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古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

「戸を鎖す」用例

2020年11月12日 | 日本国語大辞典-た行

 「戸(門)を鎖す」という用語の「戸をしめる。戸をとじる。」という語釈は、日本国語大辞典・第二版では、『日葡辞書』(1603-04年)の用例を早い例として挙げていますが、もっとさかのぼる用例が複数あります。

門(かど)たてて戸も閉(さ)したるをいづくゆか妹が入り来て夢(いめ)に見えつる
門たてて戸は閉(さ)したれど盗人(ぬすびと)の穿(ほ)れる穴より入りて見えけむ
(岩波文庫「新訂新訓万葉集 下巻」佐佐木信綱編、1927年、67ページ)

風吹くと人には言ひて戸はささじ逢はむと君に言ひてしものを
(古今和歌六帖~『校註国歌大系9』342ページ)

 頼めて見えぬ人に、つとめて
やすらひに槇の戸をこそ鎖(さ)さざらめいかであけつる冬の夜ならん
(和泉式部集~岩波文庫)

卯の花の垣根ばかりはくれやらで草の戸ささぬ玉河の里
(寂蓮集~日本国語大辞典・精選版「草の戸」の用例より)

01370 しのすすき-あきはかけても-まきのとを-ささてありあけの-つきをみるかな
02374 まきのとを-ささてそあくる-きみはこす-われやゆかむの-やすらひのまに
02426 いまはとて-おもひたゆへき-まきのとを-ささぬやまちし-ならひなるらむ
(千五百番歌合~日文研の和歌データベース)

まきのとを(も)-ささてふけゆく-うたたねの-そてにそかよふ-みちしはのつゆ
(秋篠月清集・00553~日文研の和歌データベース)

連夜の水鶏
あれはててさすこともなき真木の戸を何と夜がれずたゝくくひなぞ
(建礼門院右京大夫集・28~岩波文庫)

 陵園妾
松の戸を一たひさしてあけねとも猶いりくるは有明の月
(源師光集~群書類従15、125ページ)

ねやのとを-ささていくよに-なりぬらむ-きみこひしらに-つきをなかめて
(万代集・02461~日文研の和歌データベース)

はかなしな-わかこころなる-まきのとを-ささぬたのみに-ひとはまたるる
(建長三年閏九月 閑窓撰歌合・00056~日文研の和歌データベース)

まきのとも-ささてすすしき-よひのまの-すたれにすきて-ゆくほたるかな
(夫木抄・03266・為相~日文研の和歌データベース)

せきのとを-ささてもみちや-へたつらむ-あふさかやまの-あきのゆふきり
(新後撰集・01301~日文研の和歌データベース)

せきのとを-ささぬみよにも-ふりつもる-ゆきにやすらふ-ふはのなかやま
(延文百首・01667~日文研の和歌データベース)

あふさかや-をさまれるよの-せきのとは-ささぬにあくる-とりのこゑかな
(続草庵集・00399~日文研の和歌データベース)

 柳弁春色
春にあふ柳もまゆをひらく門戸ささで御代のめぐみまてとや
 待恋
戸もささずまだ深けぬ夜に人音のしづまるさへや契なるらん
 山家
此峰も世のうきことのたづねこば柴の戸さして雲に入らなん
(草根集~新編国歌大観8)

さゝぬ物をやまきのとをなとまつ人のこさるらん
(「魔仏一如絵詞考」~『絵巻物叢誌』海津次郎、法蔵館、昭和47年、87ページ)

よしや旅寝の草枕、今宵ばかりの仮寝せむ、ただただ宿を貸し給へ 我だにも憂き此庵に ただ泊まらんと柴の戸を さすが思へば痛はしさに。
(「黒塚」~岩波・新日本古典文学大系「謡曲百番」503~504ページ)

六四七 向かへば月に人ぞ待たるる
六四八 夕露に花咲く草の戸を鎖さで
(『新撰菟玖波集全釋 第2巻』奧田勲、三弥井書店)

 虫声非一
草の戸もさせてふこゑにこぬ人をなほ松むしの恨みわぶらん
(春夢草・1180~新編国歌大観8)


「時しも」用例

2019年10月22日 | 日本国語大辞典-た行

 「時しも」という用語は、日本国語大辞典・第2版では、宴曲『宴曲集』(1296年頃)からの用例を古い例として挙げていますが、もっとさかのぼる用例が複数あります。

鹿啼花
棹鹿やいかゝいひけん萩の花匂ふ時しもつまをこふらん
(貫之集)
『群書類従・第十四輯(訂正三版)』567ページ

五月雨とことなしびつる時しもぞ人に樗の花は咲きける
(古今和歌六帖、第六、木、あふち)
『校註国歌大系9』606ページ

言ふ方なう心細きに、時しも秋の風さへ、身にしみわたりつつ、野原の露も、袖に玉散る片敷の床(とこ)のさびしさ、今さらならはぬ心地して、
  夜な夜なは寝覚めの床(とこ)に露散りてむなしき秋の風ぞ言(こと)問ふ
(いはでしのぶ)
『中世王朝物語全集4』笠間書院


「玉松」用例

2019年07月03日 | 日本国語大辞典-た行

 「玉松」という単語の用例は日本国語大辞典第2版では、『長短抄』(1390年頃)からの例を早い用例として挙げていますが、さかのぼる用例が複数あります。

み吉野の玉松が枝は愛(は)しきかも君が御言(みこと)を持ちて通はく
『新訂 新訓万葉集 上巻』(岩波文庫)1927年、76ページ

よる浪のおよはぬうらの玉松のねにあらはれぬ色そつれなき
(内裏百番歌合、建保四年閏六月九日)~日文研HPより


「月の鏡」用例

2018年09月27日 | 日本国語大辞典-た行

 「月の鏡」という用語の「月をうつした池を鏡に見立てていう語。」という語釈は、日本国語大辞典・第2版では、『新後拾遺和歌集』(1383-84年)からの例を挙げていますが、もっとさかのぼる用例があります。

いく秋の月のかゝみと成ぬらんかけみる人のおほさはのいけ
(巻第百七十・正治二年第二度百首和歌、女房越前、つき)
『群書類従11』1993年、262ページ


「月のやどり」という語

2018年09月27日 | 日本国語大辞典-た行

 日本国語大辞典・第二版には「月のやどり」という語は立項されていませんが、「月の宿」よりも古例があるので、こちらをむしろ立項した方がよいのではないでしょうか。
 語釈としては、「月の光が一時的にとどまること。月の光のとどまるところ。」という意味だと思います。

なにはえや-いりえのあしは-しもかれて-つきのやとりそ-くもらさりける
(俊成五社百首~日文研HPより)

露ならで月(つき)の宿(やど)りは誰か知るもの思ふ袖の涙なりけり
(巻第十五・雑歌二、3006)
『万代和歌集・下(和歌文学大系14)』安田徳子、明治書院、2000年、145ページ

秋はたたいく夜の露も袖におち月のやとりをいかにうつさて
(仙洞五十番歌合~日文研HPより)

苔ごろもつゆけき袖のとるかたは月のやどりとなるにぞ有りける
(39・延文百首、空静、秋二十首、月、2348)
『新編国歌大観 4』1986年、角川書店、579ページ

秋はたゝ袖こそつきのやとりなれ草木の露は風しほるなり
(42・後崇光院1・沙玉集、235)
『私家集大成 5巻(中世3)』和歌史研究会編、明治書院、1983年、466ページ

行舟を木の間の山路海晴て
月のやとりをとふ人もなし
山の端をなかむるかたの限にて
(巻第四百八十九・壁草、第八・雑連歌上)
『続群書類従・十七輯下(訂正三版)』1958年、996ページ

露ならで月のやどりもなかりけり蓮にうづむ庭の池水
(海人の刈藻)

水にすむ影は手にだにとられねど月のやどりは疑もなし
『礼厳法師歌集』与謝野礼厳(尚絅)著、与謝野寛校、明治書院、1910年、13ページ