヤつく岸田文雄外相がつい目に浮かぶが、彼の国の「外交」の重みをもとにちょっと考え直した方がいい。王毅氏の仏頂面は、日本憎しでも何でもなく、ひとえに中国・国内のうるさ型に向けたポーズなのである。